IS  -香港のダイヤモンド-【改】   作:7seven

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予定通り、帰省前にもう1話上げることが叶いました。
そういえば狙っていたわけではないのですが、ここまで章の区切り=巻の区切りになっていますね。ビッグイベントのキリがつくから仕方ない。

この話で2章は終わり、次からは3章となります。
ISで一番好きなのが3巻なので、今から楽しみですね。


02-12 嵐の前の静けさなどない

アイリーン。

言語によってはイレーネ、イレーヌと読まれる、女性名である。

この名前の起源は古代ギリシャの女性名、エイレーネーにあり、平和を意味する。

ちなみに、アイリーンの名を持つ有名人物のひとりに、某推理小説の名探偵を翻弄した女性オペラ歌手もいる。以上wikipediaより。

 

さて、そんな平和な偽名を付けられた少女、もとい女装中の少年は今現在どうしているかと言うと。

 

「ふむふむ、うーんこれがえっちゃんのねえ。最碧参型だった頃の図面も見たけど……へえー!」

 

天災に遭い、頭を抱えている。

 

 

**********

 

 

事の起こりは……元を辿れば、ミカエルが天災と関係を持っていたせいだが、今更そんなことを言っても仕方ねえ。

このイベント終わりかつ、第1学年専用行事である臨海学校前という、いわば生徒会役員としてクソ忙しい時期に、今も全世界からかくれんぼをしている天災様は、勿論お忍びでやってきやがった。

このバックレ兎め。

 

だがまあ、ミカエルから言われているから、仕方なく相手をしているというわけだ。

その天災様は俺の左耳にあるイヤーカフスに何やらコードを付けて楽しげにタブレットを見ている。

 

俺の左耳にある紫色のイヤーカフスは、色を言えばわかってもらえると思うが、ISの待機形態だ。

大体俺の親指の爪くらいしかないサイズだから、言わなければまずISとは気付かれない。

ミカエルが日本で学んだ、日本の製品の大事なポイントである小型化・カメラ付きを応用したそうだ。流石にカメラはつけていないが、つけようと思えば付けられるらしい。要らん。

 

さて、待機状態にある俺のIS「シューティングスター」なわけだが。

天災ってのはやっぱり普通じゃないから天災なんだろうな。待機形態のどこにコード付けてんだよ。

 

「あーちゃんってクラスメイトに呼ばれてるんだって?」

「まあ」

「じゃあ、束さんはあっちゃんって呼ぼう! えっちゃんの弟だからね!」

 

なんで俺が男だと知ってるのかはもうこの際置いておく。

「えっちゃん」なんて呼び方をする以上、ミカエルの正体を知っているんだろうしな。

それに、この人にとって俺が男だという情報はさして大切じゃないから、何かに利用するという発想はないだろう。

……男とわかっていながらちゃん付けされていることもほっとけ。

 

「それにしても、えっちゃんはどんどん面白いことしてくれるね。束さんとは方向性が違うけど、間違いなく天才だよ、えっちゃんは。例えるならえっちゃんはエジソンだよね。あ、『え』繋がりでなんかいいね!」

 

確かにミカエルは才能こそあるが、努力によるものも大きい。

幼い頃はライフルが好きなだけの子供だったと言っていたし。

それに、改良発明で輝いたエジソンに例えるのは確かにうまい。……あと、『え』繋がりも。

 

「確か、えっちゃんがここの卒業制作で作ったのが、今の第三世代ISに使われてるんだよね」

「イメージ・インターフェースな」

「そうそれ。あれ、束さん的には超痺れたよ。束さんも逆輸入して一個使ってみたし」

 

半分しか血は繋がっていないとはいえ、やはり姉を褒められるのはくすぐったい。

それも利益のみを求める豚にではなく、至高の科学者から褒められているんだから尚更。

 

「……うん、ありがとう。いっくんのデータだけじゃ、男がISに乗れるのか、いっくんだけが特別なのかわかんなかったからね」

「結果は?」

「これから解析するよ。それじゃあ、またねあっちゃん!」

 

カフスからコードを取ってポケットにしまうと、天災は俺の左頬にキスをしようとしてきた。

日本人なのにそんな挨拶覚えてるのか、珍しい、

 

「フッ」

 

な!?

 

「ばいばーい!!」

「待てコラァ!!」

 

手近にあった珈琲の空き缶を投げた。

さっと避けられただけじゃなく、すぐにどこかへと飛んで行ってしまった。

 

……耳に息吹きかけられただけで背中の毛が総立ちだ。

クソ、ミカエルに言って、ヘッドギアに耳当てをつけてやる。戦闘中もこうなったら集中できやしねえ。

 

 

**********

 

 

「それではホームルームを終わる。解散」

 

ミカエルにヘッドギアに耳当てを付けるよう言って翌朝。

デザイン考えるからちょっと待ってね! と言われたからまだ付いてはいないが、これで憂いもなくなる。

 

そして、今日から臨海学校に向けて事前学習や実習の班決め等が始まっていく。

それ以外は特に何もない、平穏な1日の始まりだ。

 

……生徒会役員として、学園戦力の全権責任者として、学園を離れる3日間のために色々と準備があり忙しいが、まあこれは前回のイタリアと違ってすぐ戻ってこれる距離だし、更識が学園にいるんだから問題はないんだがな。

 

「アイリーン・ブルックス!!」

 

呑気に今日の昼飯は何にしようと考えていると、目の前にやってきたボーデヴィッヒが大声を張り上げた。

そういえば、VTシステムについては、結局仕掛け人不明となったそうだ。

ドイツのビスマルク社捜査でIS委員会がドイツに行ったのと合わせて、ボーデヴィッヒもドイツで取り調べを受け、その間にシュヴァルツェア・レーゲンを修復し、織斑護衛の任務に戻っている。

 

「どうした朝から騒々しい」

「どうしたもこうしたもない。……私は、軍人だ。失敗には謝罪ではなく、任務の成功を以て償う!」

「あ、ああ……?」

 

さっぱり意味がわからん。

 

()()、ラウラ・ボーデヴィッヒ、全力で任務を遂行する!」

「ああ、頑張ってくれ……?」

「そして、隊長を超えられるよう、尽力する所存だ! では、失礼!」

 

ビシッと敬礼したボーデヴィッヒに、俺は困惑するほかなかった。

まあ、織斑を見る目が親の仇から嫉妬程度に変わったのは、よしとしようか。

まるで服の中に添え木でも入れているのかと思うほどまっすぐ伸びた背筋のまま、自分の席へと戻っていく姿を見送った。

 

 

 

さて、1限は本来の時間割ならISの基礎学習の時間である。

けれど今日のところは、1学年全員が、各教室で臨海学校について事前学習を行っている。

 

いつ行くのか。どこに行くのか。どれだけ泊まるのか。いつ帰るのか。

臨海学校で何をするのか。そのための班分け。

各班の担当ISと、担当パッケージ。

 

「といった感じだね。各クラス3機ずつだから、6人の班2つと7人の班に分かれてね」

 

なお、臨海学校で行う勉強、もとい装備試験運用とそのデータ取りは、専用機を持たない生徒が行う。

俺達専用機持ちは開発元から届いた自分の装備を試さないといけないからな。数も専用機持ちの方が多いし大変だが、その分俺達は慣れている。

 

もし企業にパイロットや研究者として就職するなら、この臨海学校の勉強は心強い。

こればかりは一度経験しておくに越したことがないんだから。

 

「さて、別れたね。それぞれ担当するISの種類、装備の種類は各班の代表者会を今日のお昼に開くから、そこで話し合って決めるよ。だから、やりたいのがあればお昼までに代表者さんに伝えておいてね」

 

うちのクラスで今回扱われる装備類を解説したのはミカエルだ。

元パイロットである千冬さん達よりも、装備を売り込んだ経験のあるミカエルのほうが魅力を伝えたりするのは得意だし、何より新米教師なんだから勉強と称して生徒の前に立たされるのも道理である。

 

「説明は以上。質問はあるかな?」

 

にこっと微笑んで小首を傾げるこの義姉は、本当に、ほんとーに正体を隠す気があるのか?

本当に質問がないのか、ミカエルに見惚れて声が出ないのか。

質問は挙がらず、1限は早めに終わることとなった。

 

 

**********

 

 

そして、数日。

学年別トーナメントの月から臨海学校の月に移り変わる。

生徒も一応夏服着用が義務付けられ、先月よりも肌色も多くなってきた。

どうしてこう、女子高だからと言って恥じらいを捨てられるんだ。

 

……すまん、軍に男しかいない時代は上半身裸は日常茶飯事だったって聞いたことあった。

 

ともあれ、臨海学校はもう明後日まで差し迫っている。

学園側の警備、臨海学校に行く側の警備、どちらも詰められるところまで詰めた。

もうなるようにしかならない、そんなところまで来た。

俺もIS、荷物共に万端であり、ミカエルも俺にテストさせる武装をテスト地に送ったと聞いている。

 

時間は夜、もうあとは眠り、明日の移動中の護衛のために体力を養うだけだが-。

 

『アイリーン、起きてるかしら!? 一大事!』

 

突然、ISに通信が入る。

声からして我らがオペレーター、レイラだ。

 

「突然なんだ騒々しい」

『あっ……失礼しました。今データ送るから、それを確認してちょうだい』

 

香港軍の名で届いたデータを開くと、そこにあったのは。

 

「……まじかよ」

『ええ……。先日技術長が、臨海学校に向けて、新装備を1つプレゼントしたって聞いているわ。その見返りでいただいた情報だから、まず間違いないかと』

「ミカエルや香港の信用落としてまでガセ掴ませるメリットは、あの国にはない。……そうか」

『心当たりは何かあるのかしら』

「……まあ、な」

 

なんでこう、イベント前に厄介事ばっかり出てくるんだ。

いやイベント中も厄介事に富んでいるが、そんなもの要らん。

 

「とりあえず、もう真っ黒だ。こっちでも動くが……私の単独任務にまで付き合ってくれてありがとう、レイラ」

『いえいえ。私もブルックス大佐のお役に立てて恐悦至極よ』

「そうか。じゃあな」

 

今度こそ特に何事もなく、イベントに入れると思ったら大間違いだったんだなあ。

 

 

 

『フランスが織斑一夏と思わしき人物のDNAを取得』

『織斑千冬とのmtDNA一致率100%』

『デュノア社名義でフランス国立科学研究所に10億ユーロ寄付』

 

こんなの、今フランス国立科学研究所で一番力の入ってるあの研究のこと知ってれば、どうしたってクロだろ。

 

なあ、シャルル・デュノア?

 




mtDNA=ミトコンドリアのDNAだそうで。
ググった感じでは両親のどちらのDNAもなくとも、千冬と一夏の間の姉弟関係を証明できるみたいな感じだったので、それを採用しました。
でも私は専門外なので正直合っているか判別付きません。
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