IS  -香港のダイヤモンド-【改】   作:7seven

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帰省から戻ってきたらスイスイ書けてしまいました。
というのも今話中盤がとてもノリよく書けたからです。だから読むときもノリで読んでください。
そういえば香港のダイヤモンド改を初めてからもう2年です早い。

ちなみにこの話では箒は原作よりかなり穏便というか丸いというかあれです。
アレ?箒がヒロイン枠候補に入ってしまうのでは……?


03-02 一輪の椿

ISスーツに身を包んだ100余名が、IS学園の私有ビーチで並んでいる。

いよいよ臨海学校の本分、IS装備の試験運用実習の開始である。

 

俺ももう少し眠りたかった気もするが、悲しきかな。

起きる時間を決めて寝ると絶対にその時間には起きるように、もう体が出来てしまっている。体の疲労度はともかくとして、意識・肉体の覚醒度は起きてすぐに昼間と同じまで上がってしまう。

 

俺がそういう体になったのは、幼い頃からの軍生活のせいであるが……。

同じく軍人であるボーデヴィッヒが、どうしたことか寝坊して現れたのだ。

無論、千冬さんから罰としてISのコア・ネットワークについて説明させられていた。

まあ、専用機持ち、それも一国のトップに立つIS部隊の長なのだから、それぐらいは当然の範囲ではあるが。

 

 

「はーい、ではみなさん、各班で集合の後、担当のISと装備、記録媒体を取りに来てね~」

「専用機持ち宛てに届いた装備はこちらに置いてある。専用機持ちはこちらへ来い」

 

ミカエルと千冬さんの声で、生徒たちがわらわらと大移動を始める。

簪……は、4組の1班に入ってるのか。

本体が出来てないのか装備が出来てないのかわからないが、複雑な顔をしてる。それもそうだよな。

専用機持ちのための装備コンテナ群の中から、ミカエルのコンテナを探すだけの仕事だが……。

 

「1組1班です」

「はいはい、試験装備はこれだね……あっ、篠ノ之さん! キミはあっちだよ」

「あっち……?」

 

ミカエルに俺やオルコットは指差される。

こっち……? 専用機組ってことか? 篠ノ之が?

 

「篠ノ之、お前はこっちだ!!」

 

千冬さんも呼んでる。

どうなってんだ?

なんで篠ノ之が専用機組?

……まさか、もしかするのか?

 

その時、ピピピッと左耳で待機形態になっているISから警告が届く。

所属国不明の自力飛行物体がこちらに向かって飛んでくると。

だが、所属国こそ不明だが、所有者は判明している。

 

ズドンッと砂浜に突き刺さる、デフォルメされた人参……の、数十倍の大きさの鉄の塊。

そして、到底人間が砂浜を走る音ではない足音で、到底一般女性が出すことのできないスピードで走ってくる、エプロンドレス姿の女。

 

 

……もしかしちゃったか……。

 

「ちーちゃああああああんんんん!!!!!」

 

 

人間をやめていそうな女が両腕を伸ばして、千冬さんに駆け寄ってくる。

だが、たとえ女と千冬さんの腕の長さが同じとして、各々の目的のために必要なリーチは違う。見事に千冬さんのアイアンクローが決まった。あの速度で走ってくる人間大の物を片手で受け止めてよろけもしない辺りは、千冬さんも人間をやめている。

 

アイアンクローを受けて、女としてどうかと思う声を上げた女こそが、先日遭った天災様だ。

 

「ぐふっ……ちーちゃん、相変わらずすごいアイアンクローだねっ! えっちゃんとあっちゃんにもハグハグしたいから離してくれると嬉しいなっ! なっ!!」

 

この茶番を見届けた、俺を含め篠ノ之・千冬さん以外の全員は、呆気にとられる他なかった。

 

「もう少しマシな登場ができんのか?」

「次は善処するよ! 多分!!」

 

アイアンクローで宙吊りになっていた天災は解放されると、すぐさまミカエルの元に走った。

 

「えっちゃ~ん!」

「束さん!! えへへ、お久し振りです!」

 

先程よりスピードはないとはいえ、タックルのようなハグを一歩もよろけず受け止める我が義姉も、相変わらず人ではない。しかも笑顔でだから余計に。父曰くミカエルは母の生き写しらしいが、母はどれだけ人外だったんだ?

 

「あれ? えっちゃんまたおっきくなったね? よーしよーし、お姉さんがなでなでしてしんぜよう!」

「あははっ、両親が長身だったもので」

 

なんでその流れで尻を撫でるんだ。

 

「おっ? あっちゃん、こないだぶりだね! そういえば結果が出たから、シューティングスターに送っておいたよ!」

「それは助かるが、なぜさっきの会話で尻を撫でるんだ?」

「でへへへ、えっちゃんのお尻ってつい触りたくなっちゃうんだよねえ」

 

変態だ。この天災、天災なだけじゃなくて変態だ!!

 

「篠ノ之……箒に白い眼で見られても知らないからな」

「え゛っならやめる!!」

 

さっとミカエルの尻から文字通り手を引く天災。

ちらりと篠ノ之のほうを見ると白けた目で姉を見ていた。自業自得だな。

 

「箒ちゃん!! ……ほーら、お姉ちゃんだよ~? 天才の束お姉ちゃんだよ~……?」

「いくら美人とはいえ、昼間から衆人環視の中で男性の臀部を撫でまわすような痴女は姉ではない」

「がーんっ!! しくしく……束さんは箒ちゃんの誕生日を祝いに来ただけなのに……」

 

万能の天災ともあろう者がヘタクソな泣き真似で篠ノ之から目を逸らす。

誕生日……ああ、そういえばプロフィールで見たな。

篠ノ之は7月生まれ……ああ、確か今日じゃないか。

 

ツンとそっぽを向いていた篠ノ之も、善意で来てくれたと思しき姉に、仕方ないなという繕い顔と誕生日を家族に祝ってもらえる喜びの本心をないまぜにした表情を浮かべた。

 

「箒ちゃーん……これ、受け取ってよ」

 

天災がびしいっと巨大人参を指差すと、桃から生まれた桃太郎ならぬ、巨大人参から生まれたIS太郎の状況になった。

中で堂々たる風格で佇んでいるのは、深紅のボディ。

装甲のところどころに金の蒔絵が散らされている。

語彙力を低めて感想を言うなら、「豪華ですごい」といった感じだ。

 

……ただし、言った通り、人参から生まれたIS太郎だから、ISがどれだけ立派でもギャグテイストでしかない。

 

「……これは?」

「ハッピーバースデー、箒ちゃん。これはIS『紅椿』、束さんが箒ちゃんのことを思って作ったISだよ」

 

普通専用機なんてもらったら嬉しいもののはずなんだが、篠ノ之の表情は芳しくないな。

天災側もそれに気付いてるし。

 

「へえ、これが例の?」

「うん、そうだよえっちゃん。これこそが、世界初の第四世代ISだい! ぶい!」

 

そうか、第四世代か。

 

 

……は?

 

 

は??

 

「……姉さん、第四世代って何なんですか」

「うんっ、箒ちゃんには、束さん直々に説明しちゃうよ! いい? 第四世代はね、端的に言えば白式なんだ!」

 

 

……全然端的じゃない。

まとめすぎて内容が伝わってないのは、全然端的じゃないぞ天災よ。

 

「装甲に触れれば、相手ISのシールドエネルギーが削れるんですか?」

「ううん、それは運用コストと効果が釣りあってないよ。そもそもいっくんの雪片弐型は、展開装甲の試験機だからねえ」

「展開装甲……? 束さん、展開装甲って?」

 

試験装備も何も、拡張領域の空いてないらしい白式を駆る織斑が口をはさむ。

 

「おやいっくん。問題です、従来のISで役割(ロール)切替(チェンジ)をするなら、通常必要なことは?」

 

お茶目に織斑にクイズを出す天災と、そのクイズに頭を悩ませる織斑。

答えは簡単なものだが。

 

「確か、ラファール・リヴァイヴはマルチロールが売りで、拡張領域も売り、だからいっぱい装備を積むんだったはず。でも普通はそんなに装備を積めない、積まないはず……」

 

そうだな。タッグマッチに向けてデュノアとある程度練習したなら、これくらいは覚えていても不思議じゃない。

 

「……あ、登録装備の変更ですか!?」

「うん、正解! いっくん、よく勉強してるね、束さんが褒めてあげよう!」

「剣でターゲットを撃ったり、銃でターゲットを切ったりしないよね? だからその時必要な装備を呼び出して使う。その装備を収納して展開する必要がなく、戦況に合わせて装甲を動かして、推進力、攻撃、防御に転化できるんだよ」

 

なんで天災の最新技術をうちの義姉が知ってるんだろうな。

 

「それが展開装甲なのだよ! あ、ちなみにいっくんの雪片弐型には攻撃用に固定した展開装甲、白式のスラスターには推進力用に固定した展開装甲を使用しています!!」

「えっ、えええっ!?」

「おや? あっちゃん、不審げな顔だね? えっちゃんが展開装甲のことを知ってるのが心配? だいじょーぶ、束さんはえっちゃんに借りがあったから、そのお返しでデータをあげただけだよ!」

 

……これでもポーカーフェースには自信があるんだがな。

伊達に香港のダイヤモンドだなんて異名を付けられていない。

 

「まあそんな感じだよ! どう、箒ちゃん? 気に入ってくれたかな?」

 

 

説明を始める前は泣き落としでも始めようとしていたようには思えないテンションの戻り具合だな。

対称的に、篠ノ之の表情は曇ったままだが。

 

「そんな……。私はまだ、専用機を持てるだけの力がない」

「そうかな? えっちゃんから聞いたけど、中遠距離戦はともかく、近接戦は訓練機でも代表候補生と鍔迫り合うんなら、十分だよ」

「……珍しいシリアスモードの中悪いが、束、お前はいい加減周囲に挨拶でもしろ」

 

授業を引っ掻き回されて、生徒もみんなこっちを注目してる状況。

千冬さんが怒らないわけもなく、拳が天災の頭に落ちた。

 

「うー……。私が天才の篠ノ之束だよ。えっちゃ……ミカエル・ブルックスとは、こ・い・び・と」

「じゃないからね」

「ぶー!」

 

ミカエルにレズっ気はないから恋人はないな。

 

「はあ。生徒は自分の担当に戻れ」

 

ちらちらと視線はやってくるが、それでも静かに試験運用は開始された。

千冬さんも大変だな。

 

「篠ノ之。専用機は得難いものというのはわかるな?」

「はい。……しかし、一夏やセシリアのような特例を除き、専用機は全距離で優秀なパイロットしか与えられるものではありません。私はその器ではないと思います」

「言いにくいが、お前もコイツの妹である限りその特例だ」

 

篠ノ之は力なく俯く。

というか千冬さん、全然言いにくそうじゃないぞ言い方が。顔が苦いけど。

 

「今までお前に専用機が与えられなかったのは、お前に専用機を与えるなら自分でフルカスタムしたものじゃないと嫌だと言い張ったどこかの天災のせいだったり、現ブリュンヒルデとそれなりに親しかったりしたのが理由だ」

 

正直なところ、織斑と篠ノ之であれば、拉致される確率が高いのは篠ノ之だ。

殺害される確率で言えば織斑のほうが飛び抜けて高いが、人道だのなんだのを抜いて、ただ社会的に経済的に軍事的に、身を案じられているのは篠ノ之のほうだ。

 

それもそうだ、男がISを操縦できたとしても、ISの絶対数が同じなら男女の権利が10年前に戻るだけだ。

 

だが、篠ノ之が拉致されて人質にされれば、天災もコアを増やしかねない。

でも、コアが増えたら、その先にあるのは間違いなく地獄だ。

 

織斑に先に専用機が与えられたのは、あくまで

『なぜ男がISに乗れたのか?』

を調査するため。身を守るためじゃない。

だから法外な燃費であれ、とりあえずISを与えられた。

 

だが、篠ノ之はそういうわけにはいかない。

世界平和のために、篠ノ之は強くなるか、強い者に守られる他ない。

そして、どちらにしても、専用ISという、盾としても矛としても足としても優秀なものを受け取らない道理はない。

 

……でも、1か月付きっきりで教えていたらわかる。

お前は、守られているばかりの女じゃない。

 

「専用機を受け取れ、篠ノ之。これから強くなればいい」

「……」

「心の戦いだ。今はまだ実力不相応と言われるかもしれない」

「……」

「だがそれを耐え忍べ。そして強くなれ。センスは悪くない」

「……」

「世紀の大天才がお前のためにと愛と技術の粋を込めたオンリーワンと合わされば、お前は強くなるだろう」

「……」

「それとも、このアイリーン・ブルックスの言葉が信じられないか?」

 

ずっと俯いていた篠ノ之が、顔をあげた。

瞳は強い光を灯している。

 

……台詞がクサすぎてやばいほど恥ずかしいが、説得は成功だな。

 

「……わかった。姉さん、その専用機をください」

「! うんっ、じゃあ、ここに腰掛けて」

 

 

IS紅椿に篠ノ之が腰掛けると、装甲が閉まる。

そして、天災の手をもって、通常では有り得ないスピードでフィッティングとパーソナライズが完了される。

 

「それじゃあ箒ちゃん、試運転! 全スペックにおいて現行ISを上回る第四世代をご覧あれ!」

「はい。……紅椿、いきます!」

「あっちゃん、箒ちゃんが訓練機との違和感で調子崩した時のために一緒に飛んでほしいな!」

 

仕方のない天災だな、もう。

口元が緩む。

 

シューティングスターを身にまとい、現行ISを上回ると謳う紅椿を追う。

あくまでカタログスペックで勝っていても、慣れないISに乗る、代表候補生でもない操縦者だ。すぐに追いつけた。

 

『ブルックス……! 専用機というのは、こんなにもすごいんだな!』

 

見たこともないような晴れやかな顔で笑っている。

 

「ああ。その両腰のは武装だろう。私に試しに使ってみるといい。試運転の相手は慣れているからな」

『はーい、箒ちゃんに武装データ送ったよ~!』

 

大盾を展開して距離を取った。

これまで見てきた篠ノ之は一刀流だったが、二刀流も達人の域とはいかずとも違和感なく動けている。

しかし武装であるブレード2本がどちらもビーム兵器として利用できるとなると……白式の燃費を見ていれば一目瞭然だ、圧倒的高燃費機だなこれは。

……ただ、0から100まですべてを篠ノ之束が手がけたISで、燃費問題をガンスルーキメてるとは思えないが……どうしてんだろうなあ。

 

 

一通り紅椿の試運転を終えると、2人揃って地上に戻る。

ISを待機モードに切り替えると、俺のはいつも通り左耳に、篠ノ之のは左手首に収まった。

僅かばかり、篠ノ之が大きくなったように見える。いつもただでさえいい姿勢なのに、その上で胸を張っているからだろう。体の中でも肉付きのいい部位を前に出せば大きく見えるのも必然か。

 

「ありがとう、姉さん。ありがとう、ブルックス。……私は、強くなるぞ!」

 

今はまだまだでも、絶対に。

 

 

……うん、まあ悪くないんじゃないか。

 

さーて、ミカエルが持ち込んだ装備のテストでもしますか。

まずはこのミサイルでも……。

 

「おおおお織斑先生っ! たいへんっ、大変なんです!!」

 

 

ま た ト ラ ブ ル か よ 。

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