私はあの時はただ、ぶらぶらと歩いているときだった。鬼がまだ【妖怪の山】を支配していたときのことだった。山から降り、少し遠くの方まで散歩した。そこで見つけた一人の男がいた。その男は蒼い髪をしていて珍しかった。ちょっとした興味で霧となってついていってみれば一つの村があった。そこではその男と同じ蒼い髪を持ったものたちがいた。誰もが幸せそうであったが、その男だけは楽しそうではなかった。そのことに不思議がいき、もっと近くについていった。しばらく歩き、森の奥へとひたすらに進んでいく。
(どうしたんだ……?)
萃香が不思議に思うとピタリと男は足を止める。どうやらばれてしまったらしい。低い磨り減るような声で問う。
「誰か……いるのか?」
ばれても別に問題はない。霧になる程度だったため、いつばれてもおかしくなかった。ただ、今気づくかとやれやれと思いながら霧から元の姿に戻る。男は萃香の姿を視野に入れたが、鬼だと知っているだろうとも関わらず、何の反応もしなかった。そのことにむっときたのか萃香は頬をぷくーっと膨らませる。可愛らしい感じではあるが男の目は死んだ魚のような目でみていたのであった。
「なんだい?怖くもなんともないのかい?」
「怖い?そんなもの痛みや傷に比べたらなんともないだろう。」
「どうかな?私から言わせてもらえば恐怖にまさるものはないとおもうよ。人間だって妖怪だってそれに縛られている。」
「俺には関係ない。現に俺は今まで一度足りとも恐怖したことはない。」
萃香は口をポカーンと開けて佇んでいる。唖然としてしまうのも無理はないだろう。世の中をまるで知らないような発言にも関わらず、その言葉には妙な信憑性を感じてしまったからであった。そんな馬鹿なと萃香は笑う。萃香が自分を馬鹿にしたことを察したのか男はむっと表情を強張る。
「ククク……まさかあんたみたいな馬鹿がいるなんてね。驚いた驚いた。」
「馬鹿にするなよ幼女。」
「なっ!よ、幼女……誰が幼女だってぇ!?」
「的を得ている発言だと褒めてもらいたい。」
「これでも巨大になれるんだぞ。」
「胸が真っ平らなのに変わりはあるのか?」
萃香にイライラが募っていく。その挑発的な言い方は鬼に対する言葉ではなく、自分が最強だと見栄を張っている奴に対する言い方なのが鬼としてのプライドを刺激する。噴火寸前の山のように顔を赤くした萃香を見てもまだ表情を一切変えない。もう我慢の限界だと言わんばかりに萃香は襲いかかる。男は乗り気ではなかったが、正当防衛とでも称しているのだろうか。迎え討つ構えをした。
決着がついたのはそれから四時間後のことであった。
昔の時の記憶が鮮明に蘇る。昔も今のような負け方……負けの認め方だったと懐かしそうにおもいだす。珀雲と晴をちらりと伺うと相当の疲労がたまっていたのか、息切れを起こしている。まだまだ若いなと思いながらもう一度言う。
「あ~。私の負けか。」
「……だな。これでわかったろ?俺はお前が知っている奴じゃない。」
「ああ。痛感したよ。あいつはもっと強かった。」
「……」
「ふふ。いや楽しかったねぇ……今この瞬間も。」
「まるで戦闘狂だな。」
「否定はしないさ。それより……お前たちの後ろにいるのは博麗の巫女かい?」
「「え?………!?」」
何を察したのかは皆さんご存知でしょう。珀雲と晴が恐る恐るガチガチになりながら後ろを振り返るとそこには……
「ねえ。なんで神社はあんなにボロボロなのかしら?」
ニコニコと拳をボキボキと鳴らしている霊夢がいた。
「れ、霊夢!違うんだ!」
「違う?何が?」
「こ、今回の異変を解決するための必要な犠牲だったんだ!」
「それで?」
「「え?」」
「言い残す言葉はそれだけ?」
「「すいませんでしたああ!!」」
珀雲と晴は息ピッタリに土下座する。霊夢はその必死さに免じてくれたのか罰金の説明に入っていた。その光景をみていた萃香はけらけらと笑う。
(ああ。本当に似てるなぁ……お前たちは……)
とある昔の時間……
萃香はいつものようにあの男のところに来ていた。昔は栄えていたあの里も今では別の地域に移り住んでしまい、そこには彼一人しかいなかった。彼はもう老いぼれてしまい、あの蒼い髪さえも色が薄くなってしまった。萃香はここへ来る前から涙が止まらなかった。一度も勝てなかった。だが、彼は人間だ。時が来れば別れが来るのだ。男は涙を流している萃香の顔をヨボヨボな手で触れるとふっと笑う。萃香は垣間見た。その男の優しさを……その男が胸のうちに秘めていた恐怖を……
「お前に愛されてよかった。」
その言葉が萃香が聞いた言葉の最期であった。彼はもう口を開かない。彼はもう………
動かなかった。
次回「スペカ紹介」