アルモリカ村、宿酒場「トネリコ亭」。
あの後、目を覚ましたレーヴェ達は、遅めの昼食を此処で取ることにした。レーヴェは、名物の匠風オムライスを。シャーリィは大盛りの匠風オムライス。そしてスイートショコラを注文した。
「ねぇ、本当に奢ってくれるの?」
「ああ。依頼に協力してくれた報酬と思ってくれ。」
「んー。別に気にしなくてもはよかったのになー。でも、お腹減ったからご馳走になります!」
「遠慮せず、食べろ。」
そして、注文した料理が届き、レーヴェ達は食べ始めた。
「美味しー♪やっぱり沢山動いた後の食事は最高だよね!」
シャーリィは、華奢な見た目とは裏腹によく食べる。それを知らなかったレーヴェは最初、大盛りを頼むシャーリィを食べきれるかどうか心配した。
しかし、そんな心配を裏切り、シャーリィは次々とオムライスを口に運び、大盛りのオムライスをあっという間に食べ尽くしたのだ。一体その胃袋はどうなっているのか。レーヴェは疑問に思った。しかも、
「ふーっ。ごちそうさま!さて次はデザート♪あ、これ甘~い♪美味しー!」
食べ終わったかと思えば、またすぐに食べ始めるのだ。
暫く唖然としてシャーリィを見つめたレーヴェは、人を見た目だけで判断するのは駄目だと理解し、自分も食事を再開するのだった。
昼食後、まだ食べ足りないと言ってデザートをおかわりしているシャーリィを置いて、レーヴェは先に外へ出ていた。
「ふぅ。」
(あれ以上食べる光景を見ていたら、こちらの気分が悪くなるな。何処か気分転換が出来る場所に移動するか。)
そう思ったレーヴェは場所を移動し、見晴らしがいい場所にたどり着く。そこでは、美しい田園風景が目の前に広がっていた。
(綺麗だな…それにどこか懐かしい。この村が故郷ハーメル村と似ているからだろうか。…昔は、ヨシュアとカリン三人で、こんな景色を見ながらもカリンのハーモニカの演奏を聴いていたな。)
田園風景を見て昔の事を思い出したレーヴェは、懐から銀色のハーモニカを取り出す。
そして、彼女が演奏していた曲<星の在り処>を思い出しながらハーモニカを吹くのだった。
パチパチパチパチ
吹き終わると拍手が聞こえた。振り返ってみるとそこには、笑顔のシャーリィが立っていた。
「聴いていたのか?」
「うん。外に出たら、ハーモニカの音色が聞こえたから見に来たの。あたし、音楽とか聴いてると眠たくなるんだけど、この曲は何でか眠たくならなったよ。
この曲、いい曲だね。気に入っちゃった♪」
純粋に気に入ったことを伝えるシャーリィに、レーヴェも同意するよう頷く。
「この曲は<星の在り処>という曲だ。俺も気に入っている。」
「誰かに教わったの?」
「………カリンといって、俺と同じ故郷に住んでいた幼なじみで恋人の女性がいた。その彼女がよく演奏してくれていてな。それで覚えた。」
何処か哀しげな笑みを浮かべて告げるレーヴェに、シャーリィは疑問を覚えながらも尋ねる。
「ふーん…その人は今なにをしてるの?」
「死んだよ。村が猟兵団に襲われてな。」
「そっかー。1度会って、そのカリンって人のハーモニカの演奏も聴いてみたかったなー。」
ごく自然にそう返すシャーリィに、レーヴェは笑うのを堪えきれず、笑ってしまう。シャーリィはなぜ笑われるか分からない顔をする。
「くくくっ。普通こういった話をすると謝られるか、同情されるんだが、シャーリィは違うようだな。人の死に何も感じないか?」
「う~ん?シャーリィにはよく分からないなー。だってあたしにとって《死》は当たり前だもん。」
シャーリィは、生まれた時に母が早くも病死した。そして、物心付いたときには戦場の中におり、猟兵達に囲まれて生きてきた。
そんな彼女は、小さい時から沢山の死を見てきた。自分に初めて銃の撃ち方を教えてくれた男が、次の日には自分の目の前で頭を撃たれ死んだ。
「可愛い、可愛い。」と姉のように可愛いがってくれていた女性も次の日に敵から自分を守る為、銃弾を背中に受け死んだ。
休憩に立ち寄った村で仲良くなった同年代の少年は、自分達の戦闘に巻き込まれ死んだ。
他にも沢山の死を見続けてきた彼女は、いつしか人の死に何も感じなくなった。また、子どもの楽しみがない戦場で彼女自らが人を殺すようになった時、自然と『戦争・殺し合い』に歓びを見出す事にもなった。
今日、明日、《生きる》。その事が当たり前の人にとって、《死》は怖いし、悲しいものだ。しかし、シャーリィは違う。戦場では今日、明日には死ぬ人が大勢いる。生きることは難しい。そう《死》が当たり前なのだ。だから誰かが死んだと聞いても残念がることはあるが、悲しむことはない。
「……………………。」
「ふ~ん♪ふふん♪」
レーヴェは先程の話を気にする事なく鼻歌を歌うシャーリィを見つめる。
執行者であった時、結社からの指示で何度か戦場に入った事があるレーヴェは、シャーリィが今までどのように生きてきたか、大体察する事が出来た。
なので彼女の考えおかしいと責める事も出来ないし、責めようとも思わなかった。
ただ一つだけ彼女に伝えたい事があった。
「シャーリィ。」
「ん。なーに?」
「強い人間とは、どんな人だと思う?」
「強い人間かー。えっと戦う力が強くて頭が良い人かな?パパみたいな。」
シャーリィの答えに、レーヴェは
「……そうだな。一般的にはそう考えてもいいかも知れない。…だが俺は強い力にも屈しない強い心をもつ人だと思っている。」
「強い心をもつ人?」
シャーリィはよく分からない様子を見せる。
レーヴェはカリンのことを思い出しながら言葉を続ける。
「そうだ。俺が知っている強い人は、どんなに相手が自分より力があろうと屈しず、大切な人を守る為に迷わず命を懸けていた。例え強大な力の前でも人は無力じゃない事を教えてくれた。」
「……。ごめん、よく分かんない。」
分からない事が申し訳ないように顔を下に向けるシャーリィに、レーヴェは笑みを浮かべ、その頭を撫でる。
「いいんだ。ただ覚えておいてくれ。…俺はいつかシャーリィにもそんな強い人間になってほしいと思っていることを。」
意味は分からない。だが、その時の手の温もりとレーヴェの優しい笑顔が頭に残るシャーリィであった。
その後、レーヴェ達はクロスベル市に到着し、別れることになった。「またねー♪」と元気に手を振り、離れていくシャーリィに苦笑しながらレーヴェも手を振る。
レーヴェはシャーリィが見えなくなると、手を振るのをやめ、遊撃士協会に報告に向かった。
遊撃士協会に到着したレーヴェを待っていたのは慌ただしく動くミシェルの姿だった。
(ん?何かあったのか?心当たりといえばあの蒼い花のことしかないが。まぁとにかく聞いてみるか。)
「ミシェル。今戻った。何があった?」
「レオンハルト君!ちょうどよかった。警備隊から連絡があって各地で正体不明の大型魔獣が目撃されているの。そして、その対策をウチと特務支援課で担当する事になったわ。」
(正体不明の大型魔獣…俺達が戦ったアイツとやはり関係があるのか?)
「…なるほど。俺はどうすればいい?」
「少し前からオルキスタワーで詳しい説明が始まってるの。アリオスはレミフェリアに行っているから動けないけど。リン、エオリア、スコット、ヴェンツェルは既に向かっているからレオンハルト君も行ってちょうだい。」
「分かった。」
レーヴェは頷くと、遊撃士協会を出て、オルキスタワーに向かうのだった。
オルキスタワー合同会議室。
そこには、警備隊のソーニャ司令とダグラス副司令に、スコット達遊撃士、特務支援課のメンバーが揃って説明を受けていた。
正体不明の大型魔獣は幻獣という名前にまとめられ、出現場所、確認されている魔物種類等が説明された。
そして今、彼らが呼ばれた理由がダグラス副司令から説明される。
「これらの幻獣についての対応をギルドと特務支援課の双方に頼みたい。…独立提唱がなされて以来、ベルガード、タングラム両門で、やや緊張状態が続いている。せめて住民投票が終わるまでは、門の警備に集中しておきたいんだ。」
「……分かりました。引き受けさせて頂きます。」
「分担に関してはこちらに任せてもらっても?」
ロイドが了承し、ダークブラウンの髪の青年スコットが確認する。
ソーニャ司令は頷き、口を開く。
「ええ、データをお渡しするから、そちらにお任せするわ。それと……“原因”の特定も出来れば頼みたいの。」
「原因……?なぜそうした《幻獣》が現れたか、ですか?」
ティオが尋ねる。
「ええ、魔獣の発生は昔から一定のサイクルで起きているけど……この《幻獣》に関してはそこから外れた“異常事態”と言っても過言ではないでしょう。」
ダグラス副司令が言葉を続ける。
「間違いなく何か原因がある筈だ。“場を歪み”を発生させて、常識外れの大型魔獣が現れるだけの原因がな。」
「---その原因について一つ心当たりがある。」
そう言って会議室に入ってきた人物に全員の視線が集まる。リンとエオリアがその人物に気付き、声を上げる。
「レオンハルトさん!」
「戻ってきたんですね!?」
「ああ。ついさっきこちらに戻ってきた所だ。遅くなってすまない。」
レーヴェはソーニャ司令の方を向き、自己紹介をする。
「はじめまして。クロスベルE級遊撃士のレオンハルトだ。よろしく頼む。」
「ええ、はじめまして。警備隊司令のソーニャよ。色々聞きたい事がありますが、まず先程の心当たりという話しを聞いていいかしら?」
レーヴェは頷くと、自分が手配魔獣討伐に行った場所で、不思議な蒼い花を見つけたこと。それに触れた瞬間、空間が歪み、気付いたら見たことがない場所に飛ばされたこと。そして、幻獣の王を名乗るヴァーミリオンという魔獣と戦闘になったことを説明した。
ソーニャ司令は、レーヴェの話しに考え込みながら確認する。
「……つまり、幻獣の出現の原因には、その蒼い花が関係があるということね?」
「ああ、俺はそう考えている。ちなみにその幻獣を倒して元の場所に戻ることができた後、もう一度蒼い花に触れたが何も起こらなかった。」
ロイドが手を挙げ、レーヴェに聞く。
「すみません、特務支援課のロイド・バニングスです。一つだけ聞いてもよろしいですか?」
「構わない。」
「ありがとうございます。では先程の話でその現象に巻き込まれたのは、貴方だけですか?誰か他に確認が取れる人物は?」
「そうだな、シャーリィ・オルランドという猟兵も一緒だった。」
「!!」
レーヴェの言葉に特務支援課のメンバーは驚く。
そして、ランディが声を低くし、
「おい…何でそこであの小娘の名前がでる?」
殺気を込めたランディの視線に、レーヴェは真っ直ぐにその目を見ながら答える。
「街でばったりと会ってな。暇潰しと言って俺について来た。それだけだ。」
「はっ。シャーリィが普通の奴に着いていくかよ。てめえ何者だ?」
「先程言った筈だ。遊撃士だと。」
「………………。」
会議室に緊張がはしる。その空気を変えたのはロイドだった。
「ランディ、いい加減にしろ。レオンハルトさん、すみません。こちらの者が失礼な真似を。質問に答えて頂きありがとうございました。」
レーヴェは何でもないように首を横に振る。
「気にしていない。そちらにも色々とある様だしな。」
パン。
手を叩きソーニャ司令が視線を集める。
「はい、今日はここまでにしましょう。レオンハルトさん、後で詳しい情報をデータで送って下さい。確認した後、特務支援課にもデータを送りますから。…では皆さん、レオンハルトさんの情報も考慮しながら、クロスベルの異変の調査よろしくお願いするわ。」
こうして、少し気まずい雰囲気のなか、会議は終わることになった。
オルキスタワーを出た特務支援課とギルドは仕事の分担について話す。
「警備隊から回ってきた依頼は全部で5件。そのうち2件は君達が、後の3件はこちらで対処しよう。」
そう告げるスコットに、ロイド達は驚く。
ワジとロイドが口を開く。
「へぇ、随分と気前良いじゃない?」
「いいんですか?そちらの分担が多くても……ただでさえ今はアリオスさんが動けない状況なのに……」
ロイドの言葉に、リンとエオリアが答える。
「だからこそ、さ。彼が動けない分、アンタ達にも必ずしわ寄せがくる筈だよ。」
「元より、魔獣退治は遊撃士(私達)の十八番……お互い他の仕事もあるし、効率的に分担すべきでしょう。」
ギルドの気遣いに、エリィは感謝を、ノエルは申し訳なく思う。
「…助かります。」
「な、何だか申し訳ないですね……」
スコットが気にするなと手を横に振り、話す。
「なに、お互い様だ。それに、君達には《結社》の問題もあるからな。」
「…結社《身喰らう蛇》。……何でも遊撃士協会とも色々と因縁があるとか?」
ティオの質問にエオリアが苦い顔をし、答える。
「ええ、リベールの異変ではエステルちゃん達を始めとする遊撃士がやり合ったし……それ以外にも各地の事件で幾度となくぶつかっているわね。」
金髪の青年ヴェンツェルは、話しを続ける。
「…………帝国のギルドが一時壊滅的状態に陥ったのも奴らの仕業だと言われている。……もっともその後の衰退の原因は、帝国軍の圧力によるものだがな。」
ロイドは、自分達と敵対する組織の厄介さに顔をしかめる。
「そうだったんですか……聞けば聞くほど厄介な組織のようですね。」
「そうだな。俺達もまだ実態が掴めていない。もし奴らに関して情報が手にはいれば連絡するがいい。」
「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします。」
話しが一段落した所でロイド達に近付く小さな影があった。
「ロイドーーー!!」
ロイドの腰に黄緑色の髪の少女が抱き付く。特務支援課のメンバーはすぐに誰か気が付いた。
「キーア!」
「キーアちゃん!」
「お、キー坊!」
そこには特務支援課で預かっている少女、キーアの姿があった。ロイドは驚きながらも嬉しそうにキーアを抱き締める。
「キーア、どうしてここに?」
「んっとねー、このおっきな塔を見に来たの♪そしたらロイド達がいておどろいちゃった!」
「そっか。オルキスタワーを見に来たのか。1人で来たのか?」
「ううん。課長と一緒に来た。さっき分かれたけど。ねぇねぇロイド。この人達はギルドの人だよね?キーア知ってるよ。前に会ったことあるもん。」
キーアに視線を向けられ、会ったことがある4人、スコットとヴェンツェルは手を振り、リンは抱き付こうと飛び出そうとするエオリアを羽交い締めにし、笑顔を返す。キーアは笑顔で手を振っていたが、1人だけ知らない人がいる事に気付き動きを止める。
(あれ~この銀髪のお兄さん、見たことがないな~。初めて会う人かな?あいさつしないと!)
キーアは、ロイドから離れると、レーヴェの前に移動し笑顔で握手を求める。
「初めまして!ロイド達と一緒に住んでいるキーアといいます。」
レーヴェは笑顔のキーアにつられる様に薄く笑みを浮かべ、自己紹介する。
「…初めまして。遊撃士のレオンハルトだ。よろしく頼む。」
そう言って、キーアの小さな手を握る。その瞬間、
ーーータスケテーーー
彼の頭の中に声が響き、別の記憶が流れ込んできた。
(燃え盛るクロスベル市、クロイス一族の歴史、そして、キーアが零の秘宝となり、共和国、帝国の軍を退ける姿)
そこまで見えた所で酷い頭痛がレーヴェを襲い、レーヴェはキーアの手を離し、頭を抑える。キーアはその様子に驚く。
「ぐっ!?」
「きゃ!?」
いきなりの出来事にロイド達は茫然していたが、すぐに
慌て二人に駆けよる。
「「キーア大丈夫!?」」
「「レオンハルトさん大丈夫ですか!?」」
「き、キーアは大丈夫だよ。でもお兄さんが…」
「………………。」
レーヴェはまだ少し痛む様に頭を抑え、黙っていた。ロイドがゆっくりとレーヴェに近付き、レーヴェの体調を確認する。
「レオンハルトさん、大丈夫ですか?」
ロイドの言葉にレーヴェは抑えていた手を離し、頭を下げ、大丈夫な事を伝える。
「……すまない。どうやら一時的な頭痛だったらしい。もう大丈夫だ。心配をかけた。」
「本当ですか?良かったら病院まで送りますけど……」
「いや、平気だ。キーア、驚かせてすまない。」
「いいよ。キーアびっくりしただけだから…」
様子を見ていたリン達も休むように声を掛けるが、レーヴェは首を横に振る。
「いや、休むわけにはいかない。やるべき事……確認したい事ができた。すまないが、俺は別行動にさせてもらう。何かあれば連絡してくれ。」
「え、レオンハルトさん!?」
そう言ってレーヴェは心配するロイド達を置いて、その場を去って行った。
レーヴェは先程自分が見た記憶について考えていた。
(あの記憶が正しかったとして、俺に出来ることがあるのか?……いや、まずはこの記憶が正しいか情報を集めないとな。……そして、出来ることを探そう。)
こうしてレーヴェは、手に入れた記憶を確かめる為、出来る事を探す為に動き始めた。