こちらを見て驚いた顔をしているカンパネルラに、レーヴェは、少しからかう様に声を掛ける。
「どうした?お前がそんな顔をするなんて珍しいな。」
それを聞いたカンパネルラは、調子を戻す様に咳をして、いつもの笑顔を浮かべた。
「いや~流石の僕でもこれは予想外だったよ。びっくりしたー。
で、どうして生きてるの?君は確かにあの時死んだ筈だよね?僕も見てたし。
それにその剣。盟主から授けられた魔剣ケルンバイターだよね?
それ折れたのを確認したから、回収しなかったんだよね。
どうして直ってるの?ねぇどうして?どうして?」
カンパネルラは、レオンハルトや剣を見ながら矢継ぎ早に疑問を投げ掛ける。見た目はいつもの様に見えるが、内心はまだ動揺しているのが伝わってきた。
「落ち着け、カンパネルラ。質問には答えてやるが、まずは場所を移動してからだ。俺もお前に聞きたいことがあるしな。」
「あ、そうだね!このままじゃ、あの子達が此処に来ちゃうか。そしたら場所を移動しよう♪」
レーヴェの提案に納得したカンパネルラは指を鳴らす。
『パチン!』
するとレーヴェとカンパネルラの周りを炎が一瞬で包みこむ。そして、その炎はなにも燃やすことなく、すぐに消え、同時に二人の姿も消した。
それから数分後……
ガタンッ
二人が去った部屋に入ってくる四人の姿があった。
「誰も…いない?」
声を発したのは銃を構えた銀色の長い髪を持つ少女、
特務支援課に所属するエリィ・マクダエル。
「なんだ~?ヨナ坊の連絡を受けて来てみたら誰もいねぇじゃねぇか。あいつ俺らを騙したんじゃねえか?なぁロイド?」
大きなハルバードを肩に担いだ赤髪の男。ランディ・オルランドは茶色の髪をした少年、ロイド・バニングスに尋ねる。
ロイドは首を横に振り、答える。
「いや、ヨナの様子はかなり焦った様子だったし、それはないと思う。それにそんなことする理由も--」
「おい!お前ら何を呑気に話している!あれを見てみろ!!」
ロイドとランディの話しを遮ったのは濃い緑色の髪のメガネを掛けた男。捜査一課の若きエース、アレックス・ダドリー。
彼はある方向を見るよう指を指す。ロイド、エリィ、ランディはそちらに目を向ける。そこにはヨナが前に使っていた端末が真っ二つになっていた。
「な!?これは!」
「おいおい…これはすげーな。」
「ウソ!?」
三人は驚き、思わず声を出す。
そんな三人の様子を見ながらダドリーは冷静に状況を推察する。
「恐らく、この状況を見るに先程まで誰かがこの端末を使っていたのだろう。そして、証拠を隠滅の為に破壊したか、それとも何か別の理由があってこのような事態になったかだ。」
ダドリーの言葉に疑問を感じたロイドは尋ねる。
「証拠隠滅ではなく、何か別の理由ですか?」
「そうだ。ただ証拠隠滅するだけならここまでする必要がないと感じた。だから別の理由だ。まぁ理由までは分からんが。」
「なるほど。確かにそうですね。」
ダドリーの解答に納得したロイドは周りを見ながら考える。
(特に争った形跡はない。一体此処で何が?ん?)
『プルルル、プルルル。』
ロイドのエニグマに連絡が入る。ロイドはヨナから確認の通信かと思い、ボタンを押す。
「もしもしヨナか?」
しかし、
『残念ですがヨナではありません。』
そこで聞こえたのはヨナではなく、クロスベルにいる筈のない懐かしい少女の声が聞こえた。
「そ、その声はまさかティオか!?」
『はい、そうですが。もう忘れてしまいましたか?』
その言葉を否定するか様にロイドの脳裏には水色の長い髪を二つ結びにした14歳の少女。同じ部署に所属するティオ・プラト-の姿が浮かび上がる。
「そんな忘れるはずがないだろう!いつ帰って来たんだ?」
『ついさっきです。そしたらヨナがハッカーに苦戦しているようだったので少しお手伝いをしていました。話しはヨナから聞きましたが犯人は捕まえましたか?』
「いや、残念ながら着いたときには逃げられていた。端末も壊されていたよ。」
『そうですか。ヨナが知ったら煩そうですね。こちらでも色々と対応しましたが、ハッキングを阻止することは出来ませんでした。ただ、犯人が何のデータを手に入れたかはいくつか分かりました。』
それを聞いたロイドは驚き、他の皆に聞かせる為にスピーカーにする。
「ティオ。一体犯人は何のデータを盗んだんだ?」
『オルキスタワーの見取り図。そして通商会議の情報です。』
連絡を終えたロイド達は、事の大きさに口が開かない。
しかし、ロイドは何か決意した目をするとダドリーに話し掛ける。
「ダドリーさん。今回のことで通商会議に何らかの妨害、襲撃の可能性が高まりました。俺達にはその可能性を見過ごすこと出来ません。どうか俺達にもオルキスタワーの警護をさせて下さい。」
ダドリーはロイドを一度見て、目を瞑る。
そして、
「いいだろう。上には俺が話しをつけてやる。」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
こうして特務支援課、通商会議の参加が決まった。
レーヴェが目を開けると、そこは見覚えのない古びた教会の建物があった。
「カンパネルラ。ここは?」
「マインツ山道の裏道にある月の僧院だよ♪ここなら人目もないから大丈夫だよ。それよりさっきの話しの続き聞かせて?」
カンパネルラは待ちきれない様に目をキラキラさせている。レーヴェは一度ため息をつくと、簡単に自分が蘇った経緯と剣について話す。
黙って聞いていたカンパネルラは堪えきれないように笑いだす。
「あはは♪さすが剣帝だね!まさか輝く環に願って生き返るなんて。剣も再生するとはびっくりだよ!」
「俺の話しはもういいだろう。カンパネルラ。お前に聞きたいことが2つある。答えてもらおうか。」
カンパネルラは笑顔を浮かべ尋ねる。
「ん-?何かな?」
「まず1つめは、明後日の通商会議についてだ。情報を何処かに流していたな。一体何をするつもりだ?」
「それは僕の居場所を突き止めた君ならもう分かっているんじゃない?」
「やはり他の組織を使っての妨害か。」
カンパネルラはレーヴェの答えにあっさりと頷く。
「まぁ正解かな♪2つめは?」
「2つめはこのクロスベルで結社は何をするつもりだ?」
「ん-、その質問に答える前に聞きたいことがあるかな。君は《身喰らう蛇》に戻ってくるのかな?」
カンパネルラの質問に対し、レーヴェは即答する。
「俺は既に答えを得ている。《身喰らう蛇》に戻ることはない。」
「あーやっぱりね。そんなことだろうと思ってたよ。僕としては君ほどの人材にはぜひ結社に戻ってきて欲しいんだけどな~。その剣も返して欲しいし。」
レーヴェは首を横に振り、「無理だ。」と告げる。
カンパネルラは予想通りの反応にため息をつく。
「はぁ。だよね-。でもそしたら情報はこれ以上渡せないよ。」
「そうか。だったらカンパネルラ。お前の好きな遊戯(ゲーム)をしないか?」
その言葉にカンパネルラは興味が湧き、レーヴェに尋ねる。
「へぇどんな遊戯?」
「制限時間は3分。俺がお前に一撃当てれば俺の勝ち。お前が避けきればお前の勝ちだ。もちろんお前は避けるだけじゃなくて俺に攻撃しても構わない。そして、俺が勝ったら情報を渡す、負けたら俺は結社に戻る。剣も返す。」
「その話しは本当かい?」
「ああ。剣帝の名に誓って守ろう。」
断言するレーヴェを見ながらカンパネルラは考える。
(悪くないかな。確かに戦闘力はレオンハルトが上だけど、真っ正面からの戦いじゃなくて、この条件での戦いなら幻術を使う僕が勝てそうだからね。)
「いいよ!やろうか♪」
カンパネルラは頷くと、レーヴェはポケットからコインを取りだし、空中に弾く。
「これが地面に落ちたら遊戯開始だ。」
カン!
地面にコインが落ちる。同時にレーヴェは走り、カンパネルラは指を鳴らす。
するとレーヴェを囲むように炎の蝶が現れる。
『フレアバタフライ』
次の瞬間、レーヴェを囲んだ蝶達は一斉に爆発する。それを見たカンパネルラは笑いながら尋ねる。
「はは!まさか剣帝がこれだけで終わりかい?」
『零ストーム』
突然、悪寒がしたカンパネルラは勘に従ってその場を離れる。そのカンパネルラ立っていた場所に炎の竜巻が通過する。
「ふん。あと少しだったか。」
声がした方に目を向けると無傷のレーヴェが立っていた。
「よく無事だったね?」
「あの程度なら問題ない。」
レーヴェは爆発に巻き込まれる前に後ろへ跳んで回避していた。そして、爆風を利用して攻撃したのだった。
(しかし、執行者No.0の名前は伊達ではないか。高位アーツをああも簡単に使うとは。やはり接近戦に持ち込むしかなさそうだ。)
高位アーツを警戒しながら近づいて来るレーヴェに対しカンパネルラは
「ふふん♪じゃあ、これはどうかな?」
またしても指を鳴らし、アーツを発動する。
『アイスハンマー』
大きな氷の塊が空中に現れる。しかし、それはレーヴェの上ではなく、カンパネルラ本人の頭上に。それを見たレーヴェは驚く。
(!!一体何をするつもりだ?)
カンパネルラは焦る様子を見せず、頭上に落ちてくる氷の塊を見ながら笑みを浮かべる。そして、指が鳴らした。
『チェンジフェイズ』
するとその瞬間、カンパネルラの位置とレーヴェの位置が入れ替わった。レーヴェの頭上に氷の塊が落ちる。しかし、
レーヴェはすぐに剣を上段に構え振り降ろす。レーヴェに当たるかと思われた氷の塊はレーヴェを避ける様に二つに割れた。
「ひゅー。さすが剣帝だね!でも君が凌げることは予想してたよ。本命はこれさ♪」
凌いだばかりのレーヴェの後ろに大きい魔方陣が現れる。
『偽・塩の杭』
レーヴェの背中に魔方陣から飛び出した塩の杭が突き刺さった。その体があっという間に塩になって固まる。それを見たカンパネルラは笑みを浮かべ、勝利を喜ぶ。
「まさか、あの剣帝に勝っちゃうなんて!あ、聞こえないと思うけど、しばらくすれば戻すから安心してね♪」
「その必要はない。」
「え、」
後ろから聞こえた声に振りかえるカンパネルラ。そこには剣を構えた剣帝の姿があった。
「そ、そんなどうして!?」
「受けてみよ…《剣帝》の一撃を…」
『鬼炎斬!!』
レーヴェの剣に纏われた焔の闘気が斬撃となってカンパネルラに直撃し、その体を吹き飛ばしていった。
月の僧院前には倒れている道化師とその横に立つ剣帝の姿があった。
「あいたたた。死ぬかと思った。」
「よく言う。大した傷は負ってないようだが?」
「あはは♪これでも執行者だからね。色々と対策はしているよ。それに君も本気じゃなかったでしょう?」
「まぁな。」
「ふふ。でもどうやってあれを避けたの?完璧に当たったと思ったんだけど?」
「あの入れ替わる瞬間に分け身を使っただけだ。」
レーヴェは実体をもつ分身を作りだす事ができる。それを使い、カンパネルラに本体と入れ替わったと勘違いさせ、自分は気配を殺し隙を伺っていた。
そして、技が決まり油断したカンパネルラの背後に奇襲したのだった。それを聞いたカンパネルラは、ため息をつくと、
「はぁ。まんまと騙されちゃったか。ああ、勝ちたかったな~。」
「カンパネルラ。約束通り、情報を教えてもらうぞ。」
レーヴェの言葉にカンパネルラは頷き、答える。
「まぁ約束だしね。でも僕、今回は見届け役だから詳しく何をするかは分からないからね?それでもいいなら教えるよ?」
「ああ。それでも構わない。」
「えっとねー。まずここに来てる結社のメンバーはね・・・・」
レーヴェに情報を教えたカンパネルラは軽快に立ち上がると指を鳴らし、
「じゃーね、剣帝。また会えるのを楽しみにしてるよ。バイバイ♪」
と別れを告げ消えていった。
それを見届けたレーヴェは手に入れられた情報を考えながら次にすることを決める。
「ゼムリア通商会議。俺も関わってみるか……」
そう言ってレーヴェもその場を離れるのだった。