「……それは、私がふざけていると言いたいのか?」
駄目だ、悟られては駄目だ。
山田は、早鐘を打つように刻まれる心臓の鼓動から目を反らすようにポーカーフェイスを貫く。
「いえ、そういう訳では?」
嗚呼、これだ。山田は心の中で悪態をつく。山田の嫌いな目、こちらのすべてを見透かすような、深く、深く、静かな瞳。山田は知っている、この瞳を持つ人間を。そして、その人間は………。
「っぐぅ……」
頭に鈍痛が走る。駄目だ、あの事を思い出してはいけない。意識を持っていかれる。
ぎりり、と奥歯を噛み締めた時、ぎぃとドアの開く音が聞こえた。
「あ、あれ? 何をしているんですか司令官」
「うわっ、夕張がすまきにされてるぜ!」
「Oh! New faceデスネ!」
「……どういう状況かな、これは」
入ってきたのは、他の艦娘や職員達だった。
「へぇ、するとオイゲンさんは司令官さんの力によって生まれたんですね」
「うん! 提督はすごいよね!」
吹雪の問いに笑顔で頷くオイゲン。夕張と違って、わりとすぐに分かってくれたようだ。やれやれ。
「いや、ところで夕張さんがガムテープですまきにされている理由は……?」
でもこっちは理解してくれてないみたいだ。くそう。山田は悪態をついた。
「えっと、つまりどういうことなのかしら?」
「提督が変態なだけでは無いのかしら、赤城さん」
「え、まさか提督お前変態だったのか!?」
「「いや変態はこいつだ」この人です」
見事に同時に反応する。山田は、一緒に答えたオイゲンを見つめて、ふっと微笑んだ。流石は私の造った艦娘、よく分かっているじゃないか。
山田はオイゲンの頭をぽんぽんと撫でる。
「え、えへへ……Danke」
「いやさっぱり分からないわよ、それじゃあ」
呆れた様に言う川内。
オイゲンとはこんなにコネクトしてるのに、やっぱり皆には伝わっていないようだ、くそう。山田は日本語の限界をかいま見たような気がした。気がしただけだ。ここ重要。
「と、とにかくほどいて挙げましょうよ」
「いえ、心配には及ばないわ」
ここで空気が読めて気も聞く吹雪はそっと夕張のガムテープを剥がそうとする。しかし、それをいさめたのはまさかの本人だった。
「どうしてですか?」
「いや、これ凄くきもちよくって……あとちょっとでイけそうなんだけど」
「あ、ソッすか」
やばい吹雪の目が死んだ。
「……なるほど、これは酷い変態ね」
「だろう?」
「提督が」
「何故や」
高雄は、冗談ですよ、冗談。と笑うが、全然そう見えない。山田は高雄の中でどんだけ低い立場にあるんだろうか。
「と、とにかく朝ごはんを食べようか、夕張はほっといて」
「そうだね。夕張は放っておこう」
「お腹減ったし、はやく食べようぜ。夕張は放置しといて」
壮絶なまでにハブられているが、当の本人は「ああっ、皆!? ………あれ、放置プレイも意外といいかも……ぁん」等と世迷いごとをほざいていた。
だが、山田はそんな夕張をじっと見ていた。
さっきといい、今といい、切り替えが早すぎやしないか? そう、まるで、
別の人間が、入っているみたいに。
「し、司令官さん、早く来てください赤城さんがボーキサイトを容器ごと食べようとしています!」
「何トン食う気だ!? 分かったすぐいく」
山田は、夕張を一瞥してから、カウンターに向かって走っていく。
「おいこら止めぅわ!」
「赤城さんの邪魔は……させない(キリッ)」
なんかいい顔で矢を放たれた。水上機では無いようだが、何処から取り出したんだろう、あの矢筒。
「ちょっ、誰か加賀か赤城を止めろ今あるボーキそれだけなんだ!」
「!? まじかよ止めるぜ高雄」
「はいはい」
「ああ!?」
「「ひいっ!」」
摩耶と高雄が止めに入るが、正規空母の眼力は凄かった。というか絶対893だろあいつ。893艦だ。
「し、司令官! 突き飛ばされた響ちゃんが燃料の海に沈みました!」
「今すぐ引き上げろ!」
なんと言うカオス。もう帰りたい。と後ろの方で「あ、あぅうう~」と、心の安らぐ声がした。
「ど、どうしよう、通れないよ……」
振り返ると、オイゲンがカウンターの通路に主砲を引っ掻けていた。
「ど、どうしよう提督……」
「それ置けば良いんじゃ無いか?」
ぱぁっ、と顔を明るくするオイゲン。
「ほ、本当だね! 凄いよ提督! Danke Danke!」
花の様な笑顔で喜ぶオイゲンを見て、山田は思った。
きっと、今日オイゲンを作れたのは、私の胃に穴が開かないように神様が送って下さったんだろうな。
ふふ、と一人納得する山田をよそに、事態は更にカオスになっていった。
ちなみに、職員'sは巻き込まれると生命的な意味でかなりヤバいので部屋の隅でおとなしくしていた。
是非とも私も次回からはそうしたい。