ーーゼムリア大陸。その大陸の西の国エレボニア帝国と、東の国カルバード共和国の間にある
クロスベル貿易都市。今年の夏にオルキスタワーが完成し、各国の注目を集めた。そして、明後日ゼムリア通商会議が開かれる。自然にクロスベル市民の話題は通商会議の内容になるのは不思議ではないだろう。
裏通りジャズバー《ガランテ》。ここにいる3人の中年男性達も飲みながら通商会議について話している。
「いや~明後日の通商会議はどうなるんだろうな?」
「各国のお偉いさんが来るんだろう。凄いよな。」
「リベールからはリベール王国王太女クローディア姫。カルバード共和国からはロックスミス大統領。帝国はあの鉄血宰相ギリアム・オズボーンと帝国の皇子オリヴァルト殿下。あとレミフェリア公国のアルバート大公だな。」
「うわぁ。やっぱりすげ~。もしもその人達に何か危険があったらクロスベルはヤバくないか?」
一人の男は驚き、少し顔を青ざめて心配する。
それを聞いた他の2人は笑いながらそれを否定する。
「はは!いやいや無理だって。クロスベル警察も厳重態勢で警護するらしいし、遊撃士協会からはあの風の剣聖アリオス・マクレインも警護するとよ。各国も護衛を連れてきているだろうし絶対に無理だ。」
「ああ、そいつの言うとおりだ。それにオルキスタワー自体にも導力ネットを使った最新鋭の防衛システムを使われているらしい。侵入するのも難しいだろう。」
2人の話しを聞いて青ざめた男も安心したのか恥ずかしげに笑い、誤魔化す様に話しを変える。
「そ、そうだよな。そこまで厳重なら安心だ。あ、そうだ最近活躍してる特務支援課だっけ?あそこの女の子・・・」
店内には3人の他に離れてもう1人の男が飲んでいた。
男は立ち上がりバーの店長にお金を渡す。
「店長、上手い酒だった。…また来る。」
店長は嬉しげに笑いながら丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございます。レオさんに誉められるとは嬉しいですね。またの御来店を御待ちしております。」
男、レーヴェは店を出て、先程の話しについて考えながら自分が宿泊している旧市街の宿に向かう。
ちなみにレーヴェは、街の人達にはレオと呼ばれていた。
(ゼムリア通商会議。結社も関わってくるはずだ。問題はどう関わるかだが…まず直接的に関わることはないだろう。各国の首脳達相手には流石に目立ち過ぎるからな。
間接的ならどうだ。襲撃・妨害等は他に任せ、裏で自分達はその補助。情報や武器を提供する。それはあり得そうだ。)
「あら、レオさんお帰りなさい。」
レーヴェは声を掛けてきた方向に目を向ける。そこには70代半ばに見える白髪の女性が、旧市街宿前のベンチに座り、こちらに笑顔を向けている。
レーヴェは頭を少し下げ、返事を返す。
「大家さん、ただいま帰りました。」
「あらあら、相変わらずレオさんは堅いわね。私に敬語なんて使わなくていいって言ってるのに。ふふ。」
大家は優しい笑顔を浮かべ、そう言った。レーヴェはそれを聞いて苦笑する。レーヴェが此処クロスベルに一週間前に到着し、宿がなく困っていたときにこの大家が声を掛けてくれたのだ。
そして、あまりお金を持っていないレーヴェを気遣い、特別に格安で泊めてくれている。しかも朝晩食事にも毎日のように声を掛けてもらい、時々ご馳走してもらってもいる。
それ程までにお世話になっている大家に対し、頭が上がらなくなり、敬語で話すのは当たり前だった。
「いえ、いつもお世話になっていますから。このままでお願いします。」
「ふふ。はい、分かりました。私も無理強いはしないわ。あ、そうだ。レオさん、夕食は食べた?ご一緒にどうかしら?」
頑固なレーヴェに笑いながら大家は食事に誘う。しかしレーヴェは首を横に振り、
「すみません。お誘いは有難いのですが、またすぐに出掛ける用事があるので。またの機会に。」
「あら、そうなの。残念だわ。だったらまた今度お誘いするわね。またね。」
「はい、失礼します。」
大家は残念そうにしながらもすぐに笑顔になり、宿の中に戻っていった。
レーヴェはそれを見送り、自分も宿に入り部屋に向かう。部屋に到着したレーヴェは椅子に座り、自分の考えをまとめる。
(結社が武器や情報を提供をするなら、武器は一番可能性が高いのは人形兵器だろう。身喰らう蛇の十三工房は高い技術力を持っている。人形兵器を提供するだけでも十分な援助だ。しかしこれはクロスベルではなく、別の場所で渡す可能性があるから止めるのは無理だ。
もうひとつは情報。内容は通商会議の警備態勢や時間帯、後は襲撃の為の見取り図か?
先程の男達の話しでは、オルキスタワーは導力ネットを利用していると言っていた。結社なら導力ネットを使い、
ハッキングでそれらの情報を容易に手に入れられる。
ならこのクロスベルで導力ネットが利用できる環境であり、かつ人目につかない場所を探せば捕らえられるか?)
「この一週間で調べた情報ではクロスベルで導力ネットができる場所は警察本部、IBC、特務支援課。そして地下のジオフロント。この中で当てはまるのは…ジオフロントだな。ならすぐに行ってみるか。」
レーヴェは考えがまとまると愛剣を掴み、さっそくジオフロントに向かった。
カタカタ、カタカタ、カタカタカタ。
ジオフロントB区画にある端末があるブース
「ふーん、旧式の端末だけど意外と使いやすいね♪」
そこには赤いスーツのような服を着て、きみどり色の髪をした少年がいた。少年が使っている端末の画像にはオルキスタワーの見取り図が映っており、何処かに送られているようだった。
「よし、これでおーわりっと。ふふ、通商会議がどうなるか楽しみだな。あ、そうだ!ハッキングがばれたから此処にあの特務支援課がくるかも!ちょっと遊ばせてもらおうかな♪」
そう言うと少年は、自分が楽しむ為に何かを仕掛けようとする。その時…
「相変わらず、イタズラ好きのようだな。カンパネルラ。」
「えっ」
(今の声って!?)
ザン!!
カンパネルラが呆けた瞬間、彼が使っていた端末が真っ二つに割れる。
突然の出来事に、呆然として壊れた端末を見ていたカンパネルラは、我に返り慌てて後ろを振り返る。そこには死んだ筈の剣帝が立っていた。