剣帝の軌跡   作:くろけん

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第18話 指名依頼

sideレーヴェ

 

いきなり立ち上がったレーヴェにロイド達は驚きの声を上げる。

 

「レオンハルトさん!?」

 

「おいおい!アンタ動いて大丈夫なのかよ!?」

 

「嘘!?まだ動ける傷じゃないのに!無理をしたらダメです!」

 

「ビックリです。」

 

ロイド達の心配する姿に片手を上げて大丈夫だと伝えるレーヴェ。そこへ話しを止められたカンパネルラも目を見開き、こちらに声を掛ける。

 

「うわ!?起きてたの?」

 

レーヴェは全身の痛みを隠しつつ、カンパネルラを睨み付ける。

 

「貴様の笑い声が頭に響いてな。少し前に目が覚めた。」

 

レーヴェの言葉にカンパネルラは苦笑い。

 

「ハハ、そうなんだぁ。ごめんね-。でも出来ればもう少し寝てて欲しかったなぁ。そしたら楽しめたのに。」

 

笑みを浮かべたカンパネルラの目は、未だにリーシャに向いている。レーヴェはその視線からリーシャを守る様に移動した。そして、カンパネルラに剣を突き付け告げる。

 

「ふん…数多(あまた)の思いを抱え、人が歩んできた軌跡。その軌跡を軽々しく笑う権利は、誰にもない。もちろん、カンパネルラ…貴様もだ。……それに俺が目を覚まさなかったとしても、どうせ貴様は楽しめんぞ。」

 

レーヴェはそう言うと、湿地帯奥地の入口に目を向ける。

その視線の先には、こちらに走り寄る特務支援課のノエルとワジ、遊撃士のアリオス、スコット、ヴェンツェルの姿があった。ワジは集まっている面子を見ながら軽口を言う。ノエルはそんなワジに注意し、ロイド達へ声を掛ける。

 

「いやはや、凄い場面に来たみたいだね。主役の僕達も混ぜてくれないかい?」

 

「こら!ワジ君ふざけてる場合じゃないでしょう!すみません、ロイドさん。来るのが遅くなりました!」

 

ロイドとエリィは、頼もしい助っ人達に少し安心する様子を見せる。

 

「ワジ、ノエル。それにアリオスさん達も…」

 

「来てくれたのね…」

 

アリオス達はロイド達の前に出た。そして、ヴェンツェル、スコット、アリオスは、ロイド達が対峙している相手が身喰らう蛇の者だと気付く。

 

「あの者たちは……!」

 

「『蛇』の連中か……!」

 

「『道化師』カンパネルラ…それに『十三工房』の管理者に『鋼の聖女』か…」

 

刀を差すアリオスを見たカンパネルラ達も同じ様に気付く。

 

「ほほう…あれが『風の剣聖』かな?」

 

「ウフフ…レーヴェに匹敵する腕前らしいけど…」

 

「――『風の剣聖』、(まみ)えるのは初めてですか…なるほど、噂に違わず素晴らしい腕前のようですね。」

 

アリアンロードの言葉にアリオスは首を横に振り、アリアンロードとレーヴェに視線を写す。

 

「……世辞は結構。貴女のように"人の域"を超えるまでは到底至っていないし、そちらの剣帝のように剣の理へとも完全に至ってもいない。また"その槍"の前では一軍すら退かざるを得ないだろう。」

 

「フフ、それが見抜けるだけでも大したものです。」

 

冷静沈着に実力差を見極めるアリオスに、アリアンロードは感心する。そんな引き気味のアリオスにスコット、ヴェンツェルは驚く。

 

「アリオスさん…!?」

 

「よもや…このまま見逃すのか!?」

 

これに対し、アリオスはまた首を横に振る。しかし、その表情はいつになく厳しい。

 

「まさか……だが、状況はこちらが不利だ。」

 

アリオスの言葉にヴェンツェルとスコットは、混乱する。現状の人数は圧倒的にこちらが上。強敵と思われるアリアンロードもよく見ると所々キズを負っている。いかに強くても万全のアリオス、その他全員で挑めば勝機がない訳ではない。

(なのに…なぜ!?)

 

その時、アリオスの言葉を証明する様に事態は変化する。一瞬でロイド達を含めた全員を囲む様に鉄機隊の三人が武器を構え現れる。アリオスが間違ってなかったことに気付くスコット。

 

「くっ!リン達がやり合った…」

 

ワジはいつでも戦えるよう構えながら、口を開く。

 

「どうやら、このお姉さんたちもタダ者じゃないみたいだね……あれ?一人だけ剣が途中で折れてる?…」

 

「…………っ!」

 

剣が折れていることを指摘されたデュバリィ。仮面に隠された顔の下を真っ赤にし、ワジではなく、ある人物を凝視して殺気を爆発させる。背中に冷や汗が流れるのを感じるレーヴェは、顔を強ばらせつつも反応はしない。反応するればすぐに斬りかかられると勘が働いた為だ。

その様子にワジが余計なことを言ったことに気付いたロイド。小声でワジに注意する。

 

「……ワジ、余計なことを言うなよ。」

 

「……はは…ごめんね、ロイド。」

 

流石にこの状況ではマズイと思ったワジは、苦笑いして謝る。張りつめていく空気。それを変えたのはアリアンロードだった。

 

「――良い。此処で(なぶ)る必要はない。」

 

その一言で張りつめていた空気がなくなり、鉄機隊の三人は武器を収める。

 

「は。」

 

「ふふ、承知しましたわ。」

 

「…マスターの仰せのままに。…オボエテナサイ…レオンハルト…」

 

デュバリィの怨念の篭った最後の言葉は小声で言った為、誰にも聞こえない。しかし、レーヴェは何か感じたのか一度だけ背筋を震わせた。

 

「くっ………」

 

自分達の不利な状況を改めて感じさせられたロイドは悔しげに顔を歪める。どうなるのか黙って様子を見ていたカンパネルラ。事態がこれ以上面白くならないと思った為、口を開く。

 

「……どうやら潮時のようだね。」

 

「計画の進行度と七耀脈の状態も確認できた。そろそろ私も仕上げに戻るとしよう。」

 

「……そうですね。」

 

カンパネルラの言葉に博士とアリアンロードも同意する。カンパネルラが指を鳴らし、彼らと鉄機隊を炎が包む。

 

「ま、待て!?」

 

帰ろうとするカンパネルラ達にロイドは、焦って声を掛けるが、アリアンロードから告げられる言葉に遮られる。

 

「一つ、忠告しておきましょう。この度の『計画』において我らはあくまで脇役にすぎません。」

 

「え…?」

 

「なに……?」

 

驚くロイドとアリオスを無視し、話しは続く。

 

「時期に獣たちが放たれ、この地に混乱が招かれるでしょう。されど、目の前で起きる悲劇に囚われ過ぎぬように心得なさい。」

 

「またの再会を楽しみにしてくれたまえ。」

 

「ウフフ…それでは――あっそうだ!レーヴェ!」

 

立ち去ろうとするカンパネルラが思い出したようにレーヴェへ声を掛ける。レーヴェは怪訝に思いながら返事を返す。

 

「なんだ?」

 

「君は戻らないって言ったけど、執行者No.Ⅱの席は、戻れるように空けておくから。いつでも戻ってきてね?あと、君がどこまで知っているか知らないけど…あのことを周りに話すつもりなら、コチラにも考えがあるからそのつもりで♪」

 

「……脅しのつもりか?」

 

「いやいや!ボクなりの"優しい"忠告さ♪」

 

「……………。」

 

「フフ…それでは皆さま…ごきげんよう。」

 

最後に道化師らしい挨拶を告げると、カンパネルラ達を包む炎が燃え上がり、彼らはこの場から去っていった。

 

「くっ!」

 

「『身喰らう蛇(ウロボロス)』とんでもない連中だな。」

 

なす統べなく目の前から逃げらてしまった悔しさが胸に残るヴェンツェルとスコット。それは彼らだけでなく、此処に残る全員がそうだった。

 

「…………………。」

 

一瞬静けさが辺りを包む。その静けさを破ったのは、一人その場を離れて行くリーシャを見たロイド達。

 

「リーシャ…!?」

 

「リ、リーシャさん…」

 

ロイドとエリィの声に足を止めるリーシャ。ロイド達に背中を向けたまま口を開く。その声は動揺を必死に押し殺している様に聞こえた。

 

「……そろそろ稽古に戻らなくてはいけませんから…失礼します。」

 

それだけを告げると、リーシャはあっという間に跳躍し、その場を離れていった。

クロスベルの異変に、身喰らう蛇のことやリーシャのこと。立て続けに起きた出来事を受け止めきれず、茫然とする特務支援課。

 

「信じられない事ばかり起きてちょっと現実感がないわね…」

 

「…ああ…」

 

「まるで夢の中にいるようです。」

 

エリィの言葉に頷きながら返事をするランディとティオ。ロイドも口には出さないが、同じ気持ちだった。そんなロイド達の目を覚まさす様にアリオスとレーヴェが告げる。

 

「――だが、まぎれもなく現実だ。」

 

「アリオスさん…」

 

「お前達はこの現実を乗り越えないといけない。そうしないと、お前達が守りたいものはその手からすり抜けていくぞ。」

 

「レオンハルトさん…」

 

「まずは一つずつ壁を越えていけ。今までそうしてきたんだろう?」

 

アリオスとレーヴェの胸を突く言葉に、レーヴェの問いにロイドは、今まで自分達がどう乗り越えてきたかを思い出す。

(受け入れよう、この現実を。そして仲間達と乗り越えるんだ。今まで俺達はそうやってきたんだから。)

心の整理ができたロイドは、レーヴェの問いに応えた。

 

「はい!」

 

ロイド以外の仲間達も同じ気持ちになったようで、それぞれが頷く姿を見せる。その様子を見ていたアリオスは、話しを続ける。

 

「幸い、結社の連中は予想以上の手掛かりを残してくれた。この場所の意味、そして『時期に放たれる獣たち』…茫然としている暇はなさそうだ。」

 

(『獣たち』………まさか!?)

 

ランディは『獣たち』と言う言葉にぴったりと当てはまる連中がいることに気付く。その時、ロイドのエニグマの電話が鳴り響いた。ロイドが電話に出ると、聞こえてきたのはクロスベル警察一級捜査官ダドリーの声。

 

「バニングスか!?緊急事態だ。マークしていた『赤い星座』の連中が一人もいなくなった。至急戻って来い!」

 

「な……!?」

 

ロイド達の予想以上に早く事態は動きだしていた。

 

 

 

ダドリーと情報を交換した後、ロイド達とレーヴェは調査の為残るアリオス達を置いて、急いでクロスベルへ戻ることとなる。レーヴェはクロスベル港区に到着すると、心配するロイド達と別れ、一人でギルドに向かった。

 

(アイツらには俺の心配よりもやるべき事がある。そっちを優先するべきだ。それに俺もゆっくりしている暇はない。ギルドで赤い星座の情報を…くっ…)

 

ギルド目指して歩くレーヴェだったが、急に視界がぶれ、意識が揺らいでいく。彼の体はエリィの治療により傷は塞がっている。しかし、体力は回復していなかった為とうに限界を越えていた。意識を失わない様に精神力でここまで我慢していたが、どうやらその無理の反動が今きたようである。

 

「くそ…こんな時に……」

 

足の力が抜けて、後ろから地面へ倒れていく。その瞬間、誰かがレーヴェの体を支えた。すでに目を開けることも出来ないレーヴェは、薄れいく意識の中聞き覚えのある声を耳にする。

 

「…まったく……久し振りの友人との再会を美しい思い出にしようと考えていたのだが…君には本当に予定を狂わせられる。…まぁ己の事を省みず、他の為に動く君の気高さには尊敬するがね。」

 

「……お前は……」

 

「私に任せ、羽を休めたまえ、気高き鳥よ。……その位の時間はある筈さ……」

 

このキザな話し方。声の主を心覚えがあったレーヴェは軽く笑みを浮かべ、そして気を失った。

 

 

 

 

 

 

目を覚ましたレーヴェの視界に入ってきたのは、こちら顔を近付けるモンスターの顔だった。

 

「っ!?」

 

レーヴェは本能的に危険を感じ、そのモンスターの顔に拳を振り切った。しかし、モンスターは予想よりも速く顔を動かし、拳を避けた。避けたモンスターが口を開く。

 

「あっぶな!?なにすんのよ!乙女の顔をいきなり殴ろうとするなんて!」

 

モンスターの言葉に固まるレーヴェ。いやモンスターではない……目の前にいるのはクロスベル遊撃士協会の受付ミシェルであった。それに気付いたレーヴェは素直に謝る。

 

「すまない。モンスターに見え、つい体が動いてしまった。」

 

「…なあぁんですってぇ!?このアタシの何・処・がモンスターよ!立派な乙女でしょうが!!」

 

素直に言い過ぎて更に怒らせてしまったレーヴェは、この後また謝るが許してもらえず、しばらく説教を受けるのだった。

説教がどうにか終わると、レーヴェは自分がどうやってギルドのベットに運ばれたのか、ミシェルに尋ねる。

 

「ああ、そのことね。夕方頃になるわね。帝国の貴族で商人をやっているって人が、偶然ギルドの近くで倒れた貴方を此処まで運んできてくれたのよ。」

 

「……なるほど。もしかしてその人は髪が青い色では?」

 

ミシェルは満面な笑みを浮かべ、頷く。

 

「ええ。綺麗な青髪で顔もイケメンだったわ!あぁ!またお会いしたいわねぇ♪知り合い?知り合いならお礼にアタシが御飯を奢るからって伝えておいて!!」

 

「え、ええ…分かりました。」

 

いったいどちらのお礼になるのか疑問が出てくるが、先程の事で懲りたレーヴェは、余計なことは口にしない。とにかく自分を運んできてた人物のが確認できた。

(…やはりあの声は『怪盗紳士』ブルブラン。クロスベルに来ていたか…一体何をしに?)

身喰らう蛇、執行者No.Ⅹ『怪盗』ブルブラン。結社時代、友人といえる位の付き合いはあった人物であった。その行動原理は『美』の追求という特殊なもので、行動は全く予想が出来ない。考えても分からないと思ったレーヴェは、咳払いをして気持ちを切り替える。

 

「…ミシェルさん、赤い星座の件聞きましたか?」

 

この言葉にミシェルも真剣な表情になり、頷く。

 

「先程、クロスベル警察から連絡があったわ。ギルドは今、アリオス達以外で動けるメンバーは情報収集に動いてる。」

 

「なら、俺も!……くっ!…」

 

レーヴェも探そうと動こうとするが、傷が痛み動きを止めてしまう。ミシェルは首を横に振り、レーヴェに告げる。

 

「その状態じゃ無理ね。貴方は明日まで休みなさい。」

 

「な!?そんな場合じゃ――」

 

「――で、明日はバリバリ動いてもらうわ。実は気になる依頼が貴方指名できてるの。」

 

レーヴェはミシェルの続けられた言葉に口を閉じる。

(この状況で受ける必要のある指名依頼。まさか…『赤い星座』関連の何かか?)

 

「詳しい依頼書と食事を持って来るから、待ってて。」

 

ミシェルはそう言うと、部屋から出ていった。レーヴェはそれを確認するとズボンのポケットに手を入れ、ある物を取り出す。

 

「やはりな…」

 

レーヴェの手に手紙が握られていた。あのブルブランのことである。自分を助けて別れるだけとは思えなかった。何らかのメッセージを残すとレーヴェは踏んでいたのだ。レーヴェは手紙の封を開けて、手紙を読む。

 

 

《親愛なる友人へ》

残念だ。君とゆっくりお茶をしながら語り合いたかったが今の私は何かと忙しくてね。手紙となったこと許してほしい。さて、手紙を書いた理由は君に伝えておきたい事があったからだ。今、私は主に帝国で活動しているのだが…実はその帝国で面白いショーが始まりつつあるのだよ!帝国は君の母国でもあったと思うが、気にならないかね?この魔都クロスベルも面白いが、帝国は更に面白くなると私は予想している。もしもこちらに来れそうなら、是非とも来ることをオススメするよ。

フフ…では、会えることを楽しみにしている。

 

《『怪盗紳士』ブルブランより》

 

「…………まったく、厄介な情報を伝えてくる。」

 

レーヴェは、ブルブランの情報に頭が痛む。ある程度予想はしていた。結社がクロスベルよりも帝国の方面で動いている可能性があると。しかし、裏が取れていなかった為に考えない様にしていたのだ。

(まさか裏が取れるとは。…気になるが…こちらも今は放ってはおけない。まずは、ミシェルさんが持ってくる依頼を確認する。)

 

 "コンコン"

 

扉をノックする音が聞こえ、ミシェルが入ってくる。

レーヴェは食事と依頼書を受けとり、ミシェルにお礼を言うと、先に依頼書の内容を確認した。

その内容は…

テーマパークミシュラムでの夜の不審な人影の調査。(補足 赤髪の大男の目撃情報あり。但し情報の出所は不明。)

 

依頼人は…ミシュラム管理人『マリアベル・クロイス』からであった。

 

 

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