「あれ?今日は鋼夜は?」
「なんか朝早くに滝沢校長に連れられて出て行ったよ」
「ふーん、そうなんだ」
ミーディア学園にグリモアが襲来してから今日で3日。これといった被害も無く、学校は平常授業である。
「にしても、鋼夜があの滝沢秋水の弟子だったなんてな」
「ああ、信じがたいな。あいつとは幼馴染みだったのに知り合う機会すらなかった」
「でも、驚いたよね。滝沢秋水さんってあんな人だったんだ」
今話しているメンバー。私こと美月とミーシャ、ポーラの三人はグリモアの襲来の次の日の事を思い出していた。
あの日ミーディアの校長でもある滝沢校長は全校集会を開き、いきなり「俺がここの校長である滝沢だ。皆敬う様に!」と言い放ったのだ。
まあ、次の瞬間にはフェルリア先生に叩かれてたけど。
「ああ、滝沢さんの個人授業…私も受けてみたい…」
騎士の家系の出であるミーシャとしては色々と教えて貰いたい事があるのだろう。
それに比べポーラはただ黙ってニコニコしているだけだった。そのポーラは一年生の中で一番早く進化をさせた生徒としてその全校集会の場で表彰され、その名前はこの学園でも広く知られる事となった。本人は「たまたまだよ」などと言って謙遜していたが。因みに進化した時の感情の爆発については何も教えてくれなかった。
そこまで話した所で授業の開始のチャイムが鳴る。
「よし、では授業を始める。静かにしろ」
そう言って入ってくるフェルリア先生に皆で一斉にお願いしますと言い、授業が始まった。
「この授業では少し動画を見てもらう。皆は《戦場を翔ける蒼き流星》の話を聞いた事があるか?」
聞いた事がある。というよりも知らない者の方が少ないだろう。戦場を翔ける蒼き流星、それは一機のフリーダムナイツのその操縦者の噂である。
全体が青を基調としたフリーダムナイツで恐ろしい程の速さで戦場を翔け、その後ろにはただの動かぬ塊と化したグリモアだけが残ったと言われる機体。
だがその機体はグリモアでは無く対人戦闘に特化したと言われており、ある者の証言によると背中には24本にも渡る日本刀らしき物でできた翼が浮いていたという。
「そいつはイージス内でも最高機密のフリーダムナイツだ。そいつの素顔は天剣十三将の中でも上から序列5位の者までしか知らん。かくいう私も素顔は見たことは無いが戦闘は見たことがある。正直に言って単純な戦闘能力だけならば私よりも上だ」
その言葉にクラスがざわめく、イージスのエースと言われた、あのフェルリア・ヴォーネバイスよりも戦闘能力が上という事はそれ即ち殆ど最強の部類にも入るのである。
「だが、私も噂程度でなら人相も聞いた事がある。歳は丁度お前たちと同程度で恐らく男であろうという話だ。まあ、何故そんな話をするかというと今からその私が見た戦闘を今からお前達に見せる為だ。既に校長にも話は通してある。流石に名前と素顔は晒せないと言われたがな」
その言葉に再び教室がざわめく、あの戦闘を見れると言うのだ。基本的にフリーダムナイツの戦闘は民間人には見れない。イージスの最高機密と言えば尚更だ。
「まあ先に前置きをしておくが他言は無用だ。したら物理的に首が飛ぶと思え。あいつは化物だ。天剣十三将ではこんな謂れがある」
フェルリア先生が深呼吸をして続ける。
「イージスの上層部にはあいつの事を
そう言ってフェルリア先生はこう続けた。
イリーガル・ブルー、不当なる蒼、と。
「奴は本当に例外だ。それまで十二しかなかった天剣を無理やり上層部が十三に増やす程にな。天剣十三将序列13位イリーガル・ブルー。今から見せるそいつはイージスの
〜〜〜〜〜〜〜
人型の大型グリモアがその身の丈よりも大きな大剣を蒼いフリーダムナイツへと打ち付ける。だがそいつは驚異的な機動力でそれを悠々と躱し続ける。だがその剣戟の間にグリモアは全身に付けられている砲台から光弾を機関銃の如く撃ち続ける。それを蒼いフリーダムナイツは時に避け、時に手に持つ刀で弾き、時に背中の剣翼で切り刻む。
先生によるとあの背中の刀がこの機体の
当たれば一撃必殺となるグリモアの一撃、だが蒼天皇はそれを紙一重で躱し続ける。
跳躍する様な動きを見せ、グリモアの注意を一瞬上へと引き付ける。その一瞬の隙に機体を制御し、グリモアの足元へと高速で移動、すれ違いざまに合計25の刀で切り刻む。
グリモアへと何度も剣戟を切り刻むが、決定打にはならない。あちこち傷は出来ているものの、グリモアは意にも介さず休まず大剣を振るう。グリモアはその無尽蔵の体力と痛覚が無いことが一番の強みである。機械に痛覚などある訳も無いが。
蒼天皇もそれは承知の上である。だから止まらずフリーダムナイツを駆り続ける。
一撃でもあの大剣の攻撃を食らえばそれで終わりである。
グリモアもそれを承知の上で光弾で蒼天皇の動きを制限し、一撃を叩き込むべく大剣を振るう。
そしてほんの一瞬蒼天皇の動きが止まる。
死角から飛んできた光弾を避けきる事が出来ず額に少し掠ったのだ。そしてそれをグリモアは見逃さない。見逃す訳が無い。大きく大剣を振り上げ、蒼天皇に叩きつける。それを蒼天皇は剣翼で受け止める。激しいスパークが起こり、蒼天皇の周りの地面が陥没する。蒼天皇は剣翼を上手く使い、衝撃を受け流し横へと大剣をずらす。そしてその大剣に24本の剣翼を一斉に叩き込み、根元から叩き折る。
それで決着がつくかと思いきや、グリモアがいきなりその頭部にあたる部分を展開、巨大な砲塔が姿を現す。
その部分から太陽にも匹敵する光が放たれる。
それがグリモアの本命、光弾も大剣さえもそれを確実に当てる為の伏線。そしてその光が蒼天皇へと飲み込まれる。
当たれば何も残らない。そう、当たれば。
その光線が蒼天皇に当たる直前になって二つに分かれる。丁度蒼天皇を避ける様に、蒼天皇の右手に握られているのはそれまでとは違う刀。十聖剣の一振り、
そこで動画は終わった。
その瞬間、教室からため息が漏れる。
それもそうであろう、格が違い過ぎる。
あのグリモアは過去にオーストラリアを一機で壊滅させたグリモアである。それを殆ど無傷で討伐したのだ。
「いやー、鋼夜の奴こんな凄い物を見れなくて不憫としか言いようが無いな」
「そうだねオルト、ライラもあんな風になりたい」
教室はその後も少しの間ざわめきに包まれた。
〜〜〜〜〜〜〜
「おーい、美月ちょっといいか?」
午後になってやっと帰ってきた鋼夜は身体中傷だらけであった。
「ちょっ、鋼夜⁉︎どうした!」
「いや、あのジジイが稽古とか言って杖で叩きまくった」
「なんだ…ならばいいか」
「なんだとはなんだ!なんだとは!」
「いや、滝沢先生の個人授業など贅沢な物を受けている報いだ。ふん!それにな鋼夜、今日はあのイリーガル・ブルーの戦闘を動画で見れたのだ!いいだろう!」
「いや、別に…それより美月ジジイが呼んでるぞ、お前も今日から鍛えてやるってよ。俺が頼んだら良いって言ってくれたよ」
「は?」
「いや…は?じゃなくて、お前もあの滝沢先生の弟子だってよ、今日から」
「……嘘だ」
「嘘じゃない!」
「あの鋼夜が私にこんな優しくしてくれる訳が無い!」
「いや、お前の中での俺の評価はどうなってるのかな⁉︎美月さん⁉︎」
「……本当……か?」
「ああ」
そう言うと一拍おいていきなり美月が俺の体に抱きついてきたぁ⁉︎
あのー、美月さん?ちょっと色々当たっているのですが……
「ありがとう鋼夜…嬉しい」
何時もはツンデレ?な幼馴染み。
その美月が潤んだ瞳でこちらを見つめながら笑ってくれるのを見て俺は何故か心臓の鼓動が高鳴るのを自覚しつつも、その笑顔が眩しくて、それを直視する事は出来なかった。
朧火鋼夜は朴念仁です。多分。