(……くっ、これは厳しいデース)
金剛は、敵戦艦の放った主砲を紙一重でかわしながら、金剛は冷や汗を流す。
敵は、圧倒的に強かった。ほんの数日前の命がけの戦いすら、まるでおままごとのように思える程に。
と、敵艦積機の魚雷が足をかすり、金剛は苦痛に顔を歪める。
「お姉様、油断は禁物ですよ! 対空砲を構えて!」
ボロボロの霧島に叱咤され、金剛は飛びかけていた意識を何とか引きずり下ろし、よろよろと体勢を整える。こちらに向かってくる別の艦積機に対空砲を撃とうとして気づく。砲筒がへしゃげていて、撃てない。
はっとして、前方を見ると、好機と見たか、敵戦艦の内一隻が全砲門をこちらに向けているのが確認できた。
逃げようとするが、先程の攻撃で足に傷を負っていて、上手く動けない。
敵戦艦は、無表情のまま砲弾発射の衝撃に備えて腰を少し屈めた。
『お姉様!?』
音をたてて視界が狭まり、自分に呼び掛けるかける妹達の声すら聞こえなくなる。
(提督の言うこと、聞いておけば良かったデス…………)
しかし、いつまでたっても衝撃は訪れなかった。
その理由は、恐る恐る目を開けた金剛が、一番よくわかっているだろう。
『灰色の鬼』が、立っていたからだ。
「長門、君は山田提督の『引き金』について知っていたのか?」
「ああ、この前は口止めされたが」
そこまで呟いて、周りの艦娘や職員達の驚愕が、身動きが取れなくなるレベルの物だと言うことに気づいた。権言坂は、何とか正気を取り戻したようだったが。
まあ、確かに何も知らない者から見たら『アレ』は本当に凄まじい光景だろう。気にはしないが、これを総一郎が知ったら傷付きそうだな、あの人はああ見えてそういうところは弱いから。
そこまで思案して、長門は口を開く。
「なぁ、深海棲艦が現れてから、艦娘達の体制が整うまでの七年間、どうして人間は陸地を侵攻されなかったか分かるか?」
「? それは自衛隊が」
「自衛隊で戦えるのなら、最初から鎮守府なんて無いだろうな」
「……どういう意味だ?」
いぶかしげに眉をひそめる権言坂に、長門はきっぱりと告げた。
「守った人がいるからだ。人間を捨ててでも、戦った『牙』がいたからだ」
長門は遥か水平線で戦う山田を見た。
「今は都市伝説だの政府のただの政略だのと言われているが、確実に彼らは『いて』、総一郎はその部隊の隊長だった」
その『鬼』は、白い服を着ていた。
目が覚める様な白に、どこまでも淀みきった灰色の装甲を全身に纏っている。その体の周りには、五枚の大きな鱗が漂っていて、後ろからでも分かる程の角が、『鬼』であると言うことを教えてくれていた。
予想外の展開に、深海棲艦も呆然と立ち尽くしていた。その『鬼』は、どこまでも深海棲艦に酷似していたからだ。
『フゥ………』
『鬼』が、握りしめていた手を開く。すると、へしゃげた敵の弾丸がバラバラと音をあげて海に落ちた。
その光景に、また混乱する。敵か? 味方か? その問いが、その場にいた全員の心の中に現れたとき、『鬼』はゆっくりと金剛達の方へと振り返った。
「……え?」
「嘘」
「どういう……」
「…………提督?」
『全く、大人しいのも嫌だが、やんちゃなのもこれはこれで面倒だ』
そこに立っていたのは、変わり果てた姿をした山田総一郎提督だった。