「あー……、生き返るな」
「こういうのは良いよな」
「うむ、その通りだな」
ずず、と山田、権言坂、長門は昆布茶をすすった。
長門が帰還して2日、ずっとこんな感じで、執務室に山田が持ち込んだこたつでくつろいでいた。ちなみにあの長門の件はなんとか誤解が解けたらしい。らしい、あくまで憶測である。
だが、こたつを挟んだ三人の間にはなんとも言えないほんわかとした空気が流れる。
「……あのー」
と、そこでその光景を見ていた吹雪が口を挟んだ。
「出撃とか、演習とかしないんですか?」
「あー、うん。やっぱり出たいか?」
「ええ、まあ……」
艦娘ですし、と呟く吹雪。まぁ、そろそろ来るだろうなとは思っていた。山田は心の中でぼやく。
艦娘にとって海に出て戦う事は、イコールで艦娘の存在意義だ。いくらしこたま出撃させられたからと言って、レゾンテートルが失われる訳では無い以上、出撃させろといいに来る事くらい予想は出来ていた。が、
「行かせる訳にはいかないな。演習も駄目だ」
きっぱりとそう告げる山田。ふざけているのかと、吹雪は思ったが、山田のその目は真剣そのものだった。
「ど、どうしてですか?」
「ああ、それは……」
「もう無理デース! 我慢できマセン!」
理由を話そうとしていると、金剛が飛び込んできた。
「庇ってくれたからイイ人かと思ったら……とんだチキンデース!」
「おい金剛止めないか」
いきなり出てきて怒りだした金剛を長門がいさめるが、金剛は長門にも食いかかった。
「長門も長門デース! もう補給も終わっているのにいつまでも引き込もって、戦艦の名が泣くネ!」
「……ああん?」
一瞬で長門が殺気だち、山田と権言坂は、どこから取り出したのか慣れた手つきで、すっとあのテロリスト鎮圧とかで見る盾を構えた。流れ弾、ダメ、ゼッタイ。
「も、もう知らないネ! 好きにさせてもらいマース!」
「あ、待って下さいよ金剛さーん」
捨て台詞を残して部屋を去る金剛と、それを追いかけて出て行く吹雪。
山田は、あーあ、と分かりやすく面倒臭そうな顔をする。
と、コンコンとドアがノックされる。
「……やあ、司令」
入ってきたのは、響だった。
「少し、いいかな」
「司令にも、考えがあるのだろうけれど、少しは彼女達の思いも汲んで欲しいものだよ」
「思いって、ねぇ……」
ふー、とため息をつく。
「出させないんじや無くて、出せないんだよ」
「え?」
響が目を見開く。だが、山田は続けた。
「南の方から動かないはずの南方棲鬼が、何故か高知沖のこの近辺で目撃されたんだ」
真剣な眼差しで、山田は告げた。
「今海に出れば、恐らく全員沈められる」
「……そんな」
響が驚いていると、ドタドタと走る音が聞こえてくる。
バン! と勢いよくドアを開けて、摩耶が入ってきた。
「大変だぞ提督! 金剛四姉妹が勝手に出撃した!」
「座標は特定出来るか!?」
「今やっている!」
権言坂は声をあらげて答える。通信室のキーボードを叩く音がカタカタと響いた。
「あんの馬鹿……、帰ってきたら覚悟しろよ……」
ぎり、と山田は歯を食い縛る。無事だといいが。
「座標、出たぞ!」
「衛星と連絡を取って映像を送らせろ!」
「ああ……!」
慌ただしくキーボードを叩き、権言坂は叫ぶように言った。
「映像、出たぞ!」
スクリーンに映し出された映像では、金剛たちは敵深海棲艦と会敵していた。
「戦艦四隻に空母二隻、それから潜水艦が一隻だ!」
「ここからの距離は!?」
「北北東に七マイルだ」
「……遠いな」
ぐっ、と拳を固く握りしめた。
駆逐艦なら間に合うが、勝てないだろう。
山田はしばし黙りこんだ後、重々しく口を開いた。
「私が出る」