ジオフロントD区画でテロリストがロイド達に敗れ逃げた所からいきます。
ゼムリア通商会議。テロ事件発生一時間前。
旧市街ジオフロントへ降りる入り口にレーヴェの姿があった。
(ここからならオルキスタワーに行ける筈だ。しかし、やはりロックが掛かっているな。どうする?)
レーヴェは少し考え、周りを見渡す。見渡す限り人がいない。それが確認できると、上段に剣を構える。
「すまない。」
そう言って剣を振り降ろした。
ガキン!!
ロックを掛けていた部分が割れ、扉のロックが外れる。
レーヴェは多少強引なやり方に罪悪感を感じながらも中に入るのだった。
テロ発生後。ジオフロントD区画第三層。
特務支援課に敗れた帝国テロリスト達は、結社から提供された装甲車と人形兵器を足止めに使い、逃走していた。
「くそっ!何なんだ。あのガキ共!?どうしてあんなに強い!?」
「憎き鉄血の首も取れなかった!それに続き、あんなガキ共に負けるなんて!」
帝国テロリストのメンバーは苛立ちげに声を出す。立て続けに起こるイレギュラーに、動揺する同志達をリーダー帝国解放戦線ギデオンは宥める。
「落ち着け。確かに鉄血の首を取れなかったのは悔しい。だが元々の我々の任務は陽動。本国にいる他の同志が上手くいけば直ぐに鉄血を消す機会があるだろう。今はとにかく無事に脱出することを考えるのだ。」
ギデオンの言葉に動揺していたメンバーは、少し落ち着いた様子を見せる。
「そ、そうだな。ここを逃げきれば、まだチャンスはあるよな!」
他のメンバーも頷き、出口に向かって足を早める。
すると出口に繋がる扉が見えた。ギデオンは笑みを浮かべ、同志達に活を入れる。
「あの扉を抜ければ出口はすぐだ!あと少しで我々は助かるのだ!足を止めるな!!」
そして、ギデオン達は扉を抜けた。しかし、そこに待っていたのは、冷たい銃口であった。銃声が響き、弾丸は金属音を伴って乱れ飛ぶ。
「な!?」
「っ!?」
「ぎゃ!?」
「ぐぁ!?」
銃撃が収まると、そこには足や腕、腹部等を押さえて倒れている無惨なテロリストの姿があった。
ギデオンは、撃たれた足から流れる血を押さえ、これを行った者に目を向ける。そこには見覚えのある集団がいた。
「あ、赤い星座だと!何故こんなところに!?」
《赤い星座》大陸西部の最強の武力集団のひとつで、全ての団員が一騎当千の力を持ち、戦場における単純な戦闘力においては帝国軍をも上回る猟兵団である。
「くくっ。なにこれもクライアントのオーダーでな。自分の護衛はいいから脱出しようとする帝国テロリストに対処しろとの事だ。」
そう笑いながら出てきたのは赤髪の大男。
シグムント・オルランド。
猟兵団《赤い星座》の副団長。《赤の戦鬼オーガ・ロッソ》の渾名で知られている。
ギデオンはジグムントの言葉に、彼らが誰の指示でここに来たのかを悟った。
「馬鹿な!?全てあの男…ギリアス・オズボーンの手のひらの上だったというのか!!?」
ギデオンは今までの自分達の行動が読まれていた事が信じられず、思わず叫ぶ。ジグムントはそんなことはどうでもいいという様子で、
「俺達に聞かれてもな。まぁとにかく--」
「ねぇ!パパ!もうお喋りはいいから、さっさと殺っちゃおうよ♪」
待ちきれないかようにジグムントの言葉を遮る甲高い少女の声。ジグムントが隣に目を向ける。そこにはこの残酷な光景とは場違いな赤髪の美少女の姿があった。
その顔は整っており、将来は誰もが美女になると断言出来るだろう。体は華奢な見た目だが、よく見ると引き締まっていてスレンダーだ。
そんな可愛いげな少女が猫のような瞳を光らせ、ジグムント達を見ている。その光景に違和感しか感じられないジグムント達。
しかし、彼女の手に握られている物を目を向け、その違和感は間違いだと気付く。
その手には、普通の少女は持つことも出来ない物。チェーンソー付きの特殊ライフルという凶悪な武器が握られており、彼女が場違いではない事を示していた。
ジグムントは、ため息をつくと自分の“娘”に声を掛ける。
「シャーリィ。もう少し我慢する様になれ。」
「だって最近全然殺ってないんだよ!なんかウズウズしちゃって。」
頬を膨らませ、不満を見せるシャーリィ。
端から見れば駄々をこねる子を宥める親子の絵だが、内容は恐ろしいものだった。
シャーリィ・オルランド。猟兵団《赤い星座》の副団長シグムントの娘で、ランディの従妹にあたる少女。裏社会の間では《血染めのブラッディシャーリィ》の渾名で知られ、父親同様の化物染みた戦闘力を持っている。
ジグムントは娘の態度に二度目のため息をつきそうになるが首を振り、気を取り直す。
「まぁいい。おい、お前ら始めるぞ。」
ジグムントの声に答えるかの様に、
赤い星座の団員達は一斉に銃を構える。
このあとに起こる事が分かったテロリスト達は痛みを堪え、それぞれに口を開く。
「待ってくれ!!こ、降伏する。だから殺さないでくれ。」
「い、命だけは!?お願いです!!」
ギデオンも同志の命を救う為、叫ぶ。
「私は帝国解放戦線のギデオン。今回のテロを実行したグループのリーダーだ!私の命はどうなっても構わない。だが!その代わり他の同志達の命は見逃してくれ!!?」
ジグムント、シャーリィ、他の団員達はそれを聞いて動きを止めた。それを見たテロリスト達は生き残れる可能性を感じ、助けてくれと更に懇願する。
ギデオンもそれに続こうと口を開こうとしたその時、
「くくっ。くくくく。」
「あはは!あははは!」
「ははは!はははは!」
悪意に染まった笑い声が響き渡った。
突然笑い出した赤い星座にギデオンは問い掛ける。
「な、何がおかしい?」
その疑問にジグムントは笑いながら答える。
「くくくくっ。いや、大した喜劇を見せてもらったので堪えきれなかった。すまないな。しかし、残念だがお前らの望みは全て却下だ。」
「!! 何故だ?」
「それがクライアントの望みだからだ。生け捕りではなく、殲滅しろとな。最初からお前らには選択肢はなかったんだよ。大人しく死ね。」
「そんな……」
ジグムントの言葉にテロリスト達は絶望する。
そして、人を殺す喜びに笑みを浮かべる死神達が銃を構える。
ギデオンは、その光景を見て目を瞑る。
(すまない。同志達よ。私はここまでのようだ。《C》、《V》、《S》よ。あとは頼んだ。)
ジグムントが口を開き、団員達に命令する。
「撃て。」
引き金に指を掛けたその時、
「外道が。」
突然、危険を感じたジグムントは咄嗟に後ろへ下がりながら叫ぶ。
「お前ら下がれ!!」
その指示に反応したのはシャーリィとベテランの猟兵が数人のごく僅か。それ以外は、、、、、、
『鬼炎斬』
焔の闘気を纏った斬撃が周囲を薙ぎ払う。まともに受けた団員達は壁に叩きつけられ、全員が気絶する。持っていた銃も斬撃に切り裂かれ壊れていた。
ギデオンは何が起こったか分からず、瞑っていた目を開ける。するとそこには黄金の剣を構え、こちらを守るように立つ銀髪の男の背中が見えた。
ジグムントは突然現れた銀髪の男に警戒しながら声を掛ける。
「てめぇ何者だ?テロリストの仲間か?」
ジグムントの言葉に銀髪の男、レーヴェは答える。
「別に何者でもない。只の一般人だ。そしてこいつらの仲間でもない。」
そう言って剣を肩に担ぐ。
ジグムントはレーヴェの答えに眉を潜め、苛立ちを含んだ声で再度尋ねる。
「ああん?俺の団員達をこんなにしといて一般人はいないだろう。それと仲間じゃないならそこをどけ。俺らは今、大事な仕事中なんだよ。」
「その大事な仕事というのが降伏している者を笑って殺すことか?」
「くくっ。それがクライアントのオーダーだ。それに殺しを楽しんで何が悪い?それも猟兵には必要なことだ。」
笑みを浮かべて答えるジグムント。レーヴェは彼の姿に故郷ハーメルを襲った猟兵の姿を思いだした。
ゾクッ
その瞬間、此処にいたレーヴェ以外の全員が死の危険を肌で感じた。全員がその原因に目を向け、目が離せなくなる。
そこには、体から周りを寒くさせる程の殺気が溢れさせ、顔を無表情にしているレーヴェの姿があった。
その紫紺の目と目を合わせてしまったら、それだけで死ぬ。そう思えるだけの迫力がそこにあった。
そしてレーヴェは告げる。
「俺は…お前らの様な猟兵の存在が許せない。
…来い。命を狩りとることを楽しむのだろう?
相手をしてやる。
ただし、今の俺は手加減できないから気を付けろよ?」
そして、レーヴェはジグムント達に剣を向ける。
ジグムントは、レーヴェの殺気に迂闊に動けば危険と感じ、双戦斧を手にしながら隙を伺う。
(こいつ、なんて殺気だ。こんなに自分の死を身近に感じるのは《闘神》の兄貴か、 西風の旅団の《猟兵王》と対峙した以来だ。とういうことは奴は俺と互角かそれ以上か。この強さで無名なわけねぇ。黄金の剣を使う凄腕の剣士…まさか!?)
残ったベテランの猟兵もレーヴェの殺気に迂闊に動けない。膠着状態が続くと思ったその時、そこから飛び出し常人には見えない速さでレーヴェに接近する人物がいた。
「あは♪じゃあ、遊んでよ!!」
「馬鹿が!シャーリィ出るんじゃね!?」
「お嬢!?」
シャーリィは一瞬でレーヴェの横にくると、愛用の武器、テスタロッサを両手で振りかぶり、思いっきり振り下ろす。
レーヴェはとくに動かず、その動きを見ている。
(あれ?こいつ、全然動かないじゃん。なーんだ。せっかく楽しめると思ったのに。)
テスタロッサがレーヴェを切り裂く。だが、それは呆気なく止められる。
「小娘。俺は言った筈だ…手加減は出来ないと。」
「え、嘘!?」
驚いたシャーリィが目にしたのは、振り下ろしたテスタロッサを左手だけで掴み、止めたレーヴェの姿だった。
そして、シャーリィのその隙をつくのはレーヴェには簡単なことだった。左手で掴んだテスタロッサを目の前に持ってくると、右手に握った剣を強く振るう。
『破砕剣』
砕ける様な鋭い金属音が耳に響く。
その瞬間、強烈な衝撃がテスタロッサごしに伝わり、持ち主のシャーリィごと弾き飛ばす。
シャーリィは何とか空中で体勢を戻したが、あまりの衝撃にテスタロッサは手放してしまった。
しかし、シャーリィにはそれを気にする暇がなかった。
彼女が着地した場所にアーツの魔方陣が現れ、周りを白い剣が囲んだからだ。
『シルバーソーン』
何本もの剣が襲い掛かる。シャーリィは急いで避けようとする。その時、右足首が痛み、動きが止まってしまう。実は先程、無理に空中から着地した為、右の足首を痛めていた。
動けないシャーリィは自分に向かってくる剣を見て、諦めた表情で迎え入れる。
だが、
「馬鹿娘が!!」
その瞬間、シャーリィを大きな体が包みこむ。
ザクザク。 ザクザク。
シャーリィは自分を守ってくれた人物に話し掛ける。
「パパ?大丈夫?」
「この程度の傷、何ともない。」
そう言ってジグムントは娘を解放する。
その背中には何ヵ所か血が出ていたが、ジグムントは平気な様子を見せていた。それを見たシャーリィは流石に悪いと感じたのか、落ち込んだ表情で頭を下げて、謝る。
「パパ。ごめんなさい。」
ジグムントは娘の頭を乱暴に撫で、
「次、勝手な真似をすれば見捨てるぞ。」
それだけ言って、娘から離れた。
そして戦うレーヴェの姿を険しい顔で睨み付けるのだった。
その間、レーヴェの相手は生き残った猟兵達が遠距離から機関銃を連射、又はスナイパーライフルで狙い撃ちする。流石は最強の猟兵団の猟兵。的確に射撃を行い、仕留める事が出来ないまでも、剣帝を足止めする。しかし、それも限界が近づいていた。
徐々にレーヴェが猟兵達との距離を縮めているのである。猟兵は近づけさせない様にしているのだが、レーヴェは相手の撃つタイミング、癖を見抜き、だんだんと動きが速めていくのが原因だった。
猟兵達は、徐々に近づいてくるレーヴェに恐怖を感じていた。そして、レーヴェの剣が猟兵達に届きそうになるその時、
「お前ら、下がれ。」
ジグムントの言葉に猟兵達は素直に射撃をやめ、後退する。
レーヴェも追撃はせず、こちらに近づいてくるジグムントに目を向ける。
ジグムントは双戦斧を手にし、レーヴェと対峙する。
「次はお前が相手か?」
レーヴェの言葉にジグムントは、
「その前に確認したい事がある。お前が剣帝レオンハルトか?」
その質問にとくに否定する必要はないと思いレーヴェは頷く。
「それがどうした?」
「剣帝レオンハルト。噂は聞いたことはあった。遊撃士の間では有名らしいな。一度はやり合ってみたかった。」
「そうか。今からやるか?」
やる気を見せるレーヴェにジグムントは、首を振ると
「したいのは山々だが、もう時間がねぇ。今日はこれで終わりだ。またの楽しみにしとくぜ。そして今日、俺ら見逃してくれれば、そこのテロリスト達はお前にくれてやる。」
その言葉に他の猟兵は反対しかけるが、ジグムントが鋭い視線を向けると大人しくなる。
レーヴェはその言葉を聞き、少し考える。 そして、
静かに頷く。
「わかった。その条件を呑もう。」
レーヴェの了承を得た、ジグムントはすぐに背中を向けると、団員達に命令する。
「撤退するぞ。」
その言葉を聞いた猟兵達は気絶した仲間を背負い、速やかに撤退を始めた。
シャーリィも破損したテスタロッサを回収し、撤退すると思ったがレーヴェに近づき、じっとその顔を見つめ、
「あたしの名前はシャーリィ!!覚えてといて!」
それだけ言うとさっさと撤退するのだった。
レーヴェは赤い星座が撤退するのを確認すると、剣を納めた。そして、痛みに呻きながらも全員生きているテロリストを見て、この状況をどう解決するか考え、思わず溜め息をついた。