"ガァァァアアア!!"
辺り一帯に響き渡る獣声。それを発しているのは、紫色の体毛を持つライオンの様な大型幻獣。この幻獣の名は"スフィンキマイラ"。見た目は、以前レーヴェとシャーリィが戦った"ヴァーミリオン"に似ている。だが、ヴァーミリオンに似ているのは見た目だけで、その体は彼の魔獣より二回り小さい。しかし、ヴァーミリオンに比べては強さは劣るが、やはり周りの魔獣とは一線を画しているようで、この湿地帯でスフィンキマイラに敵うものはいなかった。
自然に湿地帯のヌシになったスフィンキマイラは、数分前、自分の縄張りへ帰る途中に見つけた人間達を襲っていた。自分よりも小さな体の人間、所詮自分の敵ではない。いつもの様に圧倒的に蹂躙してやろう。その思いで戦闘を始める。
そして、今、現在スフィンキマイラは追い詰められていた。
"ガァァァアアア!!"
身体中に傷を負い、必死に5人の人間へ自慢の爪を振るうキマイラ。だがその爪は、人間達に避けられ、空をきる。その隙をつき、キマイラの懐に飛び込むのは特務支援課のロイドとランディ。キマイラはさせまいと距離をとろうとするが、その足に遠距離から銃弾とアーツが命中する。
"グゥウウウ!?
キマイラは痛みにより動けず、ロイドとランディの接近を許してしまう。
「今よ、ロイド!!」
「行って下さい、ランディさん!!」
足を止めたのは、同じく特務支援課のエリィとティオ。
ロイドは、仲間が作ってくれたチャンスに感謝し、ランディと息を合わせる。
「ランディ!決めるぞ!」
「任せろ!ロイド!」
『バーニングレイジ』
ロイドとランディは、キマイラに対して挟み撃ちの形で連撃を浴びせ、トドメに二人同時に反対側へ駆け抜けながらの一撃を放つ。
"グァアアアアアア!?"
その一撃は見事にキマイラに決まり、キマイラの体は光となって消えていった。その最後を見届けたロイドは、武器を下ろし、息を吐いた。
「ふぅ。何とかなったな。皆、怪我はないか?」
「ええ、私もティオちゃんも大丈夫よ。」
「はい。問題ありません。」
「俺も大丈夫だ。」
口々に無事を告げる仲間達を見てロイドは頷くと、少し離れた場所に立っている人物にも確認する。
「"
「…………問題ない。」
黒装束を纏い、仮面を着けている銀は、それだけを告げると腕組みをし、黙ってしまう。何処か不機嫌にも見える銀にロイドは苦笑する。どうしてこんな機嫌が悪いのかロイドは全く分からない。ロイドは先程の銀との邂逅を思い出す。
数時間前、依頼を済ませローゼンベルグ工房を後にしたロイド達は、ミシェルから連絡を受けてすぐに湿地帯へ向かった。そして、怪我人のリンとエオリアを発見しノエルとワジに二人を任せて此処までやってきたのだ。此処にやってきて銀の倒れた姿を見つけた時は本当に驚いた。敵対する者であるが、同じ人間である。慌ててロイドは生きているか確認する為に声を掛けながら、銀の胸に手を当てて心臓の音を確認する。
"ムニ"
男性にしては意外と柔らかい感触に、疑問を持ちながらも心臓の鼓動が聞こえ、安心するロイド。そして同時に銀は目覚めた。
「…………………………。」
「起きたか、銀。大丈夫か?」
ロイドは頭を起こした銀に声を掛ける。銀はまだ意識がはっきりとしていないのか黙ってロイドを見つめ返し、ふとロイドの手が自分の胸に当てられているの気付き、
「き……」
「き??」
「きゃあ!?」
あの銀から女性の様な悲鳴が聞こえたかと思うと、ロイドは思い切り胸を突き飛ばされる。
「おわ!?」
ロイドは突然の出来事に受け倒れ、胸を抑えて離れる銀を茫然と見つめる。え、何でそんな反応なんだ?確か銀は男だよな。その反応は可笑しくないか?ロイドの疑問を他所に銀は慌てながらクナイを取りだしロイドに向ける。
「な、何をしていた!?」
「い、いや生きているか心臓の音を確認しただけだから!!」
「本当か!?」
「いやそれ以外に何の理由もないから!!」
「………………。」
暫くロイドを見つめていた銀は、納得したのか溜め息をつくとクナイを下ろす。
「……信じよう。」
銀はそう告げるも仮面越しにも分かる冷たい視線をロイドに向けている。明らかに警戒されている。ロイドは何故こうなったのか分からず内心焦りながら、お互いの状況を整理する為に情報を交換し始め、そして最終的にロイドの話術で一時的に協力するように取り付けた。そうして話がまとまった時に先程の幻獣に襲われたのだった。
ここまで思い出したロイドだったが、やっぱり自分の何が銀を不機嫌にさせたかは分からない。
んー男同士でも体に触れられる事が嫌だったのかな?……まぁとにかく湿地帯奥地はもう少し。気合いを入れないとな。
「よし!皆、もう少しで湿地帯奥地だ。気合いを入れて行くぞ!!」
「「「おお!!!」」」
「……………。」
こうしてロイド達は銀とともにレーヴェとアリアンロードの戦う戦場へと足を踏み入れた。人の域を超えた次元の違う戦場へ。
湿地帯奥地へ到達したロイド達はすぐに足を止めた。いや止められたのだ。目の前の光景に。
「…これは……」
「おいおい、マジかよ。」
彼らの目に写るのは吹き荒れる風と、地面を削る程の激しい雷の雨の中、目に見えない速さで突き出される馬上槍を避け続けるレーヴェの姿だった。
レーヴェの心は驚くほど静かで、ただただ自然に歩くように全てを避けていた。いつ、どこで、何が、あらゆる情報が今のレーヴェには手に取るように分かる。レーヴェは無意識に体を数センチずらし、雷をかわし、頭を傾げ、目の前を通過する槍を無表情に見つめながら敵を見ずに剣を振るう。一見、適当に振られたように見えた一撃は、高速で移動し、突き放とうとしていたアリアンロードの腕を斬り、傷つける。
「くっ!はぁああ!」
アリアンロードは一瞬、動きを膠着させるがすぐに隙をつかせまいとクラフトを放つ。
『シュトルムランツァー』
闘気を纏った槍の強烈な一撃がレーヴェの腹部を貫く。しかし、アリアンロードは顔を歪める。手応えがまったくない。これは分身?アリアンロードがそれに気付き、横に跳ぶと同時に、
『分け身
透明化した剣がアリアンロードの背中に迫る。横に跳ぶことによって背中への直撃は避けたアリアンロードだが、そのマントと片足を軽く斬られた。
追撃を受けないよう傷を無視し、槍の矛先を透明になって消えていた本体のレーヴェに構える。無表情にこちらに剣を構えるレーヴェを見つめ、アリアンロードは嬉しさに笑みを浮かべた。
「ふふ。久方ぶりですね。これ程に傷を受け、楽しめる戦は。"無我の境地"。生半可な攻撃は全て見切られ、振るわれるその剣は必中の一撃。本当に厄介なものです。」
完璧に避けきれたと思った所に吸い込まれるように直撃する攻撃の数々。まるで避ける事が出来ないことが決まっていると思わせる剣筋だった。軽く厄介だと口にしたアリアンロードだったが、内心は脅威に感じていた。
技の方も強力になっている。これはいつ仮面を割られるか分からない。
「………………。」
レーヴェは特に何も答えず、じりじりと距離を詰めてくる。アリアンロードは、力を蓄えながら話を続ける。
「……ただ剣を振るうことだけに意識を向ける。……たいした集中力です。ですが、その状態はひどく体力を消費する筈。既に限界だった貴方の体は、このままでは壊れるかもしれません。体が壊れるまで戦いたいという武人としての気持ちはない訳ではありませんが、出来れば貴方とはまた万全の状態で戦いたい。」
「……………。」
「だから次で終わりにしましょう。レーヴェ。」
"ゾク!!"
アリアンロードの身体中から今まで以上に黄金の闘気が立ち上ぼる。その神々強い姿は見ている者全てに畏怖を与える。無心状態のレーヴェも畏怖はしないが、警戒するように足を止め、すぐにでも剣を振るう姿勢をとらされる。そして、
「受けきりなさい。」
『聖技グランドクロス』
闘気の渦が作り出され、レーヴェを飲み込む。空中で動きを封じられたレーヴェに、必殺の一撃が迫る。この瞬間レーヴェは悟る。この一撃は避けれず、自分の負けが確定したことを。
「……ならば……」
せめて……あと一撃を……レーヴェの思いが僅かに剣を動かし……渦の中で耳に響く金属音が聞こえた。それを合図に徐々に渦が薄れ消え、中の光景が見える。そこには、槍を突き出した状態で立つアリアンロードの姿と、地面に倒れたレーヴェの姿があった。
レーヴェは朦朧とする意識の中、視線だけをアリアンロード背中に向ける。結局、彼女には勝てなかった。改めてこれが最強の頂きに存在する人物かと思い知らされた。俺がこの人を超える可能性はあるのだろうか。様々な思いが溢れるが、振り向き、こちらに顔を見せたアリアンロードの顔を見てレーヴェは、安心するように笑みを浮かべて意識を失った。
可能性はある。半分に割れた仮面から表れた、聖女の笑顔がそれを教えてくれた。
【無我の境地】CP50 3ターン
『真・心眼(物理攻撃・魔法攻撃100%回避) 全状態異常無効 全status(50%UP) 命中率100%』
【分け身 月影】CP20(無我の境地状態のみ使用可)
『分身を1体召喚 本体ステルス付与(1ターンのみ)』