8.帰郷と出会いと
俺は今、海鳴市へと向かう列車の中にいる。
「あれから約4年か…なのはと魅音はどうしてるかなぁ」
実は、4年前の引越しの日…
「えっ!?引越し!?嫌だよ!私は残るから!」
なんて、魅音が駄々をこねて、
「それなら家で預かります」
と、高町家が受理してしまい、魅音だけが海鳴市に残ることになった。
そのせいかは知らないが、俺は魅音の変わりに魅鐘さんの玩具兼、着せ替え人形にされてしまった。
この恨みはいつか晴らしてやろうと思う。
俺はそんな生活に嫌気が差し、こっちに逃げさせてもらったと言うわけだ。
「まもなく、海鳴、海鳴です。御下りの方は…」
さて、さっさと下りますか。
「えぇと、確かこの辺りに…」
現在、これから生活するアパートを探索中。
かれこれ10分ほど探してみたが、見つからない。
「何をしているんだい?坊や」
優しそうなお婆さんが声をかけてくれた。
どうやら、この辺りをずっとうろうろしているので気になったらしい。
素直に道に困っていることを告げた所。
「ああ、これは家のアパートだね。ついて来なさい」
お婆さんについていって俺が見たものは、100人に聞けばほとんどの人がボロボロだと答えるであろうボロアパートだった。
「趣がありますね?」
「あはは、趣かい?そりゃいいね。そのお世辞は気に入ったよ。坊やは何て名前だい?」
「葛梨 凪斗です、大家さんは?」
「あたしゃ、湯葉 里美(ゆば さとみ)だよ」
なんと、湯葉ばぁさんか凄い名前だな。
「じゃあ、湯葉婆(ゆばーば)さんと呼ばせてもらっても?」
「なんだいそりゃ?まあ、そう呼びたいならそう呼ぶといいよ。でも、坊やが家の新しい下宿人だとは思わなかったよ。ようこそ、和唐奈荘へ」
確かに、場所が分からなかったな、和唐奈荘(わからなそう)。
「はい、よろしくお願いします」
「ああ、よろしくね」
「あの、ところで」
「なんだい?」
「リフォームとかしてもいいですか?出て行くときには戻しますんで…」
「ああ、そんなことかい。いいよ好きにしな。他に住人もいないしね」
「ありがとうございます」
「部屋は2階の端、鍵はこれ、荷物は業者が運び込んで行ったよ。他に聞きたいことはあるかい?」
「いえ、ありがとうございます。湯葉婆さん」
湯葉婆さんと別れ、さっそく部屋へ向かう。
「ここか…」
ガチャリとドアを開けると、中は意外と小奇麗に掃除してあり居心地が良さそうだった。
ただちょっと古くて、音が外に響いたり筒抜けになったりしそうである。
「やっぱり、ちょっとリフォームする必要がありそうだな」
――細工師セット
――精神セット
――木工セット
――職人セット
今回は四つのスキルを使う。
本当は三つでいいんだが…
三つ以上のスキルを使うときは精神のスキルを使って『集中』していないと、うまく使えないことが判明した。
2年前までは、五つ以上は併用できなかったので六つ(と言ってもうち一つは精神だが)併用できるようになったという事は能力自体が成長するのだろう。
そのうち集中を使わなくても使えるようになるといいな。
いつになるかは知らないけどね。
「まずは、壁からかな…」
あれからどれぐらい経っただろうか…
日も陰り出しているなか、やっとリフォームが終わった。
――スキルリセット
「いやぁ、やっと終わった。さすがに疲れた…」
何かやること他にあったっけ?
なさそうなら買い物にでも行こうかな。
結果として、やることはなかったので買い物に。
しっかり鍵も閉めたし、完全に暗くなる前に買い物を済ませてしまおう。
「にしても、ここの店は安いな。野菜が50円以内で売ってるよ…元とか取れるのか?」
「どうなんやろな?でも、たまにタイムセールとかでもっと安く売ってることもあるさかい、案外元は取れてるんと違うかなぁ…」
「そうなのか」
「そうなんよ」
「ところで、君誰?何か普通に話しに混ざってきたけど」
違和感がなさ過ぎて普通に会話してたけど、あいにくと車椅子に乗った似非関西弁に知り合いはいないぞ?
「ん?そういえば誰やの?私も普通に話しとったけど始めておうた人やんね?」
「俺は、葛梨 凪斗だ。始めましてで間違いないよ」
「へぇ、お姉さんの名前、凪斗さんって言うんや?男の人みたいやね」
アハハハハハ…
またかよ、また女の子だと思われてたんだ…
「俺は男なんだけどなぁ…そんなに女の子に見えるんだ?」
「え゛?お姉さん違うん?」
「見えるんだ?」
「あ、あはは…ごめんなさい」
目を逸らしながら言うな。
余計傷つくわ!
「それで、車椅子のお嬢さんのお名前は?」
少しむくれて言ってみる。
「私?私は薄幸の美少女、八神はやてちゃんや!…って、知らん振りして帰らんとってや!?」
いや、だって…
自分で、薄幸の美少女(笑)って言うからヤバイ人なのかと。
「それで、その微少女さんは何がしたいの?俺もう帰るんだけど?」
「いやあ、実は買ったもんが多すぎて一人で持って帰れんから手伝ってくれへんかなぁって思って、て誰が微少女やねん!」
ほお、僅かなイントネーションの違いに気付くとは似非でも関西弁を使うだけはあるようだな。
「それで?家はどっちの方なんだ?この優しい“お兄さん”が運んであげようじゃないか」
「え、ええのん?私の家はあっちの方やねんけど。てか、まだ根に持っとったんかい…」
そう言って、俺の住むことになったアパートと反対とは行かないまでも全然違う方向を指差した。
ええ、まだ根に持ってましたとも!
「しゃあない、で荷物は?」
「あれや」
「…八神お前、馬鹿だろ?」
「はやてでええよ」
「そうかじゃあ改めて、はやてお前、脳みそ腐ってんだろ?」
「さっきより酷なってるやん!?」
少なく見積もっても5袋はあるように見える。
どう見たって車椅子の少女が持ち運べる量じゃないのは明白だ。
と言うか、何日分の食料だよ。
どうするか…
「そうだ、はやてマジックを見たくないか?」
「あぁ、分かったで。ポケットからマジックペン取りだすんやろ!」
「違うっての。この買い物袋を全部消してやろうじゃないか!」
はやてを袋の前に連れて行き、目の前で袋を背中に回してインベントリに落とす。
前にインベントリに生卵を放り込んだことがあるが、割れずに取り出せたので大丈夫だと思われる。
「どうよ?」
「何処やったん?出てこうへんとかゆうたらシバくで?」
「大丈夫、ちゃんと持ってるから。ほら、さっさと行くよ」
「いやぁ、助かったわ。ほんま、ありがとうな」
「いいっていいって、じゃあまたな」
それだけ言って走って帰る。
もう空が大分暗い…
「くそう、この神社無理やり通り抜けて…ん?これ魔力」
――魔導師セット
神社の暗がりに怪しく煌く宝石を見つけた。
どうやらこの宝石が微弱だが魔力を発しているようだ。
「まったく、こんなところに危険物を放置してくなっての。『シーリング』っと」
インベントリに放り込んで処理終了。
って、どんどん帰りが遅くなる!
まだ荷解きすんでないんだぞ…明日から学校だってのに。