灼熱の誓い(凍結中)   作:知恵の欠片

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人間との戦いを控えるリンたち。戦って得られるものはなんだろうか?


温もりと最初の誓い(後編)

決起を起こすと決めて数日経ち、野良猫掃討作戦が行われる日を迎えた。

 

「さて、諸君集まってくれたようだな。」

 

 あたいたちを取り仕切る野良猫のリーダーがメンバー一人ひとり確認し、こう告げた。山への侵攻を食い止めるために野良猫50匹ほど集まった。それでも、全体で集まったのは3分の1にも満たなかった。どうやら他の野良猫たちはこの山からおとなしく手を引いたようだ。

 

 リーダーがメンバーを確認しながら説明する中、あたいは朝から顔色の優れない母の顔を覗き込んでこう言う。

 

「母さん、もしかして緊張しているの?」

 

「大丈夫よ、それよりもちゃんと話を聞いてなさいな。」

 

「そう?ならいいけど。」

 

 どうも母の言っていることはあたいが人間追い返し作戦に志願してから以来腑に落ちない言動がいくらかあった。普段であれば、おそらくもっと歯切れよく、事態をどうすればいいか教えてくれるのだが、とあたいは思っていた。だがそんな時間はなく、あたいはリーダーからのブリーフィングを集中して聞いていたのだった。

 

 この作戦を簡単に説明すると、あたいたちを3つの部隊に分ける。第一部隊はやすやす捕獲されるように見せかけて、人間を油断させることを目的とし、第二部隊がすかさず攻撃を仕掛ける。そして第三部隊は第二部隊と逆方向から攻撃し、混乱させて人間を追い返そうということとなった。

 

 そして昼になり作戦が決行される。全員が固唾を飲んで見守る中第一部隊が展開を始める。人間たちのご到着だ。

 

「ったく、この山に野良猫は何匹いんだよ。」

 

「前来た時はもっと多かったはず。今日に限ってあまり姿が見えんな。」

 

「長期戦もやむなし、だな。」

 

 相手の人数を数えてみると、だいたい10人くらいで構成されている。籠を持っている輩のみで構成されているようだ。捕まえられたら、一巻の終わりである。なので自分も細心の注意を払いながら、様子を見守る。

 

「お、あそこに固まってるじゃん。これなら楽に済みそうだな。」

 

 人間のひとりが第一部隊の猫の姿をようやく捉えたようだ。籠を持っている輩は誘うような声をかけた。

 

「ほーらほら、こっちにおいでー。」

 

「俺達についてくれば、こんな苦しい生活をしなくてもいいんだぞー?」

 

 そんな人間たちの誘惑など気にせず、第一部隊は彼らに対して警戒体制をとっている。

 

「そんな警戒しなくてもいいぞ?なんなら餌もくれてやろう。」

 

 そうすると、人間は魚を第一部隊の猫たちに放った。彼らは警戒しつつも、餌にあさり始める。

 

「ふん、猫なんて餌があれば簡単になびくんだよ。」

 

「ま、残り連中もこの調子でやってやろうぜ。」

 

 そこで人間どもが油断した隙に第二部隊が突如現れ、人間を襲った。

 

「うわっ、いててて!」

 

「くそっ……邪魔だ!!」

 

 人間たちが襲ってきた猫を追い払おうと懸命に腕を振ったり蹴りを加えようとするが、さすがは猫といったところか、しなやかに攻撃を避け、容赦なく噛み付いたり引っ掻いたりを繰り返した。

 

「くそっ、これではきりがない!」

 

「なんとかしろぉ!」

 

 人間が混乱しているのがよくわかる。そこに追い討ちをかけるかのように、あたいら第三部隊が後方から攻撃を加える。

 

「痛い痛い、勘弁してくれぇ~!!」

 

 人間からは情けない悲鳴が次々と上がる。そして籠を放置して、最終的には散り散りになって退散していった。

 

「勝った……、あたいら、勝ったんだね!!」

 

 あたいは嬉しくて心が飛び上がるような気分でいっぱいだった。あたいは周りを見回すと、全員が歓喜に満ちた表情をしているのがよく分かった。誰もが怪我を負っていないのをみてますます嬉しくなった。あたいは近くでほっとした表情をしている母に向かってこう言った。

 

「ほらね、あたいらは正しいことをしたんだよ!これでいつもどおりの生活がまた送れるんだ!」

 

「そうね……、リンの言うとおりだったね。でも本当によかった……」

 

 母はほっとしたような表情をしているものの、でも不安の色もわずかばかり見える。

 

「よかったならもっと嬉しそうな顔をすればいいんじゃない?」

 

「それでも怖いのが、人間ってものなのよ。」

 

 母はとても慎重だ。だけど、あたいはとにかく先のことなんて考えないで今をひたすら喜びたい。なので、あたいと同じくらい喜んでいるリーダーに声をかけに行った。

 

「無事成功しましたね、リーダー!」

 

「ああ、リン、お前のおかげだ!」

 

「えへへ……、あたいは別に何もしてないですよぉ~……」

 

「お前は将来性があるな、だからもっと強くなってくれ!」

 

「はい!」

 

 あたいは褒められて浮かれていた。まさに有頂天だった。そして、リーダーがみんなで戻ろう、そう言った矢先のことだった。

 

ドスッ!!

 

 何かがぶつかったような音がした。あたいは音の先を見てみると、リーダーの背中から何か生えている。

 

「ぐっ……弓矢か……全員撤退だ!」

 

 リーダーがこう告げたが、全員突然のことで統制がとれず、周りの仲間は人間の攻撃により次から次へと倒れていく。

 

「ふん、最初っから温情なんてかけずにどうせ殺るのであれば最初っからこうしてればいいんだよ。」

 

「さあもっと矢をつがえ!まだまだ元気なのがいるからそいつらから狙え!」

 

 敵の人数は約5人、おそらく最初の籠を持ってきた輩が失敗したときの保険として、武装した集団を後方に待機させていたのだろうか。とにかく、あたいはすぐさま母のことが不安になり、あたりを見回した。すると、母は30mくらい先にいた。無事だったのだ。

 

 だが、とても鬼気迫る顔で何かを叫んでいた。内容はこうだった。

 

「リン!!逃げて!!」

 

ドスッ!

 

「え……」

 

 私の左脚を見ると、大きく痛々しい弓矢が刺さっていた。あたいの左脚からは力が抜け、動けなくなる。

 

「さあ動けなくなったものを捕らえるんだ!」

 

 最初に撤退した傷だらけの人間たちが籠を持って次々とあたいらの仲間を捕獲してゆく。

 

「ダメ……あたいの仲間を連れてかないで……」

 

 あたいは虚しくもそう願っていたが、もう皆に残された術はなかった。

 

「さあ、お前もおとなしく入るんだ。」

 

 人間があたいを捕まえようとする。この時初めてようやく母の表情の意味がわかった。人間はとても恐ろしく、あたいら猫が束になっても勝てる相手ではなかった。そう、始めから戦いの決着はついていたのだ。

 

 自分の弱さに絶望し、そしてもう終わりだ、と諦めたその瞬間だった。あたいは体が宙に浮かぶような感覚を覚えた。急な感覚で、あたいはびっくりして目を瞑ってしまった。そして次の瞬間ものすごい疾走感を感じた。

 

 だが、籠の中に入ったとかそんな絶望とか、悲観する気持ちではなかった。もっとこう……ずっと昔から知っていた懐かしい温もり、そんな気分だった。あたいは恐る恐る目を開けてみる。

 

「母……さん……?」

 

 どうやらあたいは母に首を咥えられながら山を駆け下りているようだった。

 

「逃がすな!撃てえ!!」

 

 背後から次々と襲いかかる弓矢。だが母はまるで尻尾にでも目がついているかのように、あたいらめがけて飛んでくる弓矢をことごとく避けて進んでいく。そして、あたいは母に守れてているということで、緊張の糸が切れ、そのまま気を失ってしまった。

 

 その逃走劇の間は永遠のように長く感じた。

 

 

 

 

 あたいが次に目を覚まさせたものは、左脚に刺さった弓矢を抜かれた時の痛みであった。激痛で飛び上がった時に気づく、辺りは薄暗くて、岩の壁で覆われていた。どうやら山の麓付近の洞窟にいることが分かった。

 

「我慢なさい、女の子は強いんだから。」

 

「うん……」

 

 あたいは痛みをこらえながら、頭を急速に回転させ始めた。母に言う言葉を探すためだ。なんて言えばいいのかわからない。ただひたすら頭の中がグルグルになるくらい模索し続けた。

 

「あなたの考えは間違ってはいない。」

 

 母は突如こう告げた。あたいは自分の心が見透かされたかのようにハッと我に返った。

 

「生きていれば間違うこともある。たとえどんな正しくてもね。」

 

「正しいのに間違うことなんてあるの?」

 

 あたいはその言葉の矛盾に問を投げかける。

 

「ふふっ、それを見つけるのがこの世に生を受けたものの宿命ではないかしら。」

 

 あたいはその時やっぱり自分の未熟さを痛感したのだった。脚の痛みよりも心にズシッと響く言葉だった。そして、母はこう言った。

 

「行くべきものが行き、残るべきものが残る。こうして命は永遠に続いていくの。」

 

「うん。」

 

「だから私も、あなたに対して行くべきものとしての使命を果たせたと思うの……」

 

「は……どういう意味……あっ!」

 

 あたいは言いながら気づいてしまった。母の背中からお腹の方に弓矢が貫通していたのだ。

 

 そして今まで何事もなかったかのように話していたが、そんな精神状況でいられるわけないほど多大な失血量をしていた。

 

「ふふっ……女の子は強いって最初から言ったでしょ?」

 

 母はこの期に及んでまであたいの前で強がりを見せた。

 

「だけど、私もリンに話さなきゃいけないこと話しきってしまったらもう気力が尽きてしまったよ……だけど、もう一言……」

 

 ひと呼吸置いて、こう告げた。

 

「今までもリンを大好きだった……そして、これからもね……」

 

 別れのときは余りにも突然だ。あたいはただただ、母の言葉を繰り返すしかなかった。

 

「あたいも……あたいも母さんのこと大好きだよ……今までも、これからもっ……!」

 

 そんなあたいのオウム返しの言葉でも、母はふっと笑った。あたいはそのまま母にすがりつく。その体から温もりが消えるまでずっと、ずっと……。

 

 

 一頻り泣き、一頻り悔やんだ中で、あたいは決意する。もっと視野を広げよう。大人になるために。もっと強くなろう。あたいみたいな惨めな気持ちになるものを作らないように。

 

 

そして、復讐しよう、あたいの母を死に追いやった人間たちを……。

 




重い話でしたが読んでいただきありがとうございました。今後もこう言う出会いと別れを繰り返して、彼女は成長していくと思います。それと、今のところはすべての話に前編、後編のようにつなげていく予定です。
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