業火剣乱の狂奏曲《コンチェルト》   作:ムササ

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前話のーー灰は灰に、塵は塵にーーというのはアメリカの葬儀の時によく用いられるフレーズですね。
いきなり何言ってんだこいつ?って感じですが、まあおいおい明らかになりますので、因みに言ってるのはセルディです。


#105 新たなる災厄

 

ストックホルムでのコバルト・シリウスの突発的な戦闘開始から30分程が過ぎた。

『悪魔』の殆どはもう既に役割を果たしたと言わんばかりに何処かへ消え去ってしまった。そう、本当にいきなり消え去ったのだ。塵が風に吹かれて舞い散る様に、いきなり。

だが、突然襲いかかってきたイージスの兵士達はそうもいかない。彼らはまるで、偏執症(パラノイア)にかかったかの如く美月達を殺しにかかってきた。

そう、まるで殺さねばこちらが殺されると言わんばかりに。

だが、そんな思考に支配され、動きも単調になっていた兵士達にセルディすら有する彼女らが負ける筈もなく今し方全員を縛り終えたところであった。彼らは縄で縛られ、纏めて一箇所に置かれている。必死に抜け出そうとしているが不可能であろう。

顔は幽鬼の如く、目は既にここではない何処かを見ているのだろう。

コバルト・シリウスの今動ける面々はそんなイージス兵士達の前で何やら話し合いをしている。全員主だった怪我は無く、欠けているメンバーも居ない。

 

そんな光景を高台から見つめながらアウター軍『フィロシウス』の第三軍隊長、アインセルト・シギフィーファは溜息を吐く。

 

「はあ、あれだけ弄ってあげたのにただの一人も殺せないどころか怪我すら負わせられて無いではないですか、これでは使えませんねえ。ええ、使えませんとも」

 

大袈裟に肩をすくめながらアインセルトは落胆の色を見せる。

 

「まあ、あいつらのお陰で目的は果たせましたし良しとしましょうかね。ええ、良しとしましょう」

 

あいつら、というのはイージス兵士達の事で間違いない。既にアインセルトにとって彼らは興味を失った玩具でしか無かった。いや、もとから興味などさして無かったのだろう。

 

「これで我らが王に良い報告が出来そうですねえ、さぞやお喜びになる事でしょう。ええ、お喜びになるでしょうとも」

 

さっきとは打って変わって喜色を示す。アインセルトにとって、いや、今のアウター軍(・・・・・・・)にとってアウターの王とは全てにおいて優先されるべきものなのだ。

が、またも表情を変え、一転不機嫌になる。

 

「それにしても、『蒼天皇』ですか、邪魔ですねえ。ええ、邪魔で邪魔で仕方がないっ!」

 

アインセルトは近くにあった木を生身で蹴り倒す(・・・・)

 

「あいつの所為で『シェムハザ』は破壊され大損害です。まあ、使っていたのがあの脳筋なので遅かれ早かれそうなってはいたでしょうが……」

 

アインセルトは根元から倒れた木から足を戻し、まるで今思い付いたかの如く手を打った。

 

「どうやら『ゲルナ』を通して見た限り何やら具合の悪そうな様子。今のうちに殺しておくのも悪く無いでしょう。ええ、悪く無いでしょうとも」

 

そう言うと、右手で円を描くような動作を繰り返す。

すると、アインセルトが『ゲルナ』と、ヴァネッサが『悪魔』と呼ぶ黒い物体が何処からともなく現れ、空に円状に集まって来た。それは今縄で縛られている兵士達の上空に現れ、気が付いたのか何やら彼女達が攻撃を仕掛けているが全く聞いた様子は無い。

 

「くくく、『ゲルナ』に攻撃など効きませんよ。では、私はそろそろ戻りましょうかね。あちら側から安全に戦わせて貰うとしましょう」

 

アインセルトは逆の腕で今度は自分の目の前に円を描くような動作をし、自身の目の前に人一人通れる様な大きさの円状の『ゲルナ』を作り出した。

そこを潜り抜けた後には何者の痕跡も残っていなかった。

そして、上空の『ゲルナ』からはまた、新たな災厄が現れる。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

「あ、あれは……」

 

イージス兵士達を縛り終え、やっと終わったかと思いきやいきなり『悪魔』が上空に集まり始めた。

 

「あれは……完成していたのですか……」

「じゃあ、やっぱり『悪魔』って……」

「ええ、九分九厘間違いないでしょうティナお嬢様……っ!来ます、皆様全員退避を!」

 

セルディさんがそう言うと同時に『悪魔』の中から金属製の巨大な何かが現れた。

それは私達がよく目にするもので、出来ればあまり見たくないものだった。

 

「あれは……グリモア?」

 

私達がその場から離れて直ぐその巨大なグリモアは直下にいたイージス兵士達を踏み潰して地上に降り立った。

人の数十倍はあろうかという巨大な体躯は山羊、顔は獅子、そして尾は蛇という神話上のキマイラを連想させるような超大型のグリモアであった。

『シェムハザ』がグリフォンであった事からこのグリモアもかなり強い事が予想される。そして、それは現実となったようであった。

 

「あれは……」

「知っているのか?ティナ」

「ええ、師匠が話してくれたわ。あれは戦争開始初期に地球各地で暴れまわった五機のグリモアの内の一機ね。そんな化け物がなんでこんなところに」

 

その五機のグリモアはそれぞれ地球の神話になぞらえ、それぞれに堕天使の名を冠する事となった。

最近では全く見られなくなった為、何かしらの制限付きだったのではないかと言われていたが、前の『シェムハザ』の襲撃によりまたも人類は大きな損失を被った。

 

「あれは、『ベリアル』主にアジアで暴れまわってくれたグリモアね」

 

まるで地震かと紛うような揺れが続くなか、人の居ない村でティナの声がやけによく聞こえた。

が、それを打ち消すかのように『ベリアル』が大きな咆哮をあげる。

 

「……やるしか無さそうね」

「本気ですかティナお嬢様、『ベリアル』は我々だけの戦力で倒せるグリモアでは。とてもではないですが……」

 

そう、既に『ベリアル』に踏み潰され死んでしまったイージス兵士達の数を鑑みるに殆どの兵士達があの状態になり、すでに死んでしまったと思われる。

故にイージスのバックアップも受けられずこのままここで交戦するのは余りにも愚策と言えた。

更に言えば私達のチームも万全とは言い難い。隊長たる鋼夜、ポーラに加えミーシャも居ない。『シェムハザ』の時とは余りにも状況が違いすぎる。

 

「だったら逃げる?あちらさんはそんな事をさせるつもりは無さそうだけど?」

 

ティナそう言うと、『ベリアル』の向いている方向を軽く顎でしゃくった。

その方角には……

 

「ヴァネッサちゃんの家……狙いは鋼夜……それに『強欲』の魔女の力か!」

「ね?わかったでしょうセルディ、美月。私達は非戦闘員を全員連れて『ベリアル』から逃げないといけないの。それも誰の援護も無しで、ゴールの無い逃亡を。そんな事をするよりも、まだ戦う方が確立あると思うわよ?」

「だが、私達三人だけで戦っても勝てる見込みなど……」

「良いのよ、それでも」

「ティナお嬢様……」

「『ベリアル』は大きい、それこそヴァネッサちゃん達も見えてるでしょうね。私達が戦う事で鋼夜達が逃げられる時間を稼げるなら、それで良いのよ」

 

すなわちティナは自分達が戦って鋼夜達の逃げる時間を少しでも稼ぐと言っているのだ。

 

「……死ぬ気ですか?」

「死ぬのは嫌ね。まだ鋼夜からプロポーズ受けて無いし。でも、私は鋼夜が死ぬのはもっと嫌なの」

「ティナは馬鹿だな」

「美月は違うの?」

「……はぁ。残念ながら同程度の様だ」

「では私もそんなお馬鹿さん達を放って置けないので、付き合って差し上げましょう」

「あら、セルディは馬鹿じゃないと言うつもり?」

「いいえ?前から申し上げている通り私の命は鋼夜様とティナお嬢様に救われたもの。お二人の為ならば私は何をも捨て去ります。何が言いたいかと言うと、それが私の本望なので」

「じゃあ、馬鹿は馬鹿らしく真正面から戦うとしましょうかね」

「だな。馬鹿正直に戦ってやろう」

「では、始めるとしましょう」

 

かくして、命を賭した馬鹿の馬鹿による何者にも譲れない一戦が幕を開けた。

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