「ええーっと……」
倒れている場所は玄関、亜麻色の綺麗な髪を長く伸ばした少女だ。年齢は13ほどだろうか。
恐らく何か食べ物を買いに行こうとしたのだろう。財布を手に握りしめているのがとてもシュールである。
「家、間違えたかな?」
バタン。という音とともに、ドアを閉める。
が、間違っているわけも無く、もう一度ドアを開ける。
しかし今度は無反応である。
「おーい、大丈夫ですかー」
「……」
「おーい」
「……」
心配になってきた。もしこの少女が本当に『強欲』の魔女ならばここで死なれる訳にはいかない。
セルディ達とアイコンタクトを交わし、取り敢えず少女を抱き起こす。
「大丈夫?」
「あぁ、食べ物屋さんのおばちゃん……パン頂戴……」
「えっ、いやっ、私食べ物屋さんじゃあ……」
「これじゃ……足りない?」
上目遣いでこちらを見てくる。
うっ、その目は卑怯だ。なんというかウサギの様な小動物を連想させる、そんな様な目で見られて耐えられる乙女がこの世に居るのだろうか、いや居ない(反語)
「ほら、大丈夫?取り敢えずこれ食べなさい」
取り敢えず、ポケットに入っていた常備しているチョコレートを少女に渡す。
こんな事もあろうかと、まあそんな訳は無いのだが、ずっとチョコレートやキャンディなどの甘いものは常備しておく派なのだ。
少女は渡されたチョコレートを食い入るように見つめ、リスの様に食べ始めた。何この子、天使?
キュルルーという可愛い音を鳴らしながら私のポケットを見つめる少女、だがしかしこれは私の……あっ、その目は反則……
結局私のポケットに常備していたお菓子を全て平らげ、少女はまるで天国にいるかの様な顔でスヤスヤと寝息を立て始めてしまった。
取り敢えずベッドに少女を寝かしつけ、私達は少女の家の中に上がらせてもらう事にして少女が起きるのを待つ事にした。
「にしても、あの少女は何者なのだ?」
「そうねえ、見た所両親が帰ってくる気配も無いし」
「ともかくあの少女を一人にしておく訳にはいかないでしょう。お嬢様、少々買い物に出掛けても宜しいでしょうか?」
「ええ、良いわよ。あの子の食事?」
「はい、見た所何も食べられるような物も無いようなので、少しでも栄養のある物を、と思いまして」
「分かったわ、美月も一緒に行ってきたら?」
「ああ、そうしよう。私も未熟ながら手伝える事が有るかもしれん」
セルディと美月とオルトが買い物を、私とエレナとライラが家で留守番という事になり、鋼夜とポーラも勝手にベッドを借りて寝かせてもらう事にした。
その時気がついたのだが、やはりベッドが三つあるという事は少なくとも両親がいるということになるだろう。
しかし、少女がこんな状態になるまで放っておくのは考えられないし、帰って来る様子もない。
やはり謎は深まるばかりである。
やがて日が暮れて、セルディ達が戻ってきた為、みんなで夕飯の支度をする事になった。
うん、アウターとか
「で、誰が夕飯を作る?」
因みに私は……無理だ。お世辞にも上手いとは言えないのが自分でも恨めしい。やっぱり、料理が出来る女の方が良いのだろうか?うん、今度セルディに教えてもらおう。
逆にセルディや美月は料理が上手い。コバルト・シリウスの中で一番上手いのが恐らくセルディ、次にポーラで3番が美月だろう。
セルディは何でもそつなくこなせるし、ポーラも料理は得意だと自負する位なので私もよく一緒にお菓子を作ったりした。美月は和食限定だが、美月の和食は絶品だ。前に食べさせてもらった事が有るが、店を出せるほどだと思う。
エレナも色々作れるが、ランクは一段下がる。
ミーシャとライラは……うん、私と同じくらいとだけ言っておこう。
「では私が作りましょう。美月様はこの食材で和食を作るのは難しいでしょう?」
「ええ、すみません。お願いします」
「では、皆様はそろそろあの少女を起こしてあげてください。そろそろ現状を把握したいです」
「じゃあ私が起こしてくるねー!」
そう言ってトテテテとライラが寝室の方へ走っていく、前から思ってたけど普段のライラとミリアちゃんは結構似てるわよね、走り方とか。
が、ライラがドアを開ける前に、ドアが開いた。
そしてそこからはあの亜麻色の髪の少女が。
「うぅん、いい匂い……って……あれ?」
しばし固まる少女。私達の顔を順々に見て、どんどん顔が驚愕に変わっていく。
うん、そりゃそうだよね。だって起きたら知らない人が沢山家の中に居て、料理作ってるんだもんね。軽くホラーだよね。
そして少女は悲鳴を出そうと……
「わあぁー!ちょっとストップ!!私達は悪い人じゃ無いよ!?」
「うぇ?……本当?」
「本当、本当」
エレナが間一髪、少女に説得を試みたのが功を奏したらしい。何とか悲鳴は上げられずに済んだ。
「じゃあ……お姉ちゃん達、だあれ?」
「んーとね、イージスって分かる?」
「うん!みんなを悪の組織から守ってくれる人達だよね!」
「うん、私達はそのイージスの人なんだ」
「本当!?……あっでもお母さんが知らない人の言う事を信じちゃダメだって……」
「うーん、そっか。じゃあお母さん何処にいるか分かる?」
すると少女は首を横に振る。
どうやら知らないらしい。
「そっか、じゃあ取り敢えずお腹減って無い?」
「……お腹空いた……」
「じゃあお姉ちゃん達と一緒にご飯食べよう?それでもお姉ちゃん達が悪い人だと思うんだったら、お姉ちゃん達は出て行くから」
「うーん、分かった!」
「じゃあ一緒にご飯食べようか!」
「うん!」
おおー、エレナ凄い。なんか手馴れてる感じがする。
そんな視線を感じたのか、エレナがその訳を話す。
「まあ、私には沢山妹とか弟が居ましたから」
「へぇ、そうなんだ」
「ええ、ざっと50人位でしょうか」
「50ぅ!?」
「あっ、血は繋がって無いですよ?私、孤児院の出身なんです。私は結構年長でしたので」
「あっ、そうなんだ」
「今も手の掛かる弟が居ますしね」
恐らく鋼夜の事だろう。
にしてもエレナが孤児院の出身だとは知らなかった、多分鋼夜は知ってるだろうし、それに、「居ましたから」という言葉が気になる。過去形という事はやっぱり……このご時世そういう事は珍しく無いが、やはり胸が痛む。
「はい、出来ました。皆様、席に着いて下さい」
その時丁度夕飯が出来上がったらしい、セルディが色とりどりの料理を運んでくる。
「うわぁ、美味しそー!セルディさん!凄いね!」
「本当だ、ライラもこれ位作れるようになれればなぁ」
「うっさい!お兄ちゃんは黙ってて!」
「うっさいとはなんだ、お前もフリーダムナイツばっかじゃ無くて少しは女の子らしい物も勉強しやがれ」
「ぶー、別にいいもん」
「そんなんじゃ鋼夜は他の女に取られちまうな」
「ーーっ!うっさいバカ兄貴!彼女居ない歴15年!」
「んなっ……それは禁句だろ」
あぁ、また始まった。この兄妹の喧嘩は今に始まった事ではない。まあ見ていて微笑ましいのだが、今は少女がいるので少しは自重してほしい。
だが、
「ふふっ」
見ると少女が笑っている。どうやら二人のやりとりが面白かったらしい。それを見た二人はどちらとも無くやりとりを止めた。やはり恥ずかしかったらしい。
「それじゃあ、いただきまーす」
みんなで手を合わせて挨拶をする。
少女は食べるもの食べるものに目を輝かせて美味しそうに頬張っている。
やはりこの子は天使か。
「そう言えば、貴女の名前を聞いてなかったわね。聞いてもいい?」
「うん!私の名前はヴァネッサ、ヴァネッサ・クラリオーネ」
「ヴァネッサちゃんか、私はティナ。宜しくね」
「うん!宜しく、ティナお姉ちゃん!」
その時私の体に稲妻が走るのが分かった。
これはあれだ、こんなにもお姉ちゃんと呼ばれるのが凄いとは思わなかった。見るとそんな私のリアクションが不思議だったのか、あの目でこちらを見つめてくる。
ああ、やはりこの子は天使だ。
そう確信するのだった。