IS  -香港のダイヤモンド-【改】   作:7seven

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01-05 クラス代表決定戦 前編

IS学園寮1026号室。

かの有名なアイリーン・ブルックスの1人部屋となっているそこを訪れる少女がいた。日本国の資金だけで創設されたIS学園は日本と同じ標準時刻を用いる。日本時間の18時3分のことであった。

 

ドアに手を伸ばしては引っ込め、また手を伸ばす。

ノックひとつにですら躊躇う、水色の内ハネの髪の少女は、部屋の主と同じぐらい小柄であった。

 

その時少女がドアに触れていないにも関わらず、ドアが開く。

その向こうから現れた、秋の実りを思わせる髪をした美少女こそが、部屋の主であり、香港の象徴とされる、アイリーン・ブルックスだ。

 

「簪、来たならノックして」

「ご、ごめんなさい……」

「夕飯だろ、行こう」

 

少女、更識簪はすたすたと歩き出すアイリーンの後を追いながら、暗部の家の娘として恥ずかしくない程度には気配を消したりする術を学んでいる自分の気配がなぜわかったのかしらと首を傾げていた。

 

 

数時間前のこと。

アイリーンが生徒会実働部隊の長となることに異議を申し立てた2年生とアイリーンの模擬戦が行われた。国家代表であり、ブリュンヒルデであるアイリーンと、代表候補生クラスの2年生。彼我の差は明らかで、それを体言したかのような戦闘記録となった。

 

簪は、模擬戦にかこつけて、アイリーンが勝ったならば夕飯を奢ると約束していた。

勿論勝利を確信しての約束であったし、彼女が狙っていたのは、何よりもアイリーンと過ごす時間。同じく国家代表である姉とはまた異質のアイリーンを、色々な意味でよく知りたかったからだ。

 

アイリーン、簪の両名は券売機でかきあげうどんの食券を2枚買うと、それを調理師に手渡した。日本によって創られた施設であるから、和食のメニュー幅はとても広い。調理師も、いわゆる給食のおばちゃんに近い。それらはIS学園創設の資金を全て工面させられた日本側の、せめてもの抵抗の印だろう。

 

「はい、お待たせ」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

 

夕方食堂が開いているのは18時から19時まで。ふたりが食堂にやってきたのは早い時間だったから、割と空いていた。

適当な場所に並んで座ると、いただきますと挨拶をして、割り箸を割った。日本人はずば抜けて麺をすするのが上手いと聞くが、アイリーンは日本人ではないはずなのにとても上手いと、そして可憐な容姿とは裏腹に男前に食べるものだと簪はふと思った。

 

うどんも残すところあと少しとなった時、食堂に1年生でないと一目でわかる人物が乱入する。IS学園の制服ではネクタイかリボンをするのが一般的で、その人物は食堂中の生徒達の赤いそれとは裏腹に、黄色いものを着用していた。

 

「どうもー! 君が実働部隊隊長のアイリーン・ブルックスちゃんだよね? 私、新聞部2年の黛薫子です! 取材させてください! じゃあまずは、就任について一言コメントを!」

 

なかなか立派なマイクをアイリーンに向けて、マシンガン、いやガトリングさながらのスピードで話し続ける新聞部の2年生に、心地よくざわめいていた食堂がぴたっと静かになった。

マイクを向けられたアイリーンも同じように言葉を発さず、ずるると残り少ないうどんをすすっている。

 

「……あれ? アイリーンちゃん? 聞こえてますかー? 就任について一言コメントをくださーい」

 

徹底的に無視して丼に口をつけ、汁をごくごくと飲み干す。黛も先程の簪と同じこと-愛らしい見た目に似合わないほど男らしい食事作法-に気付いた。

ごと、と机の上に丼が置かれて、口元をハンカチで拭うとアイリーンはくるりと黛の方を振り返った。黛はいよいよコメントがもらえると思い、レコーダーを用意する。だがアイリーンはその期待を見事に裏切る。

 

「人が飯を食ってる時に取材はマナーがなってない。執行部関連で取材をしたいなら執行部のほうに話を通してからにしろ。あと馴れ馴れしく呼ぶな」

 

それだけいつもと同じ表情で、同じ声で言うと、隣に座っていた簪が食べ終えるのを待ち、一緒に席を離れた。黛の心のメモには感情の起伏が見えにくく、マナーを重視すると書き加えられ、食堂にいた大半の生徒の心のメモには年上でも臆しない格好いい人物、もしくはISの実力があるからと言って調子に乗っていると書き加えられた。

 

 

一方、食堂を離れたアイリーンと簪。

ふたりの部屋は2階と4階で離れており、食堂のある5階からエレベータで降りようとエレベータを待っていた。

 

「悪かったな」

 

アイリーンの唐突な謝罪に、簪は戸惑う。アイリーンが何か、謝るようなことをしただろうか、いやそんな記憶はなかった。

 

「な、何について謝ってるの?」

「さっきのこと。私のせいで静かに食べられなかっただろ」

 

簪は心底驚いた。

アイリーンがたまの休み時間に4組へ遊びに行くほどの仲なので、簪が注目されたりすることを苦手としているのはアイリーンだって知るところだ。

それでもアイリーン・ブルックスという人物は自信に満ち溢れていて、自身の引っ込み思案なところなどは良く思われていないだろうと思っていた簪にとって、それを気にしての謝罪など青天の霹靂もいいところだった。

 

「ううん、大丈夫」

「そっか」

 

それならよかった。ほんのりと笑ったような気がした。今日二度目の、二種類目の笑顔に、簪の目は釘付けになる。

乗り込んだエレベータが4階に着いて、おやすみの挨拶を交わすとドアが閉まった。

更識簪、15歳。初めての想いに名前が付けられず、使用人に助けを求めたのは別のお話。

 

 

**********

 

 

木村夏子との模擬戦を終え、4日後。第3アリーナでは、1年1組のクラス代表決定戦が行われていた。

 

「ええと……それじゃあブルックスさん、これで大丈夫ですか?」

「あとは……PICをマニュアル操作にすることを、千冬さんに伝えてもらえれば」

「ま、マニュアル操作ですか!? わかりました」

 

第一試合、織斑対オルコットの試合中。Bピットの中では、次の試合に出る俺が山田先生と共に訓練機の調子をチェックしていた。

用いられるのは第二世代型量産IS「テンペスタ」。イタリア製のこの機体は、カスタマイズされたものがイタリア代表の専用機として宛がわれるぐらい、高速機動と近接戦闘に優れている。もっとも、量産機は専用機からグレードダウンしてはいるが、それでも機動性は第二世代最後発のラファール・リヴァイヴにだって劣ってない。

 

「織斑先生、聞こえますか?」

『どうした、山田先生』

「それが、ブルックスさんがPICをマニュアル操作にすると言い出しまして……」

『なんだ、いつものことですよ。一応オートマの設定を外すと警告音が出るから、外す時はその場の責任者に連絡するというのが、PICの利用規約にもある』

「えっそうなんですか!? はうう……勉強不足でした」

 

赤のシャープなボディが特徴のこの量産機。高速機動・近接格闘特化と謳いながら銃火器との相性も悪くなく、訓練機であるこいつには近接ブレードとアサルトライフルが一丁しか武装がないが……まあ模擬戦だし、それだけあれば十分というものだ。

イタリアは日本と並ぶ、いや上を行くほどの近接戦闘国家で、近接ブレードにおいては、刀型以外は世界シェア1位の国だ。そんだけ近接武装に力入れてる大企業が多いってことな。

それと日本語で嵐を意味する機体名の通り、機動面に重点を置くこのテンペスタに搭載されたスラスターはなかなかいい代物だ。訓練機とは思い難い。俺の専用機と比べてはダメだろうけど、それでもPICをマニュアル操作したら疑似的にでも機動型第三世代ISに勝るとも劣らないだろう。

 

『まあ、PICのオートマ設定を外すような輩は、私が知る限りじゃブルックスともうひとりしかいないがな』

「ええっ!? まだいるんですか!?」

 

ちなみにそのもうひとりとは我が義姉のことである。

PICをマニュアル操作モードに切り替え、カタパルトに乗って織斑とオルコットの試合が終わるのを待つ。……とはいえ、オルコットのビットの半分は大破してるし、試合終了後即開始というわけにはいかないだろうけど。

 

『まあ、有名なパイロットではないからな。……第一試合が終わった。ブルックス、準備をしろ』

「もう整ってる。山田先生、ゲートを開けてください。……テンペスタ、出撃する」

 

木村夏子との模擬戦では(面倒臭くて)使わなかったカタパルトが、テンペスタを纏った俺を空中へと投げ出す。

PICの自動制御がないから、空中での姿勢制御はこの腰部装甲に接続してある背面スラスター4機とサイドスラスター2機とPICのマニュアル制御で行うんだけど……PICのオートマが俺の動きに着いてこれないんだからしょうがない。いや、着いてこれないだけならまだいい。時々邪魔になる。だからオートマは切らざるを得ない。

 

確かオルコットの損傷はレーザービット4機のスラスター部分。ビットは名前の通り子機なわけで、子機の替えぐらいは連戦をするとなれば持ってきているだろう。多分。

……と言いたいところだが、オルコットは織斑に対して油断しまくってたみたいだし、どうだかな。エネルギーチャージすればいい織斑との三回戦を先にやることになったりしてな。アリーナの使用時間も限られてるし。

 

『あ、あー。んんっ、先程の試合でオルコットは機体の修復を行わねばならなくなったため、第二試合のオルコット対ブルックスを延期し、先に第三試合を行う』

 

ビンゴ。

Aピットから出てきたのは白きISを纏った織斑だ。さっきの凹凸だらけの機体ではなく、なめらかな装甲になってるってことは、やっと一次移行が終わったんだろう。

 

『あれ? ブルックスさんのISって赤だったか?』

「いや、これは学園に配備されてる訓練機だ。イタリア製第二世代型量産機「テンペスタ」という」

 

テンペスタは相当有名な機体だというのに、知らなかったのか。

千冬さん、ブラコンだからなあ……ISと関わらせないようにしてたのかもしれないな。てかそうでなきゃもうちょっとISの知識あるに決まってるよな。

 

『あ、ああ! あのテンペスタかあ!!』

 

撤回、それでもちょっとは知ってたらしい。

俺がテンペスタに搭載された近接ブレード「CDD01/IR」を展開すると、織斑も弾かれたように武装を展開する。よくよく見覚えがあるそれは、千冬さんが第1回、第2回モンド・グロッソで使っていた雪片だ。

 

「さて、オルコットを待たせるのも悪い。そろそろ始めようか」

『お、おう。そうだな!』

 

俺と織斑が戦闘態勢に入ったのを確認して、千冬さんは試合開始のブザーを押す。

それと同時にスラスターを噴かせて接近してくる織斑。雪片を握っているってことは、織斑のISには、雪片以外はほぼ入っていないだろうし、まあ当然か。

俺もCDDで織斑の斬撃をいなす。ISの操縦そのものは目も当てられないけど、剣の腕は悪くはない。流石千冬さんの弟ってところだろう。

 

『くっ、ブルックスさん流石だな……!』

「まあ、パワーアシストもあるからな」

 

多分織斑のいう流石ってのは、俺のことを女として見てるからってのもあるんだろうな。プラス俺が今乗ってるのは訓練機。パワーアシストだけの差を考えれば織斑のISに軍配が上がるだなんて想像に易い。

だから俺の受け答えは理由になってないんだが……ま、慣性制御を司るPICのマニュアル操作をしてる俺としては、織斑が雪片を振り下ろした時の慣性や遠心力を打ち消すことで威力・スピードを落とせるから、単純にパワーやISの性能差だけじゃ語れないし。

 

『せあっ!!!』

 

織斑が袈裟懸けを繰り出し、俺は両手でそれを受け止める。視線が絡み合う。

がら空きな腹部を蹴り上げる。装甲がないからダイレクトにダメージが行くだろう。シールドエネルギーも一気に減った。

 

『ぐうっ……』

「がら空きだな」

 

ISのパワーアシスト+慣性倍増で蹴り上げたんだ。絶対防御は間違いなく発動してる。

でも衝撃までは殺せないから、織斑が苦悶の表情を浮かべて体をくの字に折った。……お前は殺してくださいとでも言うつもりなのか。隙を突かれた直後に隙だらけになってどうする。

 

訓練機であるこのテンペスタに搭載された、たったふたつの武装のうちの片割れ、63口径アサルトライフル「DDP01/Min」を展開し、頭部のハイパーセンサーを避けて狙い撃つ。

さっきの蹴りで相当シールドエネルギーの削れていた織斑は、再び絶対防御が発動し、残りはもう雀の涙だ。

でもこれでDDP01/Minは弾切れ、もう使えない。まったく、事前に確認しなかった俺も悪いが、訓練機とは言え1マガジンしか入れてないってどういうことだよ。使えない武器は要らないから収納してしまう。

 

……俺がISに乗れることが判明し、代表候補生、果ては代表となったのは13歳の時のことだ。だから、第1回や第2回のモンド・グロッソには出場していない。

だから、千冬さんとは直接に戦ったことはない。雪片も映像でしか知らない。正直、どきどきする。さっきのオルコットとの試合でもワンオフアビリティーを使っていた。俺はそのワンオフを是非、この目で見てみたかったんだ。

 

さっきの蹴りはもう警戒されてるだろうから威力半減、アサルトライフルは弾切れ。正真正銘の裏のない近接戦だ。

さあ、織斑。とっととそのワンオフ、使ってこいよ。

 

スラスターにエネルギーを溜め、瞬時加速を行う。

そのまま一文字に剣を振るう。最近のISは本当に装甲が少ないから、エネルギーを削りやすくて何よりだ。織斑は反応しきれずにモロに喰らう。

脇腹にしっかり入った一撃で完全に織斑のシールドエネルギーは切れたのか、ビーッと試合終了を告げるブザーが鳴った。

 

……あ、あのワンオフ楽しみにしてたのに。いっけね。

 

『試合終了、勝者アイリーン・ブルックス』

 

 

でもま、あの程度の一撃がなんとかできないようじゃ、ワンオフがあっても宝の持ち腐れだよな。織斑がもうちょっと腕を上げたら、何かの機会でワンオフを見せてもらうこととしよう。うん。

織斑はAピットに戻っていき、Cピットからはオルコットが出てきた。




戦闘描写クソ難しいです。

更新はこれからは週1~ペースになるでしょうか。
時間帯は12時、18時、19時のいずれかに投稿します。

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