IS  -香港のダイヤモンド-【改】   作:7seven

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あけましておめでとうございます。
前回から1か月以上空いてしまいましたが、生きていました。
色々ソシャゲが積み重なった挙句、この話を書くのに行き詰まったところで年末年始の帰省の時期を迎えてしまったのが理由ですね。ソシャゲこわーい。
みなさんもソシャゲには気をつけて、本年もよろしくお願いいたします。

今年の目標は第三章完結ですが、果たしてそう上手くいくのでしょうかね。
とりあえず、2章10話開始と相成ります。


02-10 モンブランの栗は先に食べるか後に食べるか

学年別タッグトーナメントで初戦負けした俺達は、1年1組の教室で、決勝戦の中継を見ていた。

 

アリーナの観客席で決勝戦を直接見られるのはたった2種類の人間だけだ。

1種類目は、学外から来た企業人や各国VIP。いわゆる外部の人だ。

そして残ったほうは、各学年トーナメントでベスト4に残ったペア。

俺達はそのどちらにも該当しないから、教室で見るほかないのだ。

 

まあ、教室で見るのも存外悪くないけどな。

織斑先生はアリーナ責任者でいないから教室の監督をしているのは山田先生なんだけど、山田先生が試合の要点を解説してくれるから、アリーナで実況解説をしている上級生の声に合わせて、理解が捗るってもんだ。

 

 

「ねえ一夏、あの試合……やっぱり」

 

隣に座っているシャルが、言いにくそうに話を切り出してきた。

あの試合。

トーナメントの1回戦、イタリア代表候補生組と戦った、あの試合。

 

「やっぱり、フェラーラさんの言ったことは-」

『あ、ァァアアアアァァアァあああ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛!!!』

 

これで間違いなく決まったと、そう思わせる射撃。

その瞬間に、耳をつんざくようなボーデヴィッヒの声が、スピーカーから流れだす。

 

「な、なに!?」

「なんなの!?」

「みなさん、落ち着いてください! アリーナでのトラブルです、ここは大丈夫ですから!!」

 

ざわついて教室中が一気に混乱に陥る。

この映像を届けているカメラはアリーナ観客席に設置されていると聞いているが、シャッターのようなものが徐々に降りてきている。

 

「これは一体何が起こったんだ!?」

「わかんないよ! けど、アリーナで何か起きてるみたい! でも教室棟は大丈夫だよ、大丈夫じゃなかったらISから警告来るし」

「ッそうだな、みんな落ち着け! 大丈夫だから!!」

 

立ち上がって廊下に雪崩れ込みそうな女子たちを教室に押し戻す。

これが各クラスで起こってたら危険すぎる!

 

その時。

ふと目に入った。

 

 

アリーナからの映像。

シャッターが降り切る寸前。

 

 

()()を象った黒い何か。

 

 

 

「……ッ、なんだあれは!!!」

「っちょ、一夏!?」

 

許せねぇ! 許せねぇ!!

あれは! あの形は!!!

 

 

**********

 

 

やれやれ。

わかりやすく溜息を吐くと、オルコットがあれは何ですの、と呟く。

答えを求めているかどうかは知らないが、一応答えておく。

 

 

「モンド・グロッソにおける部門優勝者。そいつらを何て呼ぶか知ってるか?」

「部門優勝者はヴァルキリーですわね」

「アレはそいつらの武装、技術、戦術をトレースし、操縦者の訓練なしに強いIS兵を作ろうとしたものだ」

 

暮桜。

千冬さんが最後に乗った専用ISとして有名なISだ。

第二世代ISの先駆けとも呼ばれ、単一仕様能力の存在を初めて世に見せ付けた機体だ。

千冬さんは日本代表として当時の日本の最新機には次々と搭乗したものの、結局稼働時間が最も長く、第2回モンド・グロッソでも搭乗したISこそが暮桜だ。

ちなみにこれの後継機が打鉄らしい。

 

「ま、言ってしまえばあれは千冬さんの真似事をしようとしたゴミクズシステムだな」

「……アイリーンさんにしては、乱暴な言葉を使われるんですのね」

「当然だろ。私だってあんなに似てない猿真似されるのは御免だね」

 

オルコットは俺もトレースされる側なのだと気付いたようで、批判的な口を閉じた。

 

 

第2回モンド・グロッソは5年前ともあり、その大会以降千冬さんは暮桜に乗ってはいない。

つまりトレース元は5年前のデータだから、開会式で戦った千冬さんの型とはまた少し違って見える。

 

 

『ブルックス、オルコット、聞こえるか』

 

噂をすれば、トレースされた本人からの通信か。

 

「こちらブルックス。ドイツがあんなブサイクなシステムを積んでることに気付けなかったのはこっちの落ち度だ、すまない」

『いや、そもそもそんなものを開発するほうが悪い。観客席のシャッターは閉めた、対処を頼めるな?』

「ああ。とりあえずISの機能を停止させるためにシュヴァルツェア・レーゲンのエネルギーを残量ゼロにする」

『わかった』

 

 

ヴァルキリー・トレース・システム。

略してVTシステムが一体どこまでの再現度を追い求めたのかは知らんが、まあ俺の敵じゃない。

 

千冬さん本人ならいざ知らず、あくまであれは機械だからなぁ。

まさか望んでいた対零落白夜戦がこれが初めてだなんて想像もしなかった。

 

「オルコットはデーレンダールの保護を頼む、何があるかわからんから一応な」

「わかりましたわ」

「一応ドイツに()()するための駒だから丁重にもてなしておいてくれ」

 

 

オルコットがデーレンダールを連れてピットに帰投したのを確認して、長剣型の近接ブレードを展開する。

零落白夜に近接戦闘を挑むのであれば、リーチの近い武器の方が有利だからな。

 

しかしまあ、機械の癖にやけに大人しいじゃないか。

オルコット達がアリーナから出るまでピクリとも動きやしない。

相当俺に執着でもしてんのかね。いくら女に困ってそうな俺でも機械を抱くほど落ちぶれちゃいないんだがな。

 

 

ノーモーションで瞬時加速し、袈裟切りを入れ、その勢いで一撃離脱する。

ああ、反応速度が確かに機械だな。流石に1回見ただけのほぼ初見で反撃を入れようとできるのはいくら軍属操縦者でも違和感しかない。

何より、守りに入らず、反撃しようとしているから余計に、な。

 

守りに入らず反撃をしようと出るなら、俺もその反撃を受け止めつつ攻撃する態勢に入る。

攻撃の通りやすそうなところを狙って切りかかり、射撃で回避先を誘導する。

千冬さんのトレースと言っても、所詮偽物でしかない。零落白夜が当たりそうになれば剣でいなして向こうの姿勢を崩す。その立て直そうとする瞬間を狙って集中砲火。

 

結果、見事ニセモノのシールドエネルギーはゼロになったわけだが……。

 

 

「こちらブルックス。千冬さん、シールドエネルギーはゼロにできたが、装甲だった部分がドロドロのままボーデヴィッヒにくっ付いてるぞ。どうする?」

『ああ、ご苦労。装甲だった部分を切り開いて救出できないか?』

「まあやれるだけはやってみるよ」

 

こんなにドロドロになったのは、VTシステムの影響もあるんだろうが、スペックカタログを見る限り対光学兵器仕様ということで元々深部は半液体状、あるいはゲル状だったのかもしれないな。

そーっと切りすぎないようにブレードで切っていく。

その時、ビーッビーッとISの警告アラームが鳴り響く。

 

IS接近中、IS接近中。

 

接近中ということはボーデヴィッヒではない……なら何だ。また外敵か。

 

9時の方向、登録名「白式」、登録操縦者名「織斑一夏」……ん?

外敵ですらない。

 

「ぉぉぉぉぉおおおおおお!!!」

 

今は誰もいないはずのAピットの扉を吹き飛ばして出てきたのは、アラーム通り白式だ。

しかも、本家の零落白夜発動中。

 

 

「おおおおおお!!!!」

 

こっちに真っ直ぐ突っ込んできやがる。

瞬時加速している、止まる気ねえなこれ。

 

俺はともかくとして、もう絶対防御の発動が望めないボーデヴィッヒは、このままじゃ死ぬよなあ。

……はあ、なんでこんなに俺が苦労しないといけないんだろうな。

 

 

瞬時加速でかなり重さの乗った雪片弐型を、両腕で握った近接ブレードで受け止める。

鈍い金属音と共にぶつかったが、すぐにそれをボーデヴィッヒと真逆の方向に撥ね退けた。

 

その撥ね退ける時の体のねじりを利用して、俺の眼前に曝け出された柄頭を思い切り……。

 

 

蹴っ飛ばす!!

 

 

 

パワーアシストと、慣性、抗力、その他諸々の力で、体勢の乱れていた織斑の手から雪片弐型を奪うことなど容易かった。

 

少し遠くまで飛ばされた雪片弐型はアリーナの地面にごとりと落ち、主たる白式を離れたからか零落白夜も解除された。

 

「ふう……」

「なっ……!? にするんだよ、ブルックスさん!!」

「見てわからないのか、もうコイツはエネルギー切れだ。お前のオーバーキルアイテムで無暗に突撃したら、ISどころかボーデヴィッヒの命がなかったぞ」

 

 

俺の目線の上から睨みつけてくる織斑のこめかみには血管が浮いている。

その向こうから、破壊されたAピットの扉からラファール・リヴァイヴを纏って降りてくるデュノアが見えた。

 

「一夏!!」

「シャル……。シャルからもなんとか言ってくれ! またブルックスさんが俺の邪魔をするんだ!」

 

いつ俺がお前の邪魔をしたのか。

認められていない、許されないことをしようとしたら止められるのは当然だろうに。

少なくとも、法治社会で生きる限りは。

 

「なら次からは止めないでおこうか。私も改善する気のない者に延々と注意するのも疲れる」

「ああ、もう邪魔しないでくれ」

 

Aピットに向かって飛んでいく織斑と俺を二、三度見比べて、デュノアは織斑の後を追っていった。

 

 

ボーデヴィッヒに刃が当たらないように、慎重にゲル状物質を切り開いていく。

その中からボーデヴィッヒを引き摺り出すと、ゲル状物質が硬化して、いくつかの欠片になった。どういう仕組みなんだこれ。

 

そして。

気を失っていたボーデヴィッヒは、どこか安らかな顔に見えた。

 

「アイリーンさん、先生方をお呼びしましたわ」

「ああ、助かるオルコット。実行部隊1班と2班は手分けして、このISだったものを厳重保管区域に運んでくれ。3班はボーデヴィッヒを医務室へ」

 

すぐに行動に移った教員たちを、オルコットと共に見送る。

 

 

それにしても、暮桜のニセモノか……。

 

仕組みはよくわからんが、零落白夜をコピーできたんなら、なんでドイツはAICを第三世代ISに積んだんだろうな。

 

零落白夜とAICでは方向性は200度ぐらい違う。

180度であれば、相反ということで、まだ理解できる。

だが、零落白夜の技術からAICに転化するのは並大抵の技術者にはできないだろう。

となると……。

 

「……なんでこんな面倒ばっか起きるんだろうなあ」

「あら、溜息を吐くと幸せが逃げるそうですわよ。吸っておかなくていいんですの?」

 

溜息を吸い込むだけで幸せが来るのなら、誰も苦労してないだろうよ。

そうは思ったが、もうひとつ溜息を吐くにとどめた。

 

 

**********

 

 

学年別タッグマッチトーナメントは、無事終了した。

 

……いや、無事ではないな。

無事ではないが、重傷者もないのだから、まあいいか。

 

 

ちょっとしたトラブルもあったが、それでも3学年全ての優勝者を決定できたのだ。

閉会後の後片付けも何事もなく終わり、VIPたちももうアリーナにはいない。

俺の生徒会役員としての初めてのイベント運営は、成功と言えるだろう。

 

優勝賞品として、学食のスイーツ半額券150枚セットと表彰状を受け取った。

ペアで150枚だから、俺とオルコットで75枚ずつ分け合い、表彰状は置くところもないからオルコットに一任してある。

 

そして今。

学食で、俺、オルコット、篠ノ之、凰鈴音の4名でスイーツを食べている。

なんでこの4人なのかは、俺に聞くな。

 

「たまには菓子もいいものだな」

「ええ、本当に。優勝賞品の半額券は、優先提供もしてもらえるそうなので、待ち時間がないのが助かりますわ」

 

学食限定メニューの和栗モンブランがまた美味い。

たかが学食と侮るなかれ、流石金がかかっているだけはあるな。

 

「そういえば……。ブルックス、悪かったわね」

 

ころんとした栗に歯を立てようとした瞬間、凰鈴音が神妙な顔をして頭を下げた。

 

「あたしが無知だったせいで、アンタに暴言吐きまくったの。まだ謝れてなかったし」

 

オルコットと篠ノ之は、顔を合わせてぱちくりと目を瞬かせた。

おそらくアフレコするなら、誰ですのこの鈴さん、私にもわからん、といったところだろう。

 

「そ、それと、アンタの国に喧嘩売ったのもごめん……。ウチの代表が……じゃないや、中国の代表だったやつが突然、香港を侵略するから香港代表をIS学園に縫い付けとけって言って……」

 

中国の代表。王珠晶のことだな。

侵略戦争の表舞台には立っていなかった女だ。

 

「って、これは言い訳ね。本当にゴメン」

「……暴言はそこそこ慣れているが、侵略行為は許せないな」

 

頭を下げている凰鈴音のつむじの上から、冷たく切り捨てる。

 

「おい、ブルックス。こうして謝罪をしているのに許さないのか?」

 

見損なった、という目でこちらを睨みつけてくる篠ノ之。

冷たく口角を上げる俺。

 

「本当に申し訳ないと思っているのなら、王珠晶についての情報を、香港に寄越すことだな」

「……なんで、あいつの名前知ってるわけ?」

「当然だろう、一応モンド・グロッソで顔を合わせたことがあるからな。あいつが侵略を企てたのに、自分では顔を出さなかった挙句、今も行方が知れていない。いわゆる国際手配犯の情報提供は、お前にとってもデメリットばかりじゃないと思うが?」

 

机の下で、ゆっくりと足を組み替える。

 

 

……おいそこ、左手にある、栗の刺さったフォークのことは忘れろ。





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