そういうわけでここから第3章「覚醒」突入です。
クソ長い今回のサブタイトルは、本当はこの話を前後編に分けて、それぞれにつける予定だったんですが、長く書くほどのものがなかったので無理矢理採用しました。過去一番好きなサブタイトルです。
あと、タイトル後半は某シンデレラなアイドルの曲「Ho.tel Moo.nsi.de」から浮かびました。
03-01 サンシャイン・ビーチサイド/ムーンライト・ホテルサイド
青い空。白い雲。眩しい太陽。
好天に恵まれた今日から、2泊3日の臨海学校が執り行われる。
俺の眼下2000メートル先を、4台のバスが連なって走っていた。
先頭が2号車、次に1号車、3号車、4号車である。
クラス番号とバス番号が一致していると言えば、何のためにこの順番かもわかってもらえることだろう。
『バス2号車内、進行方向、異変なし』
『バス1号車内、異変なし』
『バス3号車内、異変なし』
『バス4号車内、後方、異変なし』
ISに届いたメッセージをそれぞれ確認する。
そう。
もう見当はついているだろうが、俺は今、ISを纏ってバス上空を飛んでいる。
ステルス性能、ハイパーセンサーの搭載機能、有事の対応能力含めて、俺と教師陣、また駆るISの性能には差があるため、こういう配置なわけだ。
「……了解、こちらも不審なものは圏内にはない、引き続き頼む」
そろそろ、2号車のフロントガラスから海が見えてきた頃だろう。
精々学外での娯楽の半日と、勉強の1日半を楽しんでもらいたいものだ。
そのために早朝から現地の宿泊旅館、現地周辺、現地までの道のり周辺をわざわざもう一度調査したんだからな。
1回目の山田先生の調査は一週間前だったが、一週間の間でも特に変化はないようだ。
……臨海学校の間は、特に何もなく過ごせそうだな。
**********
「ここが今日から3日間お世話になる、花月荘だ。各自、従業員の仕事を増やすなよ」
生徒100名の元気な声が、よろしくお願いしますと大合唱をする。
女将さんは穏やかに微笑んで、今年も元気がよろしいですねとうんうん頷いている。
それにしてもさ。
さっきまでISスーツ姿だったアイリーンは、制服姿なのに少し着崩れている。
着崩れてるの、ちょっと可愛いよね。まあ僕が雑に着せちゃったんだけどね。
当たり前だけど胸とかないし、お尻が大きかったりもしないのに、制服がちょっと乱れてるだけでエッチに見えちゃうのがアイリーンのすごいところだよね。
あっと、僕の考えてることが伝わっちゃったかな、ジト目もらっちゃった。
流石、父は違えど同じ母の子、僕と同じ天才だよ。
旅館側と学園側の顔合わせが済んだから、生徒は自由時間。
僕やアイリーン、そして他の先生たちは、自分の担当になっている仕事をローテーションでこなす。
とは言っても、僕もずっと海辺の監視員って感じだけどねえ。
ほら、水難事故防止で。
まあ、僕は水着姿になったら色々バレちゃうから、というかふくらはぎだけでバレちゃうから長袖と長ズボン姿なんだけどね。あ、ISスーツと似たような素材だから暑くないよ?
ぱんっと音を立ててビーチパラソルが開く。
浜辺に椅子とパラソルを置いて、椅子に座る。それが僕のお仕事。
本当はビーチチェアがほしかったんだけど、それはリラックスしすぎって織斑先生に怒られちゃったからさ。
一応パラソルの下は熱射病とかになった時に一時避難する場所で作ってるから、先生がくつろいでたらダメだって。
「あ、みかみか~! ビーチバレーしよー」
日陰で涼しく生徒たちの安全を見守っていると、布仏本音さんがひょこっと顔を出した。
……おかしいな、ここはビーチで、彼女もビーチバレーをしようと言ってるのに、キグルミ姿だ。僕もとうとう天才こじらせて頭おかしくなっちゃったかな。
「……布仏さん、その恰好は?」
「これ? これはねー、キグルミに見えるかもだけど、水着なのだー!」
恐ろしきかな、日本の技術力……!
どうみてもだぼついた、キグルミパジャマみたいな恰好だというのに、水着……!?
ううん、僕にインスピレーションを与えるだけはある、流石日本の技術は奥が深い。
「みかみか、ビーチバレー、しない?」
「うーん、ごめんね。僕は海で泳ぐ子たちを見張らないといけないから。また今度誘ってよ」
「うん、わかったー! またね、みかみかー」
だぼっとした袖を振り回しながら走って友達のところに行く布仏さんを、手を振って見送った。
海に来ても生徒たちは浅瀬で水を掛け合って終わったり、ビーチで遊んだりで、僕の仕事はまだまだなさそう。まあ要救助者が出たり熱射病患者が出るよりいいことだけどね。
ぼんやりと波打ち際を眺めていると、聞こえていた女子の声が聞こえなくなる。
何事かなと思ってきょろきょろするけど、みんなちゃんといるし、何か変な物が見えるわけでもない。
あれ? みんな同じところを見てる……?
「ミカエル、何をきょろきょろしてるんだ」
みんなの視線の先から現れたのは、僕の大好きな大好きな、義弟。
……我が弟ながら、これは。
「可愛いなあ、アイリーンは!!」
女物水着、なんでこんなに似合うの!! すごい!!
母さん、弟をこんなに可愛く生んでくれてありがとう!! あとお義父さんも!!
そして男性器の存在なんて悟らせないような女物水着を作れた僕も天才すぎる!
あとこんなに可愛く見せられる僕の水着のデザインセンスもグッジョブ!
……はあ、落ち着こう。落ち着くんだ僕。
傍目に見ても妹に興奮する5つ年上の兄とか、ちょっとおまわりさん呼ばれちゃう。
深呼吸、深呼吸。深呼吸ついでにくんかくんかしたいね。
「っぐ、こらいきなり絞めるな」
ぎゅううっとハグをする。
無理にほどこうとしないで、肩をタップするのが可愛いよね。
僕も相当だけど、アイリーンだって男の子だし、多分アイリーンのほうが力強いから、無理矢理逃げようと思えば逃げられるんだけどね。
それでも逃げないとか超可愛い。
ぶっちゃけ最碧参型への興味2割、お義父さんの頭脳に興味1割、あとは全部アイリーンに興味あって香港来たからね。閑話休題。
まあ香港のダイヤモンドなんて呼び名が着くくらいアイリーンは可愛いわけだけど、胸は当然まったいらなわけで。
まあそのない胸を誤魔化すために水着にちょっと詰め物仕込んだんだけどね。
それずれてたら偽乳ってばれちゃうからさあ……。
まったく、こういうところは大雑把なんだから、アイリーンは。
耳元で偽乳がずれてるのを指摘して、さっと抱きしめたままきちんとした胸を作る。
うんうん、これでアイリーンの大事な秘密が守られるよ。
「ああ、ごめんね! 思ってたとおり、いや想像以上に可愛くって!」
ハグから解放。
詰め物をきちんと合わせたら、ほぅら美少女でしかない。
母さんもお義父さんも立派な体格だし、きっと数年すればイケメンになっちゃうんだろうけど、もうしばらくは可愛い可愛いアイリーンでいてね。
「ミカエルが寄越したんだろうが」
「うんうん、誰が呼んだか、香港のダイヤモンド! 実に的を射てると思うよ。可愛い可愛い、僕のきょうだい!」
女子の髪型の名前で言うならベリーショートの、母譲りの綺麗な金髪。
ロゼワインよりも少し青みのある瞳に、白い肌。
そして女物の服を着て街を歩けばナンパの嵐に遭う僕とそっくりの顔立ち。
うーん、本当に誰が呼び始めたんだろう、香港のダイヤモンドだなんて!
磨けば磨くほど、容姿も戦闘力も上がるんだから、きっと名付けた人は言葉遊びの天才だよねえ。
「明日は頑張ってね、たくさん用意しておいたから」
「……周りに迷惑になるような装備じゃないだろうな?」
「大丈夫だよ大丈夫! ほら、アイリーンも遊んでおいでよ」
流石に僕だって、こんな秘匿もへったくれもないところで、メジャー化予定のない武装をテストさせたりしないよ。
え? ああ、メジャー化しない武装って、大体ちょっと危ないか、アイリーン以外には扱える人いなさそうな武装ばっかりだからね。
ラウラはIS学園の、特に日本人学生を指して、「ISをファッションと勘違いしてる」って言ったらしいけど、そんなこと言ったら僕だって似たようなものだよ。
ISは、ISに積む装備は、アイリーンの強さを彩るドレスだからね。
昔から、僕はISのことを、操縦者を引き立てるドレスだと思ってるよ。
だって、同じ打鉄に乗って戦うなら、より技がある、知恵がある、体がある、センスがある操縦者が勝つんだからさ。
んふふ、アイリーン、アレッタちゃんに連れられてビーチバレーに引き込まれちゃった。
あんまり激しく動きすぎると偽乳がずれちゃうかもしれないけど、それでも快活に飛び跳ねるアイリーンは可愛いから、眼福だね。ポロリがないことだけを祈っておこうかな。二重の意味で。
**********
とっぷりと日の暮れた夜。
昼まで生徒の監視をする中で、エジプトの神メジェドに似た恰好の不審者に遭遇したり、ビーチバレーに巻き込まれた挙句凹凸などない体に付けた女物の水着のブラ部分が激しい動きでずれて偽乳だということがばれてしまったり。
散々な一日だった。
ああ、ちなみにメジェドはボーデヴィッヒだった。
そして偽乳はバレたが、胸の大きさは誤魔化したいよねと女子に同情された。
性別がバレなかったのは安心したが、それでも男じゃないかという疑問さえ持たれないのは、正直こころがつらかった。
夜こそ暗闇に乗じて何かが来る可能性があるから、教師にも昼の間に仮眠して夜に警備するローテーションに当たっている奴はいる。俺も昼食を摂った後は夜の警備ローテのために仮眠に入ったし。
それにしてもあのメジェド姿には驚いた。
メジェドってわかるか? 白い布に目が2つと足が2本の神様だ。
バスタオルぐるぐる巻きでメジェドを再現できるなんて、ボーデヴィッヒは芸術に非凡な才があるんじゃないのか。
デーレンダールがメジェドを俺のところに誘導してきたんだぞ。
『ブルックスさん、探したわ』
『探した?』
『これを見て』
『……メジェド?』
『違うわ。ラウラ、ほらタオルを取って』
『ボーデヴィッヒ? このメジェドが?』
『メジェドメジェドと、連呼するな隊長……』
『……ボーデヴィッヒだな。なんでこんな姿に』
『ラウラ、ブルックスさんに水着姿を見せるんでしょう?』
『うう……』
『見せないの? 水着を選んでくれたクラリッサお姉さまが悲しむわ』
『……見せればいいんだろう、見せれば!!』
ボーデヴィッヒとデーレンダールの共通の人物で、クラリッサという名前で、お姉さまと呼ばれている存在。
間違いなくドイツ代表クラリッサ・ハルフォーフだろう。
モンド・グロッソで会ったし、あの人物は確かボーデヴィッヒの黒ウサギ隊の副長で、隊員から姉呼ばわりされていたはずだからな。
ああ、ボーデヴィッヒの水着姿?
黒のレースの、水着というより下着に近いものだった。
オブラートを破って言うと、ボーデヴィッヒの体つきは女性らしさからかなり遠い。
それなのにその水着を選ぶというのは挑戦というより、もはや命知らずだったな。
まあそこは紳士の心というやつで、似合ってるんじゃないか、とは言ったが。
ああ、水着と言えば、デュノアは男物の海パンを履いて、上にパーカーを羽織り続けていた。
いつまで男のフリしてんだあいつ。いや俺が言うとブーメラン刺さるんだけど。
ステルスモードで旅館の周りを低速巡航しながら索敵を続けているが、特に何もない。
今度こそ、事件の起きないイベントでいられそうだ。
……偽乳バレ事件とメジェド事件は事件じゃないからな。
あれはそうだ、事件じゃなくてアクシデントだ。アクシデント。
その日の夜は結局何もなく。
俺は日が出始めてからローテーションを教員用量産ISに乗る教師に交代し、仮眠を取った。
さあ、明日はいよいよ地獄の装備テストだ。
ずっと明言忘れてたんですけど、シャルロットはまだ男装解いてません。
2章の最後・シャルロット男装解除はもうちょっと待ってね。