悲しいけど、いつまでも・・・
加奈子の手が好きだった。いつ迄も触っていたい柔らかな手だった。
俺は加奈子の手フェチかもしれない。
付き合っている頃もよく手を繋いだ。
デート中は繋ぎっぱなしで、夏なんかよく加奈子に暑いし
汗ばんでベトベトすると困らせたものだ。
加奈子と一緒になってからも同じだ。
買い物も、旅行も、散歩もよく手を繋いだ。
一度、加奈子に何で手を繋ぎたいのかって聞かれた事がある。
何でだろう?自分でもよく分からない…だけど、安心するから、と。
加奈子にも聞いた事がある。
茂樹 「手を繋ぐの嫌?」
加奈子「嫌いじゃないよ、暑い時は程々にしてくれれば」
よかったと思った。俺の元気の元だもん!
あと、もう一つ好きな事がある。それは、加奈子の指輪を触る事である。
左手の薬指にはめた指輪、そう、結婚指輪を触ることだ。
加奈子の指輪は俺の分迄奢っていいものを作った、デザインリング。
少し厚みのある艶消しプラチナでリング外周の一部に18金が3ミリの長さ程入っていて
その上に小粒のダイヤが1つ、はめ込んである。
細く綺麗な加奈子の手によく似合っていた。
加奈子もその指輪は気に入ってくれたらしくて友達にも褒められると
よく自慢をしていた。
俺は手を握りながらその指輪をコロコロと触るのがまた、好きだった。
あんまり触るから指が痛くなると真剣に怒られた事もあったよ。
寝る時は加奈子が俺の右側だから左手を繋いで寝る、だから自然に
指輪も触れるんだ。
たけど、いつからかな?加奈子が指輪をしなくなったのは…。
家に居ても詰まらないし仕事をしてみたい…。
4年前に加奈子はそう、俺に訴えた。子供が出来る迄、働きたいと。
「家計も助かるし、私も外に出たいわ。家に居ると何だかおばあちゃんに
なっちゃう!」
元々、OLで経理をしていた加奈子はすぐに小さな会社の事務で働き始めた
。
働き始めた加奈子は凄く嬉しそうに毎日、会社での出来事を俺に話してくれた。
三年ぐらいたった頃だろうか…赤ちゃんが出来ないと加奈子が泣いた。
一度、流産をしているがお互いに愛し合っているから大丈夫だよと慰めてた。
俺は子供がたとえ出来なくても加奈子だけそばに居てくくれば、其れだけで
十分に満足だった。加奈子がおばあちゃんになってもずっと、愛してる。
指輪をしなくなった理由を聞いてみた。
「あまり、同じ指に長くはめてると其処の所だけ細くなっちゃうのよ」
「あっ、本当だ」
仕方がない…少し不満だが綺麗な指の為だ、我慢するしかない。
加奈子の宝石箱の手前にそのリングは飾られるようになった。
「新しいのがほしいの?」
「ううん、これで十分だよ。一番お気に入りだもん!」
「そっかあ」
そう言って、優しく手を握った。
加奈子が死んじゃった………。
朝、元気に出掛けたのに…。「夕飯、なにがいい?」って。
会社近くの交差点で突っ込んで来た乗用車に跳ねられた。
連絡を受けた病院から心肺停止状態だと言われた。
駆けつけた時には手遅れだった…。脳死状態。
医師からはもう、今度心臓が停止したら考えて欲しいと言われた。
何を? 生きてるじゃん!呼吸してる!まだ、何とかなるじゃないか!
みんなが泣いてる…。だけど、泣けない…何で?
やがて加奈子の心臓が止まった…、「加奈子…加奈子…、返事してくれよ…」
あとの事はあんまり覚えていない……
加奈子の最後のお別れの時、加奈子にキスをした…
「愛しているよ、加奈子いつ迄も…、生まれ変わってもまた、会おうね」
薄化粧をした加奈子の顔はとても綺麗だった。最後に俺に微笑んで
くれた気がした…
加奈子が居なくなったマンションの部屋、こんなに寂しいものなのか…
すぐにでも帰って来そうな気がしてならない。
薄暗い部屋の中でボンヤリしる。待ってても来ないか…
外で物音がすると帰って来たのかと錯覚したり。
少しづつ部屋の整理をしてみた、どれもこれも加奈子との思い出で一杯だ。
加奈子のお気に入りの洋服、化粧品、せがまれて買った鞄、茶碗、箸に歯ブラシ
、ヘアブラシ………
ポタポタと涙が流れて整理にならない。
ふと、加奈子の宝石箱が目に付いた…
開けてみた…、あっ、加奈子がここにもいた!
俺の好きな結婚指輪…… もう、涙が止まらなかった…
加奈子が俺に残してくれた指輪…ありがとう…加奈子。
加奈子と一緒に歩んだ人生…チョッピリ短くても素敵な人生だったよ…。
これから、また、加奈子と一緒に頑張ろう!
俺は加奈子の指輪をネックレスのトップにしてみた。
加奈子と手を繋いでる気がした…。
加奈子が俺にいつも一緒だよと言ってくれてる気がした。
茂樹 「加奈子、これからも一緒だよ」
マンションのベランダから差込む夕日に加奈子の指輪が
輝いていて笑顔の加奈子が答えているようだった。