業火剣乱の狂奏曲《コンチェルト》   作:ムササ

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#96 『嫉妬』の理由

『とっても嫌な感じ』とは何なのか。

そもそも、宝力が濁っているというのはどういった状況なのか。問い詰めたい気持ちは有る。

しかし、それをヴァネッサちゃんにここで問い詰めるのは酷というものだろう。

おそらく、今の彼女は『強欲』の魔女としての力を使っている。

それに、ヴァネッサちゃんは幼い頃から病気の人が分かったと言っていた。

 

だが、鋼夜とポーラは厳密には病気では無い。

『嫉妬』の魔女に掛けられた呪いである。

恐らくそれが、ヴァネッサちゃんの言う『とっても嫌な感じ』なのだろう。それとも、確実に死に至る病というくくりとしてその感覚を覚えるのかは分からない。

 

「ねえ、ヴァネッサちゃん。とっても嫌な感じってどういうこと?」

「んっとね、こーやお兄ちゃんの体の中にはね、二つの光が見えるの」

 

二つの光?一つは鋼夜の宝力だとして、もう一つはなんだ?

 

「一つはとってもキレイなの。今までヴァネッサが見てきた中で一番キレイなの。でも、もう一つはすっごく濁ってるの。ううん、濁ってる……って言うより、真っ黒なの」

「それは、ポーラにも有るの?」

「うん、でもポーラお姉ちゃんの光は一個しか無いの。すごーく濁ってるけど、こーやお兄ちゃん位じゃないの」

 

鋼夜には、二つの光が見えて、一つはとても綺麗。もう一つは漆黒と言って間違いない。ポーラには一つの光が見えて、とても濁っている?

どういう事だ?

 

「でも……ヴァネッサの嫌な感じはそこから分かるわけじゃ無いの。なんだか分からないけど、すっごく嫌な感じなの」

「二人の光が濁っている事にはあんまり関係ない?」

「ううん、多分それが原因なの。だけど、ヴァネッサにはそれが何なのかは分からないの。ごめんなさい……」

「謝る事はないよ。ヴァネッサちゃんが居なかったら鋼夜とポーラの事は分からなかった。二人の事が分かっただけでも嬉しいよ」

 

取り敢えず、今はもう分かる事は無いだろう。

私も少し考えたいし、考えれば考える程、分からないことが増えていくが、考えないよりもマシだ。

 

「そうだな、もう遅いしヴァネッサちゃんはもう寝ちゃいな。俺とポーラは大丈夫だから」

「そうだね、分かった事があればまた教えて?でも無理はしないでね」

「……分かったの。ありがとうなの、こーやお兄ちゃん、ポーラお姉ちゃん」

「じゃあ、みんなの所に戻ろっか。ではな、鋼夜、ポーラ、また明日来る」

「おう、おやすみ。美月」

「おやすみなさい。美月ちゃん」

 

そうして、私はヴァネッサちゃんの手を引いて二人の寝ている部屋から出た。

 

(お休み……か)

 

少し前まで鋼夜とティナとセルディさんと一緒の部屋で寝ていた頃が懐かしい。

あの日々に戻れる日は来るのだろうか。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

「じゃあ、お姉ちゃんたち、おやすみなの」

 

そう言って、ヴァネッサちゃんが自分の部屋へと戻って行く。

 

「おやすみヴァネッサちゃん」

 

みんなでそう声をかけ、ヴァネッサちゃんを見送ってから、リビングのテーブルに着く。

セルディさんが淹れてくれた紅茶を一口含み、息をつく。

 

「取り敢えず、1日。ね」

 

テーブルには私を含め、鋼夜とポーラ、ミーシャを除いたコバルト・シリウスのメンバーだ。まあ、ミーシャは衛星回線でモニターを通じて繋がっているのだが。

 

「そうね、それでミーシャ。貴女はもう大丈夫なの?」

『ああ、心配を掛けた。流石にミーディア学園の先生は優秀だな。傷も残らないそうだ』

「良かったわね。こっちには来るの?」

『いや、残念だがミーディアに残ろうと思う。私が行っても出来ることは殆ど無いだろうから、私はお母様とフェルリア先生と共に創生龍(ティアマト)の方を探ってみようと思う』

「『嫉妬』の魔女について探るのね?」

『ああ、何か他に対処法があるかもしれないし、わざわざ鋼夜とポーラを『嫉妬』の魔女の力。ハーデスの怨嗟にした理由も分からないしな』

 

そう、そうなのだ。なぜ、創生龍(ティアマト)は鋼夜とポーラを『嫉妬』の力で呪いにかけたのだろうか。

わざわざ、そんな事をしなくても、あの状況ならば簡単に殺せた筈なのだ。

なぜ、自分達の障害になるとわかっていて鋼夜とポーラを生かしたのだろうか。

 

「確かにそうね。でも、鋼夜の話によればリュミルってやつは鋼夜を『英雄』にしたいんでしょう?」

 

英雄。それが、何を意味するかは分からない。

しかし、言葉通りの意味だとしたら創生龍(ティアマト)、いや、白夜さんは何をしたい。

 

「私たちには知らない事が多すぎる。まずもって『クルティナの予言』って何なの?」

 

ここになって、『クルティナの予言』というものをよく聞くようになった。

まずクルティナという人物は誰なのだろうか。そして予言と言うからには恐らく、未来の事を指し示しているのだろうという事はなんとなく分かる。

そしてその未来はもう遠い事では無いという事も。

 

「セルディ、貴女は知ってる?」

「……残念ながら詳しくは……しかし言葉だけならば聞いたことがあります。私が天剣だった時に」

「セルディが天剣だった頃?それって天剣が12人だった頃?」

「ええ、私が天剣十二将序列6位『疾風』セディーと呼ばれていた頃です」

「どこでそれを?」

「『天将』滝沢秋水様、『絶対防御』ガルティム・フリーゼ様、『嵐女帝』アルシア・セラム様の三人です」

「それって……」

 

イージスの実質的な元トップだ。既に『絶対防御』と『嵐女帝』はイージスを裏切って創生龍(ティアマト)につき、師匠しか居ないが。

この三人の武勇は後世まで語り継がれる程だ。曰く、たった三人で数千ものグリモアを撃退したとか。師匠は笑って否定していたが、恐らく本当だ。

そんな三人が『クルティナの予言』について話していた。

私と鋼夜が師匠の下で修行していた頃はそんな話一回もしていなかった。

だから、恐らく師匠は『天将』としてその話をしている。

 

『秋水さんに聞いた方が良さそうですね』

「無理ね。師匠は多分だけど口を割らないわ」

『なんでだ?』

「師匠は必要な事は包み隠さず全部話す人よ。そんな人が私達に何も言わないって事は私達は知る必要が無いってこと。もしくは、私達に話したくないこと。そんな事を師匠が話すわけが無い」

「そうですね、『クルティナの予言』がなんであれ、私達が今なすべき事は鋼夜様とポーラ様の呪いを解く事。それが最優先です」

「そうだね、ライラはあんまり頭良くないから分からないけど秋水さんは悪くないと思う。だって鋼夜君のお師匠様だよ?そんな人が鋼夜君に悪い事するはず無いもん」

『そうだな、確かにライラの言う通りだ』

 

確かに今『クルティナの予言』の事を気にしていても仕方がない。ライラの言う通り、今は鋼夜とポーラの呪いを解く事が先決だ。

 

「でもよ、ヴァネッサちゃんは取り敢えず今は鋼夜とポーラの『嫉妬』の力、ハーデスの怨嗟は解けなかったんだろ?どうする?」

「確か魔女って、契約するか誓いを立てるとその人に自分の力を分け与えることが出来るんだよね?だったら誰かがヴァネッサちゃんにお願いして契約するか誓いを立てるかしてもらう?」

「だけど、ヴァネッサちゃんは自分が『強欲』の魔女って気付いて無いみたいですしね」

「それに、契約だと最悪命を失うリスクがありますし、誓いを立てるにしても一生を掛けた誓いじゃ無いと意味が無いと言います」

 

結局、振り出しに戻るか。

 

『それでも、後11日で鋼夜とポーラは死んじゃうんだ。それまでにどうにかしないと』

「そうですね。それに、もう鎮痛剤が効かなくなってきました。恐らく明日でもう終わりでしょう」

 

それは、鋼夜とポーラがまた地獄のような苦しみを味わうことになることを意味している。

出来ればそれまでに解決したいが、間に合わなかった場合もう気軽に鋼夜とポーラに会いに行くことは出来ない。

 

「取り敢えず、今日はもう寝ましょう。明日の予定は取り敢えず鋼夜とポーラの経過を見て、ヴァネッサちゃんに色々聞き出すって事で」

『では、おやすみだ。みんな。と言ってもこっちはまだ日があるがな』

 

取り敢えず、ミーシャも良くなった様だし。ヴァネッサちゃんにも会えた。一歩前進だと思っておこう。

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