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Ⅰ暁月の名
プロローグ
《龍刃師》“りゅうじんし”ーー《ドラグーン》と呼ばれる彼らは、列記とした人間である。ただ、戦闘民族のように老化が遅いだけで…………。
彼らの先祖はその昔、世界を危機から救った。その危機は《龍人化現象》と言われている。
龍人化現象は、二〇六四年ーー今から丁度三十年前に世界中で起きた現象だが、その内容は当時ではあり得ないものだった。多くの人間が、龍“ドラゴン”や一角獣“ユニコーン”、さらには魔神などの、仮想生物と融合。正確には、ほぼその姿となり、龍人化しなかった人々を襲い出したのだ。
しかし、龍人化したにも関わらず人の姿を保ち、さらには龍人化の力を使い、人々を守った者達がいたのだ。
それが、龍刃師ーー《ドラグーン》である。
八年前の《第一次龍人大戦》以降、龍刃師は職業となっている。もちろん、命を賭けた危険な職業だ。年齢制限はないが試験があり、龍刃血“りゅうじんけつ”と呼ばれる龍刃師の血の適合者だけが、龍刃師となる事ができる。そして、龍刃師の血族ーーつまり、元々龍刃血を血液に含んだ龍刃師の子孫達は、半ば強制的に龍刃師となる事になっている。
…………………………。
そう、俺は……。《暁月 薫》は、龍刃師の血族なのだ。龍刃師の子孫なのだ。
現在十六歳の俺は今、龍刃師最高組織本部《ヴァンドラ》へと向かっている。父さんとの約束を守る為に……。《ヴァンドラ》の最強龍刃班ーー《ナイト・ロザリオ》の隊員となる為に……。
車の車窓に映る俺の覚悟に満ちた眼は、眼前の蒼穹よりも碧く透き通っているーー。
Ⅰ,暁月の名
蒼い空、白い校舎、そして…………血の匂い。
世界立凛花高等学校の三階、1ーBの教室からは真っ赤に染まる海が見える。それは八年前に起きた《第一次龍人大戦》の残骸であり、恐怖の象徴である。
このクラスーーいや、この世界の人間はみんなバカだ。なぜ命を犠牲にしてまで龍刃師になろうとするのか、俺には分からない。意味不明だ。
ーーただカッコいいからーーまだそっちの方が分かる。なぜみんなは「この世界を守る」だの「龍人化現象を止める」だの言うのだろうか……………。本当に意味不明だ。
この赤い海が龍人と龍刃師の血の色だと知った上で、そんな事を口にするなんて…………。
カーーン カーーン
放課後の鐘の音だ。
俺はその鐘の音を聞くと、ゆっくりと立ち上がり教室から出て一階まで降り、さっさと帰った。
帰り道はいつも一人。次々と人とすれ違う中、俺は左側に並ぶビルに映る自分を見ていた。
前髪を短めに切った茶髪。その下にあるのは瞳の大きな碧眼、筋の通った鼻、男にしては小さめの顔。身長一七十cmのその身体は白く細く弱そうだ。
「母さんのところに行こっかな………」
俺はいつもより低めにそう呟いた。
俺の母《暁月 千尋》は総技術高度医療センターに入院している。
母さんは俺と三つ上の姉を女手一つで育ててくれた。そして、数えられないほどの借りがある。だからこそ、こうして毎日医療センターへと足を運んでいるのだ。
ーーいや、それは俺の自己満足かもしれない。
そんな事を思いながら、俺は総技術高度医療センターの前にある交差点に着いた。
そのときだった。このとき、俺の運命の歯車が動き出したのだ。
バァシャン‼︎‼︎というガラスが割れた音に、俺は俯いた顔を上げ上を向いた。医療センターの六階、左から六つ目の窓ーー俺がよく知る《606号室》の窓から“人の様な黒鬼”ーー龍人“黒鬼型”が勢いよく飛び出した。
俺は、しばらく頭の中が真っ白になったがすぐ正気を取り戻した。
「母さん………‼︎‼︎‼︎」
俺は全力で走り医療センターの前まで行ったが、そこには奴がいた。
黒いオーラに身を包んだ龍人の口からは大きな牙が生え、頭からは真っ赤なツノが捻れ生えている。
その姿を見た瞬間、俺の頭の中に過去の記憶が生々しくフラッシュバックした。フラッシュバックされたそれは、八年前に起きた第一次龍人大戦のものだった。
俺の父親《暁月 仁》は龍刃師だった。そして、当時八歳だった俺をこの眼前の龍人と同じタイプの龍人から守る為に………死んだ。最後に聞いたーーいや、見た言葉は、
ーーか あ さ ん を た の ん だ ぞーー
だった。確かに父さんの唇はそう動いた。しかしどうだ、今のこの状況は………。たった一つの約束を果たせそうにないではないか。
俺は後退り叫んだ。
「くそくそくそくそくそ………くそ‼︎‼︎また俺は家族を守れないのか⁉︎俺には分からない。なんで家族や大切な人じゃない他人を守る為に、戦うんだよ………⁉︎なんで、なんで本当に守りたいときに力がないんだよ‼︎‼︎」
その問いに一瞬の赤い影が答えた。
「薫。あんた今、自分で言ったじゃん………」
その声には聞き覚えがあった。一年前、家を出て行ったあの人の声だった。
俺はその姿を見てゆっくりと口を開く。
「ふ………冬姉………?」
風に揺れる栗色の髪は肩甲骨あたりまで伸び、こちらを向く瞳は俺とそっくりの碧眼。大人の美貌を備えた唇はリンゴの様に赤い。そして、スッとした白い身体を唇より赤い制服が包み込んでいる。背中にある《龍印》を見れば、それが《上級龍刃師》の制服だとすぐ分かる。
少し背が伸びているが、間違えるはずがない。この人は《暁月 冬華》………。俺の姉だ。
俺は少し混乱している。なぜ、一年前母さんと俺になにも言わず家を出て行った冬姉が、今こうして俺を助けているのか。なぜ、この街にいるのか。これは背中の龍印を見ての疑問なのだが、なぜ、冬姉は龍刃師の制服を着ているのか………。
「冬姉………。この状況、意味分かんないよ‼︎」
俺がそう言うと冬姉は、右手に持った光の剣?で龍人を仰け反らせ、俺の手を握り走り出した。
〜☆〜★〜☆〜
「冬姉‼︎なんでだよ、なんで龍刃師に…………‼︎」
俺は冬姉に手を引かれて医療センターの裏に来た後、しばらく冬姉の話を聞いた。話の内容をまとめると、こうだった。
冬姉が一年前に家を出たのは龍刃師になる為だったという。そして、龍刃師にならなければならない理由があったというのだ。
しかし相変わらず意味が分からない。理由があるなら、俺達に話してくれれば良かったではないか。この一年の間に連絡を入れれば良いではないか。
俺はそんな疑問を「冬姉‼︎なんでだよ、なんで龍刃師に……………‼︎」に込めたのだ。
しかし。
「説明は後でする。許されるまで謝る。だから今は、薫とママを助けさせて………」
そう言われ、冬姉を責めることができなくなってしまった。でも、これだけは聞いておきたいと思い俺は口を開いた。
「分かった………。じゃあ冬姉、これだけ教えて?さっき、俺自身が答えを言ってるって言ったよな………?あれってどういう………」
「薫。あんたはさっき『なんで本当に助けたいときに力がないんだよ‼︎‼︎』って言ったよね……。逆に質問するけど、薫と同じ気持ちの人がこの世界に何人いると思う………?」
ーーそんなの………。
「……………数え切れないよ……」
俺はそれを考えた瞬間、自分の愚かさを痛感した。だから俺は答えをこんなにも苦しそうに言ったのだ。涙を堪えながら言ったのだ。
「薫………」
俺は立ち上がった冬姉を見上げた。すると、冬姉はニカっと笑い明るい声で言った。
「その為に………。薫みたいに、助けを求める人達の為にあたし達がーー龍刃師がいる………‼︎ママはさっき助けた、次は薫の番……。後は、この《S級ドラグーン》に任せなさい‼︎」
冬姉はさらに強く笑うと、医療センターの壁を駆け上って行った。
それから冬姉が戻って来たのは五分後だった。赤い制服は相変わらず綺麗なままで、髪すら乱れてない。冬姉は本当に強いのだろう。
冬姉は戻って来た後ーー通話のやり取り。遅れて来た部下らしき人達への指示。医療センター損傷部の修復。装備品の手入れ。ーーなど、他にも多くの仕事をし終わった後、俺に言った。
「薫………。ママの所、行く?」
「……あぁ、うん……」
俺は短く返し、冬姉の後をついて行った。
エレベーターで六階まで上がって、廊下を右に十と九つ目の扉の前で止まった。扉左に貼られたプレートには【暁月 千尋】の四文字が書かれている。
ゆっくりと扉を開くと、ベッドの上で太陽の光に目を細めながら空を眺める母さんがいた。
長く伸びた黒髪と横に長い碧眼はベストマッチし、若々しい。逆に、肌は白く身体は細く痛々しい。さらに病服で身を包んでいるので、こちらまで心が苦しくなる。
「ママ………。薫、連れて来たよ………」
母さんは冬姉の声に気付くと、こちらを振り向き優しく笑い、口を開いた。
「薫、いらっしゃい……‼︎さっきね、冬華が助けに来てくれたんだよ‼︎久しぶりに会えて嬉しかった………」
母さんの笑顔と弾む声を聞いて、俺は思った。そして、誓った。
ーー母さんを守りたいと……。世界中の大切な人達を守りたいと……。そして、龍刃師になってやると………。
俺はそう心に決め母さんの近くまで行き、いつもより長く話をした。
〜☆〜★〜☆〜
結局、俺は医療センターに泊まってしまった。眼が覚めた現在、午前七時二十分である。高校には充分間に合うが、俺は病室から出なかった。
俺が眼を覚まし十分後、母さんが眼を覚ました。
「おはよう………。薫……。眠れた………?」
俺は母さんの声を聞き、自分の気持ちを再確認した。そして、過去最高の笑顔で母さんに言った。
「母さん………。俺……夢ができた」
「どんな………?」
母さんは、ニコッと笑いながらそう言った。それに対して、俺は思った事をそのまま言葉にした。
「………父さんみたいになる……。冬姉を追いかけて龍刃師になって、いつか冬姉も父さんも追い越してやる。最強になって、母さんを守る………」
ーーこれは、父さんとの約束だったしな………。
と心の中で付け加え、母さんの瞳を真っ直ぐ見た。すると母さんは、
「………ありがとう………」
そう言った。
涙が零れそうになったが、なんとか耐えた。
「薫、あんたどうやって龍刃師になるつもりなの?」
尖ったその声は、母さんではなく冬姉だった。気付かないうちに、病室の扉にもたれかかっていたのだ。
「…………………………」
俺は黙り込み考えた。
ーーどうやって龍刃師になろう……?まず何すれば良いんだろう……?
と。
するとそこで冬姉が、全てを見透かしていたように言った。
「やっぱり。薫の事だから、そんなに深く考えてないと思った……。えっとね……薫、あんたが本気で龍刃師になりたいならあたしがキッカケを作ってあげる。でも、そこから先は少しでも、薫自身が自分の足で進まないとね……?」
「……あ」
ーーりがとう。と、言おうとしたと同時に冬姉が、
「自分の足で進まないと、ア・タ・シ、を越せないからねぇ……‼︎」
そう言った。
「ウグゥ………⁉︎やっぱ、聞いてた………?」
俺の質問に対する冬姉の満面の笑みに、思わず腰を抜かしそうになった。さっきの龍人よりも、オーラが怖かった事は言わないでおこう。
「あっ、そうそうーー」
冬姉が何か思い出したのか、いきなり喋り出した。
「ーー薫、あんたは《訓練生龍刃師》には、百%なれるから心配しなくて良いわよ………」
「何を根拠に………」
「根拠って………。まぁ、薫が《暁月》だから……だね。薫には言ってなかったけど、《暁月》って《龍刃師の血族》だから………」
「………………ハァァァァァ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎⁉︎」
俺の脳が……………フリーズした。
初投稿だったのでアドバイスなどあれば、よろしくお願いします。
※毎週土曜日、遅れても最終投稿から二週間後の土曜日のペースで投稿して行きます。(いければ、一週間に二、三度投稿)をして行きたいと思います。