東クロスベル街道、橋近くにレーヴェとシャーリィは来ていた。彼らの視線の先には今回、討伐する手配魔獣を見ることができた。
シャーリィは笑みを浮かべ、レーヴェに尋ねる。
「ねぇねぇ。あの魔獣ってどんな奴?」
「ゴールドスタチュー。錬金術で作られたと言われる邪悪な像。動きは遅いが、防御が非常に硬く、通常は雷を使った遠距離攻撃をしてくる。邪雷撃といった範囲攻撃もしてくるらしいな。」
「へぇ~。少しは歯ごたえがありそうかな♪」
テスタ=ロッタを片手で振り、やる気を見せるシャーリィ。そんなシャーリィを見ながらレーヴェは念の為確認する。
「シャーリィ。本当に戦うのか?お前は遊撃士ではない。何の報酬も貰えないぞ。」
「いいの、いいの♪暴れればそれでいいよ。それより6体いるから半分ずつね。合図はそっちに任せるから。」
まったくこちらを見ずに、答えるシャーリィに溜め息をつくレーヴェ。
(まるで餌に飛び付く前の獣の様だ。やはり、こっちが奴の本性か。気を付けていないと、こちらにも飛び掛かって来るかも知れんな。)
レーヴェは気を引き締めながら、剣を構えた。
「行くぞ!」
それを合図に、二人は魔獣に飛び掛かっていく。
まずはシャーリィが魔獣達に銃口を向け、ライフルを連射する。
「やあああ!」
ババババババ!!
魔獣達は突然の襲撃に混乱し、もろに銃弾を受ける。しかし、レーヴェの情報通り防御が硬い様で特にダメージは受けてない様子を見せる。魔獣達は反撃するように雷撃を放つ。
複数の青い雷がシャーリィに向かう。だがシャーリィは身軽に跳躍し、それを避け、懐に入りこむ。
「あははは!サクッと行こうかな?」
『ブラットストーム』
赤黒い闘気を纏ったシャーリィが魔獣達の間を駆け抜けながら斬りつけていく。強烈な斬撃に流石の魔獣も悲鳴を上げる。しかし、まだまだシャーリィの動きは止まらない。テスタ=ロッタのチェーンソーが唸りをあげ、また一体、また一体と命が刈られていく。
「きゃははは。もっと楽しませてよ!」
そこには、己が欲求のまま殺戮を楽しむ一人の赤い悪魔が存在していた。
一方、レーヴェは静かに魔獣と対峙していた。
構えたまま、動かないレーヴェに待ちきれなかった魔獣達は雷撃を放つ。雷撃がレーヴェを襲う。
『八葉一刀流ニの型、《疾風》』
魔獣達の目の前からレーヴェは消え、雷撃は地面に直撃する。そして、魔獣達は高速に動くレーヴェに斬り刻まれ、硬い筈の魔獣達の体がみるみるうちに傷付いていった。
レーヴェの動きが止まると、本能的に死を感じた魔獣達は邪雷撃を放つ。先程の雷より強力な雷が広範囲に振り注ぐ。そこに逃げ場はなく、いくつもの雷がレーヴェの体に直撃する。魔獣達は自分達の攻撃を受けたレーヴェに追い討ちをかけようとする。
しかし、魔獣達は困惑する。それは雷を受けたレーヴェの体が目の前で薄く透明になり、消えていったからだ。
動きを止めた彼らの後ろでその声が聞こえた。
「悪いが、それは分身だ。」
振り返った魔獣達が見たのはアーツを詠唱するレーヴェの姿。詠唱を止めようとする魔獣達。だが、それは既に遅かった。
『シルバーソーン』
白銀の剣が魔獣達を囲み、その下に魔方陣が現れる。そして、赤い光の柱が立ち上ぼった。赤い光の柱は魔獣達を呑みこみ消滅させるのだった。
「ふぅ。」
無事に魔獣達を倒したレーヴェは構えを解く。
(遠距離攻撃の雷撃は少し面倒だったが、動きが遅すぎる。俺の相手ではなかったな。しかし、八葉一刀流の技はやはり使える。これからも使わせてもらうか。…………さて、シャーリィの方も終わったようだな。)
レーヴェはシャーリィの方に目線を向ける。
そこには、チェーンソーを振り払い、最後の一体を斬り裂くシャーリィがいた。
「あーあ、終わっちゃった。もう少し遊びたかったなー。あ、そっちも終わったみたいだね♪」
「ああ。依頼は達成だ。帰るぞ。」
レーヴェはそう言うと背中を翻し、その場から離れていく。
「わわ。ちょっと待ってよ。シャーリィも行くよ!」
慌ててシャーリィもそれに続こうとする。しかしその時、彼女は視界の隅に見たことがない蒼い花を見つける。気になったシャーリィは走り、レーヴェを追い抜くと花の咲く場所にたどり着く。
「おい!何処に行く?」
「レオン待って!!何か見つけた!見て見て!」
彼女の呼び掛けにレーヴェは帰る足を止め、シャーリィの元に歩いていく。シャーリィは蒼い花の前でしゃがみこみ、じっとその花を見ていた。
「……その花は?」
「…………わかんない。あたしも初めて見たもん。」
その花はただ蒼いだけではなかった。その花を中心にぼんやりと蒼く光っているのだ。
(…俺もこんな花は見たことがない。クロスベルで咲く花なのか?しかし…この花。嫌な感じがする。触れるのは危険か…)
レーヴェがそう考えていると、
「あ、そうだ!これ綺麗だし、パパにプレゼントしよう!」
突然シャーリィはそう言って、蒼い花に手を伸ばす。
シャーリィの行動に驚き、レーヴェは止めようとする。
「待て!シャーリィ!触るな!!」
「へ?」
一歩遅かった。シャーリィの手が蒼い花に触れる。
その瞬間、蒼い光が溢れ、レーヴェ達の空間が歪んだ。気が付くとそこは紅い花が咲く森へと場所が移動していた。そして----奴はいた。
それは巨大な獅子だった。しかし、只の獅子ではない。紫の鬣に、深紅の体毛。背中に漆黒の翼があり、尻尾は大蛇。そして、目立つのは黄金に輝く巨大な牙と爪。この世の生物ではない姿。それが今、レーヴェ達の目と鼻の先にいるのだ。
「……何だ…貴様は?」
とてつもないプレッシャーにレーヴェは、無意識に剣を構えながら、目の前の存在に尋ねる。すると、頭の中に直接声が響く。
--我ワ--幻獣ノ--王-“ヴァーミリオン”--ナリ
「「!!」」
「何これ?頭に直接声が聞こえてくる!こいつが話してるの?」
シャーリィは突然の声に頭を抑え、驚く。
レーヴェも内心は驚くも、冷静にヴァーミリオンを見据える。
「幻獣の王…ヴァーミリオン。一体何しに現れた?」
また頭に声が響く。
--人ノ--子ヨ--我ニ-力-ヲミセテ-ミロ--
その声が聞こえ終わった瞬間、ヴァーミリオンが咆哮を上げる。
ガァァアアアア!!!
「っ!?下がれ!!」
レーヴェとシャーリィはヴァーミリオンから距離をとる為、後ろに下がる。そして、二人はそのまま戦闘態勢に入る。
シャーリィは今までにない威圧感に、額に汗をかくが戦闘狂の笑みを浮かべる。
「あはは!はははは!手応えがない魔獣で終わるかと思ったけど、何か楽しくなってきたー!!」
レーヴェは鋭い目でヴァーミリオンを睨み、魔剣ケルンバイター強く握った。
「どうやら戦うしか無いようだな。…いいだろう。剣帝の力、とくと味わうがいい!」
ガァアアア!!
最初に動いたのは、ヴァーミリオン。
《エアライド》
あの巨体から信じられない速さで突進してくる。
「あぶな!?」
「くっ!」
レーヴェ達は直感に従い、横に飛び、ギリギリ攻撃を避ける。ヴァーミリオンの一撃はレーヴェ達の後ろにあった木々を粉々にしていく。その光景を見れば、その一撃を受ける事=死に繋がることが容易に伝わる。
シャーリィは攻撃の隙を与えないよう、ヴァーミリオンにライフルを連射する。
「らああああ!」
バババババババババ!
だが、まるで効いていないかのようにヴァーミリオンは近付いてくる。そして、巨大な爪が振り被り、シャーリィに降ろそうとし、
「させん。斬!」
『洸破斬』
レーヴェの飛ぶ斬撃がヴァーミリオンの顔に当たり、その動きを止める。シャーリィはその隙を見逃さず、懐に入り、
「ふふ。簡単に壊れないでよね!!」
『ブラッティクロス』
至近距離での連射からの強烈な斬撃がヴァーミリオンの腕に直撃する。今度は効いたようで、その腕から血が流れる。傷を付けられた事に怒りを覚えたのか、ヴァーミリオンは尻尾の大蛇を乱暴に振り回す。
「うわ!?」
近づき過ぎていたシャーリィはなんとか避けようとするも、少しだけ体に掠り吹き飛ばされ、木に激突する。
「がは!!」
シャーリィは背中の衝撃に、肺から空気が抜け、すぐには動けない。大蛇の口がシャーリィの方向に開く。
(やばい、何かくる!?)
《ワンダーブレス》
大蛇の口から紫色のブレスが放たれた。
ブレスがシャーリィにかかる寸前、金剛石の盾がそれを防ぐ。
『アダマスシールド』
レーヴェがギリギリのタイミングで詠唱を間に合わせたのだ。レーヴェはシャーリィが攻撃されないよう、ヴァーミリオンに急接近し、闘気を纏った斬撃をお見舞いする。
「喰らうがいい。」
『破砕剣』
強力な衝撃がヴァーミリオンの体を後ろに下がらせた。
グルルル!
レーヴェを警戒するヴァーミリオン。
様子を伺い、攻めて来ない。
レーヴェは手数を増やし、こちらから攻めることを決める。
「そちらが来ないなら、こちらから攻めさせてもらう。」
『分身』
分身が一体増え、左右から二人のレーヴェがヴァーミリオンに斬りかかる。ヴァーミリオンは左の分身を狙い爪を縦に振るう。分身のレーヴェは剣を使い、爪を上手くずらし、腕を斬りつける。
ヴァーミリオンは攻撃されながらも、今度は右の本体のレーヴェにも爪を横に振るう。
レーヴェは分身と同じように剣で受け流す構えをする。
しかし、攻撃する爪が発光しているのに気付き、紙一重で避ける。
《バニッシュエッジ》
レーヴェが避けた爪を分身が剣で受けた瞬間、分身は何処かに転移するように消えてしまった。
(チっ。厄介な攻撃を。迂闊に受け流すことも出来ないな。ならば!)
レーヴェはバックステップで距離をとり、アーツを詠唱する。そうはさせまいとヴァーミリオンが距離を詰めようと走る。しかし、
「あたしの事忘れたらダメだよ♪」
いつの間にか回復したシャーリィがヴァーミリオンの頭に飛び乗り、零距離状態で銃口を合わせる。
「あははは!燃えちゃえ!!」
『フレイムチャージ』
ヴァーミリオンの顔に火炎放射器の炎が投射された。炎が燃え広がると同時にシャーリィは飛び降り離れる。
グアアアアアアア!!
顔が燃えているヴァーミリオンは苦しむ声を上げながら、炎を消す為、頭を地面に擦り付けている。
そこにレーヴェのアーツが追い討ちを掛けるように発動する。
『アヴァロンゲート』
幻属性最上位アーツの一つ。理想郷の門が開け、その中から幾重もの聖槍が飛び出し、ヴァーミリオンの体に降り注いでいく。
ガァアアアァァ!?
ヴァーミリオンは堪らず、倒れる。その体はいくつもの穴が開き、血が吹き出している。
(ククク。我ガ人間ニココマデ…追イ詰メラレルトハ。デハ、最後ノ悪足掻キヲサセテ…モラオウカ。)
ヴァーミリオンは最後の力を振り絞り、立ち上がると、アーツの詠唱を始める。
発動しようとしているのは『ルシフェンウィング』。
時属性最高位アーツ。魔神ルシフェルを召喚し、相手を滅ぼす恐ろしいものだ。発動すればレーヴェ達は只ですまないだろう。
レーヴェは相手のアーツを止める為、戦技を使う。
「遅い!」
『零ストーム』
剣先から竜巻が発生し、詠唱するヴァーミリオンに直撃する。
「馬鹿な!?」
詠唱は止まらない。相手は自分の体が傷つこうと構わず、詠唱しているのだ。その様子にレーヴェ達はこれを発動させたら自分達が危険ということが分かり、止めを指す為、己が最高のクラフトを放つ。
「テスタ=ロッタ、行こうか!!」
「受けてみよ…《剣帝》の一撃を……」
『デス・パレード』『鬼炎斬』
銃撃、火炎放射、斬撃。全てを組み合わせたシャーリィの必殺、レーヴェの炎の一撃が炸裂する。
グググゥウウ!
だが、ヴァーミリオンには止めには後一歩足りない。
あと少しでアーツが発動してしまう。
(耐エタ…我ノ勝チ--)
しかし、、、ヴァーミリオンが勝利を確信した瞬間、彼は今まで感じたことがない冷気を感じた。
パキパキ。パキパキパキ。
ヴァーミリオンの視線の先に、全てを凍てつかせる剣帝が剣を構えていた。
「燃え盛る業火であろうと砕き散らすのみ····ハァァァ····滅!!!」
【絶技・冥皇剣】
剣から溢れ出る冷気が触れるもの全てを凍らせ、そしてヴァーミリオンの命を砕き散らした。
ーー見事ダーーー人間ーーーーー
また気が付くと、いつの間にか元の東クロスベル街道に戻ってきていた。
(やっと戻ってきた。)
レーヴェとシャーリィはその事に安心すると、今まで溜めていた疲れを解放するように倒れ、気絶するのだった。
その側には蒼い花が労うように揺らいでいた。