「……どうして…ここに?」
エオリアの茫然とした声に、レーヴェは苦笑しながら答える。また、言い終わると同時につばぜり合いをしていた剣を力ずくで振り切った。
「…情報収集の際に、結社が此処にいる事を突き止めてな。此処に来ようとしてたんだ。そしたらエオリア達が向かったという話を聞いて驚いた…ぞ!」
「きゃ!」
レーヴェとつばぜり合いをしていたデュバリィ。突然振り切られバランスを崩すが、追撃されない様にバックステップで距離を取る。
そして、彼女は宿命の敵を見るようにレーヴェを睨み付け、笑顔を作る。
「ふふふふ……《剣帝》レオンハルト…貴方が生き返った事は、カンパネルラに聞きました。……正直それを聞いた時は、嬉しかったですわ…だって私達は、数えきれない程の手合わせをし、互いに剣技を磨いた好敵手!やはり、決着を着かずして終わるのは許されないのです!貴方に勝つ事で……私は今度こそ親愛なるマスターに、私の方が上だということを証明する事ができりゅんですわ!あ…………。」
その言葉にレーヴェは笑いを堪えることが出来ず、笑いながらデュバリィのミスを指摘する。
「くくくく。“できりゅん”?格好つけるのは構わんが、最後に噛んだら駄目だろう……相変わらずデュバリィは、締まらないな。後ついでに聞くが、俺はいつお前の好敵手なったんだ?初めて聞いたぞ。それに決着は俺が99勝1負けで勝利した筈だが、まだするのか?」
レーヴェの指摘に顔を真っ赤に染めたデュバリィは、怒る様に地団駄を踏む。
「う、うるさい!うるさい!うるさいですわ〰!!と・に・か・くマスターの命より、その遊撃士達を拘束します。それを邪魔するなら只じゃおかないですわ!」
「…残念だが、それは阻止させてもらうか。…エオリア。リンを連れて、湿地帯から脱出しろ。」
「え!?…レオンハルトさんは、どうするんですか!?レオンハルトさんが残るなら私も--」
レーヴェの指示に驚いたエオリアは、自分も戦う事を伝えようとするが、それをレーヴェに遮られる。
厳しく冷たい声が響く。
「はっきり言うが、足手まといだ。エオリア、お前は戦えるとして、リンはどうする?先程追い詰められていたお前が守りながら戦うのか?…それとも俺に二人を守りながら戦えというのか?……どうすれば一番良いのか、分からない筈はないだろう!」
エオリアはレーヴェの言葉に、自分の力不足を痛感し、悔し涙が流す。そして、唇を噛み締めてレーヴェに頭を下げると、リンを抱き上げ駆けていった。
「ちょ、ちょっと待ちなさいですわ!そう簡単に逃がすわけないでしょう!」
デュバリィ達は、逃げようとするエオリア達を追おうとする。しかし、
「斬!!」
その行く手をレーヴェの斬撃が阻み、地面に溝を作る。
体から凄まじい闘気を出すレーヴェが、静かに告げる。
「ここを通りたかったら…我が一撃をその身で受ける覚悟を決めろ。」
レーヴェの気迫に、デュバリィ達は完全に足が止まり、レーヴェを睨み付ける。
鉄騎隊はレーヴェの実力を身に染みて知っている。
唯一速さはレーヴェに匹敵するデュバリィが、レーヴェを振りきれる可能性があるが、それをすると他の二人ではレーヴェを止めきれない。だからデュバリィも動きたくても動けないのだ。
遊撃士達の拘束を諦めたデュバリィは、顔を悔しげに歪めながら、剣を構える。
「ほんと貴方は邪魔ばかり…アイネス、エンネア!やりますわよ!」
「相手にとって不足なし!」
「鉄騎隊の本当の力、見せてあげましょう。」
リン達と戦った時以上の闘気がデュバリィ達から溢れ出す。
(ほう。以前に戦った時よりも気迫が違う。隙もない。まぁ、あの人の元で鍛練すれば成長するのは当然のことか。では、その直弟子の力、見せてもらうか。)
「行くぞ!」
初手はレーヴェの攻撃から始まった。
レーヴェが一気に横に剣を振るう。横の斬撃が飛び、デュバリィ達に向かった。それに反応したのは、アイネス。
振りかぶったハルバードを地面に降り下ろす。
「はぁああ!」
『地裂斬』
地面を割れる程の斬撃がレーヴェの斬撃とぶつかり、打ち消した。
それと同時にデュバリィがレーヴェに急接近する。
『瞬迅剣』
神速の剣がレーヴェの喉元に迫るが、レーヴェはその速度に反応し、紙一重でその一撃を後ろに避けた。自分の剣が避けられた事にデュバリィは顔を歪めながらも、追撃する。
「まだまだ!」
剣に炎を纏わせた回転斬りをレーヴェに見舞う。レーヴェは剣を盾にして攻撃を受ける。
『豪炎剣』
炎の斬撃がレーヴェの剣腹に直撃し、レーヴェの体が後ろへ飛ばされた。しかし、飛ばされながらもアーツを詠唱し、発動させる。
「これはお返しだ。」
『フレアバタフライ』
火の蝶がデュバリィを取り囲み、爆発しようとする。その時、デュバリィは避ける事もせず、剣を構えていた。
「しゃらくさいですわ!」
『豪雪剣』
先程の炎の斬撃とは真逆の氷の剣が蝶達を凪ぎ払う。蝶達は爆発することなく、消滅していく。
アーツをクラフトで無効化するデュバリィに、レーヴェは驚きながらも、地面に着地すると、危険を感じてすぐさまその場を離れる。すると、
『デビルズアロー』
即死効果がついた矢の雨が、レーヴェのいた場所に降り注ぐ。エンネアの範囲攻撃である。エンネアは、立て続け広範囲に矢を射る。
『エンジェルアロー』
『メデュースアロー』
混乱、石化の効果を与える矢の大雨が、レーヴェの逃げ場を無くし、降り注ぐ。
逃げ切れないと分かったレーヴェは立ち止まると、その場で自分に当たる矢だけを斬り落とし始めた。
「うおおお!」
矢じりを弾く、反らす、斬る。雨が止むまで、レーヴェの動きは止まらない。全ての矢が降り注ぎ終わった時、レーヴェの立つ場所以外、周りが矢で埋め尽くされていた。
(そんな!?全て防がれるなんて!一体何十本放ったと思ってるのよ…)
エンネアは自分の矢がかすり傷も負わせられなかった事に歯噛みする。だがすぐに切り替えると、仲間の支援に集中する為、デュバリィに矢を放つ。
「受け取りなさい!デュバリィ!」
『アクセルアロー』
時の力を込めた矢がデュバリィに更なる加速を与える。
デュバリィは加速した体で、レーヴェに接近しながら、クラフトを自分に使用した。
「我が分身よ、現れなさい!」
『分け身』
デュバリィが3人に分身し、レーヴェに3体同時に斬りかかる。
「くらい…」
「なさい…」
「ですわ!」
縦、横、突きの斬撃が迫る。それに対し、レーヴェは八葉一刀流の構えで待ち構える。デュバリィがそれに気付いた時には、もう遅かった。
『八葉一刀流 秘技《裏疾風》』
レーヴェの姿が消えたと一緒に、一撃目の斬撃でデュバリィ達の剣が全て弾かれ、二撃目がその背中に直撃する。その一撃に分身の2体は消え、本体のデュバリィも痛みに膝をつく。
「隊長!?おのれ、よくも!」
隙を窺っていたアイネスはそれを見て怒り、レーヴェに飛び掛かる。しかし、感情的な攻撃は単調になる。レーヴェは、アイネスの攻撃を軽々と避けていき、振り切って伸びたその手首を剣で峰打ちした。
骨が砕ける音が聞こえ、アイネスは激痛にハルバードを落とす。急いで反対の手で取ろうとするが、そこにレーヴェの一撃が腹部に決まり、その強烈な衝撃によって彼女は意識を失った。
地面に倒れるアイネスに目も暮れず、レーヴェはエンネアに向かって駆ける。接近させない様に、連続で矢を放つエンネアだが、その正確無比な矢はレーヴェを捉えきれない。そして、彼女の視界からレーヴェが消える。
「え、何処に!?」
「ここだ。」
その声はすぐ側で聞こえた。
『瞬迅剣』
神速の剣がエンネアを切り刻み、血の花を咲かせた。血を失った彼女は力が抜け、ゆっくりと倒れていった。倒れたエンネアは途切れそうな意識の中、レーヴェに尋ねる。
「…どうして……デュバリィの……技が…」
「アイツとは嫌になるほど手合わせをしているからな。教えてもらわんでも自然に覚える。」
エンネアはその言葉を聞いて、苦笑する。そして、そこで彼女の意識も完全に途切れた。レーヴェは意識を失ったエンネアに、水属性回復アーツ『ティアオル』をかけて傷口を防ぐ。これで出血によって死ぬことはないだろう。そこまでした所で、立ち上がる気配を感じ、レーヴェはそちらに視線を向ける。
彼の視線の先には、体を震わせ、剣を構えるデュバリィの姿があった。彼女の顔は下を向いていて、表情は見ることができない。
いつもの彼女とは違う静かな声が耳に届く。
「…どうして…どうしてですの?…そこまでの力があるのに…」
「何が言いたい?」
歯ぎしりの音が聞こえ、デュバリィの体から怒気と共に黒い闘気が滲み出る。
「…あの方に…マスターに…認められてるくせに-!!」
デュバリィが叫びを上げた瞬間、彼女の姿が消え、レーヴェに無数の斬撃が襲ってきた。かろうじて見える斬撃に何とか剣を合わせるが、それでも防ぎきれない斬撃がレーヴェの体に軽い傷を負わせていく。しかも、あまりの速さに反撃が出来ず、防戦一方になる。
デュバリィは攻撃を重ねながら自分の思いを叫ぶ。
「あの方に!認められ!期待されていた!何に!貴方は!裏切った!どうしてですの!?」
段々と力と速さが上がってくる斬撃に、顔をしかめるながらも、レーヴェは口を開く。
「結社の道と俺の道が別たれたからだ!デュバリィ!結社のやり方で世界は変わるのか!?本当にそれが正しいと思うのか!?」
「知りませんわ!そんなこと!私はマスターが進む道を信じるだけですわ!!」
迷いのない目で言い切るデュバリィに、レーヴェは苦笑するが、すぐに真剣な表情を浮かべた。目の前にデュバリィの剣先が迫ってくる。レーヴェは冷静にそれを見つめ、彼女に伝える。
「…お前の純粋にあの人を信じる気持ち。それはお前の良い所でもある。だがな……それじゃ俺にも、あの人にも届かない。」
「え?」
デュバリィの剣先が当たる瞬間、レーヴェの剣先がそれを止めた。自分の最速の剣を剣先で止めた神業に、デュバリィは目を見開く。そして、そこから一気に立場が逆転した。神速のデュバリィでも追えない速さの斬撃の嵐が彼女を襲う。
「っう。」
「考えろ!見つけろ!自分だけの“信念”、“答え”に沿った道を!他人の道でなく、自分の道を信じろ!俺はリベールで、“信念”は合ったが、“答え”を得ていなかった!だからこそ負けた!…だが其処で、俺は足りなかった“答え”は得たぞ!!」
「くっ!」
力が増していく斬撃にデュバリィの体が悲鳴を上げ、至るところに傷が刻まれていく。彼女は苦悶の表情を浮かべる。それは、肉体的な苦痛でなのか、精神的な苦痛なのか、彼女自身も分からなかった。
「例え世話になったあの人と戦う事になろうと!俺は気付かせてくれた彼奴らの為にも!どんなことが有ろうと自分の道を貫き通す!その覚悟を持って此処にいる!!!」
今までより強力な斬撃が放たれる。そして、
パキン
何かが折れる音が聞こえた。
「あ…」
デュバリィは、自分の手に握っている物を見つめる。彼女が見つめる先には、レーヴェの斬撃に耐えきれず、半ばで折れたデュバリィの愛剣があった。頭がそれを理解すると共に、彼女は崩れ落ちる。体力的にも精神的にも、もう限界だったのだ。
(負けた…どうして?…私はマスターの直弟子なのに…自分の道?…分からない……私はマスターだけを…信じて…それじゃ…駄目なの?……)
レーヴェは、剣を止め、茫然自失になっているデュバリィを見つめる。彼女の姿に心が痛むが、こればかりは、彼女自身が乗り越えていかないと意味がないと割り切り、剣を収め、背を向けて歩き出した。
(デュバリィ。俺はもう伝える事は伝えた。後は、お前次第だ。次に会うのを楽しみにしているぞ。……さて鉄騎隊の事はもう大丈夫だろう。後は…場所を移動するか。)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
レーヴェは、鉄騎隊と戦った場所から、湿地帯奥地までの丁度中間地点で足を止める。そこは開けた場所で、周りには魔獣はいない。しかし、彼は剣を取り、構える。
「…いるんだろう?出てこい。それとも姿を見せずして、我が剣の錆びになるか?」
レーヴェが殺気を周囲に放ちながら、探る様に周りを見渡す。すると、返事はこなかったが、代わりにクナイがレーヴェに向かって飛んでくる。彼は反射的にクナイを斬り落とす。真っ二つに割れたクナイがレーヴェの足元に落ちた。
レーヴェは、ゆっくりとクナイがきた方に視線を向ける。そこには、銀の仮面と黒装束に身を包んだ人物が、いつの間にか立っていた。