※原作通りのペア?そんなもの1組だけじゃい
以上2点で「あ、これは無理だ」と思ったら今すぐ見なかったことにしましょう。
そんなこんなで学年別トーナメント、開幕です。
-6月22日、月曜日。
突き抜けるように青い空を、アリーナのシールド越しに見上げた。
今日から5日間、IS学園では「学年別トーナメント」が開催される。
ふい、と近付いてくる気配に目を向ける。
初代ブリュンヒルデ、その人だ。
「朝早くから寮を抜け出すとは、随分と不良な生徒になったものだな」
「……おはよう、千冬さん」
第1アリーナ。
俺達の立っているここは、今日の開会式、金曜日の閉会式に使用されるアリーナであり、3年生のトーナメントと各学年決勝が行われる場所だ。
「ISなしとはいえ、お前と戦える日が来るとはな」
「フ、ISを身につけていない方が強い人が、よく言うよ」
開会式で、このイベントの火付け役として行われるエキジビジョンマッチ。
例年であればIS同士の戦闘が行われるのだが、今年は学園内にブリュンヒルデが2人揃ったのだから、折角だしブリュンヒルデ同士で戦わせてみようと更識が企画したそうだ。
俺としても、千冬さんと拳を交わしてみたかったのは事実だしな。……まあ実際には真剣を使うが。
「今日は、香港から誰か来るのか?」
「どうだろうな。父が個人的に来るかもしれないとは言っていたが、結局詳細は聞いてない」
「そうか」
朝、5時半。
シールドに囲まれたアリーナでは朝の新鮮な空気を運ぶ風など吹かないが、もうすぐ訪れる夏の香りを多分に含んだ空気を、思い切り吸い込んだ。
学年別トーナメント、開幕だ。
**********
「さあーやってきました! IS学園6月の風物詩! 学年別ッ! トーナメントォォォオオオオ!!! 第1アリーナ実況はわたくし、放送部のアンナ・ホームズと!」
「解説は同じく放送部のソフィア・ワトソンでお送りいたします!」
実況解説を務めるのは、IS学園放送部のホープである、通称ドイラーズである。
この通り名があるのは、勿論彼女らのファミリーネームが某推理小説作家の名探偵とその助手のそれに一致するかららしい。
ちなみにこのドイラーズが担当するのは、第1アリーナにおける全試合の実況解説であり、他アリーナの試合や開会式閉会式の司会進行はまた別の人員が配置されている。
「それではただいまより生徒会に引き継ぎ、開会式を開始致します!」
-第3アリーナ第4更衣室。
第1学年の予選会場であるこのアリーナで最も小さい更衣室が、今回のイベントで男子更衣室として指定されている。
もっとも、一番小さいとはいえ本来は20人程度で使う物なのだから、たった2人だけで使用するとどうしてもがらんとして、多少寂しい気持ちにもなる。
そんな男子更衣室で、ISスーツに身を包んだ、世界で最初の男性操縦者-織斑一夏と、2人目の男性操縦者(仮)のシャルル・デュノアは、モニターを眺めていた。
それというのも、モニターでは現在進行形で開会式が放送されているからだ。
各更衣室にはモニターが設置されており、普段はそのアリーナの様子をリアルタイムで放送するために使われているが、毎年このイベント中は、IS学園の中央管制室からモニターをコントロールし、開会式や閉会式の放送は勿論のこと、各学年のトーナメント表を表示するために使用されている。
というよりも、こうして放映しないと、開会式は特にアリーナが満員になってしまい、来賓の席がなくなってしまうのである。
「初代ブリュンヒルデと現ブリュンヒルデの生身での真剣手合いかぁ……。IS学園で、生身の戦闘を見世物にするなんて僕には思いつかないだろうなぁ」
時刻は8時40分。
開会式プログラムナンバー5、エキジビジョンマッチ「初代ブリュンヒルデVS現ブリュンヒルデ生身対戦」が始まらんとしている。
呟きに反応しないタッグペアに、気分でも悪いのだろうかと一夏の顔に視線を遣ると、その先には奥歯を噛みしめて、握り拳を震わせている本人がいる。
「……一夏、どうしたの?」
どうしたの、なんて白々しい問いだとシャルルは思う。
先日の、鈴がボーデヴィッヒさんに一方的な暴行を受けた日。あの日から多分、一夏はアイリーンさんを嫌って……否、憎んでいる。
そのことに気付きながらも、気付いていないふりをしている。
「どうしたのもこうしたのもあるか! ……ッ千冬姉のことを貶すようなやつが、世界中で認められてるのが気に食わないんだ!」
この間も。今も。
一夏は、姉に盲目的すぎるきらいがある。
鈴や箒がアイリーンさんの言葉に賛成してからというものの、放課後の特訓で、一夏はそれとなく鈴や箒を避けていた。
まぁ、僕にとっての利でしかないし。
一夏に見られぬよう、企んだ女の顔をする。
「まあまあ。とにかく、今は織斑先生を応援して、それとトーナメントで僕達が勝てば大団円だよ。頑張ろうね、一夏」
にこっと、微笑みも忘れない。
気を取り直した一夏は、ああ! と力強く頷き、表情に明るさを取り戻した。
**********
第3アリーナ、第2更衣室。
このアリーナの更衣室が1つ男子更衣室に指定されてて、そのせいで女子の更衣室3つが狭いったらありゃしないんだから……。
あたしに割り当てられてる第2更衣室もそうで、女子の平均身長より上に設置されてるアリーナモニターも見づらいし。
「
あたしの新しい名前を呼んだのは、今回のあたしのペア。
箒だった。
箒は、リンよりスズネの方が呼びやすいからって、スズネで呼んでくる。
あたしもまだ慣れない名前だけど、嫌いなわけじゃないし、訂正はしていない。
「箒……失礼ね、ちょっとモニターが見えづらいだけよ」
「そうか」
中国崩壊で、あたしは日本人に帰化した。
幸い、言語も容姿も、日本人とそんなに大差なかったしね。
それで、今は倉持技研のテストパイロット。今は専用機としてもらってる打鉄は休ませてるけど、同じ装備を積んだ代機が今は手元にある。
今回のペアは、訓練機の打鉄を使う箒。……ちょっと前のあたしだったら、何をどうしても一夏とペアを組みたがったかもしれないけどね。
「……本当に私がペアでよかったのか?」
「何を今更。女に二言はないわよ」
箒と一夏は、元々箒の実家の道場で剣道を習ってたっていうし、乗る機体も相俟ってかなり戦闘スタイルは似る。けど、箒にはあって一夏にはないものなんてたくさんある。
第一、射撃武装。サブマシンガンなら当たらないにしろ、ないよりマシでしょ。
第二、女心への理解。あの朴念仁には絶対にないものね。
最後、ISに乗ることの重みを知ること。
「それに、2人で先輩を頼りに行ったの、いい経験でしょ。……一夏と一緒だと、逆にああは行かないと思うし、やっぱりアンタと組んでよかったって思うわよ」
この学年別トーナメントとかを始めとして、IS学園では年に数回、IS模擬戦系のイベントが開催される。
その時、2年生や3年生の普通科の生徒って、整備課の人達の協力して訓練機を調整してイベントに臨むらしいのよ。情報元、倉持技研であたしの担当の事務員。
あたしが今倉持で担当してるのは、打鉄弐式の装備の試作品のテスト。
あ、打鉄弐式って打鉄ベースの第三世代ISの予定ね。今まだボディもできてなくてほぼ構想段階らしいけど。
現状、倉持は白式の研究と打鉄弐式の第三世代兵装を開発するのに忙しいから、できるだけ整備課の生徒と仲良くして、ついでに腕のいい子にツバつけといてほしいって言われてるのよね。
「ああ、あれは……。鈴音から話を聞かなければ、私にはそんな発想はできなかっただろう。そして1人ではきっとできなかった。感謝している」
まぁあたし達がタッグ結成したのはかなり遅いタイミングだったから、3年生や2年生のエース級の人はみんな2、3年生を担当してたけどね。それでも、1年生のあたし達がそうして整備課を訪れただけでびっくりされたわ。
そして、2年生でも下の方だと言ってた先輩たちは、専門外のあたし達からしたら、十分すぎるほどの仕事をしてくれた。今日も万全の状態で挑めそうだし。
「あ、もうすぐ始まるわね、千冬さんとブルックスの手合い」
「そうだな。これが終わったらトーナメント表の発表だったか」
「そのはずよ」
お互いに、万が一の可能性を考えてISスーツを着用した姿で、生身には広すぎるアリーナに立つ千冬さんとブルックス。
千冬さんは、日本刀を持っている。横で箒がいい業物だ、なんて呟いてるから多分結構すごい刀。一方のブルックスは、一般的な日本刀と短刀の間くらいの長さの、いかにも中途半端な刀みたいなものを持っている。
「ねぇ箒、ブルックスの持ってるあれは何ていう種類の刀?」
「さぁ……私も見たことがない。ブルックスの身長では日本刀が扱いづらいという理由で特注したものかもしれんな」
ブルックスは確かあたしと同じぐらいの身長のはず。
箒の頭のてっぺんを見上げた。言うほど大差はないはずなんだけど……。
『実況席より、ルール解説です! あくまでエキジビジョンマッチですので、この手合いでは急所に攻撃が当たりそうになった場合、その瞬間に負けが確定します。急所は首、頭、胸の3か所とし、またお互いに攻撃はできるだけ寸止めしなければいけません』
『なるほど、ISスーツに合わせて、流血が起こらないようにルール上でも対策は取られているのですね。では、生徒会長のゴングにより、試合を開始します!』
『ハーイ、じゃあいくわよ! 試合、開始!!』
カーン!
開始前は構えず、お互いに20メートルは離れてる位置に立っていたはずなのに。
ゴングが鳴った次の瞬間には、互いの一手目が繰り出され、刀同士がギィィン! とまるで時代劇の鍔迫り合いみたいな音をさせる。
体格は明らかに千冬さんが勝ってるのに、筋力ではブルックスが負けてない、いや……押し勝ってる!?
「なるほどな……。いくら千冬さんが世界最強だったとはいえ、現役軍人のブルックスのほうが少しばかり機動力が高い。だから懐に入りに行く作戦か」
あたしもあたしで、甲龍に乗ってた時に感じていた。
大きな剣ほど、振るうのに時間がかかり、懐に入られると何もできないと。
悔しいけど、中国代表だったあの化粧の濃いオバサン……王珠晶に一瞬で懐に入られて、一瞬で負けたことがあった。今でも忘れられない、人生の中でもなかなかショックだった。
「あれ? でもそれならより一層、鍔迫り合う意味ないじゃない」
「……何か考えあってのことだろうが……」
剣術は正直あたし専門外だし、専門の箒でもわかんないならあたしにわかるわけないか。
一見優勢なのに退いたブルックス。……あれ? この刀捌き、どこかで。
『速い! 現ブリュンヒルデ、圧倒的速さです!!』
『小柄なのと、刀が短いからこそ、懐に潜り込む戦術でしょうね。彼女は高校生にしては小柄ですから、織斑先生と無理に力勝負をするのは得策じゃないと思います』
『それにしても、アイリーン選手のこの刀の持ち方、まるでニンジャですね!? 日本出身の生徒会長、更識楯無さんどう思われますか?』
-そうか。
『女の子の忍者はくのいちって言うのよ、アンナちゃん。多分、クナイを逆手で持つイメージからそう思ったのかしら?』
『そうですね、短い刃物を逆手で持つイメージでしたね。ニンジャ、改めクノイチが如きアイリーン選手を、織斑先生はどう捌くのでしょうか!?』
-ニンジャ。
4月末、あたしが転校してきてすぐ、クラス対抗戦の時に、侵入者の対処に当たった、紫のIS。
インド人のクラスメイトがあれを見てニンジャと言っていた。
そして、あのニンジャと今モニターに映っているアイリーン・ブルックスの動きは、一致する。
外国のことなんて全然興味なかった。
でも今ならわかる。
あの時のあのニンジャは、このアイリーン・ブルックスだということが。
名実ともに、あたしより強いんだ、この子は。
「しかし……ブルックスのこれにはいくつか難点がある」
「そうなの?」
「ああ。対戦相手が一般人ならともかく-」
画面の中では、ブルックスが再び千冬さんに切りかかる。
「相手は、あの織斑千冬だ」
それを避けた千冬さんの袈裟斬り。
逆手では受け切れないと順手に持ち替えたブルックスの刀を弾き飛ばし。
カンカンカン!!
頸動脈スレスレで、千冬さんの刀が止まっていた。
……あれ、あたしは反応できたかな。
冷や汗がたらりと額を伝う中、体ばかりはISスーツのおかげでさっぱりしていた。
今ペアが出てきていない専用機持ちは、「ラウラ」「セシリア」「アイリーン」のみ。
さてここで問題です。この3人は誰を相方にするでしょう?
正解は……2章7話で(多分出るはず)!