「あれ、司令も長門さんを迎えにいくんですか?」
「ん? ああ、まあな」
廊下で話しかけてきたのは、吹雪だった。
「も……ってことは、お前もか?」
「あ、はい。長門さんは六日ぶりの帰投ですから」
六日。山田は呆れて閉口した。
いくらなんでも長すぎやしないか。しかも一人でとか、馬鹿か。
と、山田の脳内で『馬鹿』『長門』の二つの単語がぐるぐると渦を巻いて、一つの答えを導き出す。ちなみに効果音は『ぺかーん』だ。電球のエフェクトが見える感じで。
しかしあんな効果音だったくせに、山田は顔を真っ青にしていた。理由は簡単、思い出したくないことを思い出したからだ。
「……なぁ、長門って愛称だったりしないか? 実は睦奥とか」
「え? いや、しないですけど」
即答。個人的にはガッデムな気分だったが、そこは提督のプライドでどうにか顔に出さず、
「そ、そうか(顔をひきつらせながら)」
無理でしたねそうですね。
こういうときの山田は、驚くほど頼りにならなかった。気まずい沈黙がせまい廊下を包んで、なんかもうあれな感じだった。
「は、早く港に行くぞ」
「は、はあ……?」
港につくと、そこにはもうあらかたの艦娘と、男性職員が揃っていた。
「あれ、お前らあの腐ったのはどうした?」
「ああ、提督。あの腐ったのなら、念のため入渠出来るように皆で風呂の調整をしにいきましたよ。私らは開発資材の受け取りに来ているんですけど」
ふーん、と、吉田に返す。開発資材の受け取り、ってことは輸送任務? 六日も使って? 訳がわからない。
「えへへ、長門と会うの楽しみだなー」
「え、お前長門と知り合いなの? 今朝造ったのに?」
嬉しそうなオイゲンにそう質問する。オイゲンは笑顔で答えようとして、眉をひそめて、黙りこんだ。
「もちろん! ……あ、あれ? どこで会ったんだっけ?」
「どういうことだよ……」
何だか記憶が混乱しているオイゲンを不審そうに眺めていると、摩耶が大声をあげた。
「長門が帰ってきたぞ!」
山田が目を凝らしてよく見ると、水平線の向こうから、割りと凄いスピードでこちらに向かってくる影があった。というか、
「え? ちょ、でかくない?」
遠くに見えたにしては凄く大きい。何だろうあれは。山田がよく見ようとしていると、夕張が悔しそうにいう。
「あれは、コンテナの物資です。……くっ、重いのは私の専売特許なのに」
「ああ、うん、そだね」
謎の供述を始めた夕張を冷たい目で見つめる。何なんだろうこのメロン、そういうことしか出来ないのか。
そう呆れていると、ぷしゅー、と兵装の停止音が聞こえる。
「戦艦長門、帰投した!」
どうやら、帰って来たようだ。
「今回も大量デスネ!」
「とてもХорошоだ」
「すげぇじゃねえか」
「これで新しい装備の開発が出来ますね、妖精さんが喜んでくれれば良いなぁ」
皆口々に感想を述べながら、三つのコンテナを海から引き揚げる。本当に凄い量だ。
まあ、それもこの立地を考えたら仕方のない事かも知れないが。山田はため息をつく。
仮に、一つの島を防衛するとしよう。
ある程度の大きさの島、ないしある程度の量の敵なら、いくつかの防衛基地を置くことで充分に防ぐ事は出来るだろう。
しかし、もしも守るべき島が日本国土程の大きさだとしたら?
もしも敵が際限なく現れ続けたら?
間違いなく、海岸線に二十やそこらの基地を置いた程度では防ぎきれないだろう。
故に、海岸線に置かれた各地の第一鎮守府の他に、そこに属する第二以下の鎮守府が互いにサポートに入れる距離を保つように並べられて、線で囲むようにして日本国土を守っている。
つまりここ呉第四鎮守府は、呉とは言いつつも、瀬戸内海ではなく太平洋のわりと沖の方にある、人工の浮き島である。
ざっくり言うと色々不足する。一応この島でも太陽光発電や波力発電、菜園等でどうにかしようとしているが、それでも限界と言う物がある。
なのでこれくらいの物資が必要になるのだ。というかどっちみち燃料やボーキは持ってくるしか無いからあれだし。
山田がそんなことを考えていると、長門は、職員達がいつもと対処が違うことに気づいたのか、眉をひそめる。
「これはどういうことだ?」
「新しい提督の方針でね。仲良くしろとの事だ」
「新しい提と、く………?」
響に言われるままに周囲を一瞥しようとした長門は、山田の姿を視界にいれたとたんに停止する。
「……そ」
『そ?』
「総一郎!? 何故貴方が!?」
『ええええええ!?』
山田は困ったように頭を掻いた。