アリーシャや大統領と別れ、ミカエルや護衛のSPと共にやってきたのはどこかの研究所の中の、個人研究室の一室。SPたちは研究室の前で立ち、俺とミカエルだけが中に入って行く。
様々な工具が溢れ、実験用具が散乱し、謎の言語で走り書きされた紙が敷き詰められた部屋、といったところか。相変わらず、片付けのヘタクソな義姉だ。
「えーっと、どこにやったかな。うーんと……ああ、あったあった! これだ!!」
山積みのガラクタにしか見えないものを掻き分け投げ捨て、やっと目的のものを見つけたらしく目を輝かせながら、それを俺の目の前に持ってきた。
……しかし、やはり人外級の義姉だな。軽々と竹箒でも持つように、とんでもなく巨大なランスを掲げているのだから。
「……まずはそれの大きさからつっこめばいいのか? それともそれを生身で持てるミカエルについてつっこめばいいのか? それともこの部屋の散らかりようからつっこめばいいのか?」
「あはは、やだなあ。どれもこれも、今更だよ」
それもそうだ。
バリスタも真っ青な超巨大ランス……というよりは極太ランスをけろっとして片手で持っている。まあミカエルにかかれば『一意専心』ですら生身で撃てるのだから、もう何も言うまい。
「これはね、『バリスタ』っていうんだ。シューティングスターが決定力に欠けるから、作ってみたよ」
「決定力に欠けるも何も、元が防御特化だからな……」
第二次世界大戦時代に生まれていれば、立派な大艦巨砲主義者となり、その大型艦でもってアウトレンジ攻撃を許さないような人間になっていたのではないかとさえ思える、この変態的なほどの、大きさへのこだわり。
小回りなんて知るかとばかりに大きいものが好きだからこそ、最碧参型という分厚い欠陥機に惚れて、本格的に香港陣営に居付いたんだろうけど。
「とりあえずインストールするね。聞いてると思うけど、5月28日にイタリアを離れて、6月1日からIS学園で先生することになってるから、それまでしばらく使ってみててほしいな」
展開したISに現物をインストールして、詳細なスペックデータもシューティングスターに入力される。……なんだこれは。
「……どうやって試せと?」
「うーん、どうやってがいいかな?」
「こんな殺人兵器、使ったらいくら俺でも捕まるだろうが」
「えへ!」
-超振動型大馬上槍『バリスタ』
-使用素材『香港製特殊メタルナノマシン配合鋼鉄』
この鋼鉄は、シューティングスターの装甲と全く同じ素材だ。
つまり言ってしまえば、めちゃくちゃ重いし、めちゃくちゃ硬い。
それに振動を加えて貫通力を増したとか、普通に対人で腹にでも当てたら殺人罪だろうに。運よくそいつが奇跡的に助かっても殺人未遂だ。
「まあまあ。非常時にアリーナのシールドバリアを破るのには、役に立つと思うよ?」
「……まあ、そうだな」
それが必要となる状況に既に一度遭遇してはいるし、それは定時連絡で伝えているから、何も言えないのだが。
「とにかく、時差もあって疲れちゃったでしょう? 今日はゆっくり休んでくれるとうれしいな」
「そうだな……」
ミカエルのG8派遣の議決の中に、ミカエルの専属操縦者である俺も当該国でのデータ取りに協力しろって内容が盛り込まれている。
勿論国家代表である俺の身柄を易々と受け入れるのは難しいとした国もあれば、現代の国家防衛の要であるIS国家代表を国から離れさせるのは東アジアにおける軍事的抑止力がなくなって戦争が起きる可能性もあるとする国もあった。
しかし国連とIS委員会での合同会議での議決は以下同文。
で、俺はわざわざこうしてイタリアまで来てるってわけだ。
こうして俺が試験稼働であったり、試験稼働での模擬戦の相手だったりを務めるのにはもう慣れた。一番最初のフランス、二番目のイギリス、三番目のドイツ、四番目のロシア、五番目のカナダ……アメリカは辞退、日本は篠ノ之束を引き合いにされて援助なしが決定されている。
つまり最後の派遣国だな、イタリアは。
俺が試験稼働したISで有名どころなら、ラファール・リヴァイヴやブルー・ティアーズ、シュヴァルツェア・レーゲン、グストーイ・トゥマン・モスクヴェあたりになるのか。
そういやBT適正がかなり高かったとかで、香港代表をやめてうちに来ませんか、なんて勧誘もされたものだ。
「そういえば、明後日の模擬戦でテンペスタⅡを操縦する子、IS学園の生徒らしいよ? もしかして学校で会ってるかもしれないね?」
「クラスメイトにはイタリア人なんて……1人いるか」
しかも代表候補生だったな。
話したことはなかったが、そうか、あいつがテンペスタⅡの。
「心当たり、あるんだ?」
「一応な……」
**********
からんころん。
未熟児だったということもあって外見のかなり幼い俺は、アリーシャに連れられて来た店でひどく浮いていた。
イギリスの気風を継ぐ環境で育った俺への配慮なのか、上品な店だ。
「おや、アーリィ。今日は随分と愛らしいお連れさんだね」
「まぁネ。私の愚痴に付き合ってもらうために連れてきた
仮にも国を代表する立場にある俺を子供扱いしたアリーシャの脇腹を軽く小突く。
カウンターの中にいた、口髭を蓄えた初老の男性は楽しそうに頷いている。
「独りでしか来ないアーリィにも、友人がいたと思うと嬉しいよ。お連れさんにはノンアルコールで用意させてもらおう」
「よろしく頼んだのサ」
マスターと思わしきその男性とアリーシャは旧知のようだ。
アリーシャも勝手知ったるとばかりに店の奥のほうの、あまり人目につかない席に俺を連れていった。この店の常連なようだ。
「さて……。こうして私がアイリーンと酒を飲もうと思ったのには、いくつか理由があるのサ」
それまでのリラックスした雰囲気から一転、瞳を鋭くさせる。
まるで酒の席での雰囲気には似つかわない。
アリーシャ・ジョセスターフ。イタリアの国家代表として、ひとりの軍属操縦者として。
「私は2年前、君と拳を交わし合って、君は信頼に値すると感じたのサ」
右目を覆う眼帯がむしり取られ。
「そして、3か月前からこの国にいる君のお兄さんとも、話してみて、信頼に値すると感じているのサ」
失われた右腕をそれとなく隠していた衣類を脱ぎ捨て。
「アリーシャ・ジョセスターフ。イタリア国家代表IS操縦者としてではなく、イタリアの全ての国民の代表として」
深く、頭を下げる。
「 」
「……考えさせてくれ」
**********
翌朝。テンペスタⅡの専属搭乗者となる予定の代表候補生と、試験稼働と模擬戦を行うことになっている。
イタリアの保有するISコアは、アリーシャのテンペスタや開発用も含めて、全部で10個。1個が国の研究開発用で1個はアリーシャ。残る8個が代表候補生や企業に回っている。
さて、その8個のうち2個が今回テンペスタⅡに使われるらしい。
そのテンペスタⅡはイメージ・インターフェースによる第三世代型兵装の開発難航によって、俺やミカエルが滞在している間に完成し、模擬戦ができるかは正直微妙なところだ。
テンペスタは今でこそ量産機として世界中で愛されているが、元々はアリーシャの専用機として作られた機体だ。
アリーシャの戦闘スタイルは近接格闘がメイン。文字通り拳で戦う女だ。
そのテンペスタを量産機として売り出す時に必要だったデータこそが、「射撃武器との相性」だ。アリーシャにそんなデータはいらないし、だが流石に拳ひとつやブレードひとつで戦える女は多くない。
だからこそ射撃武器と噛み合わなければ売れなくなってしまう。
テンペスタⅡも将来的にはそういう風に考えているらしいし、何よりイグニッション・プランに出品するらしいから、どちらにせよ射撃武器の稼働効率データは必須となる。
その射撃武器の稼働効率データを取るために、テンペスタⅡの機体に第二世代までの射撃武装を満載した、名称上はテンペスタである「テンペスタS02」が、今日の相手である。
「テンペスタS02」-もとい、テンペスタ・シューティングモデラー02と、その専属操縦者になる可能性が最も高い、代表候補生。その女が、俺に右手を差し出している。
「一応初めましてって言っておくね。あたしはアレッタ・ベルナルドーネ。アイリーンちゃんと同じ、IS学園1年1組に所属する、イタリア代表候補生だよ」
「アイリーン・ブルックスだ。話したことはなくても、お前のことは知っている」
右手を取る。軽く握って、すぐに別れた。今日の目的は雑談じゃないからな。
『アレッタちゃん、アイリーン、聞こえる? こちら管制室。アレッタちゃんの準備が終わり次第、模擬戦を始めるよ。ただし、模擬戦とはいえ勝敗をつけるためのものではなく、アレッタちゃんがISの性能を確かめたり、各種武装を実戦で使ってみたりするものだから、お互いにエネルギーや装甲を削りすぎないよう注意してね。特に装甲』
模擬戦のためのアリーナに出て、管制室のミカエルからの注意を聞く。
俺にとっては、いつものことなので、特に代わり映えのない注意だ。
ちなみに、俺のほうはもう1個のテンペスタⅡの方を使うことになっている。
「息を吹き込む者」なんて仰々しい称号を付けられるほどには、まあ俺はどんなISに乗ってもスペックデータ通りの稼働ができる。
だからこそ、システム最大稼働時、机上の論でしかないスペックデータを証明するために俺が乗せられている。
俺が乗って叩き出したデータをスペックとしてカタログに書けば、それだけで箔がつくらしいからな。まあ俺の出したデータ通りに操縦できている人間なんて今のところ見たことがないけど。
『テンペスタS02、準備完了です』
『了解。では30秒後に開始します』
テンペスタⅡの武装は第二世代の量産テンペスタのものを入れてあるだけだ。
大したものはないけれど、アリーシャの戦闘タイプから装甲の頑丈さやトンファーのような近接武器の技術は世界でも目を見張るものがある。それを生かして戦えばいいのだ。
テンペスタⅡ、戦闘モードへ移行。
『開始5秒前』
4。
『胸を借りるよ、アイリーンちゃん』
3。
「貸すつもりはないがな」
2。
テンペスタS02の両手が爆発したかのように一瞬だけ光る。
1。
テンペスタⅡのウィングスラスターにエネルギーを集める。
開始。
ドンッドンッドンッドンッ
4発の弾丸がテンペスタS02から吐き出される。両手のどちらも火薬銃。
半身で避ける。スラスターに集めたエネルギーを一気に放出して接近する。
しかし取り回しづらいな……。このウィングスラスターが邪魔な事この上ない。
ミカエルの作るスラスターはあくまで小型で高性能なんだが、テンペスタシリーズは機動力も売りらしく大きいのが2対4枚……というよりも、4個ある。少々邪魔だ。背後から狙い撃ちされる気か。
あの大は小を兼ねるを地で行く変態でさえウィングスラスターに関しちゃ小さく薄いことを良しとしている。そのウィングスラスターが大きいのが弱点だなこれ。
テンペスタの量産機の方に乗せられている近接ブレードを展開して切りかかる。
別に拳で戦ってもいいが、拳よりもブレード系を使う操縦者のほうが圧倒的に多いからな。叩きのめす戦いじゃないんだからこれでいい。
『つうっ! ……流石アイリーンちゃんだね、実際に刃を交わすと、どれだけすごいのかあたしにだってわかるよ……!!』
「そうか、それはなによりだ」
パワーアシストは完全な互角。テンペスタⅡの初期装備とされる予定の長剣型ブレードで俺の剣戟をなんとか、と言った様子で受け止める。
しかしパワーアシストが互角であるということは、男であり現役軍人の俺のほうがどう考えたって押し勝つ。
『ぬぬぬぬ……っ! 埒が開かないなぁ……っ!!』
押し切ってやろうと更に力を込めると、わずかに俺の重心をずらしてくる。
間が悪い。俺も一度下がるしかなく、それに合わせて向こうも距離を取る。
そりゃそうだ、向こうは火薬銃の射程圏内であれば遠いほどいいのだから。
ドドドドドドドドッ
見る限り「SBS/64-07」と思われるアサルトライフルで弾幕を張ってくる。
どこかの大は小を兼ねる変態が作った、とある国の代表が使ってたっていうモデルだ。
まあ、当時は名称なんてなかったらしいけどな。
スラスターもあったまってきた、ブレードも手に馴染んできた。
さあ、やるか。
機体紹介
イタリア製第三世代型IS「テンペスタⅡ」
(※原作ではまだ名前しか出ていないので、この小説では原作とは違う代物になります。)
イタリア代表アリーシャが搭乗するテンペスタのデータを元に制作されているISで、第3次イグニッション・プランにも出品されているIS。
従来のテンペスタと同じくパワーアシスト、装甲、機動性能に重点を置き、防御力に優れながらも高い機動力を有する機体である。
しかしイタリア代表が当機に試験搭乗中に事故が起こり、イタリア代表は負傷。その療養のため、データ元であるテンペスタを参照できず、イメージ・インターフェースによる第三世代型兵装の完成が遅れている。