私、ヴァネッサ・クラリオーネは今にも沈んでしまいそうな意識をなんとか繋ぎ止めて、財布を手に握りしめて、玄関を出ようとしたところで遂に倒れてしまいました。
「うぅ……お腹空いた……」
そんなボロボロの意識の片隅でこんな事になってしまった理由。三日前の出来事を考えていました。
「うぅ……お腹空いた……」
「あらあら、ちょっと待っててねヴァネッサ。直ぐに朝ご飯できるからね」
「うん!ママ!」
三日前の朝、起きた私を出迎えてくれたのは、ママのそんな言葉。いつもと変わらない、いつもと同じ、私の大好きな朝。
「おお、起きたかい?ヴァネッサ」
「あっ!パパ!おはよう!」
「うん、おはよう。ヴァネッサ」
パパが私を抱っこしてくれます。目線が一気に高くなって、いつもより遠くまで見える。私はパパの抱っこが大好きでした。
「今日はパパ、お休み?」
「うん、お休みだよ」
「本当!?」
パパはこの街のえっと……「しちょうさん」っていうお仕事をしていて、お休みはあんまり無いので、嬉しくなって思わず叫んでしまいました。
「あら、あなた今日はお休みなの?」
「ああ、イージス側との交渉がうまく行ってね。それが終わったとみるやいなやみんなから「休め」と怒られてしまったよ。みんなが心配することじゃあ無いんだけどなぁ」
パパはすっごく頑張り屋さんなのです。偶にママと一緒に街にお買い物に行くと、みんながパパの事を褒めています。みんながパパの事を凄いって言っているのです。だから、パパはとってもかっこいいのです。
「みんなの言うことも確かだと思うわ。あなた全然寝てなかったじゃないの」
「はははっ、それが街のみんなの為になるのならいいのさ」
「ねえねえ、パパ。今日は一緒に遊んでくれる?」
「こら、ヴァネッサ。パパは疲れているのよ。ちょっと休ませてあげて」
「いや、いいんだよ。うん、ヴァネッサ、何して遊ぼうか」
「えっとねー……」
「こら、二人とも……全く……取り敢えず朝ご飯食べなさい。早くしないと冷めちゃうわよ」
「「はーい」」
いつもと変わらない、いつもと同じ、そんな当たり前の日常。だから、だから、その日も変わらず続くと思っていた。
だけど……『悪魔』は突然やってきた。
ドォォォンッッ!!
突然そんな音がしたかと思うと、いきなり夜になってしまいました。
「えっ、?」
「これ……は?」
いきなり外が暗くなってパパもママもびっくりしています。私も何が起きたのか分かりません。
しばらくすると、隣のおばちゃんの悲鳴が聞こえてきました。
「っ!!ヴァネッサ達は家の中に居るんだ!私は街の様子を見てくる!」
そう言ってパパは外に出て行ってしまいました。
「ママ……」
「大丈夫……大丈夫よ、ヴァネッサ。何も怖くないわ」
そう言ってママがぎゅっと私を抱きしめてくれます。
だけど、ママの腕もプルプル震えていました。
外からは悲鳴とか叫び声とかが、聞こえてきます。
何人も、何回も。
私は怖くて、怖くて、何も出来ずにママにしがみついていました。
すると、
「ぐぁぁぁあ!」
「パパっ!!」
いきなり聞こえたパパの叫び声に私は思わず叫んでしまいました。
だけど、声は聞こえてもパパがどこに居るのかは分かりません。
「……待っててねヴァネッサ。ママがちょっとパパの所に行って来るから」
「……ぁぁ…やだぁ……行かないで……」
「大丈夫よヴァネッサ。ママがパパを連れて来るから」
「ぁぁ……ママぁ……」
「いい子で待ってるのよ。お部屋に行ってお布団にくるまって待ってなさい」
「……ぅん……分かった……」
「いい子ね、ヴァネッサ。私達の……愛しいヴァネッサ……」
そう言ってママはパパを探しに出て行ってしまいました。
それから私はママの言いつけ通りに、自分の部屋に戻って、ベッドの布団にくるまってママとパパが帰ってくるのを、ずっと、ずっと待ちました。
それでも、相変わらず家の外からはたくさんの人の叫び声とか悲鳴とかが聞こえてきます。
どれくらいたったでしょうか。
叫び声とか悲鳴とかがあんまり聞こえなくなってきました。
どれくらいたったでしょうか。
夜から、また朝に変わりました。
どれくらいたったでしょうか。
また、夜になりました。今度は、本当の夜に。
どれくらいたったでしょうか。
パパとママは帰ってきません。
「お腹……空いた……」
また朝が来てもパパとママは帰って来ません。
お腹が空いた私は、リビングに降りて冷蔵庫のご飯とか、お菓子とかを食べました。
まだパパとママは帰って来ません。
また夜になって、朝になって、もう一回夜になって。
遂に家の中の食べ物は無くなってしまいました。
ずっと、ママの言いつけ通りにベッドに入ってくるまって居たのに。パパとママは帰って来ません。
お腹が減りすぎて、ご飯を買いに行く事しました。
もしかしたら、パパとママに会えるかもしれません。
ママのいつも置いてある財布を手にとって、出て行こうとしましたが、頭がグワングワンとして動けません。
お菓子ばっかり食べていたのが良くなかったのでしょうか。
そして、遂に玄関で倒れてしまいました。
「うぅ、お腹空いたよぉ」
そう言った時です、ドアががちゃりという音と共に開きました。パパとママかもしれない!そう思ってドアの方を見ましたが、直ぐに閉まってしまいました。
しかも、そんな事をした所為で、最後に残っていた意識も無くなってしまいそうです。
もう一回がちゃりとドアが開いたところで、
「おーい、大丈夫ですかー」
という声が聞こえた気がしました。
この声はパパでもママでもありません。
もう、誰でもいいです。何か、食べる物を……
「大丈夫?」
「あぁ、食べ物屋さんのおばちゃん……パン頂戴……」
「えっ、いやっ、私食べ物屋さんじゃあ……」
「これじゃ……足りない?」
足りないなら、まだお金はあります。
すると、目の前の人は、チョコレートをくれました。
それを渡されるがまま、私は食べました。
すると、安心して緊張の糸がほぐれたのか、意識が遠のくのを感じました。
そして、そのまま私は眠ってしまいました。
〜〜〜〜〜〜
それから色々あって、ティナお姉ちゃん達と仲良くなりました。
どうやら、ティナお姉ちゃん達が私にチョコレートをくれたらしいです。
セルディお姉ちゃんの作る料理も美味しくて、ママの次くらいに美味しいです。
しかもなんと、ティナお姉ちゃん達はイージスらしいのです。
イージスの人はヴァネッサ達を守ってくれる凄い人だってパパが言ってました。
ティナお姉ちゃん達とお休みをして、部屋に戻ります。
今日もパパとママは帰って来なかった。
もしかしたら……
「ううん!そんな事無い。パパとママは絶対帰ってくるもん」
約束したんだから。
絶対に帰ってくる。
「明日、明日にはきっと帰ってくるよね。パパ、ママ」
そうしたら、ティナお姉ちゃんと美月お姉ちゃんとエレナお姉ちゃんとライラお姉ちゃんとオルトお兄ちゃんとポーラお姉ちゃんとこーやお兄ちゃんの事を紹介しないと。
「そういえば……」
ポーラお姉ちゃんとこーやお兄ちゃんの光は今まで見た事がない位に、黒かったです。
それに、すごーく嫌な感じがしました。
「そういえば、あれと一緒です」
そうだ、こーやお兄ちゃんとポーラお姉ちゃんの光はとっても似ているのです。
三日前の『悪魔』と。