「と、まぁそういう訳なんだよ」
「そ、そうなんですか」
山田とオイゲンは、食堂の椅子に腰掛けて、これまでの経緯について話していた。経緯と言うのは、まあ深海棲艦のこともそうだが、この呉第四鎮守府の事とか、その、オイゲンが出来た方法とかのことだ。
「私、ナベから生まれたんですね……」
「あ、……うん」
艦娘的に鍋から生まれるのってどういう気持ちなんだろうか。人間で言うところの試験管ベイビーとか、そう言うのに近いのか? と山田は考える。そうだったらいいな。私とお揃いだ。
と、しばらく黙りこんでいたオイゲンは、バッと顔をあげた。
「つまり、提督は私のお母さんってことですね!」
嬉しそうに、そんなことを言いながら。
「いや、何故?」
呆気にとられながら山田がそう聞き返すと、オイゲンは本当に嬉しそうな顔をしながら笑う。
「だって、私は提督のお陰でここにいられるんですよね。なら、お母さんですよ。Danke.感謝ね!」
何でこの人はこんないい笑顔が出来るんだろう。山田は少し羨ましくなっている自分を感じて、自嘲ぎみに笑った。
「そうか。でもせめてお父さんが良かったな私。ていうか思うのは勝手だけど呼ぶなよ人前で」
「はい、お父さん!」
言ってるそばから。まあ元気なのは良いことだよなと思ってふと山田が後ろを見ると、食堂の入り口に夕張が立っていた。
「お、お父さん!?」
「おいまて誤解だどこに行く!?」
スタンティングスタートで走り出した夕張を山田は全力で捕まえる。
所詮は低速艦、兵装がなければただの足の遅いメロンだ。
「うわぁああ! てごめにされるぅうう!」
「するかぁああああ! というか何の話だよ!?」
身体をガッチリホールドされた夕張は山田を睨み付ける。
「どうせその子は昨日権言坂さんと育んだ愛の結晶なんでしょう!? そしてこれから私も無理矢理……!(ハァハァ)」
「するか馬鹿! したとしても一日で子供が生まれるか馬鹿! それと権言坂が女って知ってたんなら教えろよ馬鹿!」
「馬鹿馬鹿言って! そうやって私を興奮させてから襲おうと言う魂胆ですね屈しませんよ!(ハァハァ)」
「え、悪口で興奮するのお前気持ち悪っ」
「ああしまった! じゃなくてほら! 酷いことしないと言いふらしますよほらぁ! 早くそのぶっといのを無理矢理ぶちこんで(ry」
「オイゲンガムテープ取ってこいこの変態を黙らせる!」
「は、はい提督!」
「が、ガムテープ!? まさかそれを使って裸にした私の局部だけ隠して鎮守府を歩き回させるつもりですねそしてそれを男たちがいじくりまわすんですね分かります!(ハァハァ)」
「オイゲン早くガムテープ!」
「は、はぃぃぃ!」
閑話休題。もとい、変態をガムテープで拘束、厳密にいうとガムテープですまきにしたので、山田達は落ち着いて話をしていた。
「つまり、こいつは私が建造したという訳で別に権言坂とどうこうあった訳じゃない」
「そ、そうですよ。提督はそんなことしません!」
弁解する山田とそれを支持するオイゲン。これなら流石に分かってくれるだろう。
「……そうなんですか………チッ」
そう思っていた時期が彼らにもあったというのだから驚きだ。
「いやいやおい、何なんだよその態度は」
山田が苛立ちげに訊ねると、夕張は効果音がつきそうなくらいの気迫で言った。
「殴るなら殴りなさい私の業界じゃあそれはご褒美だけどね!(くわっ!)」
「もうやだこいつ……」
山田は額を押さえて項垂れた。
初めて会った時から妙な奴だとは思っていたが、まさかここまでとは。
「さて、おふざけはこれくらいにして、と」
と、一転して夕張は真面目な顔になった。
「貴方は何者ですか?」
空気が、変わるのを感じた。
「それは、どういう意味だ?」
思わずオイゲンが震えてしまう程の恐ろしい声で聞き返す山田。
しかし、夕張は臆するどころか、軽く笑うように言った。
「いえね、貴方から、私と同じ匂いがしたもので」
底の見えない笑顔で笑う夕張。
「道化の匂いが、ね?」
山田は自分の読みが外れていた事を悟る。
この鎮守府で一番警戒すべきは、職員でも、権言坂でもない。
夕張だ。