IS  -香港のダイヤモンド-【改】   作:7seven

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とてもとても不定期更新にもほどがあると思う今日この頃。


01-12 ボンジョルノ!

俺は今、非常に機嫌が悪い。

理由はひとつ。昨日のクラス対抗リーグマッチにて邪魔が入ったせいで勝敗が決定されず、優勝賞品もお預けになってしまったからだ。むかつく。

腹いせに、人の前で食べることを避けていた『学食限定・超絶特大びっくりフルーツパフェ~特大プリンを添えて~』を食べている。自費で。これだけじゃ栄養が偏るからきちんと昼食も食べたけども。

 

は~超腹立つな~。

腹が立ちすぎてスプーンが止まらん。うまい。

 

「あの……ブルックスさん? 今日はいつもから考えられないほど食べるんだな……?」

「一夏さん、少々デリカシーがなくってよ」

「えっ」

 

俺にも食欲がいつもよりある=デリカシーがない、はよくわからんが、女子にしかわからない何かなんだろう。そりゃ俺にもわかるわけがない。

 

「しかし、すごい生クリームだな……うっ、見てるだけで胸焼けがしそうだ」

「なんかすっごいヤケ食い臭くない?」

「別に」

 

ああうまい。特にこのムース部分が腹立つほどなめらかでうまい。

 

「年頃のレディなら、甘味を貪りたくなることもありますのよ」

「いや、私はならないな……」

「あたしもほどほどでいいわ……」

 

というか。

なんで凰鈴音が自然と同席してるんだ。いやまあ、一番最初に織斑とオルコットに同席を許可した時点でこいつが来るであろうことを予想できなかった俺も悪いんだが。

こっそりと溜息を吐いて、食器を下げて教室への道を辿る。

 

本来なら凰を見張っておいたほうがいいのかもしれないが、面倒臭いし、織斑たちの噂を聞く限りでは裏でこそこそしていたら顔を見た瞬間にわかりそうな性格をしているようだ。目を離しても構わないだろう。

上からの命令だったとしても他国や他国の代表の身分にある人間を簡単に貶すようなやつと食卓なんて囲みたくもない。よくも悪くも言動に出ているからわかる。罪悪感の欠片もない。

それを悪しからずとしているオルコットと篠ノ之は、惚れた弱みってやつなんだろうか。誰にとは言わないけど。

 

 

「ア・イ・リー・ン・ちゃん♪」

 

食堂を出て、

もうすぐで1年の教室棟……というときに、悪戯猫の悪ふざけに捕まった。視界が暗い。

 

「だーれだ?」

「更識じゃなかったら撃ってたからな」

「ありゃ……気配までばれてた? うーん悔しいな」

 

気配を消してこっそり俺の後ろを取り両目を隠すなんていう悪戯、香港軍でやったら即射殺ものだ。今回は相手が他国家代表であり、IS学園の生徒会長であるから我慢したが。

 

「中庭にまで来るとは、余程急用があると見えるが?」

「残念、そこまで急ぎじゃないのよ。ここまで来たのは虚ちゃんから逃げるためよ」

 

扇子に残念無念、と達筆で書いてある。うるせぇ。

 

「詳細な話は放課後、生徒会室でするんだけど。先に連絡を入れておくわね。来月頭に、ドイツとフランスから1人ずつ、転校生が入ることが決定したわ」

「……ほう?」

 

転校生自体は、このIS学園の性質上普通科にのみ認められているが、一般入学よりもさらに難易度が高く、各国政府からの推薦があり、一定以上のIS運用能力が認められて初めて転校試験の受験資格が与えられるというシステムだ。

それを通り抜けるとなると、一般的な代表候補生クラスの実力は持っている必要がある。

そんな人物の情報を話そうと、更識は声をひそめ、俺の耳に口を近付ける。

 

「前者はこの間話した、織斑先生が呼んだ子。ドイツ空軍少佐で代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒちゃん。そして後者は……フランス出身で、二人目の男子らしいわ」

 

……男子、ねえ。

 

「その割には、騒がれないな?」

「フランス政府によると、人身保護のために情報を伏せているらしいわ。しかも、ファミリーネームはデュノア」

「……嫌な予感がしてきたな……。こっちも軍で何か情報がないか確認はしてみるが」

「機密事項に触れない範囲であれば共有してほしいの。よろしく頼むわね」

 

さらば! と書かれた扇子で己を仰ぎながら歩き去って行く更識の背中を見送る。

更識はロシアの国家代表の地位にあるが、それと同時に日本に数百年前からある暗部の家、更識家の当主でもあるとレイラは言っていた。

 

その更識は日本国内、特に関東地方にはたいへん強いパイプと情報網があるが、海外となると一気に薄れてしまうという情報的弱点がある。

 

近年のロシアは中東へはパイプはあるが、それらは元々ロシアからの独立国であり、ISに関して強大な力を持つイギリスやアメリカとはうまく関係を結べないでいる。

特にイギリスはEU内でイグニッション・プランなるものをしているから余計にEU外に情報は出ない。

 

そもそも、自由国籍を持っているからとはいえ、人種的に日本の人間である更識に対し、ロシア側が持っている情報を全て更識に渡しているかといえば、明らかにNOだろう。

勿論更識も馬鹿じゃない、それぐらい勘付いている。

 

 

どう考えても、更識は国単位の話になると情報弱者となってしまう。

その点、俺は純粋な香港生まれの香港育ち、父親も香港人の香港代表だ。

香港の持つ情報を全て知っていておかしくない立場だし、香港はイギリスとかなり強いパイプを持っている。

さっきから連呼しているイギリスと、件の2人目(仮)の男性操縦者が現れたというフランス。この2国は海を少し挟んですぐ隣の国だ。ドーバートンネルをくぐればすぐの位置の情報なんていくらでも入ってくる。

 

……更識は、イギリスとのパイプのある香港に、フランスについての情報が流れ込むことを期待しているんだろう。

あながち間違っちゃいない選択だ。乗ってやろう。

 

「レイラ、今いいか」

『こちらレイラ。どうぞ』

「今から送るデータに該当する人物について、無理のない程度に情報を収集しておいてくれ。期限は7日後の20時」

『了解』

「頼んだ」

 

さてと。釣り糸はたらした、あとは食い付くのを待つばかり。

俺はせいぜい、やるべきことをやるとしよう。

 

 

**********

 

 

俺は今、イタリアに来ている。学校? それより優先される仕事だから公欠だ。

 

「ボンジョルノ! 第3代ブリュンヒルデ、お会いできて光栄です!!」

「こんにちは、ロマレフ大統領」

 

あ? 外交じゃねえよ。外交なんて外交官がやってろ。

立場上挨拶してるだけだ。今回の目的はただひとつ。IS関連だ。

 

 

俺の専属整備士であり、義兄とされているミカエル・ブルックスは、言わば本当の天才だ。

 

まず、事実上の欠陥機となってしまった最碧参型の改造。

初期装備(プリセット)でありバススロットを食い尽くしていた大型実体シールドのシステムを取り外し、第三世代ISの特徴ともいえるイメージ・インターフェースを用いて、最初の構想通りの性能を維持しつつ、バススロットを大幅に空けることに成功した。

これによって俺はスラスターなどを搭載できて、世界最強に相応しい機体となった、ということは世界中に知られている。

 

次に、暇つぶしで作った武装の性能の高さ。

作る武装の全てが当時における最高傑作とまで言われ、ミカエル・ブルックス製はブランドにさえなった。時計でいうロ○ックス、いやそれを超えるかもしれない。

メジャー化して販売すればライセンスだけで大富豪と化し、結果ミカエルの中でデフレが起こってしまったぐらいには売れた。

 

最後に、これは世間には知られていないが-装甲換装という、非常に新しい技術を持っている。

装甲換装とはその名の通り、パッケージ換装とある種似た技術だ-と思わせて、実際は違う。

パッケージ換装とは主にプリセットすら外して武装を取り替えるものだが、装甲換装はそのISのバススロット内にもう1つ分の装甲を格納しておき、必要に応じて装甲を展開、収納するという技術だ。

ちなみに俺のシューティングスターとフェンリルは、この装甲換装によって実現した、同一ISから発生する2種類の装甲である。

 

 

さて、2つ目の理由で話した通り、ミカエルは暇つぶしで作った武装だけで世界の億万長者ランキングで1位を獲得できるほどには収入を得た。

その金の動きは、国際社会として非常に由々しく、世界経済が混乱した。各国のIS関連企業に対して要求される技術のインフレが起き、いくつものIS企業が倒産した。

 

 

-ミカエルの技術力はたかが一国が専有していいものではない。多国に出回り、無償で技術提供をするべきだ。かの篠ノ之束博士とて、ISコアを世界中に渡したのだから。

 

国連安保理とIS委員会での合同会議(香港は呼ばれなかった)で以上のことが議決され、その(G)(8)に数か月滞在し、その国の最新鋭機の開発を援助することになった。

長くなったが、ミカエルが今イタリアにいる理由はそれだ。

まあ、腹のうちでは「お前のせいで経済が混乱してIS企業が潰れちまったんだ、ISの開発が進まないのはお前のせいだ。国に来て開発して責任を取れ」ぐらい思ってるんだろうが。

 

 

「久し振り、アイリーン。会いたかったよ」

「ああ、久し振り。元気そうだな」

 

技術提供は無償とはいえ、ミカエルの機嫌を損ねては開発中の機体のデータを詳細まで全部露出させられかねないため、相変わらずミカエルの待遇はよさそうだ。

国連やIS委員会の連中はよほどのうっかり揃いなのか、ミカエルが技術提供で開発に関わっている間に得たデータについての取り決めがされないまま開発援助は始まってしまっている。

 

目を離すと食事も睡眠も忘れて俺の機体をいじくっているような、ある種の変態である俺の美しい()()は、俺の機体と離れたのが功を奏してか随分と健康的な生活を送っているようだ。

 

「初めまして、第3代ブリュンヒルデ。こんな恰好で悪いけど、挨拶をさせてくれるのサ?」

 

ミカエルから体を離した後に目が合ったのは、赤い髪をツインテールに結い上げ、すらりと背が高くミカエルを超えるような上背の、会ったことのある人物。

だがしかし-……

 

「2年ぶりだな、アリーシャ。……その腕と瞳は?」

 

2年前、第3回モンド・グロッソ格闘部門の決勝戦でまみえた姿とは大きく異なってしまっていた。右腕は肘より大分上までなく、右目の上にはかなりゴツい眼帯がついている。

 

「アハハ、ちょっとネ……。久しぶりに会えて嬉しいよ、今夜にでも飲みにいこうヨ」

「ここは16歳未満は飲酒できないだろう。私はまだ15だ」

「ならジュースでもサ。IS学園に通ってるって聞いてるのサ。学園生活の話でも聞かせてほしいのサ」

 

……表情を見る限り、やっぱり2年前よりもこう、絶望というか哀しみというかが見える。……一晩酌をしてやるくらいならしてやってもいいか、ジュース奢らせるの前提だけど。

 

「仕方ないな。今夜はミカエルとのほうが優先だから明日な」

「それじゃあ明日の20時に、ホテルに迎えに行くのサ」

 

アリーシャはそれだけ言うと、左手を振って市街地のほうへ歩き出した。

……アリーシャを見送るミカエルの顔を見る限り、こりゃやっぱ何かあったな。

 

面倒臭いが、それでも一応アリーシャは俺の恩人みたいなものだからな。

 

「さあ、アイリーン。わざわざ来てもらった用を済ませてしまおう?」

 

ミカエルと共にヴィーアイピーの乗るような車に乗せられて、アリーシャとは真逆の方向へと俺達は向かうのであった。




17/06/01 一部訂正
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