今回で、明久の秘密が明らかとなります。
どうぞ。
明久 side
『勝てる訳ない』
『これ以上設備を落とされるのは御免だ』
『姫路さんさえいれば何もいらない』
そんな声が口々に聞こえる。僕だってそう思う。誰から見たってAクラスとFクラスの差なんて歴然としていた。
雄「そんなことはない。必ず勝てる。何故なら、ここには勝つことの出来る要素が揃っているからだ。今、それを説明してやる」
そう言うと雄二は周りを見渡して、
雄「康太、畳に顔をつけて姫路のスカートのを覗いてないでこっちに来い」
康「………!!(ブンブン)」
姫「は、はわっ」
姫路さんが慌てて自分のスカートの端を押さえる。
その後、康太と呼ばれた生徒は顔についた畳の跡を手で隠しながら壇上に上がった。
雄「こいつは土屋康太。あの有名な
ム「………!!(ブンブン)」
ムッツリー二とは、こいつの性格が『ムッツリスケベ』であることから由来した渾名。ただ単に変態という意味だ。
『ムッツリー二だと……』
『奴がそうだというのか……?』
『だが見ろ。あの明らかな覗きの証拠を未だに隠そうとしているぞ……』
『ムッツリの名に恥じない姿だ……』
さっき姫路さんのスカートの中を覗こうとしていた証拠の頬についた畳の跡を必死に隠しているその姿。ムッツリーにはどんな状況でも自分の下心は隠し続ける。そんな姿に男子は敬意を、女子は軽蔑の意を込めて彼の名を呼ぶ。
雄「それに姫路もいるだろう」
姫「えっ?わ、私ですか?」
雄「あぁ、ウチの主戦力だ。期待している」
確かに彼女ならAクラスといえど引けを取らない。その実力は本物だ。
『確かに姫路さんなら……』
『Aクラスに引けを取らないな』
『あぁ。彼女さえ居れば何も要らない』
そろそろ姫路さんにラブコールを送ってる奴を探さなくちゃ駄目かな。
雄「木下秀吉だっている」
秀吉は学力のことではあまり名前を聞かないけど他のことでかなり有名だ。演劇のことや双子のお姉さんのことなど。
『木下って、あの……』
『お姉さんはAクラスに居るとか……』
雄「当然俺も全力を尽くす」
雄二はかつてだが神童と呼ばれていたことがあるのだ。今はあまり聞かれないけど。
『姫路さんに木下、ムッツリー二や神童と呼ばれてた坂本までいるのか……!!』
『Aクラスレベルの奴が二人も居るのか!』
『もしかしたら、本当にいけるんじゃないか……!?』
気が付けば教室内にはいけそうだ、やれそうだ、という空気で満ち溢れていた。
着実にクラスの士気が上がっていく中で――、
雄「それに、吉井明久だっている」
……シーン……
雄二の一言で一気に士気が下がる。
「ちょっと雄二!お前がこんな時に僕の名前を言うから一気に士気が下がっちゃたじゃないか!」
雄二め!僕の名前をオチ扱いしやがって!
『誰だ、吉井明久って?』
『確か、自己紹介の時の……』
『あぁ、あのドM野郎か』
「雄二!お前が僕の名前を出すから士気も下がるし僕がドMの変態だってことをまた誤解され――って雄二、僕を睨むな!少なくとも士気が下がったのは雄二の責任じゃないか!」
最悪だ。よりによってドMのことを思い出されるとは……。
そんな時、誰かが――、
『いや、吉井明久って聞いたことある。確か――《観察処分者》じゃなかったか?』
――なんてこと言い出した。
『それって、バカの代名詞じゃなかったか?』
まずい!このことが広まるのだけは阻止しなくては……!
「そ、そんなことないよ!ちょっとお茶目な―雄「その通りだ」―って僕が台詞を言い終えていないというのに雄二が割り込んできて、さらに観察処分者がバカの代名詞であることを肯定してるってどういうことさ!!」
雄「噛まなかったな。よく頑張ったぞ、明久」
「うん、まあね。――じゃないっ!!さらっと無視すんな!!質問に答えろ!!」
姫「あの、ちょっといいですか?」
僕たちが言い争いをしてる中で、姫路さんがおずおずと手を挙げる。
雄「うん?何だ姫路?」
姫「あの、観察処分者って一体何なんですか?」
成績優秀な姫路さんにはこの単語には縁もゆかりも無いだろう。うぅ……、よりによって姫路さんに知られることになるとは……。
雄「勉強に取り組む意欲の無い馬鹿に付けられる最低最悪の渾名だ」
「そんな言い方しなくてもいいじゃないか!!」
馬鹿と最低最悪という単語だよ!酷いと思わない!?
『だが、それが何の利点になると言うんだ?』
そうだった。なんで雄二が意味なく僕の名前を告げたのか、その理由をみっちりしごいて聞いてやらないと。
雄「その通り。それだけなら何の利点にもならないが、観察処分者は罰として教師に雑用を頼まれることがあり、それを観察処分者特有の『物に触れられる』召喚獣でこなす事がある」
姫「それって凄いですね。召喚獣って見た目より何倍も力が強いって聞きましたから」
雄「あぁ、それもあるが召喚獣を出すことが多いため、召喚獣の扱いに慣れているってことだ」
姫「それは戦争の時に役立ちますね」
雄「そういうことだ」
なんだ、ようやく合点がいった。雄二はそのことを伝えようとしていたのか。
雄「さらにこいつの利点はもう一つある。観察処分者というレッテルが強いためあまり知られていないがこいつにはもう一つ渾名がある」
『まだあるのか……』
『呆れて物も言えないな……』
この士気の悪さを見かねて僕は雄二とアイコンタクトを交わす。
(雄二、この士気の下がりようを回避出来る方法はあるの?)
雄(大丈夫だ。ぬかりは無い)
こんなめんどくさいことするくらいなら最初から僕の名前を出さないで欲しい。
そんなこと考えてると雄二は演説を続け、
雄「皆、聞いてくれ。……一年の時、ある噂が流れたのを覚えてるか?」
と、不意にこんなことを言い出した。
『噂……?』
『噂って何だ……?』
皆が興味を示すと雄二は
雄「一年の時こんな噂が流れたよな。テストの点数はいつもベスト5以内、いいときには霧島翔子や姫路瑞希の点数を百点近く越したことのある学園の天才がいると……」
『確かに聞いたことはあるな……』
『あぁ、俺もある。名前まで聞いたことはなかったけどな』
僕も実際聞いたことがある。得意な理数系は殆どと言っていいほど一位。でも、それよりもっと得意な科目があったとか……。
雄「あぁ。その学園の天才と呼ばれる奴は惜しくも振り分け試験を途中退席してしまったため、Aクラスには入れなかったが今も尚、その実力を残している……」
『それって誰のこと何だ……?』
『そいつ試験を途中退席しちゃったのか――ってまさか!?』
雄二はその言葉を聞いて鷹揚に頷き、
雄「あぁ、そうだ。試験を途中退席したということは、その天才はFクラスにいるということになる!」
雄二がそう断言するとクラスからざわめきが起こる。そしてそのざわめきが聞こえないかのように雄二は言葉を続ける。
雄「そして、その試験を途中退席したのは、ここにいる姫路瑞希とそれに付き添ったこの吉井明久しかいない……」
「おい……!?それってまさか……?」
雄「あぁ、その《まさか》だ」
雄二は口の端を吊り上げにぃっと笑い、皆が生唾を飲んで待つ中、ゆっくりと言葉を続ける。
雄「その天才の名は――、
《吉井明久》だ」