IS  -香港のダイヤモンド-【改】   作:7seven

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お久しぶりすぎてお前誰だとか思われていそうです。ななせぶんです。


01-11 侵入者とニンジャ

クラス対抗戦、当日。

公平を期すために総当たりで行われるこの戦いは、第1アリーナで開催される。

第1学年の生徒約100名を観客席に収容し、各クラスにつき1つのピットを用意するためにはこのアリーナの大きさで十分と判断されたためである。

 

1組に用意されたのはAピットと、Aピット周辺の観客席Aエリア。

俺は一応観客席にいる。ピットにはオルコットと篠ノ之、あとは整備科志望の数名のクラスメイトが行っているはずだ。

1試合目は1組対2組。いきなりの専用機持ち対決になる。

 

「あーちゃんは、この試合どうなると思う?」

「そうだな……。凰がどの程度の操縦者なのかは知らないが、機体のスペックはカタログで確認してるし、余程変わった武装を積んでいなければ、織斑の勝率は3割ぐらいはある」

「けっこー低いんだねえ?」

「零落白夜はピーキーすぎるからな。ハマれば強いし、ハマらなければ自滅する。そういう武装だから勝率は読みにくい」

 

織斑の実戦は先日の模擬戦と、代表決定戦での模擬戦ぐらいしか見たことはないが、割と面白いことを思いつく頭はしている。

昨日俺が教え込んだことに合わせて何かひらめいて、成功するようなら勝率はグンと跳ね上がる。噛み合わなければ、負けるだろうが。

 

まあ、お手並み拝見といこう。……とはいえ、優勝してもらわないといけないんだが。

 

 

**********

 

 

「ぐあっ」

 

鈴の肩部アーマーがばかっと音を立てて開き、光ったと思ったら「見えない何かに殴り飛ばされた」。

ブラックアウトしかける意識をISの操縦者保護機能は許してくれなくて、今度は装甲のない鳩尾にまっすぐ衝撃がくる。

シールドエネルギーが突然76も削れた。

 

……これが。

 

「ふふん。見た? 見えないだろうけど。これはね、武装名「龍咆」って言ってね」

「空間に圧力をかけて砲身を生成して、余った衝撃自体を砲弾として撃ち出す衝撃砲……第三世代型兵器だろ」

「あら、意外と勉強してるじゃない。そうよ、この子は砲身も砲弾も見えないのが特徴なの」

 

ブルックスさんに聞いていた通りだ。

 

一昨日の夜、作戦会議だと言って俺の部屋にやってきたブルックスさんは、何やら雑誌のようなものを持っていた。雑誌というより、通販のカタログのような。

ISのスペックカタログだ、と言っていた。各国家、各企業所属のISの基本スペックと固定武装は、基本情報をこれに載せないといけないという決まりがあるらしい。競技用に比べたら情報は少なかったけど、軍用ISのデータも乗っていた。

 

代表候補生であり、ISの稼働時間が俺とは比べられないぐらい長い鈴に勝つためには、敵のISについてしっかりとわかってないといけないと言われた。その通りだ。

 

射角制限は実質ないし、それに鈴自身の技術もかなり高い。

無制限機動、全方位への軸反転、エトセトラ。セシリアにも負けてない。

だが。

 

「っく、よく避けるわね!! 当たりなさいよ!!」

 

無茶な要望である。

今多分10発ぐらい撃たれただろうか。うち当たったのは最初の2発と、5発目、7発目が掠ったはず。後はすんでのところで避けられている。

ブルックスさんの言っていたことは合っていた。

 

-『もしお前に余裕があるのなら、相手の目線に注意しろ。代表候補生クラスなら、まだ狙うところに目線がいく』

-『射出の際に光るはずだが、光ったら目線の先から横に避けろ。お前が凰と相対しているならそれで避けられる』

 

すげえよ。すげえよ、ブルックスさん。ほとんど避けられてる。

でも、俺、気付いちまったんだ。他の、衝撃砲への対抗策。

 

雪片弐型を握って、かなり低空を飛ぶ。飛ぶと言うよりも地面に足がついている。

脚部のアーマーがガリガリガリと地面を削る。第1アリーナの地面は砂だ。それも粒が小さめな。

他のアリーナと比べてなぜここだけ砂なのかと千冬姉に聞いたことがある。いわく、ここのアリーナは1年生のISの実技訓練で使うアリーナで、生徒が高いところから落ちても大きなダメージを受けないように、柔らかい地面にしてあるとか。

そうだ。砂だ。ガリガリと削られた砂は舞い上がる。俺も砂まみれだがしょうがない。

 

「な!? 何をしてんのよ、あんたは!?」

「行くぞ、鈴っ!!」

 

衝撃砲は、空間に圧力をかける兵器だ。だから理論上は大気の歪みで存在がわかるんだが、実際にはハイパーセンサーをもってしてもなかなか発見できないらしい。

だったら、大気の歪みじゃなく、砂の動きならどうだろうか。それならハイパーセンサーでわかるんじゃないだろうか。

戦闘中、ずっと目を見続けるのは難しい。奇襲をかけるのには目の前を離れないといけないことだってあるからだ。でも、これなら。

 

瞬時加速を始める瞬間に、零落白夜を発動。もらった。そう思った時。

 

ズドオオオオオオオン!

 

大きな衝撃がアリーナ全体に走った。

 

 

**********

 

 

アリーナを揺るがす衝撃を感じた瞬間、ハイパーセンサーを機動する。

アリーナ中央にIS反応、所属不明と断定。

織斑の起こした砂埃のせいでよく見えないが、何かが起こっている。

 

『アイリーンさん!? アイリーンさん、聞こえますか!?』

「聞こえている。Aピット、およびAピットから見える状況を教えてくれ」

『はい。Aピットは無事です、織斑先生、山田先生もいらっしゃるのでこちらの指示は織斑先生に仰ぎますわ。アリーナは砂埃でよく見えませんが、何か灰色のものが見えましたわ』

 

すぐさま飛んできたオルコットのオープンチャネル。……灰色のもの……侵入者のことか。

 

「その灰色がおそらく侵入者だ。今から全体の指揮を行うから、千冬さんにもオープンチャネルに来るよう伝えてくれ」

『はい』

 

コア・ネットワークを使い、IS学園周辺に、他敵性戦力がないかを確認する。

……へえ?

 

『織斑だ。ブルックス、聞こえるか』

「こちらブルックス。現在IS学園上空に所属不明のISを2機発見、おそらくアリーナのものと同一。生徒の安全を考慮して、1組と2組を第3更衣室、3組と4組を第5更衣室へと誘導してくれ」

『了解した。織斑と凰はどうするつもりだ?』

「遮断シールドレベル4で、どちらにしろこのままじゃ脱出できない。まず私がシールドに穴を開けるからそこからふたりを脱出させ、その後で上空のIS2機とまとめて私が相手をする」

『……できるのか? 3人もの相手が』

 

こんな状況だというのに、俺はフと笑った。

 

「当然。第3代ブリュンヒルデを舐めてもらっちゃ困る」

『ならいい。手筈通りにしろ。IS学園の教師部隊についてはどうする?』

「邪魔になると困るからな、周辺警戒と生徒の安全確保をさせておいてくれ」

『わかった』

 

頼んだぞ、俺の手足。

 

-IS「シューティングスター」 戦闘モードへ移行

 

「聞いてくれ、アンノウンが発生したためこれから避難活動に入る。1組は第3更衣室に避難するように。押さず・走らず行ってくれ」

 

俺がクラスメイト諸君に聞こえるように声をかけると諸君は不安そうな顔をしながらも落ち着いて第3更衣室に向かって歩き出した。本音も家で訓練を受けているだろうし、きっと大丈夫だ。

 

「織斑、聞こえるか?」

『ブルックスさん!! 今、変なISがいて、すごく強烈なビームを撃つっぽいんだ!!』

「そのようだな。今からアリーナのシールドに穴を開けるから、そこから脱出後、第3更衣室に避難してくれ」

『いや、ここは俺達がなんとかする! 少なくとも先生たちが来るまで!』

「無理だ。お前も凰もシールドエネルギーが心許なさすぎる。帰投しろ」

『横からごちゃごちゃうるさいわね!! すっこんでてよ!!』

「織斑、死にたくなければそいつを連れて避難しろ。千冬さんからの命令でもある、いいな」

 

22mm口径ガトリングガンを両手に展開し、アリーナシールドの1点に向かって撃ち続ける。

1分間に6000発を撃ち出すこのガトリングの集中砲火を受けたシールドは一瞬軟弱になる。その瞬間にガトリングを収納してショートブレードを展開、弱ったシールドに刃を突き立てる。

すると容易に口を開いたシールドの穴を広げ、アリーナ内へと侵入する。

 

「織斑、下がれ!」

 

俺の声ですぐに退避行動に入ったのは凰だった。千冬さんの命令という言葉が体を動かしたのかもしれない。動く気配のなかった織斑の腕を引っ掴んで退避した。

……これで容赦なく戦えるというものだ。

 

香港製第一世代型IS「最碧参型」。それが俺の纏うISの正式名称だ。

元々は完全な欠陥機だったところを、我が義姉が手を加えて「世界最強」に相応しい機体にしてくれた。

4対8枚のマルチウィングスラスターと、頭上の3つの離接アサルトライフルがまるで花弁のようだ。そしてBITとはまた違った機構によって制御される非固定浮遊部位による射撃攻撃と本体の機動力が売りの軍用ISとなっている。

 

まるでおしべであるかのように俺の前を陣取る、大きな大きな実体シールドも相俟って、機動も防御も優れている機体だ。

 

離接アサルトライフル-「流星」で侵入者の意識を引きつつ、侵入者が入ってきたところから俺も出る。するとほいほいと俺について出てくる。易いもんだな。

 

手にしていたショートブレードを収納してアサルトライフルを展開する。

4か所からの狙い澄まされた射撃が3機をそれぞれ足止めする。

弾が切れることはない。

 

-有事制限解除

 

マシンボイスが英語で流暢にそういうと、複数のシステムが使用可能になる。

機能制限下、つまりIS競技内で使用するのに不適とされる兵装へと使用許諾が下る。

出力も競技用を越えた値へと変わる。

 

-システム「ABFS」「PTS」起動

 

システム「ABFS」-Automatic Bullet Feed System(自動給弾システム)がある限り、弾切れなど起こさない。

 

「さて、甚振らせてもらう」

 

 

**********

 

 

一夏を引っ張るようにして第3更衣室に駆け込んだ。そこには2組のクラスメイトや、一夏とよく一緒にいる欧米人とファースト幼馴染とかいうポニーテールもいた。

そして、千冬さんも。

 

「ちふっ……織斑先生!?」

「ああ、私だが?」

 

なんで学園の最高戦力である織斑先生がこんなところに。

 

「あいつは1対多の戦闘で真価を発揮する。下手に仲間のいる戦闘区域だと全力が出せないからな。だからひとりで戦わせている」

 

私の考えなどお見通しだと言わんばかりに織斑先生が言い当ててくる。

 

「1対多? あそこには1機しかいないぞ?」

「どこを見て言っている。上だ、上」

「上、うえ……なっ、なんだこれ!? 千冬姉、これ応援いかないと!!」

「何度言わせる気だ馬鹿者。それにエネルギーの切れかけているお前では足手纏いだ」

 

更衣室にはアリーナの様子をリアルタイムで見られるモニターがついている。みんながみんな、そこを食い入るように見つめている。

突然現れた侵入者である灰色の全身装甲ISと、どこかで見たことがあるような気がしなくもない、美しく透き通る紫色のIS。紫のISの操縦者の顔は今時珍しいアイシールド型ハイパーセンサーに阻まれてよく見えないけど、秋の稲穂みたいな短髪を風にそよがせている。

一瞬の静寂の後、紫のISがまるで消えるかのような速さで動き出す。右手にはこれまた珍しい大型の盾型実体シールド、左手には頼りない、短刀型の近接ブレードだけを手にして。

 

「織斑先生、この紫のISの操縦者って……誰なんですか?」

「生徒会執行部の実働部隊に所属する生徒だ」

 

生徒。これが。

ありえない加速、ありえない操縦技術、ありえない剣捌き。

絶対防御だけじゃ殺し切れないようなGがかかってるなんて、目に見えてわかる。

あんなありえない加速をするなんて……確かに機体の性能がよくて初めてできることだけど、あいつ頭がどうかしてるわ! そうじゃないとあんな芸当できないもの!

 

ブレードの硬度が高いのか、短刀を構えてスラスターを吹かしただけでも、侵入者にありえないダメージを与えている。あたしの衝撃砲が直撃しても、あれだけ削れるかって言われたら……無理。

侵入者のありえない出力のレーザーなんて、基本中の基本であるジグザグ飛行だけで避けて突進して、一撃離脱を繰り返す。離れていればコンマゼロゼロ何秒の世界だけど、到達が遅れる分回避しやすいから。

でもジグザグ飛行だなんてあたしも肉眼じゃわからない。速すぎる。ISであんな動きってできていいの!? ハイパーセンサーがないと、いくら動体視力がよくてもただの分身の術じゃない。

 

「先生、なんであの人は分身の術を使ってるんですか? ジャパニーズ・ニンジャですか?」

 

うちのクラスの、インド出身の子がそんなことを言ってる。んなわけないでしょ! 忍者なんて現代にはいないわよ。

 

「忍者はそもそも現代にいないんだが。……それに、あいつは日本人じゃない」

「そうなんですか……。でも、ニンジャが現代にいたらあんな感じなんですね……。ブレードも短いし」

「そうよ、あのニンジャの子を応援しましょう! がんばれニンジャ!」

「がんばれ!」

「がんばれ!!」

 

いないところで勝手にニンジャってあだ名になっちゃってるわね。ご愁傷様。

レーザーの射出口を的確にぶつ切りにする「ニンジャ」の動きをじっくりと見る。ああクソ、ハイパーセンサー使ってても頭の処理能力が追い付かないぐらい速い。頭がガンガンするわ。

 

「鈴、顔色悪いけど大丈夫か?」

「ええ。……この紫のISの動きをじっくり見るためにハイパーセンサー使ってるんだけど……動きが速すぎて、あたしの頭がオーバーヒートしてるだけよ」

「こいつの戦闘は解析したいなら録画してあとでスロー再生したほうがいいだろう。生身で5Gに耐える操縦者だからな、今あいつには10Gぐらいは軽くかかってるんじゃないか」

 

千冬さんの言葉に、一気に更衣室がざわつく。

いくらあたしでも知ってる。人間は訓練しても5Gあたりが限界だって。戦闘機のパイロットも、どんだけ訓練しても初めて3Gを体感すると気絶するって。

それなのに、10G。

 

急加速、完全停止の恐るべき正確性と、10Gをほぼ常時受けながらも悠々と戦闘を続ける異常さ。どんな環境でならこんなパイロットが育つの。なんでこんなパイロットが無名なの。

 

「Gって……あのGか?」

「敬語を使え馬鹿者。お前がどのGを連想したかは知らんが、重力加速度のGだ」

「でも……これだけGのかかる操縦に慣れてるってことは……ただのパイロットじゃないですよね?」

「凰の言うとおり、こいつはただの生徒じゃない。……そら、そろそろ終わるぞ」

 

3機いたはずの侵入者は、2機が既にアリーナで力なく横たわっているし、今戦っている1機ももうボロボロで、レーザーの射出口がないどころか、ほとんどダルマみたいな恰好にされてしまっている。

 

紫のISがついにダルマを一刀両断すると……血飛沫が舞うでもなく、ただ機械がごとりと地面に落ちただけだった。

 

織斑先生の通信機に通信が入って、それにわかったと返事をすると、あたし達に教室に戻るよう指示が出た。……終わったんだ。こんなに呆気なく。

あたしも、このニンジャみたいに力を持てていたら。……なんて、自分らしくないか。

クラスメイト達がニンジャバンザイ! ニンジャバンザイ! なんて騒いでいるのを見て、あたしもなんとなく、ニンジャバンザイ、と言いたくなった。




16/06/25 細部修正
16/09/17 誤字修正
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