IS  -香港のダイヤモンド-【改】   作:7seven

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タイトルで今回出てくるシーンが読めた人は2巻がよく読めていますね。
では、第2章2話、どうぞ。


02-02 カレイが辛ぇ

生徒会室で菓子を摘まみながら紅茶を飲んでいた俺達。

しわがれた老男性の声かけと共に開かれた扉の先にいたのは、用務員の恰好をした老人である。

 

「おや、お待たせしてしまったようで。すみませんね」

 

まあ、実際には用務員ではないのだが。

俺やミカエルはともかくとして、更識や千冬さんは彼の入室で、背筋を伸ばした。

 

「……ただの用務員ではないだろうと思ったが。まさか?」

「流石は軍人さんですね。そうです、私がこの学園の学園長をしています。まあ、表向きには妻が学園長なのですがね」

 

轡木十蔵。

このIS学園を牛耳るタヌキだ。そんでもって、一応今回俺の依頼人。

 

このタヌキ野郎の嫁さんが名目上の学園長である理由は簡単だ。

IS登場による気が狂ったような女性優位社会のもと、ISの操縦者を育てる教育機関の頭を男がしてたらいつ刺されるかわかったもんじゃない。

つまりはそういうことだ。

 

「私はドイツ空軍シュヴァルツェ・ハーゼ隊隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐です」

「これはこれは、ご丁寧にどうも。私は轡木十蔵です」

 

入ってきたばかりで立っていた轡木さんに合わせて立ち上がり、ボーデヴィッヒは敬礼をした。

織斑に殴りかかるような娘だというのに、それでも腐っても軍人というわけだな。

 

「まあ、お互い座って話しましょう。更識さん、いいですか?」

「ええ! 虚ちゃん、お茶をお願いね」

「はい、お嬢様」

 

 

布仏姉のうまい紅茶が人数分揃ったところで、生徒会室の丈夫なカーテンが窓を覆い、照明が落とされた。

千冬さんが用意したホワイトボードとプロジェクター、そして端末が起動して、薄暗い部屋の中では眩しく光る。

 

「さて……。()()()、今回ドイツからお前を呼び寄せたのには理由がある。ボーデヴィッヒ少将には報酬等も含めて依頼したが、聞いているか?」

「護衛任務とだけ聞きましたが、詳細は現地で聞くようにと言われています」

 

護衛対象をなぜ伝えなかったのか。

護衛対象に殴りかかる護衛で大丈夫なのか、本当に。

 

「……護衛任務で、まあ違いない。今日から護衛対象がIS学園を卒業するまでの3年間、学園全体を護衛する更識、ブルックスと協力して護衛対象を守り抜いてくれ」

「わかりました。……教官、その護衛対象とは? ミカエルですか?」

「違う。ミカエルは学生じゃないしな。護衛対象は、」

 

プロジェクターから映し出された映像は、まごうことなく「世界で二人目の男性操縦者」。

ボーデヴィッヒは顔をしかめる。

 

「織斑一夏。私の弟にして、世界でただ一人の男性操縦者だ」

「……」

 

ボーデヴィッヒは黙りこくる。

ボーデヴィッヒが何であんなに織斑のことを憎く思ってるのかは知らないが、千冬さんはドイツ軍で教鞭を取っていたことがあると聞いたことがある。その時の繋がりで、千冬さんを崇拝しているんだろう。それの弟が腑抜けていたら確かに不愉快ではあるが、そんなレベルには見えない。

もっと、強い憎悪だ。腑抜けている現状にではなく、もっと深い怒りが、今朝のボーデヴィッヒの瞳には浮かんでいた。

 

しかし、それでも尊敬する相手からの依頼とあれば、受けたい気持ちもあるだろう。

悩んでるのか。ボーデヴィッヒは沈黙を続ける。

 

「契約に関して金銭面等についての書類は既に少将のところに送ってある。お前が護衛を引き受けるのなら、本国の方にその旨を伝えて、書類にサインして返送してもらえ。治外法権とはいえここは日本の作った施設だから、未成年のサインでは契約が成立できないからな」

「……もし、引き受けないと私が言ったら、どうするのですか」

「その時は、お前はただの一生徒として、護衛もなく、勉強をするのみだ」

 

トルタ・カプレーゼに手を伸ばす時、ふとタヌキの視線に気が付いた。

それは一瞬で逸れて、ボーデヴィッヒの人柄を見抜かんとしている。

 

「少し……少し、護衛対象の様子を見させてもらい、それから決めてもよろしいでしょうか」

「ほう。どれくらいの期間だ?」

「2週間お願いします」

 

千冬さんがどうすべきか、とタヌキに視線を遣ると、タヌキは柔和に笑って、それで構いませんよと言う。

護衛対象とのある程度親密な関係は大事ですからね、ねぇ……。

 

「ああ、ただ……。来週、フランスから転校生がやってくるんですがね。その子が第二の男性操縦者だというんですよ。ボーデヴィッヒさん、何か知っていますか?」

「フランス……いえ、特に思い当たることはありません」

「僕も最近までイタリアにいたけど、そんな話は聞かなかったよ」

「香港軍にもやっぱりそんな情報は入ってない」

「ロシアもよ。……ラウラちゃん、私たち、そのフランスの子が本当に男性操縦者なのかを見極められていないの。もしかしたら、織斑一夏の生体データを狙うスパイの類かもしれない。だからあなたには、できるだけ早く、護衛の話を引き受けてほしいの」

 

布仏姉がたまに、更識のことを人たらしだなんて言っていたが。

なるほど、意図的かはともかく、自然と人心を震わせる言葉を選んでくる。

 

「……善処する」

 

ボーデヴィッヒも、千冬さんからの依頼であり、そして更識の言葉があり。

努めて冷静な返事をしたつもりのようだが、声の端の色に迷いがある。

 

「では、今日のところはここまでにしますか。ボーデヴィッヒさん、決まりましたら織斑先生のほうまで連絡してもらえますか」

「了解しました」

 

おそらく学園の教員による守備配置や学園そのものの防衛装置について説明するために用意したと思われるプロジェクターたちはほとんど仕事を与えられず、今日のところはお開きとなった。

ああ、守備配置といえば、学年別トーナメントは各国からVIPが来るっていうし、また会議だな……。はあ。

 

「アイリーンちゃん、溜息なんかつくと幸せ逃げちゃうわよ?」

「逃げないように鎖で繋いでおけばいい話だろう」

「そういう問題じゃなくて」

 

学年別トーナメントまで、あと25日。

 

 

**********

 

 

俺だ。一夏だ。

え? 久し振りに見た? そんなメタなこと言ったら千冬姉の出席簿が飛んでくるぞ。

 

さて、今俺は久々にIS学園の外にいる。

なんとなんと、外出許可が下りたんだ! 自宅の掃除を少ししてから、友人である五反田弾の家に遊びに来ている。

昼まではIS/VS……インフィニット・ストラトス/バースト・スカイという、まあISがモチーフの格ゲーをしていた。このゲームが開発・発売されたのは4年前だから、俺がIS学園で目にしている専用機はどれもこれも登場しない。いわば、第2回モンド・グロッソまでの機体と言っていいだろう。

だから、第三世代ISはおろか、第二世代ISの最終機であるラファール・リヴァイヴが登場して間もない状態だ。

 

そういえば、第三世代ISといえば……。

 

「そういえば、中国がクーデターでなくなったんだよな? 鈴元気にしてんのかな……」

「ああ、そういえば言ってなかったか、鈴は4月の末にIS学園に転校してきたんだよ。中国の代表候補生になってて、専用機も持ってた」

「代表候補生で専用機!? 器用な奴だったけど、まさかなぁ……」

 

弾はどうやら、代表候補生だとか専用機だとか言っても、いわゆる「エリート」だってことがすぐにわかったらしい。ぐぬぬ、入学当初の俺はまったく知らなかったのに。

 

「それで、なくなった国で登録されたISはテロリストって判断になるって条約で決まってるらしくてさ。身分手続やISの解体のために、今は学校休んでIS委員会にいってるんだ」

「へぇ……。鈴も大変なんだなぁ……」

 

弾もニュースで見たのかもしれないが、俺も弾も、絶対に触れないようにしていた話題。

-「中国の代表候補生15名が専用化処理を施したISで香港に侵攻し、返り討ちにあった」。

クーデターが起こる前日の朝に流れたニュースだ。

 

……なんとなーく、返り討ちにした香港のIS乗りの顔が思い浮かぶんだが。

 

「一夏から、鈴にたまには遊びに来いって伝えといてもらえるか?」

「おう。それぐらいお安い御用だ」

 

弾の妹の蘭が呼びに来たので、俺達は五反田家1階にある五反田食堂へと降りた。

遊びに来た時は残り物の定食などをタダでいただけるので、たいへんありがたいことだ。

お客さんもまだいるので、蘭と同じテーブルに3人並んでかけたところで、五反田食堂の古き良き戸ががらがらと音を立てて開いた。

 

「こんにちはー」

「いらっしゃーい……あら、あなたもしかして?」

 

自称看板娘の五反田蓮さん-弾と蘭のお母さんで、28歳から年を取っていないと冗談めかして笑う、確かにとても若く見える女性である-がにこやかに迎えたのは。

 

「ええ、まあ。席空いてますか?」

「あれ? えっと……ミカエル先生?」

「あ、織斑くん。……と、蓮さんのお子さんかな? 相席したいけど、大丈夫かな」

 

つい先日、着任したばかりの稀代の天()、ミカエル・ブルックス先生だった。

柔らかな金髪の巻き毛と慈愛に満ちた微笑みが、性別を超えて女神に見えると生徒たちの間でもっぱらの評判な先生だ。

ちなみに教え方も女神だ。超わかりやすい。

 

隣に座る弾が肘で俺をつつき、あの美人は何者なのだと問う。

 

「IS学園の先生だよ。ちなみに男。ニュースでたまにミカエル・ブルックスって流れてないか? それがあのミカエル先生だ」

「ああ! ……すごいな、IS学園……」

「どうぞ、この席でよければ座ってください!」

 

立ちっぱなしのミカエル先生を俺達の向かい側に誘導する蘭に、流石店を手伝い慣れていると感心する。ありがとう、と女神の微笑みを浮かべるミカエル先生に、蘭も弾も頬を赤くした。

 

席につこうと椅子を引くミカエル先生の後ろから、いきなりブルックスさんが現れる。

い、いつの間に!?

 

「……織斑、なぜそんな驚いた顔をしているんだ」

「えっ、あっ、いや、突然出てきたからびっくりしてな」

「……」

 

あっ。

これは言ってはいけない言葉だったかもしれない。

いくらブルックスさんが女性とはいえ、小柄で見えなかっただなんて言われたくはないだろう。

 

「……ごめん」

「気にするな。……学園に戻ったら覚悟しておくんだな」

 

優しい、と思った俺が早とちりだった!!!

 

 

暫くの後。俺達タダ組3人とブルックスさんの前にはカボチャ煮定食が、ミカエル先生の前には業火野菜炒め定食が並んでいる。甘党を自称するブルックスさんは、カボチャ煮定食が甘くて美味しいよとミカエル先生に勧められて注文していた。

5人揃って手を合わせて、目の前の定食に箸をつける。……やはり、カボチャ煮は相変わらずかなーり甘い。

 

「……ふふ、お口にあったみたいだね」

 

表情筋が仕事している様子をなかなか見られないブルックスさんの瞳がきらきらと輝いているし、次々とカボチャ煮を口に運んでいる。

よっぽど甘いのが気に入ったみたいだ。

 

「それにしても……先生お若いですね?」

「そうだね。僕まだハタチだから、君達とそんなに変わんないよ」

「IS学園の先生ってそんなにお若いのが普通なんですか?」

「いいや、僕がレアケースだよ。とは言っても、実技を教える先生はやっぱり25歳くらいの先生が多いし、普通の学校よりずっと平均年齢は低いんだよね」

 

確かに先生たちはみんな若い。

国語とかの一般教養教科の先生はマダムって感じの年齢の人が多いんだが、担任のクラスを持っている先生とかのIS実技系の先生はみんなレディーって感じの年齢だ。

一般教科の先生の人数はかなり少ないから、余計に平均すると若いのかもしれないな、うん。

 

 

カレイの煮付けは辛ぇ!

……ブルックスさんの心境はきっとこんなんだろうなって思っただけだからな!

味付けがかなりピリッとくるカレイの煮付けがカボチャ煮定食についてくるんだが、それを疑いもせずに食べたブルックスさんが口を手で押さえて顔をしかめたんだ。

甘党すぎるあまり、ピリ辛も苦手なのかもしれない。

 

「……あ、ごっめんアイリーン、言うの忘れてた」

 

カボチャ煮定食を勧めたミカエル先生本人はテヘペロと言わんばかりの顔をしている。

ちらりとこちらに寄越された、シューティングスターの装甲と同じ色の瞳が、濡れて。

今は何も口に入れていなかったのに、ごくりと喉が鳴った。

 

「蓮さんごめんなさい、水もらっていいですか?」

「あらあら、はいどうぞ」

 

コップ一杯の水を勢いよく飲み干したブルックスさんの目尻が、微かに濡れている。

いけないものを見ている気がして、心臓のあたりがザワザワした。

 

「……決めました。私、来年IS学園を受験します!」

「えっ、いきなり何を言ってんだ!?」

「お兄は黙ってて」

 

蘭の一撃で貝のように口を噤む弾、哀れ。

 

「でも蘭、今通ってるとこって確か大学までエスカレータで、しかも超ネームバリューあるとこだったよな?」

「大丈夫です、私の成績なら余裕です」

「あそこ推薦ないし実技あるぞ……」

 

しかしまた口を開く弾を目の一閃で黙らせる蘭。

なんなんだ、最近のお嬢様学校ではそんな恐ろしい技を習うのか!?

 

「タダで受けられる、IS適正簡易検査。検査結果、Aランクです。ですから、問題はありません」

「……IS適正がAランクなくらいでIS学園に合格できるなら、今頃IS学園はAランクで溢れてるだろうがな」

 

おっと、ここでカレイにノックアウトされていたブルックスさん復活か。

よかった、俺も1○禁カレーみたいなのを食べさせられたらこうなる自信しかないからな。

 

「そうだね、IS学園の一学年の定員は100人、所属国で受験者を制限してはいけない決まりがあるから、Aランクを全員入学させてたらすぐ枠が足りなくなっちゃう」

「えっ、そんなにAランクっているものなんですか?」

 

俺もIS学園に通っているというのにそんなのは初耳だ。

ちなみにランクBの俺、ランクCの箒は人身保護のために定員を2枠潰して、そこに入れてもらっている。頑張って勉強したどこかの女子2人、本当にごめん。

 

「うん、いるよ。たとえば香港軍なら、専用機持ち3人は当然A、それからAランクはえーっと……5人だっけ?」

「6人だ。ついでに言うと、学校で一番成績がいいから、という理由で筆記試験抜けられる道理はないとも付け足しておく」

 

言い方はきついが、確かにそうかもしれん。

俺も中学じゃ上から数えればすぐの成績だったが、IS学園ではまごうことなき劣等生だ。周りが日本人生徒が多いから、国語での優位なんて感じられるわけもないし。

 

「あとはそうだなぁ……。同じランクAでも、運動部とかで輝かしい成績ある子の方が優先されるよ。厳しいことを言うようだけど、君にはそれがないよね。体つきや日常生活の動きでわかるよ」

「な、なんで部活の成績が!? 私は中等部の生徒会長を務めています、部活の成績では負けません!」

「あ、理由俺もなんとなくわかる。ランクAの代表候補生がランクCの箒と模擬戦した時、接近戦になった瞬間箒が勝ってた」

 

ちなみにその代表候補生とはセシリアのことだ。

つまり、ISは前代未聞のスーパーマルチスーツとはいえ、それを動かすのはあくまで人間である。その人間の反射神経であったり体さばきであったりがISの操縦に大きく現れるから、運動部での成績がいい子は有利なのかもしれない。

……あれ? そう考えると、セシリアやブルックスさんとの代表決定戦の前に箒が剣道で扱いてくれたの、実はかなりよかったのか?

 

「運動部の子は、文化部や帰宅部の子より体が鍛えられてるし、各種神経も発達してるからね。中学で3年間部活してなかった子とでは、まるまる3年分が違うし、その差を在学中に埋めるなんて難しいから、運動部で実績ある子が有利なんだよ」

「……わかりました。私、明日から近くの格闘道場に通います。IS学園に行きたいですから!!」

 

……あれ? ブルックスさんとミカエル先生は蘭にIS学園は無理って話をしてたはずなのに、あれ??

まあいいか、頑張るっていうなら応援してやるのが男ってものだ。

弾は厳さんのおたまを喰らってのびていたが、今日も平和だ。




久々の一夏視点はテンションの上げ下げが簡単で楽しいですね。
え? シャルロット? あともうちょっと待ってくださいお願いしますなんでもしますから!!
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