艦隊これくしょん グレースケイル   作:T村

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提督権言坂イチノへ 3

「ああ、権言坂。私は何か適当なところで寝るから、今日からもいつも通りのところで寝ていいぞ?」

 

 艦娘達がこれまでほとんど使うことの無かった自室へと戻り、職員も寮に戻っていった夜の二時。食堂の後片付けをしていた山田は、同じく後片付けをしていた権言坂に、唐突にそういった。

 

「いつも通り、と言うことは………提督執務室の隣の?」

 

 権言坂はいぶかしげに首をかしげた。何で、そうなるのだろうか。

 

「ああ」

「いや、待ってくれ。それはおかしくないか?」

 

 権言坂がそう制するが、ちょうど鍋を濯ぎ終えた山田は、別段おかしくは無いが、と答える。

 

「提督になったとはいえ私は新参者だからね。前からいた人の部屋を取るのは、何と言うかフェアでは無いだろう?」

「フェアって……これはそういう問題では無いと思うが」

「では、どういう問題なんだ?」

「……それは」

 

 権言坂はくちごもる。あれ、そう言えば本当にどういう問題なんだこれ。

 少し考えてみるが、答えは出ない。

 山田の言っていることも、普通に筋が通っているし。

 仕方ない、聞くか。権言坂は、山田に訊ねた。

 

「どういう問題だと思う?」

「さあ?」

 

 こいつは………。権言坂は額を手で押さえるが、もうどうしようもない。ただ、彼の心の中に、「何なんだこの人……」というあれな認識が新たに刻まれたとだけ言っておこう。

 

「……ふわぁ………。じゃあこうしよう、今日はひとまず二人とも提督執務室で寝て、明日どうするか決めよう」

 

 山田は眠たそうに欠伸をしながら言った。どうやら、とりあえず眠いから今日はとっとと寝たい様だ。

 

「あ、ああ。それでいいだろう」

 

 権言坂は、少し遠慮がちに頷くと、濡れた手をタオルで拭いた。

 

「早くいこう。このままだと立ったまま寝てしまう」

 

 

 

「……お休み」

「あ、ああ、お休み」

 

 ぱちりと電気を消した山田は、布団に潜り込む。

 

「……すぅ……すぅ」

「…………」

 

 しかし、彼は十分程経っても目をとじはしなかった。

 彼は、隣ですやすやと眠る権言坂の首筋に、指を二本当てる。

 とくん、とくん、と静かにリズムを刻む脈を測ると、何処から取り出したのか、小型のペンライトで瞼の上からその目を照射する。

 

「………すぅ………すぅ」

「……寝ている様だな」

 

 山田は、外部からの刺激を受けても脈拍が変わらないことを確かめてから、すっ、と布団から出た。

 音をたてずにドアを開けるが、外は冷えるので軍服を羽織り、山田は、男としてはやや長い髪で隠れていた右耳のインカムを、人指し指で二回こづいた。

 

『……総一郎か?』

「ああ、色々あって連絡が遅れた」

『いや、気にはせん』

「そうか」

 

 呉第四鎮守府の泊舎、そこは、前述した通り、普通の鎮守府のそれに比べれば大分見劣りするものではあったが、そこには、人一人が身を隠すには充分な裏庭があった。

 山田は何処までも濁った空を、忌々しげに睨む。

 

「というかジイさん。何が『ブラック鎮守府』だよ。何が。これなら、『牙』の方がよっぽどブラックだ」

『ああ、そちらは、今日本で『一番まとも』な鎮守府だからな』

「………何?」

 

 山田は眉をひそめた。……どういうことだ?

 

『簡単な事だ。そこ以外の鎮守府は皆、部外者の誰にもばれないように、えげつないやり方で、大破進軍させているらしい。いや、もしかするとそれだけでは無いのかもしれん』

「……そんな話を私にして、どうするつもりだ?」

『そんなこと、聞かなくても分かっているだろう?』

 

 しばしの沈黙、そしてインカムの向こうの人間は言った。

 

『近日中に、そちらの近くの鎮守府合同の大演習を開く。その時に、証拠を掴み、最低でも一つ……潰せ』

「……………」

『お前の『|引き金(トリガー)』は明日の昼までにそちらに郵送する。頼んだぞ』

 

 それで通話は終了した。山田の耳元で、通話の終了を示す砂嵐のような音が鳴る。彼が無言でインカムを二回こづくと、音はなりやんだ。

 

「……また、戦わなければならないのか」

 

 畜生め。彼は忌々しげにそう呟くと、突如光に包まれた。

 

「……?」

 

 どうやら、懐中電灯の灯りの様だ。

 一体誰が………。目を庇うように左手を動かして、山田はその光の主の姿を視認する。

 

「ああ、こんな所にいたのか」

 

 立っていたのは、権言坂イチノへだった。

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