剣帝の軌跡   作:くろけん

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第14話 東方の魔人

 

 黒装束と仮面を身に付けた謎の人物。見た感じは、女性ではなく、男性の体つきに見える。この時点では、それしか判断出来る物はない。そう思ったレーヴェは、目の前の人物を仮面の男と認識した。

 

レーヴェと仮面の男は、口を開かず、お互いに向かい合っている。その間には氷が張ったような静けさがあった。見つめ合う二人、そして、最初にその沈黙を破ったのはレーヴェではなく、仮面の男の方。

男とも、女ともとれる中性的な声が静寂の中、響き渡る。

 

「--フフ。流石は剣帝殿。まさか悟られるとは…これでも気配を消す事には自信があったのだがな。“何時から”気付いていた?」

 

仮面の男は、こちらにそう話し掛けながらも、殺気を飛ばし、隙を窺っている様子を見せる。レーヴェは隙を見せない様に警戒しつつも、答える。

 

「……“最初”からだ。言っただろう?“ここを通りたかったら…我が一撃をその身で受ける覚悟を決めろ。”とな。あれはデュバリィ達だけに向けた言葉じゃない。お前に向けても言っていたんだ。」

 

レーヴェは、エオリア達を助けに来た際、あの場所で6つの気配を感じていた。エオリア、リンの2人、鉄騎隊の3人の5つの気配。そして、最後の1つのは、限りなく薄く、特殊な訓練を受けた人間でなければ見つけられない程の気配が、少し離れた場所に感じられたのだ。レーヴェがそれを見つけられたのは、ある経験のお陰だった。

 

その言葉を聞いた仮面の男は、納得した様に頷き、口を開く。

 

「…やはりな。時たま視線がこちらに向けられるので、まさかとは思っていた。…例え、どんな手練れであろうと、隠密に集中した我の気配は悟られない。今までその事に関しては自信があったのだが……何故、剣帝殿は見つけることができた?」

 

仮面の男の疑問に、レーヴェは、脳裏に黒髪の少年の姿、ヨシュアの姿が思い出され、懐かしむ様に笑みを浮かべる。

 

「昔、よく共に行動した奴がいてな。そいつもお前と同じ様に隠密…気配を殺すことが優れていた。どうやら、そいつとの経験が役に立ったらしい。…まぁそれよりも、いい加減お前が何者か教えてくれないのか?」

 

「…これは失礼した。御初に御目にかかる。裏の社会に生きる《銀》(イン)という者だ。」

 

仮面の男《銀》は少し頭を下げ、そう名乗った。

 

「なるほど、お前が《銀》か。…特務支援課から遊撃士協会に何度か提供された情報がある。その中のマフィア絡みの情報に、その名前があった。カルバード共和国の都市伝説で、古くから不老不死の伝説の凶手として噂される暗殺者。最近は此処クロスベルで、共和国のマフィア組織である黒月(ヘイイエ)に用心棒として雇われているとか。…その《銀》がどうしてここにいる?」

 

レーヴェが自分の情報を知っていたことに、ある程度予想していたのか、銀は驚く様子を見せず、嘲るような笑みを口角に浮かべる。

 

「フフフ。どうやら色々と情報をお持ちのようだな…ここに来た理由か。剣帝殿。それを貴殿に素直に話すと思うのか?本当にそう思っているのなら、剣帝殿には失望するぞ。」

 

挑発する銀に対し、レーヴェは特に表情を変えずに淡々と告げた。

 

「思っていないさ。念のため聞いてみただけだ。…もう既に大体の予想はついている。大方、雇い主の黒月からクロスベルの異変の調査依頼を受け、此処にたどり着いたという所だろう。間違っているか?」

 

その的確な予想に驚き、笑みが固まる銀。咄嗟に言葉が出てこない。

 

「………………。」

 

「沈黙は肯定と受け取るぞ。もし、その依頼内容なら俺は別にお前に興味はない。見逃してやるからとっとと消えるがいい。たが、俺の邪魔とエオリア達へ何かしようというのなら…相手をしてやる。」

 

レーヴェは構え、威圧と共に剣先を銀に向ける。レーヴェの行動に対し、銀は何処からか大剣を取り出し、戦う姿勢を見せた。

 

「どうやら頭も回るようだな。元々貴殿や遊撃士達には手出しをするつもりはなかった。…が、気が変わった。剣帝の実力、どの程度のものか実際に確かめさせてもらおう。………行くぞ。月陰の蝶達よ……」

 

『月光蝶』

 

白い蝶達が現れ、銀の体を包み込んだかと思うと、レーヴェの視界から銀の姿が薄れて見えなくなった。

そして、戦いは銀の姿が消えると同時に始まる。

 

銀が見えなくなった事で、周囲を警戒していたレーヴェは、何かが空気を切り裂いて飛来する音を耳にする。背中から聞こえたそれを、振り向きながら弾く様に剣を振るう。

 

「ん?」

 

しかし、レーヴェの手に感じたのは、弾く手応えではなく、剣に何かが絡み付く手応えだった。剣に目を向けると、そこには鎖が繋がった鍵爪が、動きを封じるかの様に剣に絡み付いていた。

 

『龍爪斬』

 

次の瞬間、剣如レーヴェの体は物凄い力で引き寄せられる。その先には、左の袖から鎖を伸ばし、こちらを引き寄せる銀の姿。右手には大剣が振りかぶられていた。

 

「はあ!」

 

剣を封じられ、防ぐ事も出来ないレーヴェに大剣が頭を狙うように横へ振るわれる。自分に迫る大剣にレーヴェは、驚くべき行動で対処する。自ら愛剣を手離したのだ。そして、そのまましゃがみこみながら、銀に素早く足払いをする。

 

レーヴェの頭上を大剣が通った後、まさか剣を手離すとは思っていなかった銀は、レーヴェの足払いによって体勢を崩される。地面に倒れようとしている銀に、レーヴェは容赦なく追撃の鋭い蹴りを放った。

 

だが、ここで銀は持ち前の身体能力を活かす。倒れる寸前に奪いとったレーヴェの剣を捨てながら、先に左手で地面へ手を付く。そして、片腕だけの筋力でバネの様に後ろへ飛び跳ね、レーヴェの蹴りをギリギリのタイミングで避けたのだ。

 

(剣士があれほど簡単に剣を手離すとは…その後の体術も素人ではなかった。フフ…剣を封じるか、取り上げれば、こちらに勝機が見えると思ったが、やはりそう甘くないか。ならば…あの手を使わせてもらう。)

 

距離を取った銀は、自分の考えの甘さに笑いが込み上げると共に、接近戦は部が悪いことを改めて感じる。そこで戦う前から考えていた手を使う事にした。

レーヴェとの距離を計りつつ、銀はレーヴェに話し掛ける。

 

「驚いた。まさか剣帝と呼ばれる貴殿が、躊躇なく剣を手離すとは予想していなかった。その後の体術もなかなかものだったが、あれは誰かに教えを受けたものか?」

 

レーヴェは剣を拾いながら答える。

 

「別に剣がないと戦えない事はない。必要があれば剣も捨てるさ。…体術は結社時代に覚えたヴァルターの動きを真似しただけだ。

俺と死合を望んでいたアイツは、俺が戦う気がなくても、普通に殴り掛かってきていたからな。避けながらアイツの技や動きを盗む事が出来る機会は多かった。まさかそれを自分で使う時がくるとは思わなかったがな。」

 

レーヴェの話しの中に、聞き覚えのある名前を聞いた銀は、不愉快さ滲ませた声でその名前を呟く。

 

「ヴァルター…泰斗流の使い手《痩せ狼》のヴァルターか。」

 

「ほう。知っているのか?」

 

「…共和国で一度殺り合った。残念ながら逃げられ、決着は着かなかったがな。今度、相見える時は銀の名に懸け、引導を渡すつもりだ。…さて、話しが長くなってしまったようだ。そろそろ戦闘を再開するとしよう。」

 

銀はそう言って話しを終らせると、クラフトを使う。

 

『分け身』

 

銀の分身が3体現れたかと思うと、素早い動きでレーヴェを取り囲む。また、銀達は懐から同時にクナイを取り出し構える。レーヴェはその場を動かずに、黙ってその動きを見つめる。

 

「受けてみよ!」

 

その言葉を合図に、四方から大量のクナイが投擲され始めた。レーヴェは避けれるものは、最小限の動きで避け、的確にクナイを弾いて、クナイ同士をぶつけていく。傷を負う様子はない。常人なら厳しい攻撃でも、エンネアの矢の雨を捌いたレーヴェには通用しない。

 

だが、銀はそれを見ていた為、通用しないのは分かっていた。銀には別の狙いがあったのだ。そして、クナイを投擲しつつ、それを仕掛けた。

 

「無駄だ。クナイが尽きるまで投げるつもりか?」

 

レーヴェは、またしても大量に投擲されたクナイを先程と同じ様に弾こうとする。しかし、それは出来なかった。

 

『爆雷符』

 

弾く前に全てのクナイが貼られた符によって爆発する。

四方からの連続の爆発にレーヴェの逃げ場はない。そのまま彼は爆発に巻き込まれると同時に、爆風で舞い上がった砂で姿が見えなくなった。

 

銀はその光景を見て、上手くいった事に安堵する。銀のあの手とは、エンネアの矢の雨に比べ、脅威の少ないクナイを投げ、対処出来ると油断した所に、爆雷符の爆発で仕留める事だった。

 

(…仕留めたか。如何に剣帝だろうと、同じ人間。あの爆発の中では避けきれん筈。また、あの爆発を受けていれば、立っていられる傷ではあるまい。)

 

そう判断した銀は、分身を解き、目の前の視界が晴れるのを待つ。次第に見辛かった視界が霧が薄れていくように晴れていく。晴れた先には……爆発で穴だらけになった地面。そして…………両手で持った剣を地面に差し、仁王立ちするレーヴェの姿があった。

 

「馬鹿な!?」

 

銀はあの爆発の中、まだ立っているレーヴェに驚きを隠せない。

 

(彼のコートには所々爆発で焦げた部分が見受けられる。だから避けられてはいない。だがそれなら何故立っている?あれを受けて立っていられる人間がいるのか?)

 

「…貴殿は……本当に人間か?」

 

銀の思わず出た言葉がレーヴェの耳に届き、彼は上手く否定出来る理由が見つからず、苦笑する。

 

(あの爆発の際、咄嗟に近くの爆発を斬って少しは威力を弱めたのは覚えている。だがその後の記憶がないな。恐らく、そこから無意識に残りの爆発に対処し、耐えきったと思うが。くくっ。自分の事とはいえ、信じられないな。案外銀の言う通り、人間ではなくなってきているのかも知れん。)

 

レーヴェは、そういった思いを抱きながらも、切り替え、体の調子を確認する。流石に無傷ではなく、所々痛むが、戦闘には支障はないようだった。動ける事が分かったレーヴェは、警戒して動かない銀に、剣を向け告げる。

 

「次はこちらから行かせてもらうぞ。」

 

レーヴェは、告げるのと一緒に剣を素早く投げる。空気を切り裂き銀に迫る剣。銀はそれに反応し、横に避けながらこちらもクナイを投げようとする。

しかしその時、銀が目にしたのは、自分が投げた剣を掴み、こちらに斬りかかるレーヴェの姿だった。

 

「斬!」

 

『破砕剣』

 

闘気を纏わせた強烈な斬撃が銀を襲う。

流石にこれには反応が遅れる銀。大剣を盾にするが、右腕を斬られる。そして、斬られた衝撃でそのまま後ろへ飛ばされ、近くにあった大樹に背中から叩きつけられた。

 

「ぐぁ!」

 

背中の衝撃で肺から空気が抜けた銀は、すぐには動けない。そこへ八葉一刀流の構えをとったレーヴェの追撃が放たれた。

 

『洸破斬《我流 閃呀 (せんが) 》』

 

通常の洸破斬とは違い、閃光と一緒に、牙の形をした2つの斬撃が交差し、動けない銀に向かう。直撃する寸前、銀はクナイを投擲する。

 

『爆雷符』

 

爆発とレーヴェの斬撃がぶつかった瞬間、耳を塞ぎたくなる爆発音が響き、爆風が発生する。

 

 

 

………銀は気が付くと、叩きつけられた大樹の少し離れた場所に倒れていた。銀は痛む体に鞭を打ち、立ち上がる。そして、大樹の方に視線をやり、自分の運の良さに少しだけ安堵する。

 

(爆風で飛ばされたか。だが運が良かった。飛ばされていなければ今頃……あの大樹と同じ運命だったかもしれない。)

 

銀の視線の先には、爆雷符だけでは止めきれなかった斬撃が直撃し、大きな×印の跡を残す大樹の姿があった。

その威力に冷や汗をかきながらも、こちらに向かってくるレーヴェに、銀は己が最高の戦技を放つ為、構える。

 

「我が舞は夢幻…去り逝く者への手向け…眠れ…銀(しろがね)の光に抱かれ…! 縛…」

 

『幻月の舞』

 

両手の袖の部分に隠してある鍵爪を網のように広範囲に投げる。それらが巻き付く様にレーヴェの体の動きを封じた後、大剣を構えて突進する。

 

「滅!!」

 

レーヴェに必殺の一撃が迫る。だがレーヴェが黙ってやられる筈はない。体から爆発的に闘気を放たれ、レーヴェの拘束していた物が弾け飛ぶ。そして、彼は突進してくる銀に剣を投擲する。

銀は勢いのまま剣を弾き、そのままレーヴェを斬りかかろうとする。が、弾いた時の一瞬の隙。レーヴェはその瞬間を狙っていた。

剣を弾いた瞬間、いつの間にか銀の懐に入り込み、銀の腹部に掌を密着させているレーヴェの姿があった。

 

「これもヴァルターから盗んだ技だ。喰らうがいい。」

 

『零勁』

 

重い音が爆発したように一瞬だけ広がり、掌底から発せられた衝撃波が銀の体を突き抜ける。

 

「がはっ!?」

 

銀の手から大剣が落ちる。そして、銀はゆっくりと倒れた。レーヴェは倒れていく銀を支え、同時に喉元に突きだされたクナイを手刀で落とした。

 

「…無念…だ。……次は…必ず…」

 

最後まで諦めない銀に、レーヴェは苦笑しながら首元にも手刀を落とした。

 

「まったく、暗殺者というのは厄介なものだ。」

 

レーヴェは完全に気を失った銀を支え、地面に寝かせる。ここまでの実力者。その素顔が気になったが、今はそれよりもするべき事があると思い、出血していた右腕を止血すると、レーヴェは先に進んだ。

 

 

 

 

その先に待つのはレーヴェが知るなかで最強の実力者。

果たして彼の剣は彼女に届くのだろうか?彼女の槍は彼を貫くのだろか?それは空の女神のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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