IS  -香港のダイヤモンド-【改】   作:7seven

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01-04 宝石 対 獣

現在、IS学園に配備されている訓練機は4種類ほど存在する。

 

日本製量産型IS「打鉄」

フランス製量産型IS「ラファール・リヴァイヴ」

イタリア製量産型IS「テンペスタ」

 

この3つの第二世代型量産ISは、大体学園中の訓練機の95%を占める。

では残り5%は?

 

イギリス製量産型IS「アクワマリン」

 

学園でもたった数機しか配備されていないその訓練機は、かの宝石の名前を賜るに相応しく、あまり生産されなかった。

なぜならその美しいアクアブルーの機体は、第二世代型量産機の中でも一番初め頃にできた機体で、未だ各国家のトップを占める男性達から「アクセサリー」と見られているからだ。そのせいで需要は少なく、既に生産停止している。

 

しかし、ISについて詳しい研究者や開発者、そして実際に搭乗するパイロットに言わせれば、宝石の名は伊達ではなかった。

 

メンテナンスの簡易なシステム群。

手の加えやすい、安価で加工しやすい素材でできた装甲。

何より、優れた操縦性と様々な武装とのマッチングのよさ。

 

量産機用のパッケージであればどれでも使用できるクセのなさは、ISを深く知れば知るほど良機体だとわかる。

第二世代最初期の量産機だというのに機体のスペックも決して低すぎず、機動性重視のラファール・リヴァイヴやテンペスタより機動面で多少劣るものの、打鉄とは比ぶるべくもない。

 

私こと木村夏子も、この「宝石」に魅入られたISパイロットのひとりである。

あのクソ生意気な香港代表だって、この子となら墜とせる。そう確信していたからこその、果たし状だ。

 

 

**********

 

 

売られた喧嘩は別に買う必要はないけれど。

買うことで始末が簡単になるなら喜んで買ってやろうじゃないか。

 

『じゃあ、フェンリルで相手するんだね?』

「そのつもり。フェンリルのデータ足りてないだろ?」

『ふふっ、そうだね。でも私とアイリーンの名にかけて、負けるようなことはないようにね?』

「わかってる。それじゃ、終わり次第データは送るから。おやすみ」

 

明日の放課後、木村夏子と模擬戦をする。

ま、センパイには悪いけど「フェンリル」のデータ収集と、デモンストレーションの相手になってもらおうかな。

 

日課である、専属整備士とのプライベート・チャネルでの定時連絡を終えて、ベッドに入る。時差的にも俺が寝る直前がちょうどいい時間帯なんだよな。

横になって布団をかぶった。

 

 

 

翌日放課後。

授業を終えてすぐ、第2アリーナへと向かう。あんまり人を待たせるのは好きじゃない。

 

更衣室に行くの面倒だし、どうせ今日はこのために貸切だろうから、Cピットの中で制服を脱いでしまう。どうせ下にISスーツ着てるし。前開きワンピース型にカスタマイズされている、義姉好みの制服のベルトを外す。

 

「アイリーン」

「簪?」

 

続いてボタンを外していると、Cピットの入り口が開く音がして、簪が入ってきた。

俺が更衣中だと気付いて顔を赤らめるのはなんなんだ。一応俺のこと女だと思ってるだろうに、つーか男ってばれてたら大問題だけどな。

 

「き、着替えは更衣室でやってよ……!」

「いや面倒臭いし。誰も来ないと思ってたから」

 

ファスナー式のインナーを脱いで、ペチコートも脱いで、ワンピースも脱げばもうISスーツ姿だ。ISスーツがあれば防寒も十分。実に優秀なものだ。

普通の衣服よりは勿論値は張るけど、長持ちするしかさばらないし、着心地も自分にあったものを着れば最高。

俺ISスーツと出会った瞬間、軍人は軍服の下にこれを着ろって言ったぐらいだもんな。だから香港は世界で唯一男物のISスーツが出回っている国ってわけだ。

 

「で? どうしたんだ」

「えっと……。木村先輩は強いって聞いたから」

 

もじもじと、何かを言いたげにしている簪。木村夏子は既にアリーナに姿を現してるんだけど……。しかも既に戦闘待機。

 

「か、勝ったら今日の夜ご飯、食堂でよければ奢ってあげる」

 

だから。がんばれ。

 

「……うん、じゃあかき揚げうどんで」

 

いってくる。

ピットゲートのボタンを押してアリーナへの道を開き、ISを展開。

システムオールグリーン、至近距離にISを1機確認。登録搭乗者なし、イギリス製第二世代IS「アクワマリン」か。IS学園にもあったんだな、あれ。

 

「フェンリル、出撃する」

 

作動させていないカタパルトを蹴って、アリーナへと出る。

学園内でもそこそこ規模の大きいこの第2アリーナの観客席は、様々な学年の生徒で埋め尽くされていた。

 

『遅かったから逃げ出したかと思ったけど』

「野暮用だ。開始の合図はそっちでいい」

『そう? じゃあ……始め!』

 

 

**********

 

 

あの完璧なお姉ちゃんが認めて、学園の防衛に関する全権を委ねたんだから、アイリーンはやっぱりすごい。

アイリーンがすごいだなんて、モンド・グロッソの映像を見るだけでもわかりきってたことなのに、再確認せざるをえない。Cピットから見てても全然レベルが違う。

 

片や国家代表。片や代表候補生クラス。天と地の差。

 

専用機の有無もあるんだろうけど、やっぱり操縦技術から違う。

イギリス製の量産機「アクワマリン」は操縦しやすいことで有名な機体。それに専用パッケージでサブアーム2本スラスター2機を追加したアクアブルーのISを身に纏った木村先輩が、先手必勝とばかりにブレード片手にサブアームで制圧射撃をしながらアイリーンへと一直線に瞬時加速。

対するアイリーンは、モンド・グロッソの時に見せた紫のISとは別物の、ダークグレーのISを纏って、PICで宙に浮くことすらせず、アリーナに立っている。装備を出している様子もない。

でもここにいてもわかる、どうやって攻めていいのかわからないほどの、隙のなさ。まるでISを装着してないみたいな自然さ。

 

それにしても、なんで制圧射撃を受けながら、何もせずにただ立っているの?

私の素直な疑問が解決される前に、アイリーンは動いていた。

いつの間にかロングソードを手にしていたアイリーンが、ハイパーセンサーなしじゃ残像すら見えない速さで木村先輩の斬撃をいなして、サブアームから放たれる実弾ですら半分ほど叩き落としている。

 

……火薬銃の銃弾を叩き落とすだなんて。こんなの、人間技じゃない。

しかも狙われているのは首、心臓、肩。狙いは正確。

 

ISの中でも装甲が覆う範囲の大きい「アクワマリン」ではそれぐらいしか急所が露出してないのもあるけど。……朝言ってた、殺し合いのつもりで相手をするって本当のことなんだって、今更ながら実感した。

木村先輩は形勢の不利を読み取って、一旦冷静に離脱する。アイリーンはそれを後追いせず、静かにその場に立っていた。

まるで、不落の要塞であるかのように。

 

『くっ……!』

『残りシールドエネルギー、43といったところか。実戦なら武装によっちゃ一撃で死ぬ』

『まだよ! それにこれは実戦じゃなくて模擬戦だ!!』

 

木村先輩の言葉に、アイリーンは深く溜息を吐いた。

まるで呆れた、とでも言いたげに。

 

ロングソードを持っていた左手を前に伸ばし、刃を木村先輩に向けた。

「アクワマリン」とは真逆で、全身の装甲が薄く少ないこのIS。左手に到っては装甲に包まれてすらいない「フェンリル」と、それに向かって歯を食いしばる木村先輩。

 

アイリーンの装甲に包まれた右腕が左腕に沿うように上がり、両腕がカッと強く輝いたかと思うと、その瞬間アリーナでビーッとけたたましい音が鳴った。

 

『模擬戦だろうが実戦だろうが油断大敵なんて当然のこと言わせるなよ、センパイ?』

 

「アクワマリン」のシールドエネルギー切れ。勝者、アイリーン・ブルックス。

一瞬の出来事と言うにはあまりにも短くて。私を始めとして、観客席も、シールドエネルギー切れの木村先輩も、何が起こったのかよくわからずぽかんとするばかりだった。

 

 

 

Cピットに戻ってきたアイリーンがISスーツの上から制服を着るのを見届けた。

私よりも小柄な体躯。たとえISのアシストを受けたとしても、文字通り目にも留まらない速さのあの剣技を生み出せるような肉体には見えない。軍育ちだってことは聞いたことがあるけど。

 

「……どうした? そんなに見ても何も出ないけど」

「ううん。お、お疲れさま」

 

睫毛まで金色のアイリーン。今の模擬戦の記録を、眼鏡型の投影機でスローモーションで確認する。……やっぱり、すごい。でも、これだけの力があって、なんで木村先輩の攻撃を避けようとしなかったの?

 

「私、これから執行部で会議があるんだ。それじゃあ」

 

悶々とアイリーンの戦闘に頭を悩ませていると、その張本人が生徒会室に行くと言って歩きだしていた。

 

「あっ、アイリーン! 夜ご飯のことだけど……へ、部屋まで迎えに行っていい?」

 

き、緊張する。あれ? なんで緊張してるんだろう……アイリーンは女の子なのに。

友達同士なんだから、一緒にご飯ぐらい普通なのに、なんで?

 

私の胸のドキドキなんて知らないとでも言いたげに、アイリーンはすこしだけ口角をあげて、1026号室だから、と告げてCピットを出ていった。

……なんで? なんで? なんで私、こんなに……。

 

こんなに、顔が熱いんだろう。

 

「あーちゃーん?」

 

両手を頬に当てて熱を冷ましていると、本音がCピットに現れた。

執行部で会議だって言ってたし、執行部で書記をしてる本音はアイリーンを迎えにきたんだよね。

 

「あ、かんちゃん。あーちゃん知らない?」

「今、出ていったんだけど……」

「えーすれ違っちゃったかー! 残念」

 

私がアイリーンと出会ったのは入学式の日だし、本音がそれより早くアイリーンと会ってるはずはない。つまり、知り合ってからの時間はそんなに変わらないはず。

なのにアイリーンと親しげな本音が、ちょっとだけ羨ましい。

 

「あれー? どったの、かんちゃん。顔真っ赤だよー?」

「な、なんでもないの」

「わかったー! あーちゃんが好きなんでしょー!」

「なっ、そ、そんなわけないでしょ……! 私もアイリーンも女なんだから!」

 

そう、そう。私もアイリーンも女の子。

アイリーンのISパイロットとしての実力に興奮して、ドキドキがまだ収まらないだけ。そうに決まってるの。

 

「まあ、それはかんちゃんが一番よくわかってるよね。それじゃー、私も会議だからー。かんちゃん、悩んでるならまた相談のるよー!」

 

だぼだぼに余った袖をぶんぶんと振り回しながら、前を見ずに駆け出す本音。前を見なきゃ危ないと言おうとした瞬間にずべしゃっ! と何もないところで転ぶ。しかも生徒会室ってたしか逆方向だったと思う。

相変わらずな本音に、混乱してた気持ちもなんだか落ち着いてきて。

とにかく、夜ご飯の時間になるまで、もう一度さっきの模擬戦の映像を見直してみよう。そう思えた。のほほんとしてるように見えて、鋭い私のメイドさんのおかげかな。ありがとう、本音。

 

 

**********

 

 

某所。

 

「まさか香港代表が動くだなんて……どうします?」

「どうするもこうするもない。今がチャンスだ!!」

 

壮年の男性達が、特上のステーキを頬張り、極上のワインを飲み下し。

一流のコックはそれを黙って聞き流し、今もジュウジュウと肉を焼き続ける。

 

「代表と陸海空軍の総帥を呼べ」

「お呼びでしょうか」

 

男性達の中でも一際権力のありそうな、立派な口髭を蓄えた男が4名を呼びつけた。

うち1人はすぐに現れた。黒髪を編み込んだ、見目麗しい女性だ。女性が赤く濡れた唇を三日月のように歪めると、その場の男性達は息をのんだ。

 

「専用機持ち達は全員、出撃準備は整っているかね?」

「いえ。牙【壱】、爪【弐】がメンテナンス中です」

「あと何日あれば、そのメンテナンスは終わる?」

「新武装のチェックテストでしたので、三時間ほどあれば取り外せます」

「いや、その新武装がよくできているなら、持っていくに越したことはない。テストを終えてから取り外すならどれぐらいかかるかね」

「開発部に直接聞かねばわかりませんが、新武装を搭載するとなれば、あと一週間は必要かと」

 

女の言葉を聞き、男はチッと舌打ちし、顔をしかめた。

周囲の男達は、そんな男をなだめ、ワインを注ぎ、媚びへつらい、見え見えの愛想笑いでこう言った。香港のダイヤモンドとはいえ、どうせ三年間はIS学園の檻から出られませんよと。

男はその言葉に納得し、深く頷き、勝利を確信したかのようにグラスを高々と掲げてこう言った。

 

「では、一か月後。あの愚かな国家気取りに、制裁を!」

「「「制裁を!!!」」」

 

周りも男を真似て、グラスを掲げる。

女も、酷く美しい笑みを浮かべて、制裁を、と呟いた。

某国某所における、とある夜の出来事だった。




4話です。……簪はヒロインの予定じゃないんですけどもね……?あるぇー?


オリキャラ紹介

「木村夏子」(きむら・なつこ)
普通科2年。2年の中でも特別優秀なISパイロット。日本人の父と韓国人の母を持つ。
日本・韓国両国がハーフを代表候補生にするのを躊躇っているため、未だ国家に所属してはいない。

オリ機体紹介

イギリス製第二世代型量産IS「アクワマリン」
IS学園でも片手で数えるほどしか配備されていない、超レアな量産機。価格自体は安いのに、ISについて詳しくなければ良さをわかってもらえないため、あまり売れなかった。
ISにしては装甲が多く、胴体は全て装甲で隠れるため、シールドエネルギーが削られにくい、爽やかなアクアブルーのIS。
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