が。
春休みも帰省予定かつ、出発が2月頭の予定なので、あと1話、帰省前にアップできたらいいなあと思います。思うだけタダです。全てはソシャゲが悪い。
あと、おそらく第三者視点をこんなに書いたのはほとんど経験がないので、第三者視点(一人称じゃないとは言ってない)みたいになっているかもしれません。心の眼で変換して読んでね。
なお、この2章「邂逅」は、12話を持って終わりとする予定です。
それでは2章11話、どうぞ。
※今回主人公は名前以外出てきません。
意識が浮上する。
見上げたのは、白い天井。
横たえられていた身を起こそうとすると、ベッドのスプリングと己の体が軋み、鋭く痛みが走り抜ける。
起き上がることを諦めて、素直に再び横たわった。
ふう、と溜息を吐くと同時に、ベッドを囲っていたカーテンが軽い音を立てて開かれた。
「気が付いたか。どうだ? 身体の調子は」
「織斑教官……。私は、一体……」
教官の前で寝たままなど失礼だから身を起こそうとするが、背がベッドから離れる前にそのままでいいと制止されてしまい、私はお言葉に甘えて再び体を横たえた。
「ここは医務室だ。今は学年別タッグトーナメント第1学年決勝戦が終わってから5時間ほど経った」
そうだ。
私は戦っていた。
名ばかりのペアであるアルマは早々に堕ち、私が一人で戦っていたのだ。
「教官、結果は」
「お前達の負けだ。それよりも……VTシステムというものは知っているか?」
「はい。ヴァルキリー・トレース・システムです。今は研究も開発も使用も禁止になっている代物のはずですが……?」
「その通りだ。いかなる国家、組織、企業においても禁止されている。だが、そのVTシステムが、お前のISには積まれていた」
言葉を失う。
なぜそんなものが。なんで。どうして。
「まあ、巧妙に隠されていたようだがな。起動条件もかなり限定的に絞られていた」
「……」
意識を飲み込まれた時、私は確かに強く願っていた。
ブルックスを殺せるだけの力が欲しいと。教官に、私は強くなったのだと見せつけたいと。
まさか、まさかその願望が、VTシステムを作動させたとでも言うのか?
「ミカエルが最後にシュヴァルツェア・レーゲンを
「いえ。シュヴァルツェア・ツヴァイクとほぼ同規格なので、ドイツの最高機密の一つです。まず、開発元のビスマルク社以外の手が入ることはありません」
私がそう答えると、教官はふむ、と納得なさったような、そうでないような表情で腕を組んだ。
「現在、学園はドイツ軍とビスマルク社に問い合わせている。それに合わせてデーレンダールも一時帰国中だ」
私が、織斑教官の力を手にしたことは、夢でなんとなく知っていた。
それがVTシステムだとわからなかったのは、自由の利かない夢だったからなんだろう。
その力に酔い痴れていた私を更なる力で捻じ伏せて、しかし殺意の欠片もないその剣筋が、私を傷付けることなくISのみを剥離させた。
剣一本の織斑教官とはまた違った「力」で、「強さ」なのだろう。
生け捕りの難しさは、軍人の私が一番よく知っている。
「随分とブルックスに執心のようだったが、気は晴れたか?」
「えっ!?」
口には出していないはずなのに、ぴたりと言い当てられてしまった。
「お前が転校してきた日、一夏の護衛を依頼しただろう。あの時からわかっていたぞ」
「そ、そんなことは……」
僅かに肩を震わせる教官。
このような姿は、初めて見たかもしれない。
優勝した日よりも、朗らかに。
弟を語ったあの日よりも、もっといたずらに。
「ブルックスは不思議な奴だ。ひとたび戦えば、直接戦った者はみな、ブルックスを悪く思えなくなる」
懐かしい何かを思い出すように遠いところに焦点を合わせる教官のその表情は、街角の電気店のテレビに映っていたドラマの女優のようだった。
「教官も、ブルックスを悪く思えないのですか?」
「私は……どちらかというと、ミカエルのほうだがな」
「織斑せんせ~」
噂をしていたミカエルの声が、医務室の扉の開く音と共に飛び込んでくる。
教官は私にもうしばらく休んでいろと告げてから、カーテンの外へと出て行かれた。
**********
IS学園第2学年校舎の廊下を歩く、女子2人組。
片や、長いポニーテールと主張の激しい胸部の、世界的有名人の妹。
片や、ツインテールをリボンでまとめ、制服の布面積をかなり少なく改造しているにも関わらず、色気のいの字もないアジア人の少女。
どこがとは言わないが身体的特徴が真逆な彼女たちは手ぶらで、第1学年校舎に向かって歩いている。
それというのも、2人は学年別トーナメントでお世話になった上級生へのお礼参りを終えたばかりだからである。
「これ、倉持の人に聞いた時は半信半疑だったけどさあ。意外と美味しかったわね」
鈴はISの勉強を始めてから2年も経たない、本来なら専用機を受領することのない操縦者である。
そんな彼女が専用機を手に入れることができたのは、生まれ持っての器用さと、ここ一番での集中力を発揮して、ISを操縦するための技術や知識を短期間で修められたおかげであり、いわゆる特例だったのだ。
「ああ……。私達の遥か及ばない領域を担当してもらえる上に、私達も上級生とのコネを持てる」
しかし、他のセシリアやラウラなどの通常通りの代表候補生や専用機持ちであれば自力でできるメンテナンスも、鈴はあまり得意ではなかった。おそらく相応の時間をかけて学べば習得できたのだろうが、それをする前に専用機が与えられた、ある種の弊害である。
かつて所属していた国にはたくさんの人手があり、整備は自らやる必要がなかったのだ。整備に関する指導が後回しにされ続けた結果、今も鈴はISのメンテナンスを苦手としている。勿論、倉持技研のテストパイロットとして、最低限には教わっているが。
なお、このIS学園に入学することが決定されるまで、ほとんどISに関わって来なかった箒も勿論整備科目はさっぱりである。
「あっちは一夏の幼馴染なあたし達とのコネが持てる上に、自分の技術向上も目指せる。win-winね」
次のISを使う全校イベントは、おそらく2学期のキャノンボール・ファスト。
夏休みが明けたら、また今回の先輩たちに会いに行こうと、鈴の心のカレンダーにメモ書きされた。
2年の校舎を出て、1年校舎に戻る道中。
箒はそういえばと口を開いた。
「で、ブルックスとはどうなんだ」
「全然よ。当然よね、あたしだっておんなじことされたら腹立つし、許せない」
足を進めつつも床に視線を落とした鈴の右拳が、強く握り込まれていることに箒は気付く。
箒は箒なりに、香港襲撃から中国制裁までの流れと、鈴のIS学園での振る舞いを見直した。
そして、考えて、鈴と今回ペアを組むことを決めた。
"鈴は本当に嫌な奴なのだろうか。"
"一夏のセカンド幼馴染で、一夏と同室で暮らすために私を部屋から追い出そうとした。"
"だが、国から言われて、仕方なく私やブルックスに喧嘩を売ることで、襲撃の手伝いをさせられていたのでは。"
"ちょうどいい機会だ。一夏は男同士でペアを組むというのなら、私は凰鈴音を見極めるためにペアを組む。"
中国崩壊後、中国のあった地域には今も自治組織すら起こっていない。
そのため国連の常任理事国の1枠がどうにも埋まらず、日本がその座に着いた。
そして、常任理事となった日本が最初にしたのは、香港の国連入り推薦。
推薦によって、日本と香港の間に何かしら友好的なものがあると世界に示すには十分すぎた。
その香港を襲撃した国の元代表候補生であり、日本の大企業倉持技研で専用機を得た、凰鈴音。
快活に振る舞うが、裏の苦労は並ではないと、あの姉を持ったせいで青春の数年を無碍にした箒には察せた。
それと同時に、箒は不思議に思っていた。
たった1か月と少し、アイリーンがイタリアに発つまでの間、勉強を見てもらっていた。
その少しの期間で箒がアイリーンに抱いた印象と、先日アイリーンが鈴に言った言葉とは、どうにも食い違っているように感じてならない。
-『アンタに暴言吐いたのも、アンタの国に喧嘩売ったのも、ごめん』
-『暴言は慣れているが、侵略行為は許せないな』
-『本当に申し訳ないと思っているのなら、王珠晶についての情報を寄越せ』
-『国際手配犯の情報提供は、お前にとってデメリットばかりではないだろう』
この言葉を聞いた瞬間は、なんて人でなしだ! そう感じた。
過去に所属していた国や人種と現在の所属や立場に板挟みにされている鈴音は苦労しているのに、気遣えない奴だと。
だが、よくよく考えれば、自国を侵略されて困るのは、何も軍人だけではないのだと箒も気付く。
けれども、侵略行為があろうと、実際に侵略者を完全無力化し、国を守り抜いたアイリーンである。
いわば、剣道の全国大会で優勝した箒に、段も持たない、剣道を趣味で暇つぶし程度にやっているだけの剣士が竹刀で襲い掛かってくるのと大差ないような実力差である。もっとも、危険度はかなり差があるが。
そのような状況になって、箒は自分がどう思うか考えた。
結論。
苛立ちこそすれど、謝罪があっても機嫌が直らないほどの怒りは湧かない。
何より、自分の見てきたアイリーンは、よく言えば冷静沈着で、悪く言えば感情の起伏がさざなみ以下。
己を感情的であると断ずる箒から見たらおおよそ感情が平坦であるとさえ言えるアイリーン。
そんなアイリーンが、絶対に鈴を許さないとする。
その理由も、アイリーンの違和感の原因も、箒にはさっぱりわからないのであった。
**********
「……はい。報告は以上です。失礼します」
少女は通話終了ボタンを押した。
彼女の眼前にあるノート型パソコンのディスプレイに表示されているのは、英語でも日本語でもない言語の文字列。
その文字列のファイルを添付したメールをどこかへ送信したと同時に、ドアノブの回る音が彼女の耳に届いた。
「ふー。今日の湯もよかったなあ」
「よかったね。あ、お水いる?」
「おお、ありがとう」
ここは、IS学園寮の一室。
ベッドにどさりと腰掛けたルームメイトに水を出してやるために、彼女はパソコンを閉じ、席を立った。
冷蔵庫からミネラルウォーターの入ったペットボトルを取り出し、コップに注いでやる。
ルームメイトは、特に何も疑うことなく、その水を飲み干した。
それを確認した少女は、儚い笑顔で、ごめんねと呟いたが、ルームメイトには届かなかった。
ルームメイトが髪も生乾きのままベッドに倒れるのは、ほんの数秒後のことである。