年末年始は忙しいですね、全然執筆の時間が取れませんでした。
そのお詫びとお年玉という事で今回少しだけ長めです。
鋼夜様とポーラ様が『嫉妬』の呪いに倒れてから四日間が経ちました。
しかし一週間経っても二人の『嫉妬』を解く
いえ、術自体は得られているのです。ですが、その術を行使する術が無いのです。
その術とは、魔女の力である『嫉妬』を同じく魔女の力である『強欲』で相殺する事。魔女の力を相殺する魔女の力が何故有るのかは分かりません、ですが『強欲』が存在する事自体が重要なのであって何故存在するのかという不毛が議論をしている暇すら今は有りません。
一分一秒が今は惜しい。
『嫉妬』の力を宿したリュミルと名乗った
だったら彼女が示唆した十五日という期限も本当のものかは分からないのである。
何せ彼女にとって私達イージス、ひいては鋼夜様は彼女達の潜在的な敵なのだから。
害する理由は有れど、与する理由は全く無いのです。
それに、もし仮に彼女が全てを包み隠さず話していたとして、後遺症の残る可能性が多分にある以上鋼夜様とポーラ様の黒い痣がこれ以上拡大する前に防ぐのは絶対である。
それに、あまり
勿論、私個人として、セルディ・ルナセリアとしての二人は全く同格、どちらも私の命を捨ててでも守るべき対象です。ですが、それは二人に二人共深く通じているから、例えば何も知らない一般人の認識としては朧火鋼夜は『蒼天皇』という顔がある。しかし、ポーラ・バリトレオは名も無き一般兵士でしか無いのだから。
人類にとってイージスとはアウターと呼ばれる今までにない人類の危機に対して残された最後の砦である。
その中でも天剣というものは聞くものに圧倒的な安心感を与える。
曰く、それは最強を名乗る事の許される数少ない人間である。
曰く、ただ愚直なまでに強さを求めた果てである。
曰く、気高き騎士の末裔である。
曰く、人類に残された最後の牙である。
それだけに暫く前に
それはどう考えても一瞬にしてイージスの威信を地に落とすには十分である。
今まで自分達を守ってきた人類の剣はまさしく言葉の如く諸刃の剣だった訳である。
だが、それでイージスがというよりは天剣十三将の信頼が落ちたかと言われると、違うのである。
むしろ高まったと言っても良い。
それは何故か、それは簡単である。天剣十三将に対抗する為である。
皮肉にも天剣十三将と天剣十三将が真っ二つに割れる事となった理由とも同じなのである。あくまでも建前は。
拡大し過ぎた天剣十三将の戦力は天剣十三将以外に振るわれる事は殆ど無くなった。
圧倒的な十三人よりも平均的に高水準な千人がいた方が断然良いからだ。
だが、それは天剣十三将にとっては許容できる事では無かった。故に彼らは離反した。
天剣十三将が天剣十三将でいるために彼らは常に強者との戦いを望む。
故に皮肉にも天剣十三将に求められた役割は離反した天剣十三将の欲望を忠実に満たす事となる。
天剣を止められるのは天剣だけ。
つまりはそういう事だ。
だから、今此処で鋼夜様が抜けるのはダメなのだ。
此処で、天剣十三将序列十三位『蒼天皇』朧火鋼夜を失う訳にはいかないのだ。
今現在、私を天剣に含めたとしてイージスに付いている天剣は『天将』『疾風』『業炎』『爆炎砲』『雷剣』『蒼天皇』の六人。
離反した天剣は『絶対防御』『嵐女帝』『百人将』『黒影』『翼竜』『爆破王』『人形使い』『斬り裂き魔』の八人。
それに加え
更に、未だ正体も掴めないアウターという未確認勢力もあるこの状況で、これ以上天剣の消失は避けなければならない。
その為にも『嫉妬』を一刻も早く解く必要が有るのです。
そんな時です、ヴァネッサ様がこんな事を口にしたのは。
「『悪魔』?」
「うん、『悪魔』なの」
「その『悪魔』について詳しく聞かせてもらえますか?」
時刻は午前六時。皆様の朝食を用意すべくキッチンに立っていた私に真剣な面持ちでヴァネッサ様がそう言いました。
まだ時刻は早く他の皆様は起きていません。
ですが、ヴァネッサ様は一刻も早くその事を伝える為に朝早く起きてきたのだと言います。
ともかく話を聞いてみない事には始まりません。
「三日前、ううん。もう四日前なの、この村に『悪魔』が来たの」
そう言ってポツポツと目の前の少女は語り始めます。
何時もと変わらない筈だった日常を、それを奪い去って行った『悪魔』を、そしてその日から帰ってこない両親を。
それは目の前の幼き少女が抱え込むには余りにも大きく、余りにも残酷な運命。
その少女を守る為に少女の両親は命を賭したのだと薄々感じてはいてもまだ生きている、いつか帰ってくると信じざるを得ないまでに追い込んだ出来事。
「ーーーそれで、そこにセルディお姉ちゃん達が来たの」
そこで少女の独白は終わった。
気を一瞬でも緩めれば目から溢れてしまいそうな涙を懸命に堪えながら少女はそれでも喋り切った。
「話してくれてありがとう……ヴァネッサ。疲れたでしょう、朝ご飯が出来たら起こしに行きますから、もう一度眠りなさい」
「……うん……ねえ、セルディお姉ちゃん」
「はい、何ですか?」
「お姉ちゃん達
「……はい、絶対に」
それを聞くと安心した様にヴァネッサ様は自室へと戻って行きました。
それを見送る私の脳裏には一つ、予感めいたものが浮かんでいた。
否、予感などというものではなく、確信している。
「『悪魔』……ですか……あの時も薄々感じましたが、恐らく……」
恐らく、私はそれを知っている。『悪魔』を私は知っている。
思い出すのは幼き日の事。まだ私が迷い込む前の事。
侍女の監視を振り切って、
確かに私は見たのだ。その『悪魔』を。
〜〜〜〜〜〜〜
遡る事数時間、イージスストックホルム支部。
「もっと、もっと酒を持ってこい!」
イージスストックホルム支部支部長ストラス・アルファーデスの自室に彼の怒号が響く。
まあ、それはいつもの光景である。
「ですが、支部長……これ以上は……」
「私の命令が聞けないのか!」
「……了解しました」
そう言ってすごすご引き下がる侍女。
「ふん」
彼の目の前に並ぶ豪華な料理はストックホルムの市民があくまでも『好意的に』『献上した』お金で賄われている。
その『献上した』お陰で市民は貧窮しているのだが、問題ないのだ。
『悪魔』の所為で激減したストックホルムの市民は今はその日暮らしをするしかない。
支部長の贅沢にかけているお金など無いのだが、『好意的に』『献上』してくるのだから、良いのである。
(そのお金で何人の市民が救えると思っているのだ、この豚が)
その光景を見て内心毒付く男、彼は鋼夜達が一泊した際に彼らを見送ったこの支部の副支部長である。
彼はストックホルムの市民の成り上がりであり、給料の殆どを市民に返還しているのだが焼け石に水である。
どれだけ市民にお金を還元しようが、この豚が『好意的に』お金を貰ってくるものだから、意味がない。
と、そこにドアが前触れもなく開く。
そこに立っているのは、見覚えのない長身の眼鏡をかけた男。
「貴様!何者だ!」
警備兵がフリーダムナイツを起動させ、男を取り囲む。
「私の名前はアインセルト・シギフィーファと申します。失礼ですが、貴方はイージスストックホルム支部支部長ストラス・アルファーデスですね?」
そこで漸くストラスが立ち上がる。
「き、き、貴様!ここが何処だと分かってやっているのか!イージスに対する反逆だぞ!」
「ふむ、私は貴方の部屋を訪ねただけなのですが……まあ、確かにイージスに対する反逆はしていますが」
尚も立ち止まらない男に対し、ストラスは命令を下す。
「やれ!警備兵!その男を取り押さえろ!」
その命令を受け、二人の警備兵が男を取り押さえようとする。が、
「脆弱ですね」
あろうことかその男はフリーダムナイツの上から
「なっ!」
それを見て副支部長は即座に行動を開始、フリーダムナイツを纏い、いきなり発砲した。
その弾丸は男の左胸に直撃した。そしてそのまま男は血を流し倒れ……なかった。
「ふむ、まだまともな武人がいるようですね」
「なっ」
直撃を食らってなお、男は歩みを止めなかった。
「化け物かお前はっ!」
何度も引き金を引くものの全く気にする素振りも無く、男は副支部長に肉薄する。
「邪魔だ鬱陶しい」
そう言って男は目にも止まらぬ速さで動き、フリーダムナイツの上から副支部長を殴り飛ばした。生身で。
「さて」
「ひぃ、た、助けてくれぇ……」
男は支部長の方へと目を向ける。既に支部長に戦意は無い。元々全く戦えないのだ。副支部長が負けた時点で戦意は折られた。
「まあ、私の命令に従ってくれるのならば命だけは助けてあげましょう。私はバリーシャとは違うのです」
「な、なんでも聞く、なんでもするから……」
「ならば、貴方はこれよりイージスを裏切りなさい」
「……は?」
ストラスは言われた意味が分からず思わず聞き返してしまった。
「貴方はストックホルムの支部長でしょう?ならば貴方が命令してこの支部の全権を私に譲りなさい」
「は、はぁ……」
何とも間の抜けた返事である。
だが、男、アインセルトはそれで満足したらしい。
「ふむ、わかればよろしい……では」
アインセルトはストラスの心臓を素手で貫いた。
そして、そのまま何かを呟いたかと思うと、ストラスの体は一瞬にして何処かへ消えてしまった。
「聞いていましたね皆さん!此処からは私がこの支部の支部長です、では改めて自己紹介を」
そう言って綺麗に一礼してアインセルトは告げた。
「私の名前はアインセルト・シギフィーファ、親愛なる我が王の忠実なる僕して、畏れ多くも