難産だった上に、私用が溜まりまくっており更新出来ませんでした。
「えっ……」
私の目の前で血が飛び散る。
本来、守るべき者を無残にも切り捨てた刃は少女の赤い血で濡れており、次なる血を求める。
眼前で娘を殺されたにも関わらず、その少女の母親は今でも呆然としたままである。
あまりにもあっけなく、味方だとそう思っていたイージスによって少女の短い命は絶えた。その事が未だに処理しきれていないのだろう。
そして、数瞬の後、その場は狂乱に包まれた。
〜〜〜〜〜〜〜
戦場に叫び声が木霊する。目の前で娘を殺された悲痛な声が、裏切られた哀れな市民の慟哭の声が、命の危機に直面した切迫した声が、理不尽な運命を怨む怨嗟の声が、戦場に響き渡る。
「ちょっ……早く止めないと!」
ここに居るイージス、というよりコバルト・シリウスは私とティナの二人だけ。ティナのその言葉で漸く私も現実に戻る。
「……っ!分かったティナは村の人たちの避難を頼む、私はあの凶行を止める!」
「私も一緒に止めた方が……」
「ダメだ!イージスから来た奴らが他に居る可能性が高い!あいつらだけが裏切ったのかもしれないが、それでも念入りにしておくべきだ」
「……そうね、美月の言う通りね。私もちょっと頭に血がのぼってたわ。了解よ、村の人たちの事は任せておきなさい」
ティナは少しの間考えたものの、直ぐにまだ村の人たちが危機にさらされている事を思い出したのだろう、頷いてくれた。
「取り敢えず、あのイージスの奴らを村の人たちから引き離す必要があるわね」
「ああ、それにあのイージスの奴らが正気かどうかも確かめなければいけないしな」
私たちは頷きあって駆け出した。
既に次なる標的を目掛けて刃が振り下ろされんとするところである。間に合う可能性は五分五分といったところか。あまり速度を出し過ぎると村の人たちにも被害が及ぶ可能性があるため、ギリギリの所で加減をしなければいけないのがもどかしい。
(間に合うか?いや、間に合わせねば!)
弱気な私が頭をよぎるが、振り払う。そんな事を考えている場合では無いし、気持ちで負けたら駄目なのだ。
ティナの武器ーースナイパーライフルーーでは剣を止める事は難しい、その剣を止めるのは私の仕事だ。
が、そんな私をあざ笑うかの如く、刃は今にも振り下ろされんとしている。
このままでは、間に合わない。
「だったらぁ!」
頼む!間に合え!
「《不死をも殺す強大なる刃よ》レーヴァテイン!!」
瞬間、私の手に黒い光沢を放つ大剣が出現する。それを確認すると同時に思いっきり横に振り切った。
キィン!という音と共に確かな手応えが私の手に伝わる。
それを裏付ける様に目の前のイージスの手から長剣が弾き飛ばされていた。
イージスは何が起こったのか分からない様子で呆然としている。そこを悪いが、吹き飛ばさせて貰う。
私のパンチが顎を捉え、吹き飛ばされていく。
「大丈夫ですか!」
「え、ええ……ありがとうございます……一体何が……」
私が助けた女の人は何が起こったのか全く分からない様子で私にそう問いかける。それもそうだろう、本来守られる筈の立場である自分たちを守るべき立場であるイージスが殺害したのだから。
このままではイージス全体に対し不信感が生まれる。そう考え私は少し嘘を言う事にした。
「彼らは洗脳を受けている可能性があります。危険ですのであちらの者に付いて避難して下さい」
「洗脳……」
多少強引だが、信じて貰う他に無い。この場に居ると危ない事は確かなのだ。
見ると既に顎を捉えたと言うのに攻撃を仕掛けていたイージスは立ち上がっている。どうやらダメージが入っていない訳では無いのだろうが、戦闘不能と迄はいかなかった様だ。
フラフラと立ち上がり、こちらを向く。
ゾワッ
なんだ?
得体の知れない悪寒が私の体を駆け巡った。まるで、この世ならざるものを見たような、生物に関する根源的な恐怖を無理やり叩き起こされた様なそんな感覚。
「早く!早く逃げて下さい!」
「えっ……でも……」
「いいから!ここは危険です!」
すると、いきなりイージスの兵士が奇声をあげながらこちらへと走ってくる。
思わず女性を突き飛ばした、のだがそれが結果的に彼女の命を救う事になる。
「オマエガ……オマエガァァァァァア!!」
「ぐっ……重……」
驚くべき事に十聖剣の一振りたるレーヴァテインに真っ向から打ち合っても兵士の剣は折れるどころか刃こぼれする気配も無い。それは、この兵士の技量と筋力が剣の差をものともしない程私を凌駕している事を表す。
普通剣の差があればあるほど、対する武器の強度は削れていくが、ことフリーダムナイツ同士の戦いになると話は違ってくる。
フリーダムナイツの武装はそれを使用する操縦者の宝力に依存する。それはその武装の強度も同じ。しかし、この世界における最高の強度を誇る十聖剣に太刀打ちできる武装など殆ど有り得ない。
それに真っ向から打ち合っても刃こぼれ一つしないなど、
「オマエヲ、コロセバオレハオレハ……シニタクナイィ!」
「それは、どういう事だ!」
「ウルセェ!シネェェ!!」
まるで何かに追い立てられる様なそんな感覚。
既にその瞳からは人間としての理性を窺い知る事は出来ない。あるのは生物としての根源的な本能、恐怖を植え付けられた哀れな獣のそれに抗わんとする必死の生存本能である。
ともかく、ティナが村の人たちの避難を完了させるまでは私がこいつを引きつけていなければいけない。
どうやら固有能力を使ってこないところを見ると第三世代以上である可能性はあまりない。もし、村の人たちを殺す理由があるのなら出し惜しみする必要は何も無いのだから。
第二世代である私には固有能力は無いのでそれは救いなのだが、それでも事態はかなり切迫している。
イージスに所属する以上必ずチームを組む必要がある。
この兵士単体がこんな状態ならば良いのだが、そんな事を期待するのはそれは楽観視を通り越してただの馬鹿である。やはり他にもこの状態に陥っている兵士が居ると仮定するべきだろう。
他のメンバーは全員私よりも世代が高いので私で押さえこめるのならあまり心配する必要は無いが、問題はこの場にいきなり現れた黒い影とこのイージスの兵士の状態が連動している可能性があるという事だ。というより、こちらもほぼ関連していると考えるべきだ。
そうでなければあまりにもタイミングが良すぎる。
これまでにフリーダムナイツには相手の精神に直接干渉するタイプの固有能力は確認されていない。恐らく不可能であるというのがほとんどの見解ではあるのだが、絶対に有り得ないという決め付けは危険だ。
だからこその固有能力であり、そうでなくとも鋼夜の第三世代能力の例があるのだから。神経に直接干渉は出来なくとも何かしらの誘導や思考に干渉する程度は出来るのだから。
そこから考えると、まず第一にこの兵士と同じ状態の兵士は少なくとも五人は居るという事になる。最悪の場合はストックホルム支部全体のイージスがこの状態である仮定するべきだ。
最もその場合援軍が全く期待出来ない場合、私たちは周りのイージスを全く信じられない状況になり孤軍奮闘というのが似合う状況になってしまう。それに、支部丸々一つが第二世代以下というのは有り得ない。
ミーディア学園の卒業生が絶対に居るはずだからだ。
ミーディアは卒業条件が第三世代以上に到達する事。それを考えると一支部にミーディアの卒業生がいない可能性に賭けるのは馬鹿である。
それに一番この状況で最悪なのは、朧火鋼夜がこの戦闘に参加出来ない可能性が高いという事。それに加え、ポーラの戦闘参加もかなり厳しい。その上、今のフェルリアちゃんの家には非戦闘員と病人しか居ないという事。
今フェルリアちゃんの家を狙われたら、いくら鋼夜と言えどどうにもならない。
得体の知れない黒い影、暴走するイージスの兵士。
状況は私の思っているよりも悪いものへと転がり落ちていく。