それでは、どうぞ!
side.束
むっくんを助け出して私のラボに連れてきてから半年。むっくんは、まだこれといった変化はない。
最初は本当にむっくんは最低限の生活もできなかった。心を閉ざし、口も開かず、眠らず、何も食べず、ただベッドに座ったままいろんな感情が無くなって暗く深い闇を持った目でどこか虚空を見ていた。
何を思っているのか私にはわからないけど、出来るだけむっくんと一緒に行動した。
時にはむっくんを外に連れ出したり、また一緒に寝たりした。その時は抱き寄せ、むっくんが安心するようにしたり、私にできる限りのことをしてきた。
そしそして今日も...
「...ねえ、むっくん」
一緒の布団に寝転がっているときにいつもと同じように話しかける。
「昔、むっくんが束さんに言ってくれた言葉があるんだぁ。
それはね、『束さんはね、周りが束さんを見てないんじゃなくて、束さんが見えてないだけなんだよ?焦っちゃダメ。心を落ち着かせてみれば...ほら、いるでしょ?束さんの大親友のお姉ちゃんや、その弟の一夏おにぃ。束さんを産んでくれた束さんのご両親。束さんの大切な妹。ほら、沢山束さんを慕っている人達がいるんだよ。みんな束さんを認めているからこそ今、ここに束さんがいるでしょ?そんな誇らしいことはないと僕は思うなぁ』ってむっくんは言ったんだぁ。
束さん、その当時は本当に焦ってて、みんなに認めてもらいたくて後ろも見ずに走り抜けてたんだ。でもねそんな時に、むっくんに言われて、気付かされた。そして一度止まって後ろを振り向いたら、むっくんの言った通りみんなが...大切な人たちが私を見守っていたんだぁ。なんだか、今まで感じたことがない、ぽかぽかしてきて、なんだか救われた...そんな気がしたんだ。
束さん、むっくんに『ありがとう』っていいかけた時、むっくんが言ってくれた言葉にむっくんが入っていないことに気づいて、束さんむっくんに聞いてみたんだよ。『君は私を見てくれないの?』って...そしたらさ、困ったような笑顔でむっくん言ったんだ...
『僕はね、お姉ちゃんや一夏おにぃや、束さん、箒さん...そんな人たちのように優れていないんだ。だから、お姉ちゃんたちに認めてもらえてない。誰かが認めてくれないと、僕も認めることもできない。だから僕は【認める】権利がないと思ってる。自分勝手なんだけどね。でもね...例え誰も僕を認めてくれなくても...僕は理解者でありたいと思うんだ。僕が独りぼっちになったとしても...誰かが独りぼっちにならないように...矛盾しているけどね』って」
あの時私は絡まってきつく縛られていたものが、するりと緩んだように気持ちが軽くなって、むっくんに抱き着いて大声で泣いた。だってこんな近くに私を認めてくれていた人がいるなんて知らなかったから。こんな近くに誰にも認められていない人がいたなんて思ってなかったから。こんなにも...こんなにも寂しい顔で笑っているから。本当に知らなかったんだ。
でも、今なら...今なら私はむっくんを見てあげられる。認めてあげられる。むっくんが背負っていた物がやっと理解できたから。
私はギュッとむっくんを抱きしめ目を閉じた。
その時――――
「...束さん。ありがとう」
「ッ!?」
耳を疑った。半年間ずっと待ち望んでいた事が起こったから。
むっくんはし自分の意志で私の方に向き、自分の意志で目を合わせてきた。相変わらず何も映さないような目をしていたけど、少しだけ...そう。少しだけ光が戻ったように感じた。
「僕は何もかもを無くしてしまったけど...僕は本当に無価値になってしまったけど...ひとつだけ思い出したんだ。なまえも顔も忘れてしまったけど、僕は周りのみんなが羨ましかったんだ。認められて、生き生きとしているみんなが。本当は僕も認めてもらいたかったんだ。だから、僕は理解者であろうと思ったんだ。でも、もうそれも叶わなくなってしまったけど」
むっくんはそう言って、困ったような笑顔を私に向けた。
トクンと胸の奥がなり、しだいにその音が大きくなっていった。
ガバッと私は起き上がり気づいたら口が無意識に動いていた。
「むっくんは...むっくんは無価値じゃないよ!誰もがむっくんを認めなくても、束さんは...私は、認めてあげられるっ!やっとむっくんを理解できたから!だから、むっくんは独りぼっちじゃないよ!だって、私が認めてあげるから!...だって...だって、むっくんは私にとって大切な存在なんだもん...」
私は止めどなく涙を流しながらむっくんに...むっくんの心に届くように力強く言った。届かなくてもそれでもいい。それでも力強く。
すると、むっくんが両眼から薄く涙を流しながら私の方に手を伸ばしていた。無表情だけど、なにか求めるような...そんな顔で。
「......」
「......」
そしてむっくんは、私を包み込むように抱きついてきた。なんでだろう。とても癒される気がした。
「...僕は全てを無くしてしまった。そして、失ってしまった。それでも束さんと一緒なら前に進める気がするんです。それでも..それでも...こんな僕でもいいなら、1から...最初から教えてくれませんか?」
「...グズッ...うん...」
この日はとても幸せな夢を見た。
あの日から、私はむっくんを見る度にドキドキと胸が高鳴り、むっくんに触れていると幸せな気持ちになった。この気持ちは...
やってしまった...
早くもクライマックスな話になって、ヒロインが束さんになってしまった。
じ、自分はこんな感じでどうだろう。とポンポンと軽い気持ちで打ち込んでいったのに...
自分でもこんな展開になるなんて思ってもいませんでした。
束ファンの方々、本当に申し訳ございませんっ!
さて次回ですが、一夏が『世界で唯一ISを使える男』として報道される頃の話を書きたいと思っております。
では、またお会いしましょう。