「お兄ちゃん達がこーやさんとぽーらさん?」
そう言うヴァネッサちゃんに一瞬驚いた表情を見せたものの、鋼夜とポーラはベッドから起き上がり、自己紹介を始めた。
「うん、そうだよ。俺が鋼夜、朧火鋼夜だよ」
「それで、私がポーラ、ポーラ・バリトレオ」
「うん!こーやお兄ちゃんとポーラお姉ちゃんだね!」
「あっ、いや、こーやじゃなくて鋼夜……」
「?」
「んー、まあいっか」
ああ、首を傾げるヴァネッサちゃん、可愛い……
「此処はヴァネッサちゃんのお父さんとお母さんのお部屋だろう?勝手に使ってごめんね」
「ううん、いいの。今はお父さんとお母さん居ないし、お父さんとお母さんなら許してくれると思うの。だからヴァネッサもこーやお兄ちゃんとポーラお姉ちゃんに使ってもらって嬉しいの」
ああ、なんて健気なヴァネッサちゃん、思わず抱きしめたい……いえいえ、今は鋼夜とポーラの『嫉妬』の魔女の力を解く事が最優先。そんな事をしている暇は……
「そっか、偉いね。ありがとう、ヴァネッサちゃん」
「えへへー、こーやお兄ちゃんの手大っきいの」
鋼夜に撫でられるヴァネッサちゃん……ああ、ゆくゆくは私も鋼夜とあんな家庭を……
「ふふふ、元気に育つんだぞ」
「大丈夫よ、私と鋼夜の子供だもの」
「そうだな、俺と美月の子供だもんな」
はっ!いけないいけない、今は鋼夜とポーラの『嫉妬』を……
「それで?何しに来たんだ美月、ヴァネッサちゃんの顔見せに来た……って訳じゃ無いんだろ?」
「えっ!?あっ、ああ……そうだ。取り敢えず何か腹に入れておいた方が良いと思ってな。セルディさんにすりりんごを作って貰った」
「お前が作った訳じゃないんだな」
「うっ……確かにそうだが、何か問題でもあるのか!?」
「怒んなよ。いや、別にある訳じゃ無いけども」
「ふ、ふん!……まあお前が望むのなら、今度からは……その、なんだ、私が作ってやらん事もない」
「おお!美味いなこのりんごーーごふっ」
的確に
「おま、ちょっ、いきなり何かましてくれてるんですかね!?」
「ふん、人の話を聞かない貴様が悪い」
「いや、俺一応結構重症なんですけど……」
「うっさい、人の気持ちも分からないミジンコ以下のそこらへんの空気中に漂っている微生物の脳しか持たない貴様の鳩尾がどうなろうと私の知ったことではない」
「そこらへんの空気中に漂ってる微生物ってなんなんですかね!?」
「んんっ!」
するとこの場で空気になってしまっているポーラが咳払いで自分に注意を向けさせる。
「美月ちゃん、私にもすりりんごくれないかな?」
「あっ、ああ、すまん」
美月がポーラにもすりりんごを手渡す。
「ぶぅ、美月ちゃんだけずるいよ」
「えっ?」
「やっぱりいいなぁ、幼馴染って私とは一緒にいる時間が全然違うもんね」
「ふぇっ!?いいいいいやそそそそんな事は無いぞ!?」
「またまたぁ、私にとっては私の知らないちっちゃい頃の鋼夜君を知ってるってだけですっごい羨ましいんだよ?」
「いやでも……」
「私はミーディア学園に入る前は凄い緊張してたの、ずっと私の周りには女の子しかいなかったから、でも私の周りに居た女の子にはジュエルが無かったからミーディアに来ることは出来なかった。みんなは羨ましがってたけど私は本当はミーディアに来るのは嫌だったんだ」
ポーラは美月にしか聞こえない声量で続ける。
「私はね、だから同年代の男のこの友達が居なかったの、だからミーディアに来る前は凄い怖かった。だけど私ね、一番最初にミーディアで会った男の子が鋼夜君でとっても良かった、最初は私が鋼夜君にどんな気持ちだったのか分からなかったけど、ミーシャちゃんに言われて一目惚れだって気が付いて、鋼夜君と仲良くなれて、美月ちゃんとミーシャちゃんと、ライラちゃん、ティナちゃんみんなに出逢えた。みんな、鋼夜君が好きって言うのはなんだか嬉しい様な複雑な気持ちだけど、みんなと一緒に居るのはとっても楽しいの」
「ポーラ……」
「だからね、ううん、だからこそねわたしは負けないよ美月ちゃん」
「えっ?」
「美月ちゃんもミーシャちゃんもティナちゃんもライラちゃんもみんなとっても可愛いから私なんかが入れる隙間は無いかもしれないけど、私だって鋼夜君の事が好き。だから、敵わないかもしれないけど後で後悔したくないの」
そこでポーラは一旦言葉を切って、真っ直ぐに美月の方を向いて言った。
「ねえ、美月ちゃん。ヘリコプターの中で言った事覚えてる?」
「ああ、私達はライバルだって言う話だろう?」
「うん、私達は確かにチームで仲間だけど、ライバルなの。だから……」
そしてポーラは同性の私でも思わず見惚れる程の笑顔で続けた。
「私も負けないからね、美月ちゃん」
「うっ……わ、私も負けんぞポーラ!」
「ふっふー、やっぱりそう来ないとね、幼馴染だからってそんなアドバンテージ直ぐにくつがえして見せるんだから」
そう言ってポーラが胸をそらす。
その際に胸の辺りがぽよんと揺れ、思わず目をそらしてしまう。
「うっ……ポーラは私よりも大きいではないか……」
「えっ?なんの事?」
「だから……その……」
私がポーラの胸の辺りを凝視しているのが分かったのだろう、ポーラが私の視線につられて自分の胸部に目を向け、私の言わんとすることが分かったのか、顔を赤く染める。
「ふぇっ!?いっいや、肩凝ったりするし、運動に邪魔だしえっと、その……」
コバルト・シリウスの中でも二人は一二を争う大きさなのだが、二人とも自分の外見というものにあまり自信を持っていないため、そういう事にはあまり気にしていない。
まあ、二人ともそれなりにおめかしをして街中を歩けば道行く人が振り返る程の容姿なのだが、二人は自分の外見に自信というものを持っていなかった。
「み、美月ちゃんだって……その……大っきいし……」
「そ、そうだろうか……」
まあ確かに自分でも同世代の友達と比べてちょっと大きいかな程度の認識はあったが、なんというか他人から改めて言われるとその、気恥ずかしさが優先される訳で。
「こ、鋼夜君も、大っきい方が……その……好きなのかな?」
「さ、さあ……?」
ちらりと二人で鋼夜の方を横目で見てみるが、幸いにもというかなんというか、さっきの鳩尾が痛かったらしく、こちらの視線に気が付いた様子は無い。
「でも、あいつの周りには色々な女子が寄ってきていたからなあ、正直あいつが誰かに告白されていた所は何回も見たことはあるが、その、なんというか、付き合った言葉を無かったからな」
「やっぱり昔からもてたんだね、鋼夜君」
「うん、だけどあんまりあいつの趣味とかは知らないからなぁ」
「うーん、ちっちゃい方が好きなのかなぁ?」
「出来れば私はもう少し小さい方が良かったな」
「うん、私も、なんか偶に街を歩いていると知らない人の視線とか感じるし」
「うむ、私もだ」
二人とも曲がりなりにも戦闘をする訳で、となれば視線やらなんやらには嫌でも鋭くなるわけで。人一倍そういう事には鋭くなるのだ。
まさに無駄な方面での修行の成果だろう。
「はぁ、出来れば鋼夜が胸が大きい方が好きだと良いな」
「そうだねぇ、頑張っても小さくはならないからね」
「「はぁ……」」
一方その頃ミーディア学園では、
「うっ、なんだかいきなり殺意が湧いてきた」
「えっ、どうしたのミーシャ。お母さんなんか悪いことした!?」
「分かんない、でもなんだか美月とポーラを殴りたい気分」