IS  -香港のダイヤモンド-【改】   作:7seven

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新年度、GW、五月病、気付けば6月。いやあ、時が流れるのは早いです。


03-04 接敵①

もうすぐ太陽が真上に昇る時間帯です。

背に一夏さんを乗せて、衛星を辿り目標ISへと向けて加速。

 

銀の福音、などと名付けられた、全身が銀色だという機体。

頭部から生えた一対の巨大な翼のようなものが、第三世代兵装。

 

「一夏さん、接敵目前ですわ!」

「了解!」

 

いくら訓練をしたことがあっても、わたくしだってこんな事態に対処をするのは初めてで。

震える手を握り締めて、ハイパーセンサーが敵IS発見のアラートを鳴らしたのを確認してから、更に加速する。

 

「10、9、8、7、6、5、4……」

 

打ち合わせ通り、秒読み開始と同時に一夏さんが零落白夜を起動したのを確認。

3、2、1。

 

わたくしの背を蹴って飛び出す一夏さん。

それにバランスを崩して少し下降しながら見たものは。

 

 

最高速度で飛行しながら、こちらに反転して後退姿勢で身構えた、銀の福音。

 

普通、いくら大丈夫と思っていてもGを恐れてできない挙動を、あのISは。

 

 

それの不自然さに一度ぴくりと動きを止めてしまった一夏さん。

 

「切ってください!!!」

 

わたくしは声の限り叫ぶ。

コンマ数秒遅れたものの、零落白夜の光刃が銀の福音に。

けれど。

 

『敵機確認。迎撃モードへ移行。『銀の鐘』稼働開始』

 

オープンチャネルから、機械のような冷たい声が聞こえて。

その瞬間零落白夜に掠るか掠らないかのところで身を翻し……。

 

「一夏さん、背中は取らせませんから、早く零落白夜を!!」

「おう!!」

 

このままでは、白式のエネルギーが持ちませんわ!

悔しいですけど、わたくしには今『ブルー・ピアス』がある限り。

火力のかの字もありませんわ。

けれど。

ミカエルさんから指導していただいて、並行処理というものを身につけたわたくしなら。

支援射撃をしながら通信くらい。

 

 

「織斑先生、聞こえますか!? こちらは初撃を躱され、白式のエネルギーが危険です!」

『聞こえている。あと1分待て』

 

1分!?

1分待てば何かが起こるというのですか!?

 

そもそも!

こんな、超音速下の戦闘で、白式のエネルギーが1分も持つのでしょうか……!?

 

一夏さんが攻めやすいであろうように1発1発を狙って撃ち込む。

白式のシールドエネルギーは目に見えて減っていっています。

それで焦って、一夏さんは大きいのを一つ、狙っている様子で。

 

何事にも、大きな力を出すにはそれなりのタメが必要というのは周知の事実。

そのタメを狙われて、福音の翼に似た砲門が一夏さんを撃つ。

 

『La……』

 

マシンボイスが発音とは裏腹にソの音で歌を奏でると。

砲門が開き切る音が耳に届いて。

 

スペックデータにあった通り、36の砲門が、360度を向いて、襲いかかってきて。

 

 

「!? う、おおおお!!!」

「い、一夏さん!?」

 

当たると爆発するエネルギー弾をばらまく福音。

福音から目を背け、素っ頓狂な方向へ瞬時加速してゆく一夏さん。

 

その時、わたくしのブルー・ティアーズにも通知が入ってきました。

所属国家不明船舶、指定海域内に侵入。

 

……まさか、密漁船ですの!?

その密漁船には、1発だけ、福音の放ったエネルギー弾が向かっていて。

 

エネルギー弾を消し去った零落白夜は、その展開装甲を閉じてしまい。

 

わたくしだけではまず火力が足りない。

……死を待つしか、ありませんの?

 

 

 

絶望で、瞼を下ろす。

 

 

 

『寝てんなオルコット! お前は織斑を保護して船の記録を取り次第すぐ戦闘空域離脱!!』

 

耳に聞こえた心地よい声が、わたくしをひとりでに動かす。

 

 

「……はい、アイリーンさん!」

 

 

**********

 

 

 

俺と篠ノ之はステルスモードで戦闘空域をゆっくり目指していた。

紅椿のエネルギーを大きく食わないためだ。

別にゆっくり飛ぶだけで、ステルスまでしなくてもいいだろうと?

俺が来ることを知って先鋒2人の気が緩まないようにの配慮だ。

 

「……一夏とセシリアは、無事なんだろうか」

「無事だろうよ。少なくとも信号ロストの知らせは入ってない」

 

そもそも戦闘は難しいと言った篠ノ之を引き連れてまで俺が空を飛んでる理由だが。

簡単だ。千冬さんが言い渡した独立任務だ。

 

そもそも装甲やエネルギーに難ありの2機で出撃するんだ。

不測の事態でもし初撃が失敗するようなら2人を離脱させて、俺が肩代わりしろと。

なら最初から俺が出ればいいのではないかと思ったが、できるだけ俺に戦わせたくないとアメリカ・イスラエルから圧力をかけられているそうだ。だったら自分でなんとかしろと思う。

 

「そんな不安そうな顔するな。お前はレンジ外で待機して、織斑とオルコットを保護した瞬間に、封鎖されている空域で、2人を護衛しながら旅館に帰投すればいいんだ」

「わかってはいる、わかってはいるが……」

 

まあそんな簡単に割り切れる問題でもないか。

幼い頃から軍人であった俺と違って、篠ノ之は姉があれでも一般人なんだから。

 

『ブルックス、篠ノ之、聞こえるか』

「聞こえてます、どうぞ」

『オルコットから、初撃失敗の知らせだ。ステルスを解いて向かってくれ』

「了解」

 

俺と篠ノ之は頷き合い、ステルスモードを解いて加速する。

 

 

 

ハイパーセンサーによる拡大で、戦況が目視できるほどまで接近した。

織斑がタメを作っている。その隙をいいように撃たれている。

オルコットがそのケアで大型BTライフルを撃ち込んでいるが、与ダメージは本当に僅かだ。

 

その時、急に織斑が海面に向かって加速する。

……あれは……密漁船舶か!? 所属国家不明、間違いない!

そこに向かっている、銀の福音によるエネルギー弾を消滅させ……白式の展開装甲は閉じた。

 

オルコットが、諦観を前面に押し出した顔で瞳を伏せる。

 

『寝てんなオルコット! お前は織斑を保護して船の記録を取り次第すぐ戦闘空域離脱!!』

「……はい、アイリーンさん!」

 

すぐに気を取り直したオルコットが、所属国家不明船舶に接近する。

もう接敵間近だ。あちらさんもこっちに気付いたようで砲門を向けてくる。

 

『篠ノ之、あっちの射程の2倍以上距離を取って待機してろ。以降の作戦指示は千冬さんに任せる』

『指示引き継いだ。オルコットは指定船舶を海域封鎖教員と共に誘導し、その後封鎖教員沿いに単独で帰投しろ。篠ノ之、貴様は――』

 

 

篠ノ之に流れ弾が当たらない距離が確保できた。

盾と大馬上槍・バリスタを展開し、ISのシステムを切り替える。

――Do you change the system to military use?

 

 

競技用として扱うためにかかっていた、仮想リミッターが外される。

エネルギーも最後の一滴まで使える。

 

ここに来るまで、何度も脳内でシュミレートした。

これで問題ないはずだ。

 

バリスタにエネルギーが行き渡り、振動を始める。

 

「エネルギーパス切れれば上々、その付属品ごともぎ取れれば尚のことよしってな!」

 

 

**********

 

 

私は、セシリアから暴れる一夏を受け取り、抱えながら旅館を目指した。

空域・海域共に封鎖されているおかげか、接敵はない。

 

けれど、初めて乗るISで、ぶっつけ本番で、戦闘空域に、一瞬とはいえ入ったのだ。

旅館前でISを収納し、手首に巻きつく紅の紐飾りを認識した途端、ISによってコントロールされていた冷や汗がどっと溢れた。

結局ISスーツがそのあたりも吸収してくれているので、物理的に不快というわけではないが、どうにも落ち着かない気持ちだった。

 

出迎えに来てくれたデュノアが笑顔で労ってくれているのはわかる。

だが私にはそれに笑顔で応える余裕などなかった。

騒ぐ一夏をデュノアと二人がかりで連行し、私たち2人の作戦完了を報告すべく作戦会議室である大広間に入った。

 

 

「只今戻りました」

「ああ、ご苦労だったな。デュノアも出迎えご苦労」

「千冬姉!!! あの密漁船どうなってんだ!? それにブルックスさん1人じゃやばい! 実際に戦ってみたらわかった、多分ブルックスさんがいくら強くても勝てないって!!」

「騒ぐな馬鹿者。密漁船に関しては今訓練を受けたオルコットと教員が対応している」

 

セシリアはイギリスの代表候補生だ。

イギリスといえば、日本と同じく海に囲まれた土地。

それなら、密漁船の取り締まりは、代表候補生という立場なら、訓練されているのかもしれない。

そして教員も一緒であれば、そちらの対応はもう私たちが心配することではない。

 

「ていうか、なんでブルックスさんと箒が来てたんだ!?」

「白式のエネルギー効率では、数発外した瞬間に勝ち目どころか命まで危ないだろう。死にたかったのか?」

「でも!! 俺のせいでブルックスさんが死んだら!」

「……一夏。それは、国家代表であるブルックスへの侮辱であり、シューティングスターの製作者であるミカエル達への侮辱だぞ」

 

千冬さんが、一夏への呼び方を変えて、あくまでも静かに、言い聞かせるように言った。

それを聞きつけたのか、ミカエル先生がひょこりと顔を出した。どこへ行っていたのだろうか。

 

「あ、篠ノ之さん、織斑くん、お疲れさま。おかえり」

 

ミカエル先生が、柔和な、へにゃりとした笑顔で言った、たった4文字の言葉が。

妙に胸に刺さり、私の神経を尖らせ続けていた何かを、解きほぐした。

 

「はい、ありがとうございます」

「篠ノ之さんは任務を完全にこなしてみせたね。えらいえらい。もっと訓練を積んで、もっと頑張るんだよ」

 

少し汗をかいて濡れ始めているはずの頭を、よく見慣れた顔を見慣れない表情にして、撫で繰り回す。

頭を撫でられた記憶なんて、もう残っていなくて――知らない手のはずなのに、ひどく懐かしく思えた。

 

「あっ、えっちゃんずるい!? 箒ちゃんナデナデを、実の姉である私を差し置いてやったな~!?」

「束!! 騒がしくするなら出ていけ!!!」

「なんで束さんだけ!?」

 

千冬さんが姉さんの頭をまるでボールのように掴んだかと思ったら、窓に向かって投げる。

その窓を、まるで手品師の補佐のように、さっと開けているミカエル先生。いっそ漫才のようだ。

 

なお、姉さんは四肢の指だけで窓枠を掴み、外へ飛んでいくことを回避していた。動きが人間じゃない。

 

「そうそう、アイリーンのことだけどね。心配は要らないよ」

 

突然ギャグ調になった空気を自分で引き戻して、ミカエル先生は微笑んだ。

何も、ブルックスのIS操縦テクニックや、シューティングスターの性能だけで見て大丈夫と言ったわけではないと。

 

「銀の福音のデータ、開示してもらったでしょう?」

「はい。でも、それが何か……」

「あれとの性能比較も客観的に行って、まず死んだり大怪我したりしないってわかってるんだよ。もし隠し武装があっても、シューティングスターの速さ、ステルス性能なら一旦離脱してエネルギー補給にも戻れるのが数字として証明できる」

「福音にとって、シューティングスターは相性最悪のISだからな」

 

互いのHPが1000だったとする。

零落白夜が一気に1000を消せる武装だとすれば、シューティングスターの持つ武装ではおおよそ50ずつ削れる。

だがしかし、福音の持つ武装では、エネルギー弾では0~3しか与えられない。ついでに近接戦闘では10~40程度与えられるが、すぐに近接武器や装甲が壊れてしまう。

 

そう例えられると、確かに相性最悪もいいところだと思った。

 

「ついでに、1か月くらい前から新武装を搭載したシューティングスターは、下手すると操縦者までオーバーキルしちゃうよ」

 

語尾に音符のマークでもつくような、姉さんのような口調で、ミカエル先生はのたまった。

……操縦者までオーバーキル? 物騒だ。

 

「ただただ、物理的に貫通力が増しただけなんだけどね。腹部装甲が脆いIS多いし、下手するとおなかに風穴開いちゃうね」

 

部屋の端のほうで、山田先生が想像してしまったのか、顔を真っ青にしていた。

 

「まあ、普通対人では使わないはずだから安心してよ! ……さてと、束さん専用の衛星からの映像、そろそろ届くかな?」

「えっちゃんおまたせブイブイ! あっちゃんの有志、とくとご覧あれ~!」

 

作戦会議に使ったモニターに、いつの間にかブルックスの戦闘シーンのような映像が流れ始めている。

それと同時に、エネルギー補給のためにローテーションで回している空海域封鎖チームに行っていたラウラ達や、密漁船対処に行っていたセシリアが戻ってきて、会議室にはブルックス以外の専用機持ちが勢揃いしていた。

 

「オルコット、密漁船のほうは教員から報告をもうもらっている。織斑の運搬任務と合わせてご苦労だった」

「それじゃあ、みんなお揃いだし、アイリーンの戦闘状況を見ていこう!」

 

会議室の照明が落とされる。

装甲についた傷などを見る限り、どう見てもブルックスの優勢だった。

しかも、銀の福音の、片翼がない。

 

「右の翼がありませんわね……?」

「ああ、超振動大馬上槍・バリスタで、翼の根本を貫いたんだね。それで千切ったんだと思う」

「ふむ。攻撃・機動一体の兵装であるあの砲門を、丸々半分落としたのは大きいな」

 

単純計算をするならば、今やあの銀の福音の攻撃力、機動力共に半減か。

画面はただひたすらにブルックスの圧倒的有利が続いていたのに。

 

『千冬さん! こいつの翼もう片方折っとくから、イタリア組あたりにこいつの始末させてくれ!!』

 

突如入った、オープンチャネル。

焦ったような声。

 

言いたいことだけ伝えて、切れてしまった会話に、会議室はしんと静まり返ってしまった。

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