業火剣乱の狂奏曲《コンチェルト》   作:ムササ

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#104 我らに勝利の栄冠を

 

 

 

「何なのですか、貴方達は」

 

美月とティナが村の人々の避難をしている頃、セルディもまたイージスの兵士に囲まれていた。セルディは知る由もないが、勿論の如くそのイージスも目と目の焦点はあっておらず、それどころか真っ赤に充血しており明らかに正気を失っている事が誰の目にも明らかである。

そんな『凶化兵士』とでも呼ぶべきモノがセルディの周りを囲んでいる。その数ざっと10人。

幸いにもと言うべきか、セルディの周りには逃げ遅れた村の人々などは居らず、非戦闘員は一人も存在しない。

だが、その代わりにセルディ以外の戦闘員も居ないのだが。

 

「貴方達の武装を見るに、イージスの兵士……ですね?それに、中々愉快な状況の様子。話し合いは……無理ですね」

 

セルディのその言葉の通り、イージスの兵士は既に話し合いどころかセルディの言葉が通じているのかも分からない。武器をゆらゆらと構え、目にはセルディしか写っていないのだろう。そして彼らの望む光景はただ一つ、飛び散る血。それのみである。

 

「「「「シネ、シネ、シネェェェ!!」」」」

「「「「ウガァァァァァァァ!」」」」

 

ゆらゆらと構えていたのが嘘のようにフリーダムナイツの性能をフルに生かし、到底生身の人間には実現不可能な速度でセルディを囲む包囲網の輪を縮めていく。

 

「全く……」

 

セルディも自分の武器である大型のダガーナイフを二本引き抜き……

 

「嘆かわしい」

 

と、同時に五人の肘から先が宙に舞う。

ダガーを構える事すらせず、引き抜きと同時の一薙ぎ。

日本刀を使っていれば所謂居合と呼ばれる抜刀術である。

正確にはダガーは刀では無いので居合でもなければ抜刀術でも無いのだが。

 

「頭にきますね、これは」

 

凶化兵士は痛みにのたうち回っており、既に戦意を喪失しているだろう。残りの10人もその光景を目にして、セルディに攻撃する事を躊躇しているようである。

セルディは素早くのたうち回っている兵士の顔を押さえつけ、頚動脈を切り裂く。その兵士が絶命するのを待たずに素早く次の兵士へと移る。

 

「すみませんね。こうなってしまったのならもう貴方達が普通の生活を送れることは無いでしょう。せめて安らかに眠って下さい」

 

そう言って、静かに呟く。

 

「〈疾風よ、天を纏い、地を撫で、大いなる旋風となれ〉イノーマス・ハリケーン」

 

瞬間、セルディと地面との間に爆風が起きたかと思うと、他の10人の首から血飛沫が舞い上がった。

恐らく、イージスの兵士達は何が起こったのかすら分からないだろう。いきなり凄まじい爆風が起きたかと思ったらいつの間にやら冥府に居たに違いない。

鋼夜の天地開闢には劣るものの、天剣十三将序列六位である『疾風』の本気の一撃である。これは『疾風』の名を冠するに当たって、参考にされたほどの一撃。受けられるのは天剣の中でも上位のものしか居ない。

そんな一撃を受けたイージスはそれを認識できるはずもなく、成す術もなく崩れ落ちた。

ダガーに着いた血を拭いながら、セルディはイージスの兵士だったモノに近づいていく。

 

「やはり……」

 

外見上は間違いなく人間である。それは間違いない。だが、全員の首の裏に黒い何かが付着している。

それは、この村を今も襲っており、ファニーオレンジ島でコバルト・シリウスと創生龍(ティアマト)を襲った黒い『悪魔』によく似ている。

が、セルディには間違いなくそれが同一の物であると分かった。

 

「……分かってはいましたが……」

 

フリーダムナイツには他人の精神を操る類の能力は発現しない。それこそ、絶対に。これは開発者の意思であり、自由騎士(フリーダムナイツ)に課された唯一の不自由である。

それを知っているのは元々(・・)は7人。今は3人。

 

絶対に発現しない能力ならば、フリーダムナイツを疑うのは不毛である。ならば、何がこんな状況を引き起こしたのか?

この状況であれば誰でも分かる簡単な推理である。

フリーダムナイツを有するイージス。これはあり得ない。味方を操ってまでこんな事を起こすメリットが無い。

フリーダムナイツ、ゼノギアを有する創生龍(ティアマト)。これも無い。ファニーオレンジで『悪魔』に襲われているのが良い証拠である。

となるとどうなるか。確かに第四勢力が現れた可能性もないことは無い。が、明らかにそんな可能性よりも高い可能性が残っている。

 

「やはり嘆かわしい……どこまで人間を愚弄すれば気がすむのですか……」

 

グリモアを有するアウター、現状ではこの可能性が一番高い。だが、この推理を行うには一つの穴がある。それは、『悪魔』とイージスの兵士の首の裏に付いている黒い何かが同じものだと分かっていなければならない。

 

現状、イージスには分からないのにである。

 

『悪魔』がどういった結果をもたらすのか全くもって判断材料が無いこの現状、イージスも創生龍(ティアマト)も迂闊に『悪魔』に触れることが出来ないのが普通である。しかもファニーオレンジ島ではイージスも創生龍(ティアマト)も『悪魔』が人を引きずり込んでいるのを目の当たりにしている。

それを聞いた上位陣はどうにかして対策を考えるだろう。

だが、まだファニーオレンジ島で初めて『悪魔』が観測されてから2週間も経っていないのだ。この短期間で対策が出来ているわけも無い。

 

だが、セルディは知っていた。幼い頃の記憶に残っているのだ。まだ何も知らなかったあの頃の記憶に、まだ父を信じている事の出来たあの頃の記憶に、兄が笑っていたあの頃の記憶に。

 

「…………あまり、思い出したくない記憶ですね」

 

とにかく、この『悪魔』がイージスの兵士を操っているのは間違いないと思われる。

それに、イージスの兵士の傀儡化と同時に起こった『悪魔』による襲撃。あまりにもタイミングが合いすぎている。何者かが裏で手を引いているのか、それとも二つを起こした者が同一人物なのか。

流石にそこまでは分からないが、どちらかで間違いないだろう。

 

「すみません……私には貴方達を救う事は出来ませんでした」

 

セルディでなくとも精神を『悪魔』に侵食されている人間を救える者など居ない。ここまで精神を食われていれば既に廃人と変わりないのだから。

既に事切れたイージスの兵士をセルディは見下ろしながら呟く。戦場では遺体の埋葬など不可能である。そのままにしておくには忍びないが、そうするより他ない。

 

「そうまでして、人間を滅ぼしたいのですか……」

 

セルディは後ろを見る事なくそう話しかける。

セルディの後ろには『悪魔』があった。セルディは『悪魔』に向けて尚も続ける。

 

「今の私はティナお嬢様のメイド……セルディ・ルナセリアです。この世の何処にもセルディ・リル・リレーニアは居ないのです。あの時、セルディ・リル・リレーニアは死んだ。そうでしょう?」

 

『悪魔』は何も答えない。

そして振り向くとセルディはダガーをゆっくりとした動作で『悪魔』に投げた。

 

「これが私の決めた答えです。私はコバルト・シリウス副隊長、セルディ・ルナセリアです。私の仲間に危害を加えるなら容赦はしません」

『悪魔』はダガーを取り込み、ゆらりと揺らいでから、何事も無かったかのように消えた。

セルディはしばしの間、『悪魔』のあった空間を見つめていたが、しばらくしてから仲間と合流すべく歩き出した。

 

「灰は灰に、塵は塵に、生者には救いの手を、死者には手向けの花束を」

 

ーー我らに勝利の栄冠を

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