今回は駆け足で事態の収拾と次への導入です。
ここから第2章「邂逅」開幕です。
02-01 フラッグ・オブ・ジューン
6月1日。
何を隠そう、いや隠す気もないけど、この日はいよいよ義姉が義兄として、このIS学園に着任する日である。
数日前から日本にはいた。時差ボケしたまま教員の仕事をしろっていうのも酷な話だからな。無事到着したって連絡も、本人からもらっている。
イタリアでのあの日以来会ってはいないが、まあ元気なことだろう。俺の知る限り、体調を崩したことが一度もないという超健康優良体だからな。研究室に籠ってる時は下着しか身に着けてないのに元気なことだ。
「おはようございます。ホームルームを始めますよ」
山田先生の号令でホームルームが始まる。
相変わらず、色々とアンバランスな教師だ。
「今日から6月ですね。今月は自由参加の学年別トーナメントがありますが、これの参加登録は再来週からになります。それと、各クラスから各係に2人ずつ、計6人ほど、大会運営のために活動してもらいます。こっちは-」
そうだ。そういえば今月だったな。
俺がここしばらくイタリアにいたせいで、このトーナメント大会の準備は例年より少し遅れているそうだが、それでもまだ誤差の範囲らしい。
「それから、今日からISスーツの注文が始まります。わからないことや、機体との相性で気になることがあれば、私たち教員に相談してくださいね」
俺やオルコット、織斑など、専用機があったり、あるいは企業所属のパイロットであれば既に好きなISスーツを持っているものだ。
しかしこのクラスは織斑や篠ノ之の入学に際して、身元を(更識が)特定しやすい人物を中心に固めている。そのせいか、日本出身の一般生徒が多く、こういったISスーツ等も学校指定の物しか持っていない生徒が大半なんだよな。
オシャレなハヅキのがいいなー、高いけどミューレイのは憧れる! などと高い声がざわつくと、咳払い一つでそれを黙らせる千冬さんが見られる。割といつものことだな。
「最後に、このクラスの新しいメンバーを紹介します! おふたりとも、入ってください」
山田先生の合図と共に開くドアの先から、先日も見た金髪の麗人と、伸ばしっぱなしの銀髪の軍人然とした少女が入室する。
……噂のフランス人より早くのご到着か、そりゃ助かるってもんだ。
「ボーデヴィッヒさんから、挨拶をお願いします」
「……ドイツ空軍、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
俺も香港のダイヤモンドなんて言い方されるが、ボーデヴィッヒはドイツの冷氷だなんて呼ばれる娘だ。……千冬さんへの心酔で融けた氷、ねえ。
「僕はミカエル・ブルックスです。……って言ったら多くの自己紹介は要らないね? 今日からこのIS学院で教員として勤務することになりました。担当科目はIS整備と武装理論、あと生徒会と射撃部の顧問を受け持っています。よろしくね」
「ミカエルは教師としては新米だから、一応私の元に着くことになった。だが射撃武装に関しては学園一詳しいだろう。そういうことはミカエルに質問に行くように」
にこやかに微笑んで小首をかしげるミカエルは、それで男装しているつもりなんだろうか。
だがまあ、日本人から見れば170cmを超えるこの身長は男性的であるし、何を使っているかわからないけど肩幅や胸板などが補正されている。どうせそんなところに自分の頭脳を無駄遣いしてるんだろうが。
ジト目で見ていると、プライベート・チャネルから無駄遣いじゃないよと聞こえてくる。全く顔に出てないはずなのに心を読んでくるからこの義姉は侮れない。
「! 貴様は……」
ボーデヴィッヒが何かに気付いたかのように目を見開き、そしてつかつかとブーツのヒールを床に叩きつけながら、俺の前の席である織斑の前に躍り出る。
ボーデヴィッヒが振りかぶる。
俺が織斑の首根っこを掴んで上体を逸らさせるのと、ミカエルがボーデヴィッヒの右手首を掴むのは完全に同時だった。
「ぐえっ」
「何をする、ミカエル」
「何をするじゃないでしょ。ここは戦場じゃないの。口より先に手出したらダメ」
口が出たあとならいいってもんでもないが、まあそうだよな。
「ぶ、ブル゛ッ゛グスさん゛……しま、しま゛っでる゛……」
俺も掴みっぱなしで忘れていた襟を離した。
「……私は認めない。貴様が教官の弟だということを」
ボーデヴィッヒはまるで親の仇でも見るかのような目で言い放ち、空席に腰掛けるのであった。
……自分で言ってなんだが、親の仇って言い得て妙だな。
さて、ボーデヴィッヒといえば、ドイツの国家代表候補生であり、第3次イグニッション・プランに並んでいるレーゲン型のプロトタイプである、シュヴァルツェア・レーゲンのテストパイロットだ。
レーゲン型はPICから発展した第三世代型兵装を持つ、立派な第三世代ISだ。勿論俺も一度乗った。俺が今まで乗ってきた第三世代ISの中で一番エネルギー効率と機体性能のバランスがいいんじゃないか?
ああ、第三世代ISといえば-。
**********
完全に戦意を失った襲撃者集団を後ろ手に縛りあげ、IS委員会から人員が派遣されるまで監視するのは空軍と最碧シリーズの登録操縦者である3人の仕事だった。
もうどこから出た液体かわからないほどにまでびしょ濡れになっている襲撃者集団の心にはトラウマができてしまったかもしれないが、そこは俺のせいではない。ISに乗ることを軽く見ていた奴らの自己責任だ。
5月下旬、香港。
中国からの侵略戦争の大部隊を沈静化した。
その3日後、まずはIS委員会。
中国はアラスカ条約に違反しているとして香港への損害賠償とコアの寄付が義務付けられた。
中国が所有するコアの50%、10個をIS学園へ寄付し、その10個のための、打鉄なりラファール・リヴァイヴなりのボディとライセンス購入のための資金も中国側が持つことになるらしい。
またもう1個のコアを香港に寄付し、中国は所持コア数19個から8個へと大きく減少した。
「このコア、どう使うべきか……」
国家IS研究部の責任者席で唸るのが、俺の実の父であるロジャーだ。
なんだか始まりの大海賊みたいな名前とか言わないように。確かに香港のIS開発という海原に一番に着手した男ではあるけど。
「なんでそれを国家代表の俺に聞くんだか……。そういうのはデスクの専門だろうに」
わざとらしく肩をすくめると、父は逆に肩を揺らす。
「香港のIS戦闘の最前線を知り、世界の若く優秀なパイロットを数多く見ているのがお前だから聞くんだろう」
当たり前のことだが、父は俺が男だと知っている。
アイリーン・ブルックスがアイリーンという名前でもなければ女でもないと知っているのは、実父であるこの男と、父違いの姉であるミカエル、そして国家IS研究部の中でもかなり父と近しい研究者2人の計4名だけだ。
母もミカエルの父も他界しているし、祖父母も同じく。
「それならあいつだってそうだろうに」
「実際に戦ってる数が多いのはお前だろう」
研究者として開発者としての第一線を退かざるを得なくなった父だが、今も書類仕事なり開発提案なりでその実力を発揮しているし、ミカエルと父とは本当に血の繋がりはないのか? ってくらい、IS開発において突出した才能を持っている。
そんなIS開発に関して相当優秀な父は、香港のISコアをどう分配するかも基本的には任されているんだが。
「……俺は、どっちでもいいと思うがな。現状、IS100機でも来ない限りは3人で抑えが効く」
「IS100機となると……IS学園と大国が手を組んだぐらいの数だな。それだけのパイロットを用意できるかという点であまり現実的な数字ではないが、そうだな……」
無精髭のひとつもない父は、今年42歳になるがまだまだ見た目が若い。
まあそもそもアジア人の顔なんて童顔なものだけどな。
「よし。いいパイロットを1人探してくれ。第三世代型を飛び越えるようなISを、最碧肆型(仮名)を作ろう!」
目元や口元に刻まれ始めたシワなんてなんのその。
無垢な少年のように瞳をきらめかせて、早速どんなISを作ろうかと紙とペンを走らせる姿に、趣味は人を若くするのだと痛感した。
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IS委員会の議決で中国がコア11個を失うことが決まった2日後。
今度は国連総会で、中国の安保理常任理事失効が議決された。
そして、今日は6月1日なわけだが……昨日、5月31日。中国でクーデターが起き、中国が崩壊した。
常任理事の空いた席には日本が座ることになっている。
IS登場以前から日本は国連分担金支払額が非常に高かったから、割とどの国もが納得する位置だろう。何より、日本はISの生みの親の出身国であるわけで。
日本を敵国として国連の中で扱い続けていたら、いつかの日にISの軍勢という大戦力でもって世界転覆なども目論まれかねない。
言ってしまえば、日本へのご機嫌取りだったんだろうな……といった感じだ。
そうそう、ご機嫌取りと言えば。香港の国連加盟が決まった。
理由は新常任理事サンの推薦だ。まあ技術貿易も大きかったし……それに、日本に対して今一番
日本政府に「香港も国連に入れておけ」と脅迫が届いたのかもしれない。
その妹にちらりと視線をやるが、当の本人は俺の前の席-織斑に向いていた。おいおい、千冬さんの授業でいい度胸だな……。
炸裂音。……まあ、そうなる。
香港ってのはそもそも、主権は国民にあり、徴兵制度がないという意味では香港と日本はよく似ている。香港軍は日本の自衛隊と同じく志願制だ。まあ自衛隊と香港軍は元々発生理由が似たようなものだから。
ISを基盤とした工業部門での確固たる経済力もあり主権、領土もあり、国家として認めることは難しくないといったことが、国連加入の推薦理由になったらしい。
急遽国連に派遣されることになった知り合いの外交官は、国連の実務言語であるフランス語ができる秘書を求めて駆けずり回っていることだろう。
え? 中国崩壊ってなんだって? そのままだろう。読んで字の如く。
軍部と国のトップの暴走で自国の防衛力を下げる結果になった挙句に賠償金まで払う金が自称社会主義国のあの国のどこにあるんだか。
余程腕のいいゴ○ゴ13でも雇ったのか、国のトップはほとんどが脳天ぶち抜かれたらしいぞ。
まあそんなものを雇う金なんてないだろうし、実際にはゴル○ではないと思うが。ひゅっ。
「誰が○ルゴ13だと?」
「……間違いなく千冬さんのことではない」
千冬さんが振り降ろさんとする出席簿を受け止めて、誤解を訂正する。
千冬さんはどう曲がってもゴル○13にはならないだろう。あれは狙撃手であって戦乙女じゃない。あんなゴツイ顔の戦乙女……ちょっと嫌だな。
「まったく……たまに起きているかと思えばくだらんことを考えているんじゃない。罰だ、テキスト339ページを音読しろ」
「はいはい……」
なんで千冬さんがゴ○ゴ知ってるのかはともかく。
中国政府が倒れてしまうと、国家代表候補生である凰鈴音を始めとして、中国人生徒は身元保証人がいなくなってしまうわけだ。
身元の不明な人間を置いておけるほど、フリーダムなところじゃないからな、IS学園は。
だからしばらくの間は中国人生徒は自室待機という名の謹慎で、IS学園の教員によって身元の調べ直しが始まっている。
「よろしい。座れ」
特に凰鈴音は登録国家中国のISを専用機としていたわけで、今現在存在しない国で登録されたISなんてものはアウトなわけだ。それは所属国家なしのIS並みにアウトだ。
ちなみにIS学園は治外法権の機関なので、IS学園に配備されているISはIS学園所属と登録される。これはセーフな。
凰鈴音の……なんだったかな。甲龍? とやらはよくて登録操縦者の解除の後初期化、やばいのだと多少強引な手で登録操縦者と所属国家のみ変更して他国で使われるパターンか。どちらにしろ、凰鈴音の手元にあのISコアが残ることはまずないだろう。
セカンドシフトまで済ませていて、なおかつワンオフ・アビリティでも発現していれば研究材料として残されたかもしれないが。どれが凰鈴音にとって最良かは知らないけど。
「ああ、そうだ。連絡を忘れていた。2学期の始業式を目途に、訓練機が10機増えることになる。どの機体がどれほど増えるかは未定だが、そのうち予約が始まるから各自覚えておけ」
ああ、中国から寄付された10個は全部訓練機に回るのか。
教員用が増えないのは、まあ整備の手間が増えるからだな……。
中国のコアといえば、国家転覆で凰鈴音の甲龍含めて8個のISコアは、最初の467個をドント方式で配分した時のデータを元に各国に再配分される予定だ。
まあ、多分どこぞの大国が、香港は今回既に1個受け取っているから必要ないだろうとゴネそうだから、俺達にはあんまり関係ないけどな。
**********
放課後、生徒会室。
人払いの容易さや、教員室からそんなに遠くないことから、俺たち生徒会メンバーと、千冬さん、そしてボーデヴィッヒが集まっていた。
机の上にはイタリア土産の菓子、トルタ・カプレーゼ-この間の、夜に更識を扱き使った詫び菓子-が置いてある。
そして、今日も布仏姉の淹れる紅茶はうまい。
「……教官、私はなぜこのようなところに呼ばれたのでしょうか」
「まあ座れ。もうひとり揃ったら話を始める」
応接ソファには俺と千冬さん、更識、ボーデヴィッヒが座っている。
布仏は更識が普段座っている会長席で菓子を食べているし、新たに顧問になったミカエルは立って微笑みを浮かべている。
「その前に自己紹介をしておくわね。私は更識楯無。この学園の生徒会長で-」
「ロシアの国家代表、だろう。初めまして、私はドイツ代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐だ。座ったままですまない」
「ええ、そうよ。よろしくね、ラウラちゃん。こっちは生徒会実働部隊長のアイリーンちゃん。アイリーンちゃんとは知り合いって聞いてるわ」
「……まあ、一応は」
なんで俺と知り合いってことをそんなに嫌がるのかね、この娘は。
呆れ眼になったところで、とんとんと生徒会室の扉が叩かれる。
「失礼しますよ」
来たのだろう。IS学園に所属する者の長が。
原作ではシャルとラウラって同時転入でしたが、ちょっとずらしました。
アニメの方は見ていないのですが、アニメではずれてるんでしたっけ?
16/10/04 誤字修正