剣帝の軌跡   作:くろけん

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第5話 やりたい事

 

 聖ウルスラ医科大学1階。今、ここは戦場の様に忙しくなっていた。原因は通商会議のテロ事件。

 

あの戦闘では、護られていた要人達は無事だったが、警備をしていた警察関係者には怪我人が多数出ていた。

 

その為、怪我人達は次々とウルスラ病院に送られてきている。突然の患者達の来訪に、内心は悲鳴を上げながらも看護師達は的確に対応する。

 

そして、また入り口から怪我人を背負った人達が入ってくる。

 

「すみません!この人達の治療をお願いします!!」

 

そう叫んだのは特務支援課のリーダー、ロイド・バニングス。特務支援課の彼らが背負っているのはレーヴェが命を助けたテロリスト達であった。

 

 

二時間後、病院の入り口から出てきたロイド達は自分達の車に乗り込む。

 

「かぁ~。疲れたなぁおい。忙し過ぎてセシルさんに声も掛けれなかったぜ。」

 

「おや、ランディはまだ余裕がありそうだね?僕なんか身体中が筋肉痛で軽口を言う余裕がないよ。部屋までロイドにおぶってもらわないと。」

 

車に乗って早々に軽口をたたくのはランディと中性的な顔にライトグリーンの髪を持つ人物。

そんなランディの言葉にロイドは苦笑しながら、もう一人の人物に声を掛ける。

 

「ワジ。俺も疲れてるんだ。おぶるのは勘弁してくれ。」

 

「仕方ないね。じゃあ、ロイド。これは貸し1つにしといてあげるよ♪」

 

その言葉にロイドは溜め息をつき、こちらをからかうワジを見つめる。

ワジ・ヘミスフィア。クロスベル旧市街を二分する不良集団の一つ《テスタメンツ》の元ヘッド。

どうやってかディーター新市長から推薦状を貰い、警察に就職し、特務支援課のメンバーとなった。何かと自分をからかう困った後輩である。

 

ロイドはワジから視線を離すと、運転をしている茶髪の少女に話しかける。

 

「ノエル。何度も運転させてすまない。疲れていないか?」

 

ノエルは笑みを浮かべ、答える。

 

「いえ!!私は全然大丈夫です。運転するの好きですから。」

 

ノエル・シーカー。

元はタングラム門に詰めていた警備隊員。

警備隊からの出向という形で、特務支援課に所属している。エリート隊員で戦闘技術だけでなく、運転技術も高い頼りになる女性である。

 

他の女性達は支援課のアパートに待機してもらっている中、運転をかってでてきた彼女にロイドは感謝の気持ちを伝える。

 

「そうか。ノエル、今回はありがとう。君がいなかったらテロリスト達をこんなに早く送る事は出来なかったと思う。もし運転が辛くなったら代わるから言ってくれ。」

 

「お役に立てて良かったです!はい!辛くなったその時はお願いしますね。

 

それにしても、私達にテロリスト達を保護する様仕向けたのはいったい誰何でしょうか?」

 

ロイドの言葉に元気よく答えたノエルは、そのまま自分達が今回テロリストを送る事になった原因を尋ねる。

ロイド達はノエルの疑問に、倒れたテロリスト達を見つけた時の事を思い出しながら、状況を整理する。

 

「あの時、俺達がが追い付いた時にはテロリスト以外に誰もいなかった。手掛かりを探して出てきたのはテロリストを病院送るようにと書いたメモと病院代のミラ。あと銃弾や武器の破片。ランディ。あれは赤い星座の物で間違いないな?」

 

ランディは頷き、真剣な表情で答える。

 

「あぁ。間違いねぇ。あれは俺がいた時から使ってた物だ。恐らく叔父貴達はテロリストを撃った後、誰かと戦闘になって、撤退したんだと思うぜ。信じられねぇがな。」

 

「じゃあ、その誰かというのは赤い星座からテロリストを守ったということだよね。テロリストの仲間なのかな?」

 

ランディの話しを聞いてワジは思ったことを述べる。

しかし、ロイドはすぐに首を横に振り、

 

「確かにその可能性も否定出来ないが、それなら他のテロリスト達を置いていくよりも連れて行く筈だ。

 

俺はテロリストと無関係の人物だと思うんだが、赤い星座を退くことができる人物や集団は思い付かないんだよな。誰か思い当たる人はいるか?」

 

ロイドの疑問に、誰も答えることが出来なかった。

予想通りの反応にロイドは溜め息をつく。

 

「はぁ…テロリスト達が教えてくれたら良かったんだけど。」

 

手掛かりを集め終えたロイド達はテロリストの彼らに助けた人物の事を聞いた。しかし、恩義を感じてか、けして誰も口を開かなかったのだ。

 

自分達にテロリストを押し付けた人物。

その情報の少なさに二度目の溜め息をついたロイドであった。

 

 

 

 

 

 

一方、レーヴェはある建物の前にいた。

彼はこのクロスベルに来た時に、決めていたことがある。それは昔、ハーメル村で自分が目指していたものになることだった。

 

そう簡単になるのは難しいだろう。それだけの事をしてきた自覚もある。しかし、カリンにやりたい事をすると約束したレーヴェは覚悟を決める。

 

「行くか。」

 

そして、レーヴェは遊撃士協会の扉を開いた。

 

 

 

ガチャン

 

 

クロスベル遊撃士協会の受付、大柄な男ミシェルは扉の開く音に、端末に打ち込む手を止めて扉の方に目を向ける。そこには銀髪の男が立っていた。

 

(あら、かなりの男前が来たわね♪)

 

ミシェルはすぐに男に声を掛けながら、体を近付けていく。

 

「いらっしゃい♪色男さん♪何か遊撃士協会に依頼かしら?そ・れ・と・も私にデートの申し込みかしら?」

 

レーヴェはいきなりの事に少し後退るが、表情を変えず

冷静に言葉を返す。

 

「いや、どちらも違う。俺は--」

 

レーヴェが来た理由を告げようとするその時、

 

チャキン

 

その喉元に刀の刃先が突き付けられた。

レーヴェは口を閉じると、こちらに刃を突き付けた黒髪の男に目を向ける。

 

「『風の剣聖』アリオス・マクレイン…」

 

アリオス・マクレイン。《風の剣聖》の渾名で知られる遊撃士協会クロスベル支部に所属するA級遊撃士。八葉一刀流の二の型奥義皆伝であり「理」にも届きうる達人と言われている。

 

レーヴェに名前を呼ばれたアリオスは黙ったまま険しい表情でレーヴェを睨み付けていた。

突然の事に茫然としていたミシェルはアリオスの突然の暴挙に慌てて彼に注意する。

 

「ちょ、ちょっとアリオス!いきなり何してるの!?止めなさいよ!」

 

しかし、アリオスはミシェルの言葉に答えず、レーヴェに刀を突き付けたまま口を開く。

 

「なぜ…貴様が此処にいる?

《身喰らう蛇》執行者No.Ⅱ《剣帝》レオンハルト 。」

 

「ええ!何ですって!?」

 

ミシェルはアリオスの言葉に驚き、レーヴェを見つめる。剣帝レオンハルト。遊撃士協会の間ではその名は有名で、数々の事件で遊撃士達の前に立ちはだかった事があり、その強さは束になったA級遊撃士達でも苦戦させる程と言われている。実はアリオスも一度戦ったことがあり、実際に苦戦したと聞いた事があった。

 

レーヴェは予想通りの状況に内心は苦笑しながら、アリオスの言葉に答える。

 

「勘違いしている様だが、俺はもう結社は抜けた。お前の目の前にいるのは執行者ではなく、一般人だ。」

 

「それを証明できるものはあるか?」

 

「ない。」

 

即答するレーヴェに、アリオスは首を横に振り、否定する。

 

「信じられんな。それにその話しが例え本当だとしても俺達は何度もお前に煮え湯を飲まされている。そう簡単に信用できる筈がない。」

 

「だろうな。」

 

レーヴェはアリオスの言葉に又も即答する。

そのこちらの反応を予想していたと思わせる態度にアリオスは眉をひそめる。そして、レーヴェに再度問う。

 

「こうなる事が分かっていた様だな。ならどうして此処に来た?」

 

「一つお願いしたい事がある。その為の提案も考えてきた。」

 

レーヴェは真剣な表情でアリオスに話す。その目には敵意や殺意はない。それを見たアリオスは警戒しながらも刀を納める。

 

「それはなんだ?」

 

レーヴェはこちらの考えを見抜こうとする目を真っ直ぐ見返し、告げる。

 

「アリオス・マクレイン。俺と剣を交えてほしい。そして、お前がその後も俺を信じられない様なら、俺を殺すも捕まえるも好きにしてくれていい。だが違うのなら俺を信じてほしい。」

 

その言葉にアリオスとミシェルは目を見開く。動揺を抑え、アリオスは口を開く。

 

「そこまでして、お前は何を望む?」

 

 

 

「俺は……遊撃士になりたい。」

 

 

 

「「なぁ!?」」

 

その望みに今度は驚きを隠せなかったアリオスとミシェル。ミシェルは思わずレーヴェに尋ねる。

 

「それは本当にそう思ってるの?遊撃士になれば貴方がいた結社と敵対する事になるわよ?」

 

「ああ、本当だ。結社にはもう未練はない。敵対しても何も問題はない。」

 

レーヴェは自然に答えた。ミシェルは味方だった組織と敵対できるとあっさり答えるレーヴェに、彼のことが分からず混乱する。

そして、黙っていたアリオスが口を開く。

 

「なぜ、遊撃士になりたい?」

 

レーヴェは目を閉じ、答える。

 

「結社での俺はある目的の為、必要ならば女子供であろうと容赦なく斬るとし、冷酷非情な修羅への道を突き進んだ。

しかし、その過ちを気付かせてくれた奴らがいた。そいつらに報いる為、俺が起こした過ちの贖罪の為にも民間人の平和と安全を守る遊撃士になりたい。」

 

アリオスはその言葉に嘘は感じられなかった。しかし、まだレーヴェを見極めかねていた。

 

(やはり見極めるためには…)

 

そして、アリオスは決意する。

 

「…いいだろう。その提案に乗ってやる。」

 

 

 

 

こうして此処に『風の剣聖』と『剣帝』の対決が決まった。

 

 

 

 

 

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