「そういや魔理沙の両親って人里にいるんだっけ?」
全ては珀雲のこの一言から始まった。魔理沙はその言葉を聞いた瞬間、石化したかのごとく、固まる。そしてしばらくして恐る恐る聞いてきた。
「い、いるけど………一体どうしたんだぜ?」
「いや、ちょっと魔理沙に世話になってるし、挨拶でもしようかなと………」
それを聞いた瞬間、魔理沙は怒った。初めて魔理沙が怒った姿を見た。
否、怒ったというよりは照れ隠しに近い感情だったので何かを必死に訴えている姿がとても可愛らしかった。聞くところによると魔理沙は元々【霧雨道具屋】の一人娘でそれを継がなければならなかったのを否定して魔法の森に【霧雨魔法店】を造り、人里の店の代わりにそこで商売するという設定上、家出したという。
元々父親との仲が悪く最初から反抗的だったらしい。家出してからは何も連絡もせず、あちらからも求めてこないのでそれっきり音信不通になっていて今更戻ってきてもバツが悪いとのことだった。だから父親と珀雲が会って、珀雲が魔理沙の家で居候しているなんていうと自分と珀雲の立場が危なくなってしまうということを危機したから怒った(魔理沙が勝手に怒ったと思っている)そうだ。
珀雲はそれを聞いて少し悩んだが、それでも俺だけなら挨拶ぐらい大丈夫だろうと魔理沙と一時間ほど口論して珀雲の言ったとおりにすればいいというふうに決着がついた。
少年移動中………少年ちやほやされ中………少女妬み中………
「ふぅん。ここか………見た目は
そこは里の中央から少しずれた場所にあり、人が少ないからか賑わっている街道には見えなかったが、その分、年季が入っていると感じた。建物は木材で出来ているのだが、その材木の傷を見れば充分に理解できた。ガラガラと扉を開けて入る。
そこには金髪の見た目はまんま魔理沙に似ているが少し口元にしわがあり、この人が魔理沙の母親だなと初見で分かった。珀雲は商品棚に置いてある物を見た。色んなものがあるがやっぱりここが大元だなと感じられた。そう思った理由は【霧雨魔法店】と似ているからだ。
もしかしたら魔理沙は少し寂しくて自分の家を似せたのかもしれない。そう思うとこの家の家系の人達は全員感情表現が苦手なのだろうという結論に至った。そして魔理沙の母親はどうやら店に入って来た珀雲をジロジロと観察している。怪しいというわけではなく、年が若いから珍しいと思っているのだろうか。
珀雲自身はあまり観察されるのは好かないので少しその目線に反応する。気づかれた!と思ったのか彼女は目線を空に浮かす。とてもばればれだったとは言いにくい。ただ、魔理沙の母親にあった【寂しさという名の傷】が少し治ったところを見ると少なくとも珀雲から懐かしさを感じているということだ。恐らくさっきも言ったが年のせいだろう。魔理沙と同じ年ぐらいだと判断して今やっていること(物色)を昔の魔理沙にでも重ねているのだろう。
そういえば挨拶が目的だったのだが、これは切り出しにくい。客を装うまでは良かったのだが、別段買いたい物もなくどうすればいいのか珀雲自身わからなくなってきてしまった。思い切ろう。珀雲の結論であった。
「初めまして。霧雨 魔理沙の母親ですよね?」
「え!?」
驚かれるのはわかっていた。次はあちらから聞かれるのが理想の挨拶の始まり方なのだが………
「え、ええ。そうですが………魔理沙のお知り合いですか?」
「はい、実は私、魔理沙さんのところでお世話になっておりまして………」
「そう………なんですか………」
「今日は魔理沙さんも連れてここに来たかったのですけれど、生憎ここへは一生来たくないとだだをこねられまして。」
「………ふふふ。あの子らしいですね。あの子は………元気ですか?」
「ええ。とっても。」
「そうですか。良かった………病気にでもかかってしまっていたらどうしようと夫と話していたところですよ。」
「そうなんですか。あ、失礼ですが旦那さんは今どこに?」
「ちょっと霖之助さんのお店に行ってるみたいです。」
「………」
そういえばそれも前に香霖さんがそんなこと言ってたな。魔理沙の世話をしていたという話もやっと納得がいった。そして魔理沙の父親が香霖堂にいったということは………多分魔理沙の体調等を聞くことが目的なのだろう。やっぱり感情を簡単には表には出さな
い人たちだな。それに比べこの人は………そう思って目の前にいる魔理沙の母親を見る。どう考えても魔理沙の親と言った雰囲気がある。
けれど性格はまるで似ていない。まぁ、娘は父親似になるという話も時々聞くし、その逆だとも聞くが魔理沙の場合は完璧に父親似なのだろう。そう思うと絶対頑固だなという考えに至る。魔理沙という人物を知っていれば必ずそうなる。負けず嫌いで普段は負の感情を出さない。意地をずっと張っている。うん。絶対俺と相性合わないな。珀雲は魔理沙が魔理沙の父親に会わないし、会いたくもないと言っていた理由が分かった。後で愚痴を聞いてあげよう。そう思っていると魔理沙の母親が話かけてくる。
「あの………」
「?」
「貴方のお名前を聞かせて欲しいのですけど………」
「え、あ、これは失礼。私は珀雲。逆狩 珀雲です。」
「【逆狩】………どこかで聞いたような………」
魔理沙の母親が何かを思い出そうと頭を使っている。そんなときで悪いと思うが、一つの商品に手をかけ、魔理沙の母親の前に置く。え?といって彼女はそれを見る。珀雲はにっこりと笑うとそれとお金を出して、
「折角来たので魔理沙のプレゼントに、ね?」
魔理沙の母親は珀雲の仕草に薄く笑うと「お買い上げありがとうございました」といって手を振る。そして店の扉の前に来たときに振り返って珀雲はいった。
「今貴女が悩んでいたことですが………旦那さんが知っていると思いますよ。恐らく………ね。」
と怪しく微笑むと扉をまたガラガラと開けて店を後にする。魔理沙の母親は口をポカーンと開けたまま少年の姿を見送った。そして珀雲に入れ違わるかのように魔理沙の父親が入ってくる。無愛想な顔に40~50代に見られるあの渋さがオーラとして滲み出ている。魔理沙の父親は妻がぼーっとしている姿を横目にぼそっと聞く。
「どうした?」
「へ?あ!いえ………何でもありませんよ?そういうそちらはどうでしたか?」
「ふん!相も変わらずうるさいらしい。全く霖之助には本当に迷惑をかけているなあいつは。」
「でも、元気だそうじゃないですか。」
「………さっきの少年は客か?」
「(どっちが相も変ってないのか)そうですよ。魔理沙にお世話になったと言っていました。」
「………」
「とても行儀の良い子で霖之助さんといいコンビになりそうでしたわ。」
「名前も聞いたのか。」
「ええ。逆狩 珀雲と言っていました。そういえば………【逆狩】という名を聞いたようなことがあると思うのですけど………」
「何!【逆狩】だと!?」
「え、ええ。ご存知なんですか?」
「………さあな。」
魔理沙の父親はそれだけ言うと家の奥に入っていった。魔理沙の母親ははぁ………と深いため息をつくとその場でぐぐぐと背を伸ばした。
珀雲side
帰ったら否や、魔理沙が泣きついてきた。どうやら香霖堂に行ったら自分の父親がいることに気づいてしまったらしい。二度と会わないと言っていたにも関わらず香霖堂にいることなんて知らなかった魔理沙は「そんなの無しだぜ~~!」といって逃げて来たらしい。どんだけ嫌いなんだよとついついツッコミを入れてしまった。それはさておけず、はぁ………と深いため息を一回ついたあと魔理沙に【霧雨道具屋】で買ったものを渡した。それは………
「髪飾り?」
「ああ。少しぐらい思い出にはなるんじゃないかなと思ってな。」
「………ありがとな珀雲!」
「ああ!」
魔理沙の笑顔が太陽のように眩しく感じた。だが、いずれ気づかれるのも時間の問題だと密かに考えていた珀雲なのであった………
【逆狩】という
怪しくなる珀雲の秘密その2
次回「紅魔館の執事の日常」