業火剣乱の狂奏曲《コンチェルト》   作:ムササ

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#97 黒の一時

 

北アメリカ大陸某所

 

「七つの罪が集まり始めた……予言の日は近い……か」

 

薄暗い部屋の中で一人の青年がつくえに向かい、何かを見つめている。その顔は晴れない。

 

「精が出ますね、白夜様」

 

と、そこへ一人の少女がトレイに紅茶を淹れて、運んでくる。

 

「ありがとう、蛍」

「いえ、お褒めに預かる程の事でもありません」

 

青年、創生龍(ティアマト)第二席、朧火白夜は紅茶を一口含み、一息つく。

 

(美しい……何かを憂う白夜様も……また)

 

その横顔が余りにも美しく、蛍は思わず白夜に見惚れてしまう。

朧火白夜の弟であるのだから当然といえば当然なのだが、鋼夜が年をとったらこうなるであろう整った容姿は既に成人しているというのにどこか少年のような若さに満ち満ちている。

少し昔であればモデルやタレントなどといった職業で話題になっていたであろう程、朧火白夜という人間には魅力があった。

 

そう、まるで作り物の様に(・・・・・・)

 

「どうした?蛍……僕の顔に何か付いているかい?」

「い、いえっ!……その、すみません……」

「ふふっ……いや、何でもないならいいよ」

 

軽く微笑む白夜の瞳は時々全てを見通しているのでは無いかと思う時がある。

 

(うぅ……白夜様の前で何という醜態を……)

 

「黒翼の瞬蝶」などという二つ名や戦闘中などの冷酷な発言からよく誤解されがちだが、蛍もまた年頃の少女なのである。

 

「オーストラリアの現状はどうだい?」

 

唐突に話題が変わったが、白夜にならば普通の事である。

白夜は仕事とプライベートをきっちりと分けているので、今はプライベートモードから仕事モードに入ったという事だろう。

蛍もそこら辺は理解しているのですぐさま白夜の求める情報を出す。

 

「はい、『シェムハザ』の敗北により、オーストラリア大陸全域を支配していたグリモアは全機アウターの領土へと戻った様です。現在はジュライア・アクス・ヒスドマーノ第一席元天剣十三将序列3位と4位を連れて、支配しております」

「そうか、ジュライアが……まあそれは放って置いても平気かな。特にオーストラリアは僕にとっては重要じゃ無いしね。それで、他の大陸は?」

「現在イージスが統括出来ている大陸はユーラシア大陸のみ、アウターはアフリカ大陸と南極大陸、そして創生龍(ティアマト)が南北アメリカ大陸とオーストラリア大陸です」

 

これで実に主要6大陸の内5つまでが実質アウターの手に落ちた事になる。

イージスは一番広大なユーラシア大陸を抑えているとはいえ、他全てを抑えられている状態ではどうにもならない。

そのため近い内にどこかしらの大陸のみ奪還作戦を取ることになるだろう。

 

「ジュライアは天剣を味方につけてから調子に乗っているな、このままだと創生龍(ティアマト)が強くなりすぎる」

「確かにそれは我々の計画にも不都合ですね」

 

計画の完遂のためにはどこか一つの勢力が突出して強くなりすぎてはダメなのだ。

均等に、均等に勢力を分配しなければ、最終戦争など起きるはずもない。

 

「まあ、天剣もイージスから引き抜いた連中も一枚岩じゃないから良いんだけどね」

 

恐らくだが、イージスから引き抜いた人員には二重スパイが居る。まあ、恐らくというかほぼ確実にいるだろう。こんな機会またとないチャンスなのだから。

と、その時白夜と蛍のいる部屋のドアが開く。

 

因みにこの部屋は白夜の直接指揮をとる部隊の白夜が信頼できる人員以外には全く知らされていない部屋だ。

そのため、ここのドアを開けることのできる人物は自ずと限られる。

 

「白夜、居る?……って、蛍も居るのか」

「リュミル?どうしたのですか?」

「美味しいお菓子買ってきたから食べようと思って」

 

そう言ってリュミルは手に下げたビニール袋を持ち上げる。確かにその中には大量のお菓子と飲料が入っていた。

 

「丁度良かったリュミル……鋼夜は今どこに居る?」

「んーとね……ちょっと待って……」

 

ビニール袋を手頃なテーブルに置きながら、リュミルが目を閉じる。

 

「えっと、ヨーロッパの……スウェーデンの……ストックホルムかな」

「となると、其処に『強欲』の魔女が居るわけだ」

 

勿論リュミルは当てずっぽうで鋼夜のいる場所を言い当てた訳ではない。『嫉妬』の代償印を持つリュミルは自身の掛けた『嫉妬』を受けている人物の今現在存在している場所を正確に把握できる。勿論これはイージスでは全くもって知られておらず、創生龍(ティアマト)でも知る者は殆どいない。

 

「『強欲』の確保に動きますか?」

「いや、いい。僕達としては鋼夜達の力が増すのは願っても無いことだからね」

「英雄……ですか」

「うん、朧火鋼夜は……僕の弟はこの世界の英雄になる。運命は既にそう決定付けられている」

「それで、白夜が覇王になる」

「まあ、ジュライアは自分が覇王になりたいみたいだけどね」

 

白夜が肩をすくめる動作をする。

 

「ですが、朧火鋼夜の師匠は滝沢秋水です。ジュライア・アクス・ヒスドマーノ第一席の弟弟子でもあり、イージスを作り上げた三人の内の一人でもあるので、確実に『クルティナの予言』の事を知っている筈。もし、滝沢秋水が朧火鋼夜に『クルティナの予言』の事を伝えたら……」

「確かに、滝沢秋水は『クルティナの予言』の事は知ってるだろうね。だけどその内容を鋼夜に伝える事は無いと思うよ?」

「え?なんで?」

「滝沢秋水の中で鋼夜=英雄という図はまだ出来てない。それが確定するまで滝沢秋水は鋼夜に内容を伝える事は無い」

 

白夜が紅茶を含んでからそう言う。

 

「ん、でも鋼夜は私に負けたよ?蛍には勝ったけど」

「私も負けてません!」

「あれ?そうだっけ?」

「蒼火桜の第三世代能力だっけ……確かにあれはないな、というよりあの能力は鋼夜の意思とは無関係に発現した能力だろうね、恐らくあれは『クルティナの予言』に対抗する力……心音夫妻はそこまで考えていた……と考えるのが普通だろうね」

 

鋼夜の蒼火桜、美月の雪時雨、白夜の黒陽。

心音夫妻が最後に作り上げた三機のフリーダムナイツ。

それらにはまだまだ二人しか知らない秘密があるらしい。

 

(それに、鋼夜と美月ちゃんの翡翠のネックレスも結晶化させた固有能力だったらしいし……あの二人を失ったのは痛かったかもしれないな)

 

恐らく心音夫妻のフリーダムナイツの研究は今現在の少なくとも5年先は行っていた。だからこそ、ゼノギアという誰でも乗れるフリーダムナイツもどきを作り出す事が出来たのだし、それを失った事は素直にこの世界の損失だ。

 

「それに、そのフリーダムナイツに乗った三人が三人とも十聖剣を秘めていた。心音夫妻は一体何を見ていたのだろうね」

 

今はもう顔を思い出すことも難しい過去の記憶だが、その目には何が映っていたのかは今でも全く分からない。

 

「第七世代へと至ったフリーダムナイツ、古より続く魔女の力、神より奉りし十の剣。それを手に入れた者は英雄、あるいは覇王と呼ばれる……それが必要だと言うのならば僕は絶対に手に入れる、例えどんな事をしても」

 

白夜がそう言った瞬間、ギィという音を立て、白夜、蛍、リュミルの居る部屋のドアが開く。

さっきも言った通りこの部屋を知る者は少ない、全く部外者に居ないというわけでもないが、現在来客の予定はない。

 

そして、そのドアを開けて入って来たのは、年幾ばくもいかない一人の少女。

少なくとも、外見は。

 

「やあ、待っていたよ。これからよろしくね」

 

そう言って白夜は手を差し出した。

 

「『暴食』の魔女。クルティナ・リファーティア」

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