IS  -香港のダイヤモンド-【改】   作:7seven

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少し筆が止まっていました。3巻が好きなので、どこまで原作ルートを逸れようかと思案していたのもありますが。

それとすみませんが、タグのほうに「作者の性癖しか考慮していません」を追加し、トップページのタグ改変履歴は消去しました。
以後、タグは随時断りなく変更します。


03-03 進むは昼空、追うは夕空

100人以上が一斉に食事を摂る宴会用大座敷。

そこをたった13人で占拠している。

 

他の生徒は自分の宿泊する部屋で待機中だ。

 

 

その13人とは、国家代表候補生の専用機持ち、企業所属の専用機持ち。

それから特例で専用機を受領しているのと、教師陣と、俺、そしてついでに天災である。

 

順に、オルコット、ボーデヴィッヒ、ベルナルドーネ、フェラーラ。

凰とデュノア。そして織斑、篠ノ之。

それと千冬さん、山田先生。

 

専用機の数と性能だけに着目すれば、普通に戦争が起こせそうだ。

最も、操縦者がその域ではないけど。

 

空中投影型のディスプレイが立ちあがったのを確認して、千冬さんは話し始めた。

 

「2時間前、ハワイ沖で試験稼働していたアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代の軍用ISが制御下を離れて暴走し、監視空域を離脱したとの連絡があった」

 

 

専用機持ちのみが集められたことで何らかのトラブルを覚悟していた代表候補生組と企業所属組の顔が強張る。

 

 

「衛星による追跡の結果、当該ISは50分後、ここから2キロ先の空域を通過するであろうことが予測されている。学園上層部からの通達により、本件は我々で対処することになった」

 

作戦時間まであと1時間を切っている、か。

ハワイ沖からこのあたりを通過するなら、目的地があるとしたら……ちょうど上海あたりだろうか。

まあ、暴走してるらしいから、目的地がここなだけかもしれないが。

……っと、ISに連絡が入った。

 

「ブルックス、香港からお前に何か連絡は入っているか?」

「はい、今届きました。香港の近隣空域を通過する可能性があるため警戒するようにとだけ」

「……それだけか」

「それだけしか来ていません」

 

目的地が上海だとしたら何が目的なんだろうか。

旧中国は政府が倒れてからまだ新しい政権が立っていない、香港に仕事を求めて人が雪崩れ込んでいることからもそれは確かだ。

上海はそんな中でも朝鮮半島や日本に向けて船が出ている唯一の地域なわけだが……。

だからってなんで上海に?

 

まあいい。一番に俺が考えるべきは愛すべき国民の命と無事。

香港軍は迎撃態勢で待機させて、国民は地下シェルターに入れておけばいいだろう。

そのように通信を送っておく。

 

「私が不在のための香港での指揮等については既に指示済みですので、全力出撃可能です」

「よろしい。本作戦は学外での事態であり、相手は軍用ISであるため、私が指揮権を持つ」

 

まあそうだろう。

対軍用ISともなると、いくらミカエルの手がけたこのISがぶっトんでるからと言って戦闘に集中しなければまずい。戦闘空域どころか守るべき旅館や国の指揮までやっていられない。

異論はなく、頷いた。

 

「対軍用IS戦において、専用化処理もしていない量産の第二世代ISでは明らかに力不足だ。そのため、教員は旅館の警備と戦闘空海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は生徒であるお前達に担当してもらう」

 

……おそらくだが、この場での最大戦力は多分俺。

次点は多分あいつだが、あいつはこの非常事態でも出撃に気乗りはしないだろうしな……。

 

「では作戦会議を始める。質問があれば挙手をしろ」

「はい。目標ISの詳細スペックデータを要求します。また軍用ISと戦闘することに少しでも怯みを感じる場合は絶対に言うこと。その人は旅館警備に回ってもらいたいです」

「スペックデータは今出す。だが2国の最重要軍事機密だ。機密が漏洩した場合は査問委員会の裁判と、最低でも2年の監視が付く。言うまでもないだろうが、特にブルックスは本来参加も躊躇われるだけに注意しろ。また、軍用ISとの戦闘を恐ろしいと思った者は作戦会議中に素直に申し出るように」

 

他国の国家代表に自国のIS詳細データなんて渡った日には大変なことになる。

むしろなんで今回俺が参加できることになったのか。

無力化した後に凍結処理か解体する予定でも立ったのか?

 

 

データが開示された。

広域殲滅を目的とする特殊射撃型。しかも攻撃と機動を両立させている。

その分燃費は悪そうだが、軍用ISだからなあ。競技用と同じ気分じゃ落とせない。

 

 

「ふうむ……。織斑、篠ノ之、話に付いてきているか」

「やっぱりいきなり軍用ISと戦闘なんて難しいよね、仕方ないよ」

 

だんまりを決め込む織斑と篠ノ之。

デュノアは会社の社長令嬢だし、ある程度こういう場面に関する訓練は受けているだろう。

だがこの2人は違う。

この場で2人だけの、素人だ。

 

「一瞬恐れで体が硬直しただけで死んじゃうこともある。無理はよくないよ?」

「いや……いや、俺、できます!」

 

あまり信用できない『できる』だな。

蛮勇とさえ言えるかもしれない。

 

「……私は、正直に言うと、少し怖い。それに、乗り始めてたった数時間のISで軍用ISと戦うなんて、無謀が過ぎると思う。軍用ISというほどだ、かなり熟練した操縦者が乗っているに決まっているからな」

「操縦者に関するデータ等は開示されてないんですの?」

「いや」

 

オルコットの問いに、千冬さんは簡潔に答えた。

 

「搭乗者はナターシャ・ファイルスという」

「名前からしてアメリカ側の方ですわね?」

「米軍所属の、腕の立つ操縦者だな。だが、暴走している現状ではまず誰が乗っていても変わらんだろう」

 

俺も名前くらいは知っている。

確か……10代の頃は代表候補生だった女だ。

国の方針でアメリカでは20代になった代表候補生はそのまま軍人になるという。

その例に漏れず、ナターシャ・ファイルスも20歳になると同時に代表候補生を降りたはずだ。

 

「なら尚更、IS操縦も素人、専用機は乗り始めたばかりの私は適任ではないと思う。織斑先生、すみませんが、私は出撃できません」

 

篠ノ之は専用機を得たことで、自分がどれだけ世界に狙われる立場にいるのか、やっと深く考えられるようになったみたいだ。

それでいい。

何が理由で暴走しているのかわからないが、黒幕による暴走なら上海に行くついでにIS学園に通う専用機持ちのISの偵察も兼ねているのかもしれない。そんなところにわざわざ出す必要もないだろう。

 

「うーん……。ISの性能的には断然箒ちゃんがオススメなんだけど、束さんとしては箒ちゃんが難しいと思うことを強制したくないなあ」

「無論だ。わかった、データを見る限り紅椿は燃費もあまり望ましくない。篠ノ之は旅館に残れ」

「はい」

「というか束、お前はなぜここにいる?」

「またまたぁ。束さんほどISの関係者として相応しい人間、まずいないよ!」

 

それもそうだ。

作った張本人なんだから。

 

「織斑はどうなんだ」

「……そうだね、軍用機だろうとなんだろうと一撃必殺で落とせるのが白式だし」

「一夏さんが可能ならわたくしかフェラーラさんが戦闘空域まで運び、零落白夜で落とすのがベストですわね」

「それが無理なら、あたし達は全員こっち待機でブルックスが1人で戦うか。もうその2択しかないわ」

 

その場のほとんどの瞳が織斑を貫く。

貫かれた本人はたじたじとしていた。

 

「どうなんだ、織斑」

「え、えっと……フェラーラさんとセシリアが俺とブルックスさんを運ぶっていうのは?」

「それはちょっとセンスがないかもね。アイリーンのISは対エネルギー兵器の場合、味方がいると邪魔になるから」

 

ベルナルドーネにオブラートの概念などなく右ストレートをもらった織斑は潰れた。

 

「お前が戦えるというのなら、これ以上難しいことは何もない。今すぐ作戦開始に向けて運搬役が高機動パッケージをインストールするのみだ。だがお前が戦えないのであれば隊長が行く。それだけだ」

 

行けるか、行けないか。

それだけを答えろ。

 

ボーデヴィッヒが眼帯に塞がれていない赤銅の隻眼で織斑を見つめた。

おそらくこの場の生徒の中で、俺の次にこの事態に動じていない者。

ドイツで軍のIS部隊を率いているだけはあり、温かみのあるはずの色が冷たく見える。

 

「……行ける。行けるさ、絶対に零落白夜で落としてみせる!!」

 

織斑は少し声が震えていたが、それでも決断したようだった。

 

「……よし。では次に運搬役を決める。オルコットとフェラーラだが」

「織斑を運ぶなら私よりオルコットのほうがいいでしょう。私はクラスも違うし、今初めて話す。素人である彼の緊張をほぐせる可能性があるとするなら、そちらを選ぶべきかと」

「そうだね。さっきセシリアとエリザのパッケージデータ見せてもらったけど、速さに関しては誤差の範囲だったよ」

「わたくしの超音速下での戦闘訓練時間は20時間です」

 

……心配だが。

そもそもISが暴走して監視空域を離脱することなんて早々有り得ないことだ。

目標IS、銀の(シルバリオ)福音(・ゴスペル)の機動力があるから離脱できたんじゃない。

普通、暴走してもやたらめったらに飛んでいくなんてまずない。

 

それでも、多すぎる謎を不安に思う気持ちを押し込めて、作戦に挑むしかない。

 

 

「では作戦は織斑、オルコットの2名で行う。オルコットはミカエル先生と共にパッケージのインストールを行いながら、織斑に超音速下における戦闘についてレクチャーしろ。集合時間は30分後、この部屋とする」

 

厳しい顔の織斑と、努めて冷静な顔のオルコットと、いつも通りの微笑みに冷たい瞳を乗せた義姉と。

その3人が宴会場を出て行ってすぐに、教師陣が現れた。

今旅館警備に当たっていない教師たちだ。

 

 

「残った者は教師たちと共に旅館警備を行ってもらう。何しろ、教師は空域封鎖に駆り出すからな。手が足りん。基地外周警備の訓練経験がない者は挙手をしろ」

 

手を挙げたのは、デュノアと篠ノ之のみだった。

代表候補生はカリキュラム内で習っているようだしな。

 

「よし。ボーデヴィッヒ・ベルナルドーネ組、凰・フェラーラ組は2人1組で組み、2組でローテーションに入れる。デュノア、篠ノ之は山田先生と共に作戦会議室であるこの部屋に残り私の補佐をするように」

「あれ? 織斑先生、ブルックスさんは……」

「ブルックスは後で独立任務を渡す。ローテーションは……」

 

独立任務って何をやらせる気だ。

まさかとは思うが……それは、俺1人でやるのは無理ってもんだぞ? まさかそれじゃないよな?

 

 

**********

 

 

30分後。

作戦始動に向けて、既に警備陣はポジションにつき。

出撃要員2名と俺、千冬さん、山田先生、ミカエル、天災、そして篠ノ之とデュノアが作戦会議室に集まっていた。

 

「IS『ブルー・ティアーズ』、高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』インストール終了しています」

「よし。では作戦を開始する。表に出てISを装着しろ」

 

 

旅館から出て、開けたところで織斑・オルコット両名がISを展開し、織斑がオルコットの背に乗る。

青と白の組み合わせだなんて、まるでこの7月の空だ。

 

「大丈夫か、重くないか?」

「ええ、ISのパワーアシストがありますし。代表候補生として鍛えていますから」

 

白式のエネルギーをできるだけ零落白夜に注ぎ込むために、移動は全てオルコット任せだ。

相手は軍用機なのだから、計算上では白式の総エネルギーの85%を零落白夜に注ぎ込まないと落とせないことになる。

接敵までの運搬の過程で大気中の塵などから体を守ったり、Gなどから操縦者を守ったりする保護機能も必要であれば、撃墜後にもできるだけエネルギーを残しておきたいのだ。もしものことがないとも言い切れないのだから。

 

「では……作戦、開始!!」

 

 

号令と共に、織斑を乗せたオルコットが飛翔する。

操縦も滑らかだし、加速もスムーズだ。

ブルー・ティアーズは第三世代ISの中でもかなり古いほうの機体だ。

でもその分、オルコットはティアーズと共に研鑽を積んできた時間がある。

オルコットのほうは、無事仕事をこなしてみせることだろう。

 

「……行ったな。では頼んだぞ」

 

 

しかし、オルコットには火力もほとんど望めなければ装甲もほとんどない。

撃墜できるかどうかは織斑にかかっている。

 

もし、撃墜する前に織斑のエネルギーが切れたら?

 

 

これは織斑が千冬さんの弟だからというものじゃない。

教師として、生徒を死なせたくない、ごく自然に湧き上がる考えなんだろう。

 

「……」

「箒ちゃん、大丈夫だよ。あっちゃんは強いし、紅椿も高機動特化に調整してあるから。箒ちゃんが心配することなんて何もないよ」

「そろそろ出ろ。いい頃合だ」

「了解、IS『シューティングスター』出撃します」

「……IS『紅椿』出撃します」

 

青と白、昼の蒼天を追いかけて。

赤と紫、暮れ時の焼け空は出撃する。




ちなみに
ハワイ沖~IS学園臨海学校実施地から2キロ先を通過するルートだと、最短距離を飛ぶならば目的地が上海周辺になるのは本当です(ミャンマーの可能性もあるけど)。
気になるなら「大圏航路」で調べてみてください。ハワイ沖~イスラエルだと絶対日本の経済水域すら通らないから。

17/03/09 アップ直後に誤字を確認。修正しました。
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