暫く様子を見てみたが、東洋人形の方はボンゴレに害がなさそうなので放置する事にした。
極地的に沢田綱吉にストレスを与えているようだが、学校でのみ変態親父のような視線を向けているだけなので私としては問題はない。おそらく…多分…善良な一般人に何かをする気にはなれない、妄想するだけで実行しないのならばそこは個人の自由だ。
問題ないと判断してから二、三日山にこもりみっちりと修行し直す。イメージについてくる体があるというのは本当に素晴らしいし、幻術と体術の組み合わせも楽しい。
期間限定ながら心行くまで修行し街に下りると突然後ろから突進されて軽く前のめりになる。気配の相手は私にとても何か言いたそうだったのであえて受けてみた。その相手は直ぐに私の前へと周り思い切り顔を近づけてくる。
「風、どういう事だい!この僕によくもあんな術をかけてくれたね!」
「おや、思い出してしまいましたか」
フードの中身が見えそうな程近づいてきた相手…マーモンに強い口調で文句を言われた。
場所を変えて喫茶店に入り飲み物を勧める。慰謝料の一部だ、などと言いつつ飲み物以外も容赦なく注文してくれた。赤ん坊の体に全部入るのか?という疑問はともかく、この程度ならばいくらでもどうぞ。
「さっきも言ったけど、よくも術なんかかけてくれたね。慰謝料をたっぷり請求してやりたいんだけど」
「今の今まで思い出さない方が悪いんですよ。現にリボーンは早々に思い出して、痛い一撃を貰ってしまいました」
「ムム…、…逃げたのかい」
「ええ。あんなあからさまに怪しい依頼など、受ける気になりませんでしたから」
「あの女は?」
「私の代わりでしょう。フフ、そろって溺愛していたではありませんか」
少しばかり問答をしていると注文していた物が届き、マーモンは無言でそれらを食べ始めた。
こちらから特に話す事はなく、ゆっくりと紅茶を楽しみながら目の前の相手を眺める。マーモンは彼なのか彼女なのかどちらなのだろう、などと、どうでもいい事を考えながら。
「ふー…今はこれで許してあげるよ」
注文した品を全て食べきってどこか満足げなマーモン。その小さな体のどこに入ったのか不思議なところだ。
「さて本題だ」
周りにこちらの会話が認識出来なくなるよう術をかけ、真面目な顔をして切り出した相手に僅かに目を細めて続きを促す。
「僕のチームに入って欲しい。僕は何としても呪いを解きたいんだ」
「どういう事ですか?」
詳しく話を聞けば、どうやらチェッカーフェイスはまたくだらない事を始めたようだ。
アルコバレーノ同士のバトルロワイヤル。
正確にはアルコバレーノの代理による、だが…新たな生贄を選ぶ儀式か何かではないのか?あの鉄の帽子の男は欠片も信用出来ない。
「あの男は『是非スペード君には参加して欲しい』なんて言っていたよ。七つの内のどこかに所属しつつも、君には特別にアルコバレーノウォッチを、てさ。おかげで完全に思い出したよ」
私は元々アルコバレーノ候補だったのだ、それが何の枷もない状態での参加はまずいと何かしら制限でもつけるつもりなのか。あれも目的の為ならば手段を選ばない男だろう、ますます怪しい。
「なるほど、話はよく分かりました。その上でお断りします」
「なっ…!」
「私が大事なのは今も昔もボンゴレのみ。ボンゴレさえ無事ならば、他の事などどうでもいい」
残っていた紅茶を飲み干し伝票を持って支払いを済ませる。マーモンは追いかけてはこなかった。
「スペード、オレの「お断りします」」
翌日、沢田綱吉の鍛錬の為に沢田家を訪れるなりリボーンにチームとやらに誘われた。それをばっさり切り捨てて沢田綱吉の指導にあたろうとすると、おさげを強く引っ張られる。今、首から悲鳴が上がった。遠慮なく引っ張ったこの男は私を殺る気なのか。
「…自分の力を考えて下さい、首の骨を折る気ですか?」
「そんなヤワじゃねーだろ。そんな事よりオレのチームに入れ」
「断る、と言った筈ですが」
リボーンに苛立ちを込めた視線を向けてみたが軽く流され、その上しっかり勧誘してきた。自分の声に呆れが滲むのが分かる。
「オレは今回の事でツナを更に強くするつもりだ。手伝わねーか」
この誘いには正直心が揺れ動いた。
沢田綱吉が更に力をつければ10代目は安泰だろう。今の段階では甘さを捨てきれないものの、マフィアというものの現実を知れば絶対に変わる。ボスとして、力を持ち過ぎて困るという事はない。
「……貸し一つ、ですからね」
「ああ、分かってる」
リボーンの思い通りにいくのは少々面白くないが、これも将来のボンゴレの為と割り切る。
それにしても、自分の呪いよりも生徒を優先させるとは家庭教師の鏡ですね。
リボーンからアルコバレーノウォッチを受け取ると、どこからともなく尾道という男が現れ特別ルールを説明された。
全ての戦いを通して使える時間は三分。プレゼントプリーズ、の言葉でタイマーが作動するそうだ。ようはただのタイマーであり、はっきり言って無駄としか思えない。
リボーンのチームとして出る、と言っても時間は限られているので気軽に戦闘には参加出来ない。加えて下手に手を出してしまえば成長の芽を潰しかねない為、ギリギリまで手を出す訳にはいかない。
更に言うならば、個人的に他のアルコバレーノには会いたくないのだ。特に嵐には。
「と、いう事なので私は沢田家を見ています」
「どういう事だよ!?」
戦闘開始の前日、作戦会議として沢田家に集まった面々に告げるとすかさず沢田綱吉から突っ込まれた。ふむ、確かに色々はしょり過ぎた。ジョットもリボーンも察してくれるのでつい言葉を省略してしまう。これは悪い癖だ、反省しなくては。
「最悪を考えて、て事だろ。スペードが後方を守ってくれるなら安心だぜ」
「最悪…?」
「不合格」
「いたあぁー!!」
ディーノがにこやかに言い、それに不思議がる沢田綱吉にリボーンの蹴りが決まる。沢田綱吉らは本格的にマフィアに関わった訳ではないのだ、分からなくても仕方ないと言えなくもない。
だが獄寺隼人まで不思議そうな顔をするのは有り得ない。Gにしごかれてしまえ。
「闇討ち防止、ですよ。戦闘以外いくらでもやりようはあるのですから。無関係な人間を巻き込む訳にはいかない」
私の言葉にぐっと詰まる子供達。理解が早くて何より。
沢田綱吉…と、その守護者はリボーンがついていれば大丈夫だろう。多少危ない目に会うかもしれないが、それ以上に成長出来る筈だ。
代理戦争一日目は(私としては)特に何事もなく終わる。
二日目の日中も何も起こらない。事態が大きく動いたのはその日の夜だった。
「復讐者が参加とは、また厄介な…」
沢田家の屋根にてチェッカーフェイスからの報告を聞く。今回の事では可能な限り楽をしたかったというのに、叶わないかもしれない。
今日はそれで終わりかと思えばそうはいかないようだ。
沢田家の庭に復讐者が現れる。とは言え、今ここには沢田家光達が居るのだ、彼らならば大丈夫だろう。
予想通り、ラル・ミルチ、沢田家光、バジルのコンビネーションにより復讐者は押されていく。沢田家光はあれで優秀だ、その能力は認めている。
三人と一人の戦いを眺めていると家の中で人の動きに自然と眉が寄った。明らかに庭の様子を見に行こうとしている、観戦していられるのもここまでのようだ。
勢いをつけて庭に降り立ち沢田家光よりも一歩早く沢田奈々に向かって放たれた鎖を掴む。同時に沢田奈々に術をかけ今見た事は忘れて貰う事にした。
「強引なアプローチは嫌われますよ、女性には優しくしなければ」
掴んだ鎖を思い切り復讐者に向かって投げつける。それに復讐者が対応している間に沢田家光が懐に潜り込み連打を浴びせ、バジルとラル・ミルチの援護が入った。
私はと言えば、ビアンキに介抱される沢田奈々の前に立ちこちらから攻撃はしない。三人でどうにか出来るのだから、どうにかすればいい。
そうこうしている内にコロネロが帰り、次いでリボーンもやってくる。アルコバレーノが来たからか、復讐者は消え去った。
「スペード」
「問題ありません」
「流石だな。助かった」
私の名を呼ぶ沢田家光の声から妻を心配する色が伝わったので短く返す。礼は素直に受け取り今日は帰る事にした。
※ディーノの家庭教師時代
デイモン「……」
リボーン「……」
ディーノ「(すげー…無言で高速で書類のやり取りしてる。あ、書類終わった)」
リボーン「行くか」
デイモン「そうですね」
ディーノ「(どこに!?え、既に打ち合わせ済み?)」
(ツーカーな仲の二人)